第53話 双子の心の内③
「ゴメンな、急にきて」
「ううん、別にいいよ。今日は特に予定も入れてなかったし」
ここは、うちの邸にある応接室。
今、お父様は不在。
カシオスがこっちに帰るのは久しぶりみたいだし、色々と回るところもあるんだろう。
なので、今日は私がこのルドヴィガの代表、となるわけだ。
「今日は良くお越しくださいました、エイデン公子様……なんて、ね!」
「あ…っええと、おじゃまします」
それにしても。改めて見て、ケディは本当に大きくなった。
もう見上げないと顔はしっかり見えないし、足も伸びた?
うーん…やっぱり毎日鍛えているからかしら。ジャケットの上から見ても、体幹はきっちりして姿勢はもちろん、腕の筋肉だって……
「あのお、…シャル?」
「ん?なあに」
「僕の腕になんかついてる?」
「筋肉がたくさんついてる」
「……だからってその、くすぐったいって」
あ、ついべたべた触ってしまった。
いや、でも固い。なにこれ岩みたい…あ。しまった。
「ちょ、もう、シャル~…」
うわあ、ケディの顔、真っ赤だ。
こっちが貰いテレしてしまいそうだ。
「ごご、ごめん!無礼だったわ…」
「あ。い、いいや…えっと、あはは」
あれ?なんか変な感じ。
そう言えば今って二人きりだし、変に意識しちゃった。
「あの…」
「お嬢様~…?」
「!!」
「あ…」
互いに一瞬で距離を取る。
「お、おお菓子をを お持ち、しました…っすみません」
「ちょ?!エイル、謝る意味わからないから!!」
「し、失礼しました!」
「あ!」
さすが、うちのメイドともなると、どれだけ慌てても優雅に扉を閉めるよう訓練されているのね…。
「あの、大丈夫…?」
「全く……はあ、まあいいか。あ!そうだ…短剣、ありがとう」
「え?あ……うん!あれ、実は世話になってる鍛冶師の爺さんが拵えてくれたんだ。ドレスの下でももてる護身用にって」
「うん!持ってみても軽くて使いやすそうって思ったわ!……」
うーん…やっぱり、こういう武器の話とか、身体の鍛え方とかはケディにしかできないわ…。
私たちはしばらく、他愛もない話をしていた。
それこそ、用意したお菓子を半分以上食べてしまうくらい。
そして…ケディの表情はだんだん落ち込んでいき…重い口を開いた。
「ごめん…楽しくて、つい忘れちゃいそうだったけどさ」
「……フォーレと、何かあったの?」
「……シャルはもう、わかってると思うけど。18になって、成人を迎えたら……僕と、フォーレと。どちらかが、爵位を継ぐ継承儀式を受けないとならない」
「うん……」
「シャルは……進んで挑戦してるから、本当にすごいと思う。カシオス殿下だって……比べるのもそりゃおこがましいのはわかってるさ」
「でも、あの人は―――覚悟が違う。きっと、揺るがないから」
(比べる必要なんてないのに、って……言ってあげたいけど)
それは…何か、違う気がする。
「フォーレって……すごい奴なんだ」
「うん」
「努力して、身に着けて…ちゃんと実践して、ずっと挑んでる。家の事も、後継教育も、勉強だって。デビュタントを終わってからは積極的に外交しているし、ちゃんと僕の知らないところで、他との関係を構築してる。僕みたいに……逃げないで」
「……ケディは、逃げてたの?」
私の言葉に、小さく頷いた。
「わかんない。……だって、僕が前に出たら、あいつは後ろに下がる。そんなの、勿体ないじゃないか!あいつが死ぬほど努力してる姿、僕はずっと知ってる…それが、たかが生まれた順番で覆されるなんて!!そんなの、絶対に嫌だ!だから…避けてきていた、色んな事」
「ケディ…」
「でも、それは……あいつにとっては違ってて、何か…互いに段々ずれて…おかしくなってって。僕自身…よくわからなくなってきて…っ」
「ケディ」
「嫡子だから、兄だからって…!周りは勝手に僕を持ち上げる!!!…嫌だった。だから、全部あいつに押し付けて!僕がいなければ、そしたらみんなフォーレを…」
「ケディック・エイデン!!」
びく、とケディは言葉を止めた。
「…ティーカップが空だよ」
「………シャル」
とくとくと空のカップに紅茶が注がれていく。
そこに、砂糖を2つ、落とした。
「ケディは甘いのが好きだよね。フォーレは苦手だけど。あ、ミルクは?」
「……いる」
「じゃあ、はい」
クッキーを二枚ほどソーサーに置いて、ケディに差し出した。
「甘いモノ食べると、元気になるよ」
「………」
しばらくじっとミルクティーを見つめた後、ぐっと飲んだ。
「…美味しい…」
「ケディ、いっつも砂糖入れてるのに、今日入れてなかったでしょ。…もしかして、かっこつけてた?」
「べ、別に」
「いいじゃない、別に。甘い物好きでも」
「嫌いじゃない、けど」
あ、それはちょっと不服そう。
でも、強張っていた表情が少しずつ落ち着いてくのがわかる。
(やっぱり好きなんじゃない、甘い物)
「……ねえ、ケディ。初めて会ったとき、女装してたじゃない」
「!!そ、それは……く、黒歴史だ!」
「あれは…確か、片方が女だったらみんなどう見るかってことを気にしてたよね」
「……男同士だと、色々あるんだよ」
「うん……きっと、ケディって自分より他人の気持ちとか、自分以外の物を大事にし過ぎちゃうのかなって。…今の話を聞いて、思った」
「え…?」
