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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第7章 人生、二度目のアオハルはまさかの戦場だった。

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第67話 ここぞのお願い…VSケディ


遠くで始業ベルの音が聞こえる。

ああ、まあしょうがないか…どっちにしても、恐らくさっきの硝子騒ぎでバタバタしてるだろうし。

それにしても。


(ケディの行動力……さすがだわ)


「あ?!ちょっと待って!医務室は嫌。イリシユが来る!」

「は?そんなことどうでも」

「お願い、ケディ…なんかあの人苦手なのよ……」

「シ、シャルがそう言うなら…あ!そうだ」


すると、ケディは急ブレーキを踏んで、全く反対側の方向に走りだした。


「?!こっちって…剣術訓練場?」

「そう。あ、エイルさんもついてきて!迷いやすいから」

「は、はい!」


そこは…訓練場に併設された、小さな簡易医務室だった。

武術の稽古で怪我した人たち向けに作られた場所で、常駐の先生がいるわけでもない。

しかし、一通りの絆創膏や包帯などはずらりとそろっている。

長い脚jで椅子を引き寄せ、私をそこに座らせてくれた。


「あ、ありがとう」

「お嬢様ぁ…鏡…」


半べそかいたエイルが見せてくれたのは…多分イリシユがかばったときだろう、首筋に流れる赤い血が見え、言葉を失った。


「…わあ…」

「裂傷ってさ、怪我したら結構血が出るんだよな…首触るけど、良い?」

「うん…ちょっと待って髪かきあげるから」

「え…あっうん。今、塗り薬を」


今日はただの三つ編みだったんだけど、首元が露出してるところに破片が当たったみたい。

ジャケットを一度脱いで払うと、パラパラと細かい破片が落ちてきた。


(うーん…実はかなり危ない状態だったんじゃ)


王道ゲームなら、王子様に助けてもらって、好感度アップ!なイベントになりそうだけど…今回のは真逆で、私の好感度はだだ下がり。

あのイリシユ王子はなぜあんなに女性に人気あるんだろう。


「…?あの、さっきからどうしたの、ケディってば」

「あ?!いや。ええと…やっぱ女性の首には…その」

「はい?」


もごもごと何言ってるかわからない…けど、要するに恥ずかしいってこと?


「ごめん!エイルさん!よろしくおねがいします!」

「思春期って、大変ですね…わかりました。お嬢様、ちょっとひやッとするかも」

「うう…ぞくぞくする…っ」

「我慢、我慢」


するとケディは、なんだかばつが悪そうに手近の椅子を引き寄せた。


「ごめん…もうちょっと早く僕が近くにいたら」

「気にしないで。ただの事故だと思うし……まあ、イリシユ王子に何もなくてよかったわ、ホント」

「確かに。でも、よく咄嗟に身体が動いたね、シャル」

「まあ、落ちてくるのが見えたから」


そう。

あの瞬間、メガホン鳥がはじけて飛んだのが見えたけど…あれは偶然?

