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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第5章 主人公(仮)VSヒロインにさせられそうな主人公

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第44話 新たな時代の扉


ゆらゆらと燭台の灯りが風に揺れる。

少し冷めたしまったお茶をゆっくりと飲むと、お父様はふ、と息を吐いた。


「…と、まあ、これが私とリア―ネの思い出…だな」


お父様はそう言って一仕事終えたような表情になり、その後少し照れ臭そうに笑って見せた。

それがなんだか新鮮で、こちらまで貰い照れしてしまいそう。


「うわあ…素敵な話。物語のはなしみたい!…いいなあ」


(やっぱり。思った通り、情熱的な一面が見れたわ)


すると、お父様は一瞬何かを考えるそぶりを見せ、意を決したようにこちらを向いた。


「シャル。…カシオスは、私にとってお前と同じ位大事な存在だと思っている。返しきれないほどの恩をいただいた亡き友人の忘れ形見だから」

「…わかっています、お父様」


ずっとお父様が何の仕事しているのかわからなくて、いろいろ想像していたけど、まさかこんな理由があったなんて夢にも思わなかった。


「まさか、お父様とお母さまのお話しに王様が一役買ってる、なんて…本当に仲が良かったんですね」

「…元もと、クロム…セレスト王家とルドヴィガは主従の関係にある。今の王の治世は【セルリア】だから、今代の王家とは疎遠になってしまっているがな」


実際、お父様が「ルドヴィガ伯爵」として招待状が送られてきてはいたけど…王家が催すパーティーとかに参加することはめったになかった。

私を連れてのパーティー参加もあまりしておらず、いいのか悪いのか別として社交界とかいう世界はなじみが薄い。もうそろそろデビュタントも始まる頃だし、切っても切れない世界ではあるけど。


「それで、だ…カシオスの事だが」

「あ…はい」

「あいつはこう…なんというか、特殊な環境で育ったこともあり、あ―…何と言ったらいいものか」


あらら、なんだか考え込んでしまったわ。


「別に、私だって…あの方が嫌い、とか…そう言うわけじゃありません。ただ…色々吃驚しちゃって」

「それは、そうだろうな……」

「…仲良くしてくれると……いや、あまり仲良過ぎてもな…」

「お父様のお話しを聞いた後です。全部ではないけど理解はしているつもりです…その。まだ消化しきれてないというか」


そう、急に色々とおきすぎてしまっただけ。

まるで、何かに仕組まれているようなそんな気がしてしまうのは多分、神様ガチャとかそう言う目に見えない力に振り回されているところもあるから…どこか、慎重になる。


(【物語】、【オーディエンス】……さっきの【日記】、ガチャの権利のはく奪だって)

これは喜ぶべきなのか、それすらもうわからない。


「―――シャル?」

「!あ、すみません…つい、考え事を」


ハラハラと頭に浮かんだ思考は取捨て、ぐっとお茶を飲みなおした。


「明日、お前を連れていきたいところがある」

「私を…?それはどこでしょう?」

「ああ。…このランザ王国で、一番老舗で、一番美しい染め物をする染職人の工房だ」

「染職人…??」


ランザ王国で【工房地区】と呼ばれているところは、街の北側にある。

そこは南側の海沿いとはまた違い、どちらかというと木々や草花に囲まれた場所でまるで正反対の景色が広がっている。

山から流れる小さな川が枝分かれのように流れ、段々になっている崖には各工房の印が施された竿が並び、染め上げられた布がパタパタと風になびく。

それぞれの工房の特色なのか、驚くべきはその色の種類。

完成されたグラデーションの綺麗な物から、まだ染まり切っていない草花の色をそのまま映したような物まで、見るだけでも全然飽きない。

広がる鼻孔には、少し甘い独特の匂いと、新品のインクの蓋を開いた時の、あの香りを感じた。


「ここは雨が少ないから、色にムラができず美しい反物ができるんだ」

「あ…だから、光によって色が変わったり、なんていうか…色に表情?みたいなものがありますよね」


白でも時折黄色に見えたり、くすんで見えたり…とても不思議。

すると、どこか遠くから「おーい」と誰かが呼ぶ声が聞こえた。辺りを見回すと…一番高い櫓の上から手を振る人影を見つけた。


「伯爵さまーー!おはよーございまーす!」


恰幅のいいおじさんが、櫓から飛び降りるんじゃないかってくらい身を乗り出している。


「だ、大丈夫なの??あのおじさま…」

「まあ、いつものことだ。ロズハン!娘が心配してる。こちらに来い!」

「娘さん?!なんと!」


ばたばたと櫓から降りた後、私の前に現れた姿は…まるで熊みたいに大きかったのだ。


(お、おっきい…あれ?そう言えば…白髪だけど、元は何色だったんだろう?)


