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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第6章 王の帰還

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第61話 王の帰還⑤ 窮地


【赤い盾】は、その名前だけが独り歩きし、その実態は知られていない。

ただ、国の凶事には必ず赤い盾の旗が翻る……と、貴族の間では有名な話でもある。


「赤い盾……?なんなんだ、それ?」


事の成り行きを特等席で見物していたイリシユは、聞きなれない言葉に首を傾げた。

後方の席に座っていたセフィールは呆れてため息をつき、答えた。


「――お気を付けを、イリシユ殿下。その質問は、口に出さずにいる方が賢明でしょう」

「そ、そんなにやばいのか?」

「ええ。国の凶事には必ず赤い盾の旗が翻る…という言葉もあります。赤い盾の由来は高貴な者の返り血で染められたからだ、と言われるほど。多くを語るは危険、知るのも危険…というところでしょうか」

「な、なるほど……高貴な者の暗殺ってことは、推して知るべしってか。ん?」


ふと、見上げた先に、例の神様ガチャが浮遊しているのが見えた。

(お、タイムリー!うまいのを引けば、あのカシオスってやつにぎゃふんと言わせられるかな…)

軽くひらひらと手を振ると、神様ガチャは何かに気が付いたように飛び上がり、すっと消えていった。


「…あれ?っかしーな……」

「イリシユ殿下」

「!?わっ。な、なんだよ、セフィール……」

「ゼネシア夫人は、いけません。いくら美しくとも、エイデン侯爵と仲睦まじい様子は社交界でも有名な話です。この期に及んで敵を増やす必要もないでしょう」

「あー…別に、そう言うわけじゃ。っていうか……俺のことを何だと思ってるんだ」

「ただの女性好きではないのですか?」

「じょ、冗談にもほどがある…全く」

「……」


(今、何を見て、どこに手を振った?……この王子、何かおかしい)


カン!と槌が叩かれる音が聞こえ、再びセフィールは審議に集中した。


「エイデン侯爵夫妻の証言、確かに受理いたしました。……先ほど述べられた、事件については事実としては容認しますが、その原因については憶測の域を出ず、証拠としては認めません。よろしいですか?」

「はい」


王も王妃もまるで表情を変えない。

ただ、まるで興味ないようにじっと聞いているだけで何も言葉に出さなかった。


(沈黙は言葉より雄弁、か。…だが、このアズレアの貴族全員に、赤い盾の事例が認知されたことになる。それだけでも上出来だ)


証言台から降りる時、ゼネシアは心配そうにイルモンドを見た。

頷きあうと、ぜネシアは最後に一度カシオスを見つめ、退室していった。


「それでは、次の証人は前に」

「はい。レイドック=ルドヴィガ……カシオス殿下の後見人とさせていただいております。エイデン侯爵家の事件の後、私は我がルドヴィガ領地の、亡き我が母が晩年を過ごしたとある山中の邸へとお連れしました。そこには、母の代から仕えていたルドヴィガ家の庭丁と専属メイドがおりましたが…高齢に伴い、その任を解いたのちはルドヴィガの領地で静かに暮らしておりますので、ご理解いただきたい」


それを聞いたカシオスは、ほっと胸をなでおろした。


「その後およそ10年にわたり、殿下を匿い、保護しておりました」


(僕でも知らないことが多い。…僕自身の事だというのに)


エイデン侯爵家の事件については、その詳細を聞いたのは、この審議会の少し前の事だった。

イルモンドは言う、殿下が気に病む必要はない、と。まだ、幼かっただけだと。


「本当に…レイドックの言う通り。僕の命は、僕だけのものではないんだな。ならば、負けるわけにはいかない。……もっと力が欲しい」


ぽつりと出た言葉は、誰にも聞こえない。

ただ、幼い頃に交わしたレイドックとの約束は、この時のために会ったのかもしれない、と…そう、思った。


「質問を」


すっと手を挙げた人物を見、皆驚愕した。

それは勿論、傍聴席にいたセフィールも同様である。


「おじい様…?!まさか」

「ディアス=ヴァラモ公爵…!」

「おお…、遂に」


ざわざわと浮足立つ様子を満足げに見、公爵は頷いた。


「……我が名を知らぬものはいないようだ。名乗る必要はないな。審議官よ」

「………了承しました」

「レイドック‘=ルドヴィガ……カシオスと言う名の少年の出自。それだけの証拠があれば、これ以上の詮索も証言も必要なかろう」


再び、ざわめきが走る。

ラデュオンも、イリシユも…セフィールですら、今回の審議は成立したのか?そう思った。

だが、レイドックだけは、その表情を崩さず、真っすぐに公爵と対峙した。


「……ヴァラモ公爵殿。それでは、どういった主旨の質問を私に?」

「まず一つ。…貴殿の言う【10年】…では、次の五年はどこにいた?」

「正確には、10年と半年です、…そして、これから報告するところではございました…が、その後はキアルーン地方、ランザの地にわたりました」

「ふむ、では……先日定期便に乗って帰還した、という噂は本当のようだ。では、何故キアルーンに?」

「キアルーンは先王クロムと親交が厚く、彼の国の王とも私は以前から交流がございました。いずこから伸びるかも分からぬ悪手から、身を護る為に友好国へと渡る…行動に矛盾はないものと認識しております」

