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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第6章 王の帰還

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第54話 アズレアに立つ月


その日も、アズレアの港は多くの人出でにぎわっていた。

船が停泊するたびに運ばれる品物の数々、行き交う荷馬車の歯車の音、騒がしい喧噪に混じってかもめの声が聞こえている。


「お…?なんだあれ?」

「見ない国旗だ、どこの国?」


荷物を卸した手を止め、水夫が汗をぬぐう。

晴れ晴れとした空には、赤い太陽の紋章旗がはためいた。

碇が下ろされ、海と大地を繋ぐ架け橋が設置される。

と…屈強な男たちがぞろぞろと降り、細長く赤い絨毯が敷かれていく。


「あら…こちらの風は、少し錆びた匂いがするのね」


カツン、とヒールのかかとを鳴らして船から降り立ったのは…美しく長い髪をなびかせ、まるで女神のようなしなやかな身体のラインを惜しみなく強調した、黒のスリットドレスの女性。

水夫がぼうっと見とれていると、極上の微笑を向けられ、持っていた荷物を落としてしまった。


「お嬢様、足元に気を付けて」

「は…はい…でも、いいんですか?!この絨毯」

「あら、いいのよ。さ!行きましょ」

「は、はい…」


恐るおそるククナが絨毯の上に足を置くと…あまりにふかふかな低反発でちょっとだけ感動してしまった。

「ふう」

「お荷物をお持ちしましょうか?」

「大丈夫、このトランクには、大事なものが入っているの。私が運びます」


大事そうなトランクをぎゅっと握りしめると、ダイアナは突然ククナに抱き着いた。


「だ、ダイアナさま」

「うふふ、可愛い女の子は大好き!…大切な親友の為に頑張る女の子も、ね…ほら」

「ククナ―!ダイアナ叔母様!」

「あ!シャルちゃん!」

「おかえり!…今日は船酔いしなかった?」

「うん!…この船、本当にすごいの!全然揺れないのよ~」

「あ…コレ?最新式のランザの船!」


見上げると、白いかもめたちの群れを成して太陽の紋章が描かれたマストの周りを飛んでいる。


(本当に…アズレアの空に、太陽の紋章を昇らせちゃった)


カシオスがは、宣告通り着々と物事を進めている。

その事実に、少しだけシャルは身震いする。

すると、ククナが心配そうに顔を覗き込んだ。


「シャルちゃん……大丈夫?」

「大丈夫!……あの船酔いククナがこんなに元気なんだもの。私も今度乗せて貰わないと!」

「――うん!あのね、中も広くてびっくりするよ!荒波だってお茶がこぼれなかったんだから!」


楽しそうにはしゃぐ姪っ子を見て、ダイアナの表情は終始緩みっぱなしである。そしてたまらず二人を抱きしめた。


「ああ。私のかわいいア・シャール!」

「うっ叔母様、苦しい…」

「ダイアナ様、ずっとシャルちゃんに会いたがっていたの!」

「ククナからたーっくさん!あなたのことを勉強させてもらったわ。今度はあなたが私を知ってね?」

「……勿論です。あの、ところでア・シャールって…?」

「ああ!ア・シャール…つまり可愛いシャルちゃんって意味なの。……ランザ独自の言い回し。よ」

「へえ…あ、すみません、ご挨拶が」


むぎゅ、と弾力のある山から抜け出すと、シャルはカーテシでダイアナを見る。


「ダイアナ叔母様。ようこそ、アズレア王国へいらっしゃいました」

「ふふ、そうね。……やっと来れた、って感じかしら」

「…父から丁重におもてなしするよう、仰せつかっております。ご一行ともども我がルドヴィガ邸にてお迎えいたします」

「……ありがとう」


(あ、視線が痛い…)


