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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第5章 主人公(仮)VSヒロインにさせられそうな主人公

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第39話 父として、友として


彼の名前は【カシオス=レヴィ=セレスト】。

夜の星のように煌めく銀色の瞳に、空を映したような澄んだ青い髪…その特異的な容姿で彼が何者なのか、アズレアに住む人間ならば一目でわかるであろう。

今はもう亡きわが友・クロムの子であり、同時に我が主君だった男の遺児でもあるカシオスは、この世界で最も過酷な運命の元に生まれた子供と言えるかも知れない。

「俺がいなくなったら…お前達に託すよ、レイドック、イルモンド」

まるで口癖のように言っていた彼の父・クロム=セレストは、闘病の末我が子を胸に抱くことなくこの世を去った。同じく、母親もまたクロムの元にカシオスを連れていこうとした矢先、馬車の事故で亡くなってしまったのだ。

ともに共通の友人だったイルモンドと救出に駆け付けた際、目に飛び込んだのは見る影もないほどに壊れた馬車の残骸と、容赦なく叩きつける雨の中、息も絶え絶えに我が子を抱く母親の姿だった。


「お願い…この子を …」

「妃殿下!!」


息も絶え絶えにもかかわらず、私の腕を掴んだその手は、とても力強く…だが、やがてするりと腕が解け、血にまみれた布の中に、生まれたばかりの小さな赤子が隠されていた。


「…ご無事で…!」

「よかった…だが」


声も発さず、じっと耐えていたのだろう。ざあざあと降る雨に混じってやっと聞こえたのは…空に向かってなすすべもなく泣き叫ぶ声だったのだ。

『賊の襲撃による、痛ましい事故』…この一言で、クロムの弟だった今代の王は、碌な調査もせず、公式的に先王妃とその遺児の死亡を国民に大々的に報じた。


(あの方が何を思い、なぜそのような決断をしたのか…考えても答えは出ない)


だがそれは、色々なしがらみがまとわりつく歪んだ王政の中、彼が亡き兄の為に唯一できた弔いだったのかもしれない…そのおかげで、カシオスは誰にも見つかることなく、生き延びることができたのだから。

そうでなければ、カシオスはアゼンダリア王妃が見つけ出し、命を奪っただろう。

そして――私レイドック=ルドヴィガは、この少年の「代父」となったのだ。



「ねえ…シャルちゃん、だいぶ遅いけど、大丈夫かな」

「あ、あの…私、やっぱり見て」

「エイル、ククナ」

「!…あ、だっ 旦那様?」

「…かしこまった挨拶は良い。それよりも…二人が戻ってくるまで、少し待っていてくれるか?」


思いがけない言葉に、ククナとエイルは顔を見合わせた。


「ふ、二人…??」

「どなたか…いらっしゃるんですか?…伯爵さま、お顔が その」

「……」


…苦虫を噛むような表情、とでも言いたのだろう。


(ああ、本当に。…まさか、こんなことになるなんて)


事の発端は、恐らく彼が7歳になったあたりの事。

生前、両親が秘密裏に使っていたという別荘は、隠れるにはうってつけの場所だった。また、クロムの姉君であらせられるエリザベラ様も、カシオスを隠すことに協力してくださった。

誰にも見つからない山奥の邸でひっそりと過ごしていた頃…ある時から、カシオスは庭園にあるネモフィラの花園に入り浸るようになった。

酷い時はそれこそ、朝から晩まで…そこで学問をしながら過ごすことも少なくなく、庭師が見かねてカシオス専用の机とベンチと椅子を用意したくらいだった。

理由を聞いても「絶対に言わない」と口を閉ざし、いつも何かを待っているようだった。

結局その理由を今まで知ることはなかったのだが…数年後、私がたまたま口にしたある言葉に、カシオスは異常に反応した。

それが…あの「黒い髪の民族・キアルーン」という本を渡した時、私がぽろりと言葉に出した「黒い髪の娘」の存在だったのだ。


(あれから、全てが変わってしまった…全く、己のうかつさを恨む)


以来、ことあるごとにカシオスはリッハシャルの事を気にかけ、話題に上げるようになった。

後でカシオスから直接聞いたことだが、私が運んだ本の中に手紙を挟め、自分の正体を明かさず互いに何度かやり取りをするようになっていたらしい。


「まあ、彼女は俺の事、年配のおじさまと呼んでいたけど…」

「……そ、それは」

「若年寄ってことかな?…子供扱いされるよりましかな」


(いつの間に…?!)


「それより、レイドック、俺学校に行ってもいい?」

「……お戯れを」

「戯れてないよ。そうだね…この目立つ髪は茶色にでも染めて、眼鏡をすれば瞳の色もバレないだろ?それに一種の人生経験で、一度は学校に行ってみたいし」

「ですが、ご自分の立場を…それに、教育は私が」

「でも……視野を広げないと、他にあるべき可能性を見失ってしまうこともあるだろ?」

「それは」

「大丈夫、空気感を味わいたいし…同年代の子供たちが何を考えてるか、興味もある。後の為になるだろうし…」

「……ですが」

「なら!中等の三年間だけでどうだろう?」

「………わかりました。期間は16の年齢まで、それまでは()()の自由を尊重しましょう」


そう、彼の身の上を考えついほだされてしまったわけだが。実のところ、「経験を積むため」などともっともらしい理由を並べ、とても周到に我が娘に近づき、距離を縮めていったのだ。

…例の、学園の汚職事件などさすがの私も肝が冷えたものだ…。

その後、卒業と同時に海を渡り、遊学という形でこちらの拠点を移し、今に至る。

そして、リッハシャルが卒業したときの事、カシオスはおもむろに私に聞いてきた。


「