ケディが落ち着くのを見て、私はベルを鳴らし。追加の紅茶と、追加のケーキをお願いした。
ほどなくして、クリームがたくさんのった甘いケーキが運ばれてくる。
「……」
「一緒に食べよ?私も甘いの好き!」
「……シャル」
「これでもし、私が甘いの嫌いって言ったら…食べないでしょ」
「そ、そんなことは……い、いや。でも、そうかも」
「うーん!甘くておいしい!…ほら、ケディも」
「うん……」
ぱく、と一口が大きい。
でも、すぐに顔がほころんだ。
「うまい…あ、美味しい」
その後はパクパクと結構な勢いで平らげていく。
「落ち着いた?」
「……うん、ごめん、色々…押しつけちゃって」
「ほら、また。たまにはいいじゃないって思う。私は……二人の事だし、何も言えないけど」
うーん、これは…この話は私が元々いた世界の時の話だから。
どうしようか迷いはしたけれど。
「私って、すごく他人の顔色とか窺って。組織…あー じゃない、大きなものに従わないといけないって勝手に思い込んでいた時があったんだ。…今思えば、そうしないと良くないことが起きるって思ってたみたいで」
「シャルがっ?」
驚いたような声に、力強く頷く。
ああ、社畜時代の私よ、こんにちは…久しぶりね。
「ホントは、嫌なものは嫌だって、辛い時は辛いって言ってよかったのに。でも口に出したら、不幸になりそうな。そんな風に感じてて…ケディもそうだったのかなって」
「僕は……あ、そうか…フォーレにちゃんと、言葉にして伝えたこと、なかった、かも……」
「意外と口に出したら…みんな助けてくれたり、教えてくれたりするのにね」
「……」
(何で後ろに下がるんだよ、とか……聞いたこと、あったか?)
「できるならやればいいのに、とか…だって、あいつ…僕の倍研究してるんだ。うまくいかないわけないじゃないかって。…そう思ってばかりだった」
―――だから、自ら後ろに引いた。それは信頼から来るもので、でも、それは僕の勝手な言い分だ。
「押し付けられたって思うの、無理ないよな…だって、言ったことないもん、僕…」
「言葉にして、ぶつかって、フォーレはきっと本当は、一緒に共有したいんじゃないかな。辛いことも、……決断も」
「共有……」
じっと、ケディは私を見る。
でも、すっと視線を外した。
「でも、譲れない物だって、あるよ」
「なら…ケンカして、これは譲らない!って言いあえばいいじゃない!」
「ケンカ…って、物理的に戦ったら、僕の方が勝つに決まってる。でも…べ、勉強はあいつの方ができるな。あいつが得意な物、僕、苦手なんだよ」
「それじゃ、二人でフェアな項目で、正々堂々戦えば?」
「正々堂々……なんか、それ。シャルらしいなあ」
「だって、双子って言ったってそれぞれ別の人間でしょ?全部同じわけないじゃない」
「なんだよ、厳しいなー……」
あ、やっとケディが笑った。
「……シャル、ありがと」
「うん」
「元気出た!あ…これ、お礼って程じゃないけど」
そう言って、ジャケットのポケットから出してくれたのは…綺麗な布にくるまれた物を渡してくれた。
「…?これは何?」
「開けてみて」
そっと開くと…カメリアの花が彫刻された、朱色の櫛だった。
「わあ…!これ。キアルーンのだよね?綺麗な細工…!」
「あ、ちょっといい?」
「ん?」
私の手からそっと櫛を取ると…私の髪にそっと差した。
「?!」
「あ、動かないでよ。すぐ終わるから」
(う…息が、声が)
「ん……よし!絶対似合うって思ってた」
「お、終わった?」
「うん。…それ、もらって?…そろそろ、僕、帰るよ」
あー吃驚した。
心臓がバクバク言ってる…。
そんなことは全く気にもしてないように、ケディは最後のクッキーを口に放り投げた。
「うん、うまい。…また来てもいい?」
「…いいよ。でも、今度はフォーレも連れてきてよ?二人とも抱え込み過ぎ、禁止!一人ひとり来られたら、私も大変!」
「ごめん、わかったよ。でも……取り合えず、家に帰ってあいつに言わないと」
「…何を?」
すると、ケディはしっかり笑顔で答えた。
「もう、逃げないって。残り一年…あいつと一緒に外交活動に精を出すとする」
「!うん…」
「それから…二人で話して決めるよ。先のことは。だって、今のままじゃフェアじゃないもんな!」
―――その夜。
ドンドンドン!
「おいフォーレ!起きてるか?」
「!?な、なんだよ兄さん?!今何時だと…」
しょうがなく開いた扉にいたのは…なんだかすっきりとした表情のケディだった。
「な…」
「僕も次のパーティとか、一緒に出るよ。そのほかも…全部やる。」
「…え」
「だって、僕が苦手なことはフォーレが得意だし、フォーレが苦手なのは僕の方がうまい。なら、二人そろえば最強じゃないか!」
「……ケディ……」
「先の事も…二人で決めよう。僕とフォーレ、どっちがどうとか…そんなのは一緒に考えて決めればいい」
「なんだよ…今更かよ」
「そうだよ、でも、やるって決めた」
すっと差し出された手を握ると、危うくフォーレは泣きそうになり、顔をしかめた。
「……バカなやつ」
「お前もな!」
その晩、二人は久しぶりに色々な話をした。
……それこそ、執事に叱られるくらい。
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