遠巻きに見る野次馬が多くな来たのを見て、ダイアナは従者のノックスに向かってパチン、と指を鳴らした。


「お願い」

「かしこまりました」


軽く一礼をし、待ってましたと言わんばかりにさっと手を挙げると、赤い絨毯はササッと片づけられた。


「でもその前に、リア―ネに会いたいわ」

「……きっと母も喜ぶことでしょう」


すると、ルミノ商会の紋章が刻まれた荷馬車がずらずらと列を連なりこちらに向かってきた。


「あ……お父様がきました」


先頭の馬車が停まると、リムノ夫妻が馬車から降り立った。


「お久しぶりです、シャル様」

「あ、ミナルさん!お久しぶりです。ルミノ会長も、今日は来られなかった父に代わり、ご挨拶申し上げます」

「とんでもございません。伯爵様に頼まれた物を預かっております、後ほど…妻と共にお届けに上がります」

「はい、お待ちしてます」


今回、デビュタントを迎えるにあたり、ドレスはミナルとククナに、アクセサリはマダム=ルーランを通してリムノ商会にオーダーした。


「ミナルさん、お願いしたものはできました?」

「はい!…必要なものは、全て最後の微調整をした後…伯爵家にお届けいたしますわ」

「……楽しみです!」

「私はこの足でシャルちゃんに直接渡します」


ククナは持ってたトランクを見せ、誇らしげに笑った。


「うん!うちの馬車に乗ってって!……ダイアナ叔母様には別に馬車を用意させております。そちらをお使いください」

「そうさせていただくわね」

「あの!母は……海が見える丘に眠っています。何時でも心が故郷に帰れるように、と」

「……それは、レイドックが?」

「はい。……父は、今でも母を想っています」

「そう……なら今度、恨み言とお礼を同時に言わないとならないわね」

「……はい」


ひゅう、と悲し気に一筋の風が通り抜ける。…それ以上、ダイアナは何も言わなかった。



―――同時刻・アズレア王宮 謁見の間


 玉座に座ったまま、ぼうっと宙を見ている王・ロイド=セルリアの隣で、アゼンダリアは顔をしかめた。


「…ランザの船?」

「はい。停泊許可書も、既に半年以上前に成立しており…不備はございません。ですが」

「なら、問題は」

「……その、我々が知る既存の船とは、全くの別物でして…」


報告をする官吏に動揺が見える。


「……?それはど」

「父上」


凛、とした声が響くと、何かから目覚めたように王の目が見開いた。


「キアルーン地方からやって来た船…すごいですよ!こちらにある情報とは比べ物にならぬほどの洗練された技術が駆使されていて」

「ラデュオン……ほう、お前がそこまで言うほどのものなのか?」

「はい、父上。その技術……ぜひ両国で共有し合うことこそ、未来に更なる発展を創造できるでしょう」


(――ラデュオン=セルリア。また)


アズレア王国で第一位の継承権を持つ、時期国王筆頭の嫡子。

王の信頼も厚く、既に病死した正妃の血統であることも、アゼンダリアは気に入らなかった。


「まるで見えない何かが、作為的にランザの技術力を改ざんしていたのかと疑うほど、こちらが知る彼の王国の記録は古いもののようです」

「…王室の情報が更新されていないのは、王宮を管理しているはずの、ラデュオン殿下の監督不行き届きでございましょう」

「アゼンダリア様のおっしゃる通りでございます。……ですので、大至急我がアズレアにある、ランザ王国に関する情報を取り急ぎ更新することも踏まえ、交流会の式典の開催を提案させていただきたく」

「それは成りません」

「…!」


ぴしゃり、とまるで空を裂くような冷たい声。

一瞬でその場の空気が冷え込んでいくのを、誰もが察した。


「……はて。理由を窺っても?」

「国交もない国と同交流すると?…ましてや、造船技術の共有など……第一王子たるあなたが国を売ることと同じ意味にとれる、危険な発言では?」

「随分と、過激なことを仰る。ご存じでしょう、我が国の持つ技術力では、地域的な理由も含め他国との間に隔たりがある。年中穏やかな海域に住む我々は荒波にも耐えうる造船の知識は至らぬところも多く、輸入に対し、輸出の比率が偏っているのは、長年の課題と言われております」


アズレアの海域はどこも穏やかで、滅多に荒れない。多くの船が停泊できる大きな港を所有している為、他国から来る船の方が圧倒的に多い。

―――こちらから長い航海に旅立たなくとも、情報を載せた大きな船が日々到着しているのだ。


「アズレア自体の市場は長い目で見て、縮小傾向にあると言われています。今こそ他国の技術を取りいれ、更なる発展を市場に促す……私は第一王子の立場であるからこそ、あえて進言いたします」


曇りなき真っ直ぐな瞳に、アゼンダリアは唇をかむ。


(ラデュオンは……清々しいほど、正論をぶつけてくる。忌々しい)


「新しい風が留めなく国に流れると、国政は荒れる―――安定こそ、大国の証明となろう」

「ですが」

「よかろう」


あまりにもあっさりと、ロイド王は認めた。


「ありがとうございます、父上!では、早速準備に取り掛かります」

「……!!」

「何…やらせてみても良いだろう。私はそろそろこの座を降りたい。……ラデュオン、期待以上の結果を待っている」

「はい!それでは失礼いたします」


(よし……噂では、降り立った船には要人が乗船していたとの情報もあった。早速ルミノ商会に―――)


「兄上」

「!…イリシユ」


―――弟である、イリシユと対峙するとラデュオンは、自然と警戒する。

やや着崩れてはいるものの、その表情は以前に見た時よりも明確であり、夢を見ている様子はない。


(夜会で聞く限り…イリシユは、本当に正常な精神を取り戻したようだが)


「ちょっと、面白い噂を聞いたんです」

「噂…?」

「はい。……どうやら、正当な王の継承者を名乗る者が、現れたとか…」

「…?どういうことだ」

「ええ。ですから…いたんですよ、髪が青く、瞳が銀色の……死んだはずの、もう一人の王子が」


そう言って…イリシユはにやりと笑った。



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