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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第6章 王の帰還

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第60話 王の帰還④ 母


「お前たちは明日、ルドヴィガ邸に行きなさい。レイドックには話を通してあるから」


らしくない父の言葉に、思わず双子は顔を合わせた。


「例の審議会?僕は問題ない。……シャルも心配だし、会いたいし」

「あら。ケディは正直者ね」

「な、なんだよ」


ケディの真っ直ぐな言葉に、思わずゼネシアの顔がほころぶ。

しかし、フォーレの顔は冴えない。


「母上も行くの?リバティアは?……母上の傍を離れると、まだ泣くよね」

「ティアはちゃんと私が連れていくわ。危険なことはないだろうし、ね」

「ん!明日お出かけするの?」

「そうよー。ちゃんといい子にしてるのよ?」

「うん!」

「と、言うわけで…私も証言台に立たなくてはいけないから」

「!ぜネシア……」

「――私は大丈夫よ、あなた。では、もう休むわね。さ、ティーア?そろそろお休みの時間よ」

「えーもう?はぁい……」


リビングから去っていく二人を見送り、フォーレは複雑そうに紅茶を飲んだ。


「……大丈夫なの?」

「フォーレスト……気になることがあるなら、言ってみなさい」

「父上、フォーレが気にしてるのはさ、シャルに会いづらいからじゃない?」

「か、軽口は叩くな。だって、もし……」


一瞬、しんと場が鎮まる。

イルモンドは、対照的な二人の表情を見比べ、小さく息を吐く。


(まあ、無理もない、か)


ケディとフォーレは、二人がそれぞれの役割を担っている。

こういう時、ケディは後ろを見ないが、フォーレは後ろを確認し慎重に事を運んでいく癖がある。馬は本能で駆け巡るが、その手綱を引くのは人間だ。


「……お前が心配する気持ちもわかる。だが、私もレイドックも、この日のために随分と昔から準備をしてきたんだ。……失敗など、するはずもない」

「…!」


それを聞いて、ケディは下手な口笛を鳴らした。


「さすが、父上。なあ、カシオスと僕らは血はつながってないけど、一緒にいたこともあったんだろ?」

「一緒にいたのは…1年間くらいか。カシオス殿下は…丁度冬の生まれだから。夏生れのお前達の方が早いな」

「じゃあ、僕が一番長男ってことだね。無事事が済んだら、カシオスも学園に行くの?」

「まあ、殿下次第ではあるが……今後の為にも、その方向で話を進めている」

「へえ!楽しみだな。…きっと、カシオスはすごく強いだろう?一度手合わせしてみたい」


あっけらかんとした様子のケディに、フォーレは頭を抱えた。


「……ケディのその、楽観的なところ、ある意味すごいと思うよ」

「なんで?シャルの父上も一緒だろう?二人とも、負けるはずがないさ」

「ふふ…アハハ…すごいな、ケディック。これは、お前の信頼に応えないとな」

「当たり前だろ?……シャルだって、僕たちといた方が心強いに決まってるからね。…行くだろ?フォーレ」

「…と、当然だ」

「なら、決まりだな」


―――天気のいい日は矢を放つと、よく飛んでいく。

ひゅっと風を切る音と、木の板をパーンとはじく音が気持ちよく澄んでいる。


「くそ…シャルに負けたっ」

「10戦7勝!当たり前じゃない。…でも、ケディには負けたわ」


悔しそうにシャルが言うと、フォーレは苦笑いをした。

ケディは矢をどこまで遠くに飛ばせるか、今は騎士達と競争中である。


「兄さんは、武芸の天才という奴だから。……俺はそっちの方はやらないことにしてる」

「あら、隠れた才能があるかもしれないのに?」

「そんな才能を発掘するのに時間を割くなら、今できる得意分野を伸ばすことに専念するよ」

「ふふ、らしいね」


木陰に座り込んだフォーレの横に、シャルが腰かけた。

そのまま頬杖をついて、にやにやとわざとらしい笑みを見せる。


「ねえ。……フォーレって、ケディの前では絶対【兄さん】って呼ばないよね」

「………なんか、癪じゃないか。年齢も同じなのに」

「あはは!生徒会長やって、成績も常にトップを突き走る……フォーレの方が活躍は派手なのに」

「別に…学校生活で優秀な成績を収めても、大人になってからはあまり意味がないことさ」


こういう時、フォーレは何かを諦めているというか、どこか冷めている。

それがいつもシャルは気になっていた。


「うーん…冷笑系ってやつ?」

「ん?何?」

「ううん、こっちの話。でもさ、常に成績優秀…だなんて、毎日努力していないとできないことだよ。そこ、もっと誇っていいと思うんだけどなあ」

「そ、そうかな?俺としては当然の事の一つだったけど…」

「それ!それがすごいの。私はね、フォーレのそう言うところ、好きだよ!」

「えっ……」


急にどかんと心臓が爆発しそうになった。


「な、なな……っ何言うんだよ!」

「あ、ふふ。赤くなってるー」


(人の気も知らないで…本当に、シャルはっ)


