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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第7章 人生、二度目のアオハルはまさかの戦場だった。

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第78話 その頃、王子様たちは


音楽が止まった途端、カシオスは会場に背を向ける。


「あ、あの」

「失礼」


デビュタントを迎えたばかりの無垢な少女たちの誘いを、ことごとく冷たくあしらい、彼は会場から姿を消した。

皆がダンスに夢中な中、カシオスは誰もいない回廊を、一人静かに歩いていく。


(へえ…豪華な建物。さすが王宮)


この王宮の舞踏会大ホールは、建国当時から作られ、幾度もの改装や建て替えを繰り返し今の姿に至る。王族の結婚式、主催の舞踏会は全てここで行われいているが、カシオスはこの場所に来るのがはじめてだった。


「迷路みたいだ」


通り過ぎながらも、メイドや給仕は彼の姿を見ては驚愕し、物凄い勢いでのけ反る。

なんだか居心地が悪く、そのまま人のいない場所を目指して歩いていく。

そして……一人の老婆に遭遇した。


「あら……まあ、こんなところで会えるなんて」

「!……貴方は」

「停めて」


腰が曲がり、目に光を失った老婆は、付き添いのメイドに命じる。


「……エネイベル=アーズレア上皇夫人……!」

「あら珍しい。私のことがわかるの?坊や」

「お初にお目にかかります。カシオス=セレストと申します」

「ふふ、礼儀正しい子ね。セレスト…ということは、私のひ孫にあたるのかしら。あの坊やは亡くなったと聞いていたけど……」

「いいえこの度、生還しアズレアに戻ってまいりました」


すると、上皇夫人は膝をつくカシオスの頭に手を置いた。


「…あの」

「頑張ったわねえ……」

「じ、上皇夫人……?」

「……よくぞ、戻ってきた」


遠慮なく頭を撫でられ、戸惑っていると…さりげなく付き添いのメイドが制する。しかし、ぼろぼろ涙を流す上皇夫人を見て、止めてしまった。


(王宮の奥で静養していると聞いていたが…まさか、こんなところに)


エネイベル=アーズレアは、クロム=セレストと、現在の王・レゼル=セルリアの祖母に当たる。

御年87歳と言われ、王家の歴史の生き証人と言われていた。


「ああ…お前の顔は見えないけれど、眩いほどの光を感じる……数奇な運命に巻き込まれながらも、空の色のように澄んだ光は、決して失われないだろう」

「あ、ありがとう、ございます…」

「この国を…頼むよ」

「…!!」


その言葉は、何か特別な言葉のようで――胸にずしんと落ちてきた。


「――尽力いたします、エネイベル様」

「……リーデ」

「はい。…お手を」

「これは…」


リーベと呼ばれたメイドは表情を変えず、夫人の中指にはまっていた指輪を抜いて、カシオスに手渡した。

それは……青い薔薇の刻印の紋章。

先々代の王家のモチーフに使われた「アズール・ロサ」の指輪は一対となっており、王と王妃二人にしか持つことが許されていない。


「せ、先々代の王の指輪は、国葬品として埋葬されたと聞いています……お気持ちは嬉しいのですが」

「いいの……もうじき、あの人は私のところに来てくれるから」

「エネイベル様……いいえ、…っひい…おばあ、さま」


すると、エネイベルは嬉しそうにほほ笑んだ。


「ほほ……不器用な子だね」


右の中指にはまったクロムの指輪をそっと撫でると、そのままカシオスの手をぎゅっと握った。


「お前に幸福が訪れるように」

「……ありがとうございます、大切にいたします」

「その指輪、大切に人に渡すのよ」

「はい」


そう言って、エネイベルはゆっくりと手を離す。


「ひいおばあ様。お会いできて…嬉しかったです」


歩き出そうとした足を止め、その声にこたえるように軽く手を振る。


「それじゃあね」

「…はい、どうかお健やかにお過ごしください」


そして…再びメイドと共に歩いて行った。


(巡り合わせ…と言うのかな)


母アステルの結婚指輪は、燃える馬車と共に失われてしまった。

カシオスの手には父クロムの指輪だけが手元に残ったのだ。なんとも不思議な面持ちで二つの指輪を眺めていると…自分の身長よりも小さな扉を見つけた。


「……修繕用の階段」


軽く手で押すと、すんなり開いた。そして…軽やかに響くヴァイオリンの音が空間一杯に色がると、薄ぐらい中にも、奥に道が続き、上に昇る階段を見つけた。


「ここは、ホールの上?会場をすべて見下ろせる」


直ぐ真下は音楽を奏でる楽団の席。

真上はドーム型天井の円形のステンドグラスが鮮やかな色を落とし、ダンスホールに煌びやかな空間を演出している。

その中でも一際美しい黒髪の花を見つけ、思わず口元がほころぶ。


「シャル…!相手は、ククナか」


女性同士のダンスに異を唱える者もいるかもしれない。

しかし、彼女たちは何よりも楽しそうで、華やかで…音楽が停まった瞬間、少し残念にすら思えた。


(次は6曲目?誰と…)


