第72話 ダンスカード……VSこの世界の常識??
「あっシャルちゃん!!」
「ククナ!ドレス、ありがとね!すごく綺麗で……びっくりしちゃった!」
「わああ…!頑張った甲斐があったぁ……シャルちゃん、ステキ!!」
ククナはそう言うと、手持ちのカメラでバシバシ写真を取り出した。
……最近、小型の写真機と言うのができて、ククナは早速愛用している。
値段も相当、貴族しか持てないような高級品なのに、さすがはリムノ商会の娘……
「ククナのドレスもステキ!それもミナルの?」
「うん!…実は、初めてなんだよ。お母さまのデザインドレスを着るの。どうかな?」
ふわりとほほ笑むククナのドレスは、ふんわりシフォンのプリンセスラインのドレス。私がこういうのを着ると、なぜかお遊戯大会のようになってしまうので、羨ましい。
「わぁ綺麗…花の妖精みたい!」
「じゃあシャルちゃんは花の女神だね!!!」
「え あ…う、うん」
――時々、ククナの発言はどう反応したらいいのか困るときがある。
うん、私のことを慕ってくれているのはよくわかる。
「リッハシャル=ルドヴィガ!」
「あ、カレンシア」
やって来たのは…カレンシア=エルメア。
このお嬢様とは…今ではもうすっかり顔なじみ。
互いに友達も少ないせいか、良く絡みにやってくる。今回クラスは離れてしまったけど、遭遇する機会が多いので、ある意味私の友人枠になるのかもしれない。
じいっと上から下まで見た後に、一言。
「フン、相変わらず型破りな格好ね」
「そお?私もカレンシアみたいなゴージャスなドレスを着たいんだけど…」
今日のカレンシアの、あらゆる光を反射するオフホワイトのグラデーションドレスはなんとも眩い。
「おほほ!…デビュタントで必要なのは、誰よりも美しいと自分が思うこと!それでこそ、最上の花として、私が自分で自信を持たなきゃ意味がないもの」
「……私、カレンシアのそう言うところ、結構好きだな」
「?!」
「あら、顔真っ赤。本当、カレンシアって結構可愛い性格しているよね」
「…な、なな何を言うのよ!」
私としては普通に思ったことを口に出したのだけど、なぜかククナがむっと頬を膨らませた。
「……シャルちゃん、エイルちゃんに似て来たんじゃない?男女問わず狙い落とすのは、良くないと思うわ!」
「狙い落とす…??」
「こほん!そ、それより…ダンスカードは貰ったの?!」
「あ、もらったよ。シャルちゃんは?」
「……ダンスカード、とは…?」
すると、二人に思い切りのけ反られてしまった。
「え?なになに?」
「……それは、ちょっと淑女としては問題発言よ…?」
「受付したとき貰わなかった?コレ」
「あ…そう言えば、小さいカードあったね。コレの事?」
受付の際、手のひらサイズの…リボンが付いた、名刺サイズのカードみたいなものが配られていた。
なるほど、これがいわゆる乙女がファーストダンスで使う、ときめくアレか?!
「め、名刺かと思った…」
「……何で名刺をデビュタントの令嬢に配るのよ……あなたって、時々驚くくらい常識ないわよね」
「違うよ!シャルちゃんはそう言うことにまっったく!!興味がないだけなんだから!」
「あの、フォローになってないよ、ククナ……まあ、とにかく。そんな非常識って言われるくらい重要なの?これ」
「当たり前ですわ!ホラごらんなさい!私のダンスカード…もう予約一杯ですわよ?」
ふふん、とポーズを決めてふんぞり返るカレンシア。確かに、腕にリボンで結ばれたダンスカードには、10曲の内全部のダンスに名前がびっしり書かれている。
本当、こういうところ、この子って可愛いなあ……女の子って感じで。
「つまりは、お父様とのダンスの後の予約ってことだよね。…なら、ケディの名前書かないと」
「え?!」
「まあ…」
「ん?」
何だろう。周辺の子たちも一斉にこちらを向いたような。
「あ、カレンシアはフォーレのファンだったね。フォーレとは約束してないよ?生徒会も実行委員で忙しいみたいで…」
「そ、そう…じゃなくて。あのケディ様とファーストダンスを?」
「あの…って?」
「うーん…シャルちゃんは幼馴染だから、特別なのかな?ケディック様って、特定の親しい人を作らないので有名なのよ。」
「え?!そうなの?」
これは意外なことを聞いてしまった。
カシオス様すら呼び捨てにするくらいだもの…コミュ力の化け物かと思っていたのに。
「でも、苦手っていう人はいなくて…ある意味不思議。私もシャルちゃんと一緒に何回かお会いしたけど、やっぱり親しみやすい方だなって思ったし」と、ククナは言うけれど。
「私は…ステキとは思いますけれど…やっぱり、その、フォーレ様の方が…素敵ですわ」
「へえ……」
近すぎると…気が付かないものなのかな?ケディは何となく男女ともに人気なんだろうなって思っていたから。
すると、控室の扉が開かれて、デビュタントの式典長、クオンタ夫人が現われた。
「お時間でございます、お嬢様方。…社交界の花として、最後の準備が整い次第、名前を呼ばれた方から順番に会場にお入りください」
私の読書仲間の一人でもある学園町は、私を見て、目で挨拶をしてくれた。
その後、ルルがやってきて、最後の調整をしてくれた。
「はい、お嬢様…準備が整いましたわ。どのお方よりも、やっぱり一番お美くてらっしゃいます」
「ありがとう、ルル!」
「旦那様ってば、待ちきれず外で待ってらっしゃいますよ?」
「ふふ、ホント?…大丈夫かしら、また泣いてない?」
「さあどうでしょう?」
わたしとルルは笑いあう。するとしびれを切らしたお父様がドアから顔をのぞかせた」
「シャル…いや、どうぞ。レディ・ルドヴィガ」
「ありがとうございます」
お父様の腕を取り、一歩踏み出す。
なんだかくすぐったいような、ちょっと特別な気分…だったんだけど。
その気持ちは一瞬で落ちた。……視界の端の映る、あの物体。
(…ガチャ?!なんで…また弓が持っていないときに)
いや、落ち着こう。
こんな素敵な気分の時に、あんな神様共の娯楽に付き合わされるのはまっぴらだ。
無視無視無視!!