勿論、そう言う意味ではないのは十分に承知しているつもり。

シャルにとっては「賛辞」で、フォーレが思うような意味とは違うの理解している。

でも、自分をきちんとフォーレストとしてみてくれていることが、どうしても飛び上がりたいくらい嬉しくなってしまう。


「あ、なんだよ、二人とも。僕を差し置いて随分楽しそうじゃないか!」

「あら、お帰り、ケディ。うちの騎士達、強いでしょ?」

「ああ!…エイデンは宮廷剣術がメインだから、ルドヴィガの実践剣術はかなり勉強になる。……だって、みんないわゆる【鷹】だろ?」


【鷹】とは…ルドヴィガが抱える、「特殊騎士」達の名称。

その名称は意外と世間に認知されているが、彼らが何をして、何を行っているのかを知る者はそういない。勿論、令嬢であるシャルはまた別ではあるが。


「それはノーコメント。……そろそろ皆の訓練の邪魔になるし、サロンで一休みしよう?…フォーレ、大丈夫?顔まだ赤いけど」

「!い、いいからっ。ちょっと、暑いだけだし……」

「そう?確か冷たいフルーツティーがあったはず、それにしようか」

「…うん」


すると、去り際ケディがじっとりとフォーレを睨んだ。


「何話してたんだよ」

「……か、関係ないだろ!」

「ふうん……まあいいけど」


ぼちぼちと去っていくケディを見ながら、フォーレは一度深呼吸をする。


(……たった一言で嬉しくなったりして、こんなに情緒が振り回されるなんて)


「俺はやっぱり……あの子に恋……しているんだな」





厳かに扉が開かれ、ゼネシアは証言台に立った。


「女性が証言台に…?」

「まさか、侯爵夫人が自ら表に立たれるとは」


ざわざわと、四方から軽い批判や非難が聞こえるが、物ともせず一度ゆっくりと全体を見回す。

カシオスを見て、ゆっくりとほほ笑み、王と王妃に、そして最後にカシオスに優雅なカーテシをする。


(話でしか聞けていないけれど……本当に大きくなったわ)


続いて会場全体に笑みを浮かべると…先ほどまで聞こえた声は封殺され、ピリピリとした会場の雰囲気が柔らかくなっていくようだった。


「証人…お名前を」

「はい。私はゼネシア=エイデンと申します。生まれたばかりのカシオス様と、私の実子二人と共にそのお世話をさせていただきました。ですが、その期間はわずか二年に満たぬほど。それでも、こうして証言をさせていただくこと…心より感謝いたします」

「ゼネシア侯爵夫人……カシオス様がエイデン侯爵家を訪れた日のことを覚えていますか?」

「…あの日は、ずっと降り続いていた雨が止み、三日ほどぶりに空が晴れた日の午後でございました。青い産着にくるまれた乳児を夫が連れてきたのです。…青の着衣が許されているのは、限られた者の特権です。私はその赤子が何者なのかを一瞬で悟りました。こちらの証言の補足は、必要とあれば我がエイデン侯爵家に長く仕えてくれている使用人、執事、多くの者達が名乗りを上げてくれることでしょう」


しん、と場が静まり、それを追及する声はなかった。


「続けなさい」

「はい。ありがとうございます…その赤子は、夜通し夫が無理をして馬を走らせたせいもあって、ひどくお腹がすいているようでした。けれども力強く、周囲のものが驚くほどの声で泣いていたので……ああ、とても強い子だ、と。思ったものです」


ちらりと、いたずらっぽい視線を向けられたカシオスは、思わず目を閉じ、苦笑してしまう。


(これはこれで…恥ずかしいというか、なんというか)


「……私はかつて、アステル様とも親交がございました。親友とも呼べる彼女が不慮の事故で亡くなってしまった。残されたその子供を見て、どうして知らぬふりをできるでしょう……私は即座に、その子を育てることを夫に申し出ました」


すると、とある貴族が手を挙げた。


「北部のレイヴェン伯爵家、ユヴァー=レイヴェンです。……アステルは我が姪。ゼネシア夫人とアステルが交流があったのは確かです。……親友の遺児を守るというその心意気は、原初的な感情であり、理解できるものと思えます。だからこそ、何故、二年という短い期間でカシオス様をお放しになられたのか、お答えいただけますか?」

「それは」


ゼネシアが答えようとするが、イルモンドがそれを制した。


「その質問には私が答えても?」

「よろしいでしょう」

「はい…それは、一年と8か月が過ぎたあたりの事です。我が邸にとある者達が侵入し……エイデン家の使用人数名の命と、先代当主となる我が父の命を奪う事件がございました」


じっと、イルモンドはアゼンダリアを見つめた。


「………」

「その事件は、すでに解決済みではありますが……カシオス殿下とその周辺の者達の暗殺が目的のようでした。双子達と共に世話をしていた妻の反対を押し切り、カシオス殿下を人目に触れぬ奥地へとお連れしたのは……あの日やって来た血のように赤い盾の紋章の者達の手から逃れることだったのです」


ざわ、とホールが揺れた。


「赤い紋章…?!」

「それは……」

「静粛に!……証言を続けなさい」


そして、一斉にアゼンダリア王妃に視線が集中する。

【赤い紋章】……模様も意匠も一切ない、ただ赤く塗りつぶされた盾。


「赤い盾が何を意味するのか…私は存じません。ただ、父はカシオス様をその者達から守ることで命を落としました。父が命を賭して守ったことが未来に繋がるように、私と妻は…その手を離さざるを得なかったのです」


読んでいただきありがとうございます!精進します!

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