第75話 シャル・ウィー・ダンス?…VS女の敵。
軽快な音楽が流れる。……今度は、3拍子のワルツのダンスだ。
「あ、この音楽、私好きだな!」
「明るくて楽しいよね…あ、そう言えばシャルとダンスは初めてかも…」
「そう言えばそうだね。…フォーレはどう?得意?」
「うーん……まあ」
くるりと、緩やかなターン。
(あ!安定してる…っていうか、リードが上手!)
「あの、シャル…さっきはごめん」
「え?……それ、さっきも謝ってもらったよ。気にしなくていいのに…」
しかし、フォーレの顔は浮かない。
「今日は眼鏡をしてないのね?」
「あ、まあ…普段はしてないから」
「じゃあ、行けるよね!」
「ん?!…ちょ、ちょっと待っ」
私がぐっと左足に力を入れて大きく後退すると、フォーレがこちらに向かって迷わず手で支えてくれた。
そのまま大きく後ろへ身体を伸ばすと、ドレスがゆらりと揺れて、風のようになびいた。
「大丈夫、ちゃんと支えるから!」
「勿論!…フォーレなら大丈夫に決まってるじゃない!」
そして…視界が天井を見る。
左手をそっと重ねているので、思い切り背をそらし、綺麗な弓型にしならせることができたのだ。
足裏でぐっと床を踏み込んで体制を戻し、次のステップへ戻していく。
再び元の体制に戻ると、私はにっと笑って見せる。
「ふふ、驚いた?でも、できたでしょ?」
「お、驚いた…けど、無事に綺麗にできて良かった」
「フォーレならちゃんと合わせてくれるもの。これでも信頼してるのよ?私」
「シャル……あまり驚かせないでよ」
音楽が中盤に差し掛かる。
(ここで焦っても仕方ない。…ちゃんと言うんだ)
「俺…今日、ほんとは学校の手伝いなんかしないで。ちゃんと正装して…シャルにおめでとうって、言いたかった」
「……うん、知ってる」
「でも、それって誰かが俺と同じ思いをするのかなって思うと…嫌だった」
「…偉いね。すごくフォーレらしい!私はそう言うところ、尊敬しちゃうよ」
「!!そうかな?…そう言ってくれると、嬉しい。だから、今改めて言わせて。おめでとう、シャル」
「あ…やっと笑ってくれたね、フォーレ!」
「え?!」
「ずっと眉間にしわを寄せてたよ?私はこうやって踊れて楽しいのに!」
すると、一瞬フォーレは「ごめ…」と、言いかけて…静かに笑った。
「今日、あの場面で飛び出したこと…俺は後悔してない」
「!」
「……だって、君が他の奴のところに行くの…絶対に嫌だったから」
そして、音楽がぴたりと止んだ。
支えていた手と、繋いでいた手を持ち上げると、そのまま唇で触れた。
「っ?!!フォ、フォーレ?!」
「……ッそ、その これが、俺の気持ちだよ…ご、ごめんシャル…!」
見れば、顔が真っ赤。
でも、次の瞬間きりっとした表情を作って、礼をする。
「……お相手、ありがとうございました」
「は、ハイ……」
(び、びびっくりした。どうしたの?!今日に限ってみんな…)
「あ!シャルちゃん見つけた!」
「?!く、ククナ!」
「えへへ…ね!一緒に踊ろ?」
「…っ」
さっきまで太鼓のように打ち付けていた心臓が別の意味でキュッとなる。
(ククナ…可愛い。最っ高な癒しだ……!)
「うん!あ、じゃあ私が男性パートするね!」
「えっほんと?!…嬉しい!」
そんな女性二人の可愛らしいやり取りを、じっと真剣な目で見つめる男がひとり。
「……百合のダンスとか。マジで可愛い。あっちの子も、メイド服似合いそうだな…」
女性たちからすっかり干されてしまったイリシユは、ダンスなんて興味がないふりをして、壁の花に徹していた。
(二人並んで猫耳付けて、ご主人様♡とか言われた日にゃ、悶え死ぬな……)
いつものように、顔は崩さず…周りの視線を意識し、ポーズを決める。
そうしながら、会場の様子を窺い、目の前を舞う可憐な蝶と花を眺めるのも至福。などと考えていると…
ふと、一人の女性に目が付いた。
どこか憂いを帯びた表情の、豪華な深紅のドレスを纏った女性。
(!!!ルビエル…って言ったか。クソセフィールの妹じゃないか?…あの子も結構イケるよな、いいカラダしてるし)
はっとなり、周囲を確認する。
セフィールの姿が見えないことを確認して、そっと彼女に近づいた。
「…君は、ルビエル=ヴァラモ…レディ・ヴァラモと呼んだ方がいいかな?」
「!…イリシユ殿下。お目にかかれて光栄ですわ」
ちらりとパートナーがいないことを確認する。
「どうかな?良ければ、俺と一曲」
「……約束がございます」
「でも、現れてないんだろ?」
「……」
「なら、いいじゃないか」
「あ…」
そっと手を取ると、いつものように目を真正面から見てホールへ誘う。
少しだけ頬を赤らめたのを確認し、さっきまでしおれていた自尊心がむくむくと復活していく実感をした。
(これだよ、これ)
「今日の君はとても美しいな、レディ」
「ありがとうございます」
「さすがは、ヴァラモの花」
「……」
一瞬、表情が停まる。
しかし、音楽が鳴り出した途端、元の輝きを取りもどす。
「…さっき、何を見ていたの?」
「…別に」
「ふうん」
そっけない態度は、イリシユの心をくすぐり、余計な考えがふつふつと沸き起こる。
――こういうタイプって、結構簡単にこっちに依存させられるんだよな
(権力者の娘を一人…囲っておくのも、ありか?)