そう決め込んでいたのに…あいつは私の頭上に降り立ち、とんでもないことを言いだした。
『神様ガチャが引かれました!』
(引かれた?…私が引くんじゃなくて?)
『よって、この場にいる全員にBAD!全員の好感度が下がるかも?!効果が発動されます』
何を…と口が動いた瞬間。私の名前がコールされた。
「!」
「リッハシャル=ルドヴィガ令嬢、ご入場!!」
「行こうか、シャル」
「はいっ」
(だめだ。落ち着いて…深呼吸。今は…それどころじゃない!)
私はぐっと気合を入れなおし、しっかりと前を向く。
そう…この入場は、私だけじゃなくて、お父様にとっても晴れの日…それをぶち壊すわけにはいかない!
(ペナルティでも何でも……望むところよ。私は、私の道を往く!)
そう、笑顔。姿勢は崩さず、一歩ずつ確実に。
ぱあっと視界に飛び込んできたのは、夢みたいに豪華なシャンデリア…そして絢爛たる衣装の紳士淑女の皆様方。顔をあげた先にいる国王夫妻にカーテシをして、その後小さく息を吐く。
(落ち着いて。…真っすぐ)
アズレアの王宮にある、最も華やかなホールの中心に、私は立っている。
笑みを崩さず周りを一度ゆっくり見渡し、再びカーテシ。
まあ、とかあら、とか…色々な声がざわついている。心の中でガッツポーズを決めると…異彩を放つ、絶世の美女たるダイアナ叔母様が私のもう片方の手を取った。
「叔母様」
「美しいわよ、リッハシャル。…レイドックはまあ、悪くないわ」
「…それはどうも」
他の令嬢達のコールはまだ続く。
(あ、そう言えば…結局名前を書いてなかった)
すると、向こうからこちらに手を振る正装の美男子がこちらに…って、あれは。
「シャル」
「!ケディ。」
「デビューおめでとう!…うん、すごくきれいだ」
「……ケディック=エイデン」
なんとも忌々し気な声だが、ケディは全く動じることなく笑顔で受け止めた。
「あ、伯爵。お久しぶりです!…この度、シャルのファーストダンスを務めさせてもらいます」
「……ほう、いい度胸だな」
「ええ。並の度胸じゃあ、ルドヴィガ令嬢に声をかけるのもおこがましいことは重々承知しておりますから!」
「ふむ。……まあ、お手並み拝見と行こうか。どちらにせよ、本当の最初のダンスはこの私だからな」
「お、お父様……」
(そんなところで対抗意識を燃やさなくても)
「シャル、手、見せて?」
「手?」
反射的に手を出すと、手首のダンスカードリボンをほどいて、さらさらと自分の名前を書き…そのまま私の手のひらにハンドキスをしてきた。
「なっ?!」
「ルドヴィガ令嬢、あなたの一曲目のお相手の栄光をいただき、ありがとうございます」
二ッと私の目を見て…って、こ、これは恥ずかしい!!
そして…お父様が憮然とした表情をしているけれど、ダイアナ叔母様はなんとも興味深そうにじっと見ている。
「シャペロンの私の目の前でまあ、やるじゃない?坊や。」
「おほめに預かり光栄です!…じゃあ、あとでね」
「う、うん」
「……やはり、危険だ」
「そこはレイドックと同感ね」
「ふ、二人とも…」
すると、高らかなファンファーレが鳴り響く。
(あ、そう言えば……デビュタントは私だけじゃなかった)
「カシオス=セレスト王太子殿下、ご入場です!」
ざわ、と会場が揺れる。
……正真正銘、これがカシオス様が大衆に認知された瞬間でもある。
「まあ…素敵」
「なんとも、クロム陛下の生き写しのようだ…」
(カシオス様…確信はないけど、幼い頃に一瞬遭遇したあの子が彼だとしたら。…なんか複雑)
……美しいキアルーンの白マント。まさしく贅を尽くしたものだと、私でもわかる。そして、空の色と同じインシグニスブルーのダブレットは誰にも着用できない、カシオス様特有の色彩だ。
「あれって…もしかして」
「ええ。ランザであしらえた、彼だけの色。春にしか取れない特殊な草花で染めた、特別な色ね…全くあの王子様らしいこと」
以前鸞坐の工房で会った時、大釜で何か作業していた……もしかして、自分でこの色を染めていたの?
(カシオス様は、時々職人気質だ…)
すると彼は、一度国王夫妻を視線を向けるが、頭は下げず、軽く微笑むにとどめた。
「ねえ、今の」
「……へえ」
周囲はその異変に気付いているようだけど、彼は気にせずぐるりと辺りを見渡して……なぜか、私と目が合う。
(ん?)
そして…真っすぐこちらに向かってきた。
こっそり肉食?な幼馴染がいきなり本気出して口説き始めた件…読んでいただきありがとうございます!ブックマーク&評価もすごく嬉しいです!精進します!




