第66話 利用できるものを利用してみた結果…VSメガホン鳥
「ねえ知ってる?例の入学式の話…」
「あ!あれでしょ、あの黒髪の子が王子様に迫ったとかって…」
突如、ヒュン、と風を切る音が聞こえたかと思ったら…何かが壁に当たって落ちた。
「……え?」
「な、何これ…石?」
「ヤダ、怖い…い いこ!」
彼女達の目には見えない羽毛がふわふわと宙を漂う。
すぐそばの木の陰で控えていた私は飛び出し、メガホン鳥の残骸を握りつぶす。まるで空気に消えるようにそれは消失し、開いた手のひらには何も残らなかった。
「噂の種、ねえ。これで何匹目だろ…なんで私が、あの変態王子に迫らないとならないのよっ」
入学式以来、ちらほらと聞こえる噂がある。
そのほとんどが、「黒髪の子が男に迫った」的な内容ばかりだった。
勿論、第二王子と第三王子の不仲程のインパクトはないにしても、中々立ち消えることがない。そしてその噂が出始めた場所を辿っていくと、やはりあのメガホン鳥が飛んでいるのだ。
どういう理屈か知らないけど、今はもういたるところに雀や小鳥と一緒になって遊んでいる。
石が当たりさえすれば勝手に消滅するので、退治するのに手間がかからない。しかし、数が多すぎて手が回らないのもまた事実である。
(噂のメカニズム?みたいな奴も勉強する方法ないかなー…)
「あ!お嬢様!!」
「あら、エイル」
と、向こうからエイルが走ってやって来た。
「もう…従者の私を撒くご主人って、どういうことですかあ」
「アハハ、ごめん、まあでも…エイルも私にばっかりついてちゃあ退屈でしょ?」
「そんなことありませんよ…それで、何か異常でも?」
「うん…ちょっとね」
ふと、考える。
いっそのことエイルに話してみようかな?
この子は忠誠心はぴか一だし、口も堅い。私を変な目で見ることもないだろうし……それに。
ちらりとエイルの腰に下げたポーチを見る。
…実は、あの中には大量の投機と、小型のナイフが入っている。
――それは、ここに来る前の事。
「お嬢様に、先にお伝えしておこうと思いまして」
「私に?」
「はい!このポーチ…中をご覧になりますか?」
そう言って見せてくれたのは、いつも腰に付けている丈夫ななめし革でできたベージュの携帯用ポシェット。大きな鷹の刺繍があり、赤と青の紐でくくられている。
雨風に強そうなこの造りは…恐らくうちの騎士団にちなんだもののような気がする。
「リッハシャルさまは、私がルドヴィガの騎士団の「鷹」の一人なのはご存じですよね?」
「うん。知ってる!私の護衛に抜擢されたから、メイド業もやってるって」
「はい!」
この世界の騎士と言うのは、少し変わった制度がある。
王家に属する親衛隊や近衛、実践的な任務をこなす騎士達は王家が雇い主で、いわゆる『公務員』なるけれど……有力な家門、爵位の高い家門に属する騎士団は雇用主がその家門になる。
で、長子以外の者は成人したら自由騎士の身分になり、後に他の家門の騎士団への志願が可能になるのだ。だから、エイルのように騎士と共に何かを兼業にさせるのも、雇用主の方針次第となり…割と自由度の高い職業の一つでもある。
「私は北の山岳地の出身ですが…ルドヴィガ騎士に憧れて入団したんです!」
「正統派なエイデン騎士団や、クオンタ騎士団もあるのに?」
「だって!ルドヴィガの鷹と言えば、隠密専門…カッコいいじゃないですか!…で、このポシェットの中身はと言うと」
す、と赤い紐を引っ張ると、ふたがはがれた。
そして、ジャラ…という重そうな音が聞こえてきて、私は驚いた。
ずらりと並んだ投擲的武器差しに一変したのである。
「え?!すごっ」
「えへへ―。おほめ戴きありがとうございます!凄いでしょ?私の母の手作りなんです。で、青い紐を引っ張ると」
シュルルと元のポシェットの形態に逆戻った。
「わあ…カッコいい!」
「と、言うわけで…何か危険があっても私が必ずお守りしますから!このエイルちゃんにお任せを!」
―――と、言うわけで、彼女は投げ武器専門の護衛騎士でもあるわけで。
(メガホン鳥退治に使えそうな投機…ありそうなんだよね)
すると、丁度すぐ近くにのろのろと浮遊する小さい、メガホン鳥を見つけた。そいつをわしづかみ、エイルに見せてみるけれど。
「コレ、見える?」
「…??見えない何かが、お嬢様の手にいるんでしょうか?」
「だよねえ……」
何か、可視化できるようないい方法はないだろうか?