「ねえ。…もしかしたらなんだけど、君さ」
「…え?」
「何か辛いことでもあるのかな…さっきもとても寂しそうだったし」
「寂しそう…この私が?」
「ヴァラモの花」
「!」
一瞬、ステップを踏んでいた足が乱れる。
ぐっと引き寄せ、イリシユは耳元でささやく。
「それを言われるのが……本当は嫌なんじゃないかな?だって……普通では、いられないよね」
「……っそれ、は」
「だって、まるで、そうでなければならないと…押し付けられているみたいだ」
「……イリシユ王子殿下」
「なんだか、見てられないよ」
そっと頬に手を伸ばそうとした瞬間
「失礼いたします…イリシユ=セルリア殿下」
低い声がぴしゃりと聞こえ、うつむいていたルビエルがパッと顔をあげる。
「あなたは……」
「!君は……リッハシャル=ルドヴィガ!」
するりと、手を離し喜び勇んでいく姿を見て、ルビエルは我に返った。
(わたくし…一体)
「嬉しいな、君から声を」
「…音楽はもう終わっていますよ。いつまでくっついていらっしゃるんでしょう」
「あ。それは気が付かなかった…じゃあ、君と」
「ルビエル様!」
「え?」
「よければ、私と一緒に一曲いかがですか?」
一瞬、聞き耳を立てていた周りが固まる。
…拍手をする、ククナを除いて。
「わ、わたくしと?」
「はい!女性とのダンスもOKなんでしょう?任せて!私、男性パートも踊れますから!」
そう言って、少し強引に手を引き寄せ、離れた場所にかけていった。
「行ってらっしゃい!シャルちゃん!」
「あ…え、ええと、令嬢、どうかな?おれと」
「あ、申し訳ありません。ちょっと眩暈が…」
「え?!」
「失礼します」
そして、イリシユはポツンと残されたのであった。
「い、一体どういうおつもりで」
「あ、残念。少し身長が足りないみたい」
「……リッハシャル…ルドヴィガ」
基本姿勢を作ると、ゆっくりとステップを踏み始める。
「…ごめんなさい。見てられなくて」
「どういうこと?」
「その……余計なお世話だったら、ホントすみません。でも、様子がおかしかったように見えたので」
「わたくしが…?」
少しぼうっとした表情だったルビエルは、徐々に目に光が戻っていく。
(なんか…やっぱおかしいよ、あのイリシユってやつ。)
―――尋常じゃないくらい気持ち悪いのはそうなんだけど…どこか。危ない気がする。
しかし、今はそんな考えを振り切る。
「わたくしに気安く、謝らないでくださいませ!…別に、なんともありませんわ」
「あはは…ルビエル様だったら、ダンスのお申し込みも殺到されていたんじゃ?」
「……わたくしは、お父様とおじいさまが決めた相手としか踊れません」
「え?!…そんな」
「…男性もそれをわかっていらっしゃるようですから。私を誘う方は高貴な方しかいらっしゃいませんわ」
(い、今のは。自慢に聞こえなくもないけど…絶対に違う)
「あ。…じゃあ、私。すみません…」
すると、ルビエルはふ、とバラのような笑みを見せた。
「いいわ、別に。たまにくらい」
(!!デジャブッ‥‥この笑み、見たことがある!!)
「お、お兄様とよく似ていらっしゃいます…」
「え?…セフィール兄さまと?……あら」
くる、とターンをすると…遠くにセフィールがいるのが見えた。
そして…何か、イリシユと話しているようだ。
「お兄様。……やっぱり狙ってらしていたのね」
「狙って…?」
「考えて御覧なさい。…ラストダンスを残して、ダンスは残り3曲……いま会場に訪れたということは?」
「残り3曲を、踊る人を決めてる?」
「ふふ、正解」
(?誰と踊るんだろう…??)
そして…音楽が停まる。
すると、ルビエルは先ほどとは少し違う…柔らかい笑みを見せてくれた。
「でも、助かりました。…ありがとう、リッハシャル」
「い、いいえ…」
「では…次のお相手に譲りましょう」
す、と手を差し出すと…その手を、セフィールが取る。くるりとターンをして、ルビエルはしずしずと退場した。
(もうすっかり元の表情に戻ってる。…さすが、アズレアの薔薇)
「またあとで、俺の可愛いルビィ」
「お気張りなさってね」
(ん?!あれ。待って、これって)
「一曲お願いします、レディ・ルドヴィガ…もう、先約はいないだろう?」
「あ…は、はい」
相手は公爵家。
こちらは伯爵家……断る理由など、あるはずもない。
「よろしくお願いします…セフィール=ヴァラモ公子様」
「こちらこそ。…こうして、君と踊れてうれしいよ、シャル」
読んでいただいてありがとうございました!評価やブックマークもありがとうございます。嬉しいです!スナイパー薔薇男…