あいつら、自爆したのか…それとも誰かが退治した可能性もあるけど。


「あの窓…立て付けが悪いって噂もずっとあったみたいだし、劣化とかかなあ」

「噂?…あの窓に?」

「うん。確かに近くの席に座ったら、風とかでガタガタ揺れてるし…気になっていたけど。あのタイミングで落ちるなんてね」

「…噂、かあ」

「あの、お嬢様」

「?」


こそ、とエイルが私の耳元に話しかけた。


「昨日のお話し…ケディ様なら、お力になってくれるのではないですか?」

「…噂の話?」

「はい。…その、心配です。今日みたいなことがまた、あったら」

「………うーん」


それは…今はまだ保留にしておいた方がいいかもしれない。

別にケディを信じないとかそう言うのじゃなくて、まだあの鳥がどういうもので、どういう仕組みかわかっていないし。


「ね、ケディ。ほかにもそう言う噂って聞いたことある?」

「ああ、色々あるよ。…と言っても、僕はあまり興味ないからなあ…ラッセルとか、詳しいと思う」

「あ!そっかラシー、自分で言っていた」


ふと、じっとこちらを穴を開くほど見ているケディに気が付いた。


「何?」

「…あのさ、シャル。なんか、妙なことに巻き込まれてない?」

「妙なこと、とは」

「うーん…僕としては、カシオスと仲がいいのにも驚いているけどさ。イリシユの奴、随分シャルに気安くないか?」

「それは……そう言えばそうかも。今日だって、わざわざ僕のこと嫌いですかって聞きに来たし」

「な、なんていったの?」

「はい、キライですって。…でも、喜んでるの。気持ち悪いわ……」


しばらくあんぐり口を開けていたケディだったが、やがて声を出した笑った。


「あはは!そりゃあ、大変だ!シャルの天敵じゃないか!」

「笑い事じゃないわよ…ねえ、どうしたらいいと思う?嫌いが大好きって聞こえるってことでしょう?私あの人に大好きなんて、死んでも言いたくないわ!」

「うーん…でも、シャルに怒られるのが嬉しいのは…ちょっとわかるような」

「は?」

「な、何でもないです。でも、いくら今シャルを追っかけてたところで、いずれはそれなりの家門の令嬢と結婚するんだろう?あまり心配することないんじゃないか?」


とはいえ、残り三年をあんな奴に絡まれて過ごすのはちょっと…。


「まあ……まさかうちの家にその話が来るとは思わないし」

「来たところで、カシオスとはおじさんがダックを組んで断固阻止するから…むしろ」

「?」

「あ…ええと。か、カシオスとはどこで?随分仲良さそうじゃないか…って。あ、そうか。おじさん、代父だったんだっけ。なら、無理もないか…」


あれ、ケディが何かを考え込んで黙ってしまった。

それよりも、私が驚いたのはケディのコミュ力……カシオスのことを、名前で呼び捨てしてるのって、ケディだけなのでは。


「ケディこそ、カシオス様と仲いいのね」

「ん?だって、少しの間だけど一緒にいたし。しかも何もなければ、うちでそのまま大きくなっていたかもしれないって。そしたら僕の弟になるだろ?」

「エイデン三兄弟?!アハハ、フォーレの胃が痛みそうね…」

「それ、どういう意味だよ…」


(こういう他愛もない話をして、授業さぼって過ごす…なんかいいな、こういうの)


「あ、ねえ。せっかくだから、剣術訓練場、見て回ってもいい?女性ってこの手の授業ないし。滅多に入れないのよね、ここ」

「いいんじゃない?今更授業に戻れないし。まあ…シャルはお茶の授業より、武術の授業の方が好きだよな」

「ひ、否定はしない……」


簡易医務室を出ると、すぐそばに演舞場が見えた。

王宮スタイルの剣術だからか、広いドーム型の建物には、等間隔に四角い枠が白い線で区切られた場所がいくつもある。


「王宮剣術は、一対一が基本だったっけ」

「ああ。…まあ、僕はそれより集団戦の方が好きだけどな」

「ケディは先兵?それとも軍師?」

「うーん…軍師の方が圧倒的に楽しいと思う。あ、摸擬戦の話だ!別に戦いとかそう言うのじゃないぞ」

「わかってるよ、でも意外。そういうの、フォーレの方が得意そうなのに」

「フォーレは多分苦手かなあ…そもそも、争いに向いてないよ。…優しいから」


ふと、フォーレだったらなんていうのかな?と考えた。

今のセリフ、フォーレが聞いたら怒りそうな気もするけど…私の見立てでは、学者タイプだし、あながち間違ってないかも?


「あ!せっかくなら、今勝負しない?誰も来ないし!…ケディ、まだ私と本気で対戦してくれたこと、ないでしょ!」

「えー……まさか、シャルに本気で?無理だよ」


まあ、確かに本気で来られたら、絶対負けてる。


「でも、一回くらいは戦ってみたいじゃない!」

「うーん……」


尚も頭をかく姿を見て、ちょっと私はむっとした。


「なら!私、ロングソード、ケディはレイピア!…どう?!ハンデでしょ?」

「リーチが違うじゃないかあ」

「う―…なら!半分でいいから……ケディが勝ったら!一つケディのお願いを聞いてあげる!は?」

「……それ、ホント?」


ん?声のトーンが変わった。

…あれ、これは何かまずいことを言った?


「―――半分の実力で、シャルに僕が勝ったらお願いを聞いてくれる、でいいんだね?」

「う、うん」

「なら、シャルが強いのは知っているから…フェアで怪我がないように、模造剣でやるか。防御装備は?する?」

「小手とグローブくらいは、しておこうかな…」

「わかった、首から上は狙わない。それでいい?」

「ええと、うん」


なんだか、物凄くやる気になってる。

気迫が違う…アレ。これ大丈夫なのかしら…まさか、火をつけちゃった?


「……行くよ」


ざり、と足を踏み込み、二人で面と向かって対峙する。


(うん、さすが。剣術の天才…構えに隙もないし、圧が違う…これが、ケディの本気)


一番最初の剣筋は真っすぐ。

何とかよけきることはできたけど、隙を与えず二回目。視界の外から続く突きまでは辛うじて受け切れたのに…正面から来る四回目が強い。


(一撃が重いっ)


「すごいな、シャル。やっぱ強い…でも!」


次の一撃を何とか受け流せた…そう思ったのに。

……勝負は一瞬だった。

次が来る!…そう思った次の瞬間には、私の首元にケディの剣先が突き付けられてた。


「……参りました」

「うん!…よっし!」

「信じられない…悔しいっていうか、あまりにも圧倒的過ぎて、笑っちゃう。すごいね、ケディ」

「えっ。……そ、そお?!」


ぱあっと明るい笑顔。

さっきまでは一流の剣士の顔で、絶対に負けないっていう気迫があったのに。


(こういうところは、子供のころからそのままだなあ)


褒めるとすぐ調子に乗って失敗しちゃう。


「はあ…約束は約束だもん。さあ、無理なお願いじゃなければ…なんでもどうぞ」

「……あのさ。だったら…」


トン、と剣を地面に突き刺し、一度背筋を伸ばしてから膝をついた。


(ん??)


「シャル。今度のデビュタント……ファーストダンス、僕を選んでくれませんか?」

「え?!」

「…僕、勝ったけど?手は?」

「ファーストダンス……って」


なんか、これ以前に誰かにも言われたような。

そんなに、大事なことなんだろうか…と思ってしまうけど、そういうものなんだろう。


「…謹んで承ります。ケディック=エイデン公子様」


そして、そっと手を重ねたのだった。




読んでいただき、ありがとうございます!

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