(あ、そうだ)
「…実は、リッハシャル・ルドヴィガは、イリシユ王子が大嫌いらしい」
「それは…存じてますけど」
すると、メガホン鳥は急に発光し、勢いよく飛んでいった。
「…風?」
「あ、それはエイルも感じるんだ」
(なるほど、噂を吹き込めば発光する仕組みなのかな?サイズも一回り大きくなったし)
「エイル。今、私はある一つの噂をばらまくことに成功したわ」
「噂…さっきのは、真実であって噂になったところで…」
「そ、そうじゃなくて。それは私を知っている人が見たら周知の事実だけど、他の人はそうじゃないでしょ?だからいまだに私が、イリシユに迫っただの求婚しただの、意味不明な噂が広がるのよ」
「それと、さっきのは何か関係が?」
「実はね…私は誰にも見えない噂の種と言うか、発生源が見える特殊能力を持っているの」
「?!そ、そうなんですか??」
うーん、この子はほんと素直で、だましてるわけじゃないけど……良心がちょっと痛む。
「まあ、ちょっと数日待ってみて。あの噂…すぐ広まるよ」
そう、これは実験。
あのメガホン鳥の生態を研究するためには…逆に利用してみて、効果を確かめないと。
(どうせなら…こっちに利益がある噂を流さないと)
噂がばらまかれて、イリシユが私を避けるなら万々歳!
そう思っていたけど。
「僕を嫌いだという噂を聞いたけど…本当なのか?!リッハシャル=ルドヴィガ!」
「………」
(まさかご本人が登場するなんて…)
現在、私は食堂に向かってる最中。
そしたら、なぜか、例の取り巻きの子たちと一緒にイリシユがやって来た。
「あの…何の話ですか、突然」
「そう言う噂を聞いたもので、いてもたってもいられなくて…!」
…の割には、どうしてこの人の目は輝いているのかしらね。
「そーよそーよ!」
「ひどいわ!」
(うるさい取りまきの女の子達だなあ…メガホン鳥もうじゃうじゃいるわ)
「噂の通りです…王子殿下と言えど、私の個人的感情は変えられませんわ」
「そんな…!それを変える方法はないのか?」
「ありません。こういう、道端で声をかけるのも…正直迷惑ですから」
「…迷惑?どんな風に?」
「え…だから」
ぐぐっと、前のめりになるこの王子様は、めげるところか、むしろ喜んでない?
え?もしかして、そう言う…冷たくすると喜ぶ系?
(き、きもぉ……)
瞬間、考える。
どうしよう…いくらでも冷たい言葉も軽蔑する言葉も並べられるけど…!それを言うと、この人は喜ぶってこと?え?じゃあ嫌いって言ったら大好きになるの??
「さあ!もっと!僕が嫌いなんだろう?!」
「もっとって……えぇ…」
どうしよう。どうやって振り切ろう……。こんなの初めて!
その間、多分数秒だろうけど、宇宙が見える…っ。
「何なの……イリシユ様を独り占めして」
ぼそっと聞こえた声。
(え?今の気のせい?)
ふ、と嫌な気配を感じ上を向くと…一瞬メガホン鳥っぽいシルエットが見えたような気がした。
そして…急激に膨らんで、はじけた。
同時に、どこからかミシ…っという音が聞こえたかと思うと…悲鳴が上がる。
まるで映画のワンシーンみたいに…上から小さな窓ガラスの破片が降ってきた。
(ガラスが…降ってくる?!)
「お嬢様!」
咄嗟にエイルの声が聞こえて…何処からかイリシユ様!みたいな声も聞こえた。
でも、迷ってる暇はない。
「伏せて!」
「え?え?」
ぐ、とイリシユの腕を引っ張り、
そのまま押し倒す。
「…っ!」
「きゃあーー!」
は?きゃあって…イリシユの悲鳴??
「ふつう逆じゃない!…ったくもう!」
私が毒ついた瞬間、ガシャン!!と派手な音を立てて、破片が飛び散った。
「…ふう」
「……っ……」
がくがく震えるイリシユと至近距離で目が合う。
気持ち悪い男子だなあと思いつつ、手を差し出すと、彼は恐る恐る手を伸ばした。
そのままグイ、と引っ張り立たせ、制服についた破片と埃を払ってあげた。
「一応、医務室に行かれた方がいいかと」
「…あ、助けて、くれたのか…?」
「王族を守るのは、私達の役目でもありますから」
「…!!」
(…ん?なんか、何だろう…寒気が)
「リッハシャル様!!!」
「エイル…」
「お怪我は?!すみません!!私がいるのにっ」
「いいから、とりあえずここから離れよ」
ちらりと呆けたイリシユを見る。
わらわらと人だかりができているので、まあ無事だろう。
「シャル!大丈夫か?!」
「あれ?ケディ?!何でここに」
「いや、騒ぎがあったの見てたから…そんなことよりけがは?どこか痛いところは」
すると、さっと顔色を変えて私の頬に触れた。
「…血」
「え?!あ…鏡ないからわかんないけど…うわ?!」
「医務室!!血、すごい出てる!!」
「えええ?!!…い、痛くないけど」
そのまま軽々私を抱き上げて、その場から連れ出してくれた。
(こう、行動力……)
「あ?!ちょっと待って!医務室は嫌。イリシユが来る!」
「は?そんなことどうでも」
「お願い、ケディ…なんかあの人苦手なのよ……」
「シ、シャルがそう言うなら…あ!そうだ」
すると、ケディは急ブレーキを踏んで、全く反対側の方向に走りだしたのだった。
「?!こっちって…剣術訓練場?」
「そう。あ、エイルさんもついてきて!迷いやすいから」
「は、はい!」
(…とりあえず、ちょっと安心した…何なのあの変態。それに、あの窓)
「……ダメだ、考えるのはひとまずやめよ」
こういう時、身体が大きいケディは寄りかかりがいがあるなあ、と、そんなことを思った。
読んでいただき、ありがとうございます。




