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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第5章 主人公(仮)VSヒロインにさせられそうな主人公

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第51話 身の毛もよだつ、恐ろしい日記


「お嬢様!おかえりなさいませ!」

「ただいま。…あ!ルル!」

「おかえりなさいませ、お嬢様。……彼の国はどうでした?」


いつも通りの優しい笑顔にほっとする。


「とても面白かったわ!色々なものを見れたし……すごく良い経験ができたわ」

「あら、まあ。…素敵な時間をお過ごしになれたみたいですね」

「留守中、変わりはない?」

「はい、ございません!…湯あみの準備もできていますよ」

「うん、ありがとう。あ、エイルはもう今日は休んでいいよ!…二週間、ありがとね」

「いいえお嬢様!…私も楽しかったです」


二カっと笑うエイルの笑顔も、なんだか癒される。


(うん。…帰って来たね)


改めてそう、実感した。

――その日はのんびりして、久しぶりのお気に入りのバスアロマで、暖かいお湯にゆっくり浸かった。

ほんのひと月離れただけなのに、なんだかずっと留守にしていたような不思議な感覚。

見慣れたはずの家具も、何か違うものに見えて…なんだか心が浮き立つような、ふわふわした気分だ。


「……さて」


お気に入りのチェック柄の旅行鞄の鍵を開けて、例の日記を手に取った。


(あの不可思議な文章が浮かび上がってから、だいぶ間が空いている…)


実を言うと、中を見るのが少し怖くて…ずっと避けてきたわけだけど。


「やっぱ、読んだ方がいいよね」


なんだか、他人の日記を見るようで気が引けるけど。

思い切ってページを開いてみて…ああ、やっぱり、と。思わず顔をしかめてしまう。


『今日は目が大きな赤い瞳が可愛らしい女性と出逢った。…だが、これは運命じゃない』

(…うわあ,しょっぱなからこれ。しかも)


『キープにするのは…全然アリ』


「……っ」


本ごと燃やしてやろうかしら。…ああ、ダメダメ。

次のページも、その次も、

やれあの子がかわいいだの、なんだの……気持ち悪い文章がつらつらとつづられていく


(何、こいつ、女性の敵…)


『この世界はイイ女性が多い。顔面偏差値は高いし、じっと見つめるだけでころころ簡単に落ちていく。でも、俺の運命はまだ来ない』


「待って。誰かを…探してるの?」


―――どうやらこの書き手は社交界デビューをしているらしい。

ただ、些細な夜会をはしごしては、女の子を口説いている。

そしてその度繰り返される「運命じゃない」の言葉。


『今日、ついに例の黒髪を発見!多分あの子』


「あの子…?この場合は、ヒロイン……で黒髪って」


まさか私?

いやいや、待って。


『でも、難易度高め。一回目は失敗、でも次は失敗しない。障害は多い方が燃えるに決まってる』


嘘でしょ…障害は多い方がって。


「寒気してきた…なにこれ、今日いたの…?!こいつ、私の周りにっ?!……キモッ!!」



(嘘!き、気持ち悪ぅうう!!…何これっなにこれーーーーっ)


ダメだ、忘れよう!

対策は明日考えよう…。そのままバタン、と本を閉じ、ベッドに横になる。

そして…気が付いた時にはもう、眠ってしまったのだった。


**


「…くそ!くそくそくそ!!!ああ、腹の立つ!!」


俺はこの物語の主人公だろ?どうして、こんな目に。

そんな思いがぐるぐる頭をめぐる。


(全く、手が出なかった。……本当に、気が付いた時には)


ドスン、と言う間抜けな尻餅に、静まり返った空気。

そして、銀色の刃みたいな冷たい瞳が自分を見下ろした瞬間…心底、恐怖を感じた。殺される、とも。


(せっかくガチャの『Sレアチケスキル・魅了』も手に入れたのに…!なんで男にきかないんだよ!!)


「それにあいつ……」

「……イリシユ」

「!!…は、母上」


扉の向こうから聞こえた、冷たい声。

――王妃・アゼンダリアだ。


ガチャリ、扉が開いた瞬間、アゼンダリアは持っていた扇子で口元を隠し、わかりやすく顔をしかめた。


「…整理なさい」


散らばった羽毛をメイド達が血相を変えて拾っていく。


(?随分機嫌が悪そうな)


「何か、ごよ」

「―――今日」


どきりとした。

その声はまるで感情がなく、底冷えする何かを感じたから。


「下賤なカフェテリアで、若い男と問題があったと聞きました」

「は、はい」

「誰と、何を話して、何をされたの?」

「え…あ」


まさか自分がちょっと小突かれてそのまま尻餅をついたなど、言えるわけもない。

どう答えようかもごもごするが、アゼンダリアは更に詰めてきた。


「その男の年齢は?背は?髪の色は…目の色は?!」

「え えっと」


バキ!と扇子が割れ、残骸が床に散らばっていく。


「……その男の、名は」

「あ…名前…は、わかりません。でも、あ、青い髪でナイフみたいな目で、俺を……」


あちらが抜き身の刃なら、こちらは燃え盛る炎。

赤い瞳はめらめらと燃え、ぶるぶると顔が歪んでいく。


「青い髪ですって…?!なぜ!!!」

「……え?」

「!」


突如叫び出すと、床に落ちた扇子をがりがりと踏み壊す。

周りにいたメイド達は勿論、付き従っていた従者さえ、びくりと肩をすくめて慄いた。


「あの…は、母上……?」

「…すぐ」

「え?」

「今すぐその男を見つけなさい。どんな手を、使っても」


吐き捨てるように口に出すと、そのままくるりと踵を返し、去っていく。


「なんだってんだ…??」


やがて、イリシユは再び床に座り込んだ。


(あの子供が生きている)