シャルはククナと何か話した後、真っ先にくすんだ青髪のところに歩いていく。

何か脅迫でもされたのか?と一瞬、顔をしかめるが、どうやら…シャルはそのダンスの相手、ルビエル=ヴァラモに声を掛けに行ったらしい。

ルビエルにちょっかいでも出したのだろう。6曲目が始まるときには、シャルはルビエルとダンスを、イリシユはダンスホールから追い出されてしまった。


「本当、君の周りは目まぐるしい。しかし、彼女がいるとなると…」


視線を動かすとイリシユと何かを話し込むセフィール=ヴァラモの姿を見つけた。


(やはり、か。あの男、タイミングを計ったな。それよりも…)


気になったのは…シャルの連続での男性パートのダンスだった。

基本的に女性が男性パートを踊るのは、珍しいこと。ある程度のリードは必要でもあるし、いつも以上に神経を尖らせることになる。そして、身体の負担も。


(もし、次……セフィールでもイリシユでも彼女の元へ行ったら)


いっそここから飛び出そうか、などと考えていると…7曲目が始まると途端に、シャルはセフィールとは踊らず、そのまま二人で中庭に行ってしまった。


「!!……中庭」


同時に、カシオスもその場を後にした。


**



「はぁ……」


その頃、フォーレは冷めない興奮のまま、一人、ノンアルコールのシャンパンを飲んでいた。

結局、その後誰とも明確な約束は交わしておらず、制服であることを理由に壁の花に徹している。

少し離れたところで、ケディは誘われた女性とダンスをしており…シャル以外の女性に対し、なんだかんだと徹底して平等に扱う姿は、とてもケディックらしいと思った。


(シャルに……変に、思われなかっただろうか……あんな。思い出しただけでも…)


顔が赤いのは、決してこのアルコールが入っていないシャンパンのせいではない。


「どお?楽しんでる?フォーレ!」

「!」


やって来たのは…ラッセル。

最近のトレンドファッションでは、カジュアルな膝丈スカートが人気らしい。最も、恐らく仕掛け人はシャルとこのラッセル=ニッカだろう。


「……レディ・ニッカ。こんなところにいていいのかい?」

「なんでよー、友人のフォーレスト君が決死のダンスを親友のシャルと披露したんだもん!そりゃからかいに来るでしょ?」

「からかいに来るなら結構。一人にしてくれ…」

「なあにい?…王子様のプロポーズキャンセルからの!両手にハンドキスとか、やるじゃん」


カッと更に顔が赤くなる。


「や、やめてくれ……!」

「だいじょーぶ大丈夫!アレくらいしないとシャルは動じないよ……」

「それは…知ってる」

「見たでしょ?今日のシャルの相手!もう、明日の新聞はその話題で持ち切りね……王子様登場のインパクトとどっちが勝つのやら」

「どちらにせよ、シャルは望まないことだろうな」

「まあ、あの子なら対して気にしないと思うよ?最近忙しいみたいだし」

「…忙しい?」


ふと、先日窓から美術室にこっそり入ってきたシャルの姿を思い出す。


(もしかして…あそこで、何かしてるのか?でも、一体何を)


「あ…音楽止まった。ね、ねえ!フォーレ」

「………」

「ちょっと、聞いてる?ほら!」

「あ、ごめん…何?」

「こ、ここ!空いてるの!」


ラッセルは自分のダンスカードを見せてきた。

9曲目が空欄のまま。


「気持ち悪くない?!あと一曲だってのに!」

「別に、埋める必要ないだろう?誰かと競争しているわけでもなし」

「そ、そうじゃなくて…ら、ラシーちゃんの敵は、未来の自分なの!だから……い、一曲くらい。その…」

「残念だけど、俺は制服だし」

「もう!」


ぐっと手を握ると、そのままずんずんとホールに向かって歩き出す。


「ちょっと…ラッセル」

「女性の誘いを断るなんて、意地悪な紳士!」

「別に今じゃなくても」

「今断らなくてもいいってことでしょ?」

「それは…まあ」

「へへ。じゃ!一曲踊ろ」

「…はいはい」


**


「どこだ…?」


ホールを避け、階下に降りたカシオスが、中庭に向かって歩いている最中の事。


「あ、見つけた。王子様」

「!」


こんな時に、と振り返った先にいたのは…ダイアナだった。


「だ、ダイアナ王女」


ダイアナは、煙管からふっと煙を吐き、にっこり笑った。


「シャペロンがこんなとこにいても?」

「今、あの子は休憩中。女の子同士のダンスパートってはたから見ると、とーっても可愛らしい!けど。慣れない紳士パートをする方にとっては相当負担なのよね」

「……わかってるなら」

「停めようとしたけど、その前に貴公子様が連れていっちゃったの。あの子、いいじゃない?気遣いできる子は素敵よ」

「………」

「あら、ご不満そう。でもね、せっかく晴れの日に、女性たちを冷たく突き放すようなオイタをするようじゃ、まだまだ」


ふ、とカシオスに向かって煙を吹き付ける。


「…気をつけます」

「ねえ……王子様?国を一つ統べるのと、女性の心を一つ狙うの…どちらが難しいと思う?」

「国を一つ統べる方…では?」

「あら…随分と、つまらない答え」


すると、ダイアナはにやりと笑った。


「正解…知りたい?」

「……さぞかし、有意義なことなんでしょうね」

「なら、教えてあげなーい」

「えっ…」


そして、8曲目が終わった。


読んでいただきありがとうございます。ちょっと間延び感あるので、頑張ります。

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