「うんん?豆粒のように小さいお嬢様だな?」

「!」


そう言って前歯の抜けた歯でにやりと笑い、私の頭に大きな手をポン、と置いた。

ガシガシ撫でられると思ったので、少し拍子抜けてしまった。


「初めまして!私はここら一帯を取り仕切るロズハン=ローアンと申します!…お嬢様は、こちらに来るのははじめてだね?」

「は、はい…ええと、ローアンさん?は…どちらの方…?」

「わしはね、お嬢様と同じアズレアの…ルドヴィガの領地の冴えない染職人でございました」

「?!あ…でも、今は」


すると、ローアンは得意げに胸を大きく張ると、後ろに広がる崖を指さした。


「あの辺り一帯、ぜーんぶうちの工房なんですよ!」

「そ、そうなの?!でも、工房の印はどれも違いますよね…?」

「おお!よく見てらっしゃる!崖の一帯はこの工房地区でも共同で使用している場所なんです。あそこは風どおりが一番いい!わしの工房はあの崖の一番下のとこ…ほら、屋根が見えるでしょ」


言われた通り、指さした方向を見ると…確かに崖の下に木の板でできた屋根と、もうもうと大きな煙が立つ大きな窯が置いてあるのが見えた。


「おっきな窯…」

「あそこで草木を煮立てて、染の色を作ってるんです。今は丁度ぼっちゃんの勝負服の反物を作ってる最中なんで、職人たちもみな張り切ってますよ」

「坊ちゃん…って、まさか」

「!君も来たんだ」


そう言って大きなへらで窯をぐるぐる回していた男の人がこちらを向く。

数人の職人にへらを託して、一目散でこちらにかけてくる白いエプロンの人は、まさか。


「やはりこちらへおいででしたか、殿下」

「ああ」


そう言って口元とど頭に巻いていた布をするりと解くと、綺麗な青い髪が風になびいた。


「?!!嘘っ…王子様が、職人なの?!…じゃなくて!な、なんですか?!」

「あはは、ただの手伝いだよ。自分が身に着ける予定の物が、どんな工程で作られているのか興味があってね。無理を言ってロズハンにお願いした」

「お、お手伝い…???」

「面白いよ。一見するとただの茶色なのに、水で洗うと綺麗な青に変化する…しかも温度や湿度、風向きなんかで絶妙な違いが出るなんて」

「あ…そ、それはまあ、面白そうではありますけど…」

「どうだろう?見直した?」

「え?!…べ、別に嫌ってるわけでは」


すると、わざとらしく、お父様は咳払いをした。


「んンっ!……まずは着換えてこられては?」

「……別にマントで隠せば」


すると、お父様が私が一度も見たことのないような鋭い目つきで、カシオス様を睨んだ。


「はいはい、わかったよ…待ってて、シャル」

「あ…」


い、いや、別に私が待つ理由はないような?!


「今日は、殿下にもご同行してもらう予定だ…一応言っておくが、これは私の仕事であり、シャルはその助手という立場だぞ」

「お、お仕事!はい、わかりました」


すると、傍らからガハハと豪快な笑い声が聞こえた。


「お嬢様。殿下が着替えている間、このおいぼれの話を聞いては下さいませんか?」

「ローアンさんのお話し…?」

「伯爵さま、お茶をお持ちしましたわ」


ふわりと、甘い香りが周囲を漂う。

振り返ると、そこにはランザ王国らしい黒茶色の髪の妙齢の女性がお茶セットを持って立っていた。白いエプロンには【ロズハン工房】の文字が見えるので、職人さんかな?なんて思ったのだけど


「がはは!わしの妻です!」

「え?!!」

「うふふ、美味しい茶菓子とお茶はいかが?ルドヴィガのお姫様」


き、今日は驚くことばっかりだ。

それよりも…アズレアでは、ランザ王国の人とアズレアの人との結婚なんて想像できないけれど、こちらでは普通なのかな?

あれこれ考えている内に、いつの間にか木のテーブルと椅子が用意され、私は促されるままに椅子に座った。


「甘い香り…なんていうお茶ですか?」

「これは、蘭茶よ。この辺に咲く花は色は慎ましいけれど、干して乾かすと草らしいえぐみがなくなって甘みが増すの。ほら、花びらも浮かべてみて…綺麗でしょう」


小さな茶碗の上に小さな白い花びらが浮いてくるくる回っている。


「わあ…味も美味しい!」

「良ければ、少し茶葉をもっていかれます?」

「はい、戴きたいです」

「さて、お嬢様。…この辺の工房はアズレアからの移民が多いんだが、もう少し川を下ったところになると、新しい工房が増えてきます。うちは大分老舗でしてね」


大分老舗、ということは…もしかして、お父様が言っていた【一番老舗で腕利きの染職人】て、この、ローアン工房?


「あ…もしかして、お父様が一番最初にこのランザに一緒に来た職人さんて」

「そうそう。あの頃はどっかのお偉い家が染職人を金で買う、って言いだしまして。わしらの腕は金でかえるもんじゃねえ!って…啖呵切ったもんで、追い出されてしまったんですよ」

「!」

「そういう連中は結構この辺にいましてね。わしのように現地で家族を持つ連中も多い。…だから、みんなルドヴィガ伯爵さまと先代の王様、それに坊ちゃんに感謝しているんですよ」


あ、そうか。と腑に落ちた。私もその頃の経緯はアズレアにある記録でしか見ていないけど、全員がヴァラモの提案に乗るわけないもの。


(みんな…ここにきて、お父様と新しい時代を…技術の基礎を築き上げたんだ)


そう思うと、なんだか急に背中がシャンとなるような、そんな気分になった。



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