長い大理石の廊下を歩きながら、アゼンダリアは鳴り響く自身の靴の音を聞いていた。


(失敗した?…いいえ、まさか。)


17年前。

あの馬車は…炎に包まれ、黒い煤と化した―――そのはずだった。


(でも…そうだ、誰も遺体を見ていない…確認に行かせた時も、焼け焦げた煤の塊を確認したと、報告を受けている。その燃え盛りようはまるで油でもまかれたかのように、黒焦げで)


チクリ、と何かの違和感を感じた。


(油でもまかれたように……?)


「大叔母様」

「!……セフィール」

「顔色が優れませんね、どうかされましたか?」


セフィールは美しい。

だが…アぜンダリアは、この美しい人形のような顔をした甥が好きではなかった。


「……いいえ、最近眠りが浅く。最近王の御容態が芳しくなくて」

「そうですか…それは大変だ。あとでヴァラモ家のお茶でも差し入れましょうか」


(…気づかわしげな様子。…それすら、今は癪に障る)


「……結構よ。それより…お前はイリシユと行動を共にしている。昼間何があったの?…報告なさい」

「……何も」

「何も?」

「ええ。青い髪と銀の瞳を持つ若い男に、イリシユ様が圧倒された。それだけの話です」

「青い、髪…だと?名は?!」

「ええと、そうですねえ…名は名乗りませんでしたが。おや、顔色がさらに悪くなったようですが…」


一瞬、王妃の表情がぴたりと色を失った。


「……もう休む」

「それはそれは、お大事に」


すっと退き道を開けると、足音が過ぎ去るまでセフィールは下を向いていた。


「…ふ、笑えるな」


完全に足音が消え去ったころ、静寂がその場を支配したのち、顔をあげる。


「まるで、亡霊でも見たような表情じゃないか」


大叔母上は何かを隠してる。

―――そう、確信した。




「こちらの風は生ぬるいね」


ガタガタと馬車に揺られてやや4時間。

ようやくたどり着いた場所は、郊外にある広々とした邸宅だった。

白い大門の向こうに広がるのは、緑の芝に、横長に広がるシンメトリーの邸。だが、きちんと手入れされた植木とは対照的に、邸自体は装飾が少なく、質素にすら見えた。

アーチ形の内門を超え、エントランスに到着した。


「…よく、戻ったわ」

「お久しぶりです。…エリザベラ叔母上」

「ああ……!何てこと!クロムによく似てる…!!大きくなったわねえ……」

「すみません、手紙のやり取りしかできなくて」

「いいのよ!…こうして無事に顔を見せてきてくれたんだもの」


――――エリザベラ=クオンタ。

現状、唯一のセルリア王家の正当な血を引く者で、エストランテ学院の理事も務めている。

先王クロムを兄に持ち、カシオスにとっては叔母に当たる。

王国一の名門・クオンタ公爵夫人でもある彼女の持つ権限は、ヴァラモも、王家さえしのぐと言われている。


「ルドヴィガ伯爵も…お久しぶりね。例の学園の一件以来かしら?」

「その節は、夫人の持つ力をお貸しいただき、ありがとうございました」

「ふふ、いいのよ。……無駄に力の刃があると、時々どこかに降り降ろしたくなる時もあるの。さあいらっしゃい、夫もあなた達に会うのを楽しみにしているわ」

「ありがとうございます」


(アズレアで最も権威ある一族の一つ、クオンタ公爵家)


アズレアには四つの公爵家がある。

ヴァラモ、エルメア、ヴィンガー……そして、唯一ヴァラモと距離を置くクオンタ。

王家の騎士団を従える彼らは、王国の変事には必ず介入する。


「ようこそ、私はディーク=クオンタ。我々は貴殿を心から歓迎します」

「ありがとうございます…カシオス=セレストです」

「ふふ…あなたは誰かに膝をつく立場ではあるまい。顔をあげて下さい」

「いいえ、現状ただの【自称】セレストの人間に過ぎませんから」

「はは!我々は国に従い、王家に従うアズレアの剣です。…今は亡き義兄上の生き映しのその御姿…、それに勝る証拠はございません」


あまりにあっさりと容認され、カシオスは虚を突かれた。


(豪快というか、懐が深いというか…逆に怖いな)


「まずは長旅でお疲れでしょう。ここはセルリア王家もヴァラモ公爵家の影響を一切受けぬ場所。心行くまでお過ごしになられると良いでしょう。…時が来るまで」

「心遣い、嬉しく思います」


(時が来るまで…か)


「そうだわ、ルドヴィガ伯爵。私、あなたの可愛らしい令嬢とは仲良くさせていただいてるの!」

「!」

「シャル…リッハシャルと?」


そんなことは初耳だ。

カシオスが前のめりになる。


「私に娘がいたらこんな感じかしらって。ふふ…今年デビューでしょう?シャペロンはお決まり?」

「え?」


思いがけない言葉に、レイドックは固まった。



お読みいただきありがとうございました。ブックマーク、評価、感想誠にありがとうございます。精進します!

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