「なるほど…矛盾、のう」


皆が固唾をのんで二人のやり取りを聞いている中、たっぷりと間をあけ公爵は続けた。


「では、先王の遺児とわかっておりながら、国の許可なくキアルーンに単独で渡る…という決断に、矛盾はないということで間違いないな?」

「……その意味をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「だって、そうであろう?尊き王家の血統を継ぐ正統なる後継者を、守るためと嘯きながら他国へ渡る……なぜ王家に一度も相談をしなかったのか?そなたが起こした行動は立派な人さらいと同等の意味を持つと、なぜわからぬ?」

「な……っ」


カシオスが思わず身を乗り出そうとするが、イルモンドが抑えた。


「殿下。落ち着いてください」

「だが!イルモンド……こんな。審議官!!私が質問を……っ」

「お気の毒に……長い間真実を知らずにさぞお辛かったでしょう。レイドック=ルドヴィガ!そなたはおのれの欲望の元、王子殿下をかどわかし、あまつさえ「蛮国」とされるランザへと落ち延びようとした!!問われるべきはそなたの罪よ!!」


カン!カン!と何度も槌がうたれる。


「静粛に!!静粛に!!」


……ヴァラモ公爵の言葉で、会場の空気は紛糾してしまう。その様子を見、思わずラデュオンは唇をかむ。


「まさか…このような暴挙に出るとはっ……そこまで」


――ヴァラモ公爵家の影響力はすさまじい物なのか、と、言葉を飲み込んだ。


「カシオス=セレスト!…ヴァラモ公爵殿、王妃アゼンダリアともども、冒頭の誓を忘れたのか?!伯爵が私を(かどわかす)様な言動をいつしたのか…それを証明する手立てはどこにあるというのだ?!」

「今のあなたの言動そのものです、カシオス殿下!!あなたはルドヴィガを信じ切り、そうやって彼をかばっているでしょう……ああ、なんと憐れな!!」

「…ッ ディアス・ヴァラモ!!!!」


(さあ、怒るがいい獅子の子よ。そなたが我がヴァラモに嚙みついた瞬間、尊き御身は我が檻に下ることになろう…そして、レイドック…お前が守ろうとしてるものすべても!!)


「静粛に!と何度も申し上げておりま」

「皆、鎮まれ!!!」


王の怒声がホール全体に響き渡る。シン、と水を打ったような静寂の後、ゆっくりと挙手した。


「ゴード=セルリア。公爵の言葉も一理ある。伯爵よ、何故カシオスの存在を我が王室に報告をせず、かくまった?そなたひとりが抱え込むこともせずとも、我が王家にもっと早い段階で報告していれば身の安全は保障されていただろう?」


王の言葉に、カシオスは内心で怒りの感情が渦巻いていた。


(お前達の元に行けば、僕が助かるだと?ふざけるな!!!母も、父も…エイデン前侯爵も!!お前達が殺したようなものじゃないか!)


だが、それを口に出すと、更にレイドックが窮地に立たされているのは明白だった。


(何か…何か言ってくれ!!レイドック……このままじゃ)


「それでは、お答えいたします。先王クロムが起こしたキアルーンとアズレアを結ぶ定期船。……それに携わる任を、私は他でもない、先王クロムとキアルーン王・キアロ殿に任されておりました」

「……それがどうした?」

「その際、とある期間が設定されております。それが……」


すると、バーン!と厳かにひらくはずの扉が激しい音を立てて開かれた。


「あら!思ったよりも美しいところじゃない」


カツン、カツン、と華やかな模様の衣裳を身に着けた女性が妖艶に笑う。……厳格であるはずの門番たちの鼻の下がだらしなく伸びているのは、言うまでもない。


「うふ」


しゃら、と裾についた宝石のフリンジがゆらゆらと揺れ、天井から降り注ぐ光を反射して煌めいて…まるで、舞台女優のように輝いていた。

一瞬、あっけにとられた審議官だったが、アゼンダリアの一瞥ではっと我に返る。


「あ…ご、ごほん!貴族以外の部外者は―――」

「あ、この台座が証言台?でいいのかしら、レイドック?」

「……仰る通りです」

「ふうん…あら、王子様。お久しぶりですわね」

「……ダイアナ、様?」


証言?と、周囲がざわつき、ヴァラモ公爵はぎろりとにらみつけた。


「お美しいご婦人、あなたは?」

「わたくしは、ランザの太陽王キアロの娘にして、王女のダイアナと申しますわ。なるほど?……先ほど、我がランザを【蛮国】と称したのはあなたで……」


しなやかに手を伸ばし、ヴァラモ公爵を指をさす。


「私のかわいい妹を侮辱したのは、あなたね?」


そして引き続き、ぴたりとアゼンダリアを指した。


「うふふ……おのれの国の神様事さえ知らない愚かな女性が王妃とは。底が知れてるわね……そして、我が国をいつまでも見下し、碌に歴史すら知ろうとしない…だからランザの船舶技術の足元にも及ばない、旧時代の船と考えばかり蔓延しているのよ」

「そなたは何を証言する為、そこに立つ?まさか、場を荒らすためだけに現れたわけではあるまい?」

「あら、失礼。今日この場所に私が立っているのは…これを証明する為よ」


ダイアナは、二枚の羊皮紙を開いた。

そこには、クロム王、キアロ王、カシオス。そして…レイドックの名前が羅列していた。


「それは……?」

「これは、両国を結ぶ定期船の更新誓約書。若き王子を誑かすような短慮な人間が、どうして二人の王の信頼を受け、二国間の重要な書類の証人となれるのかしら?……それを、あなた達は説明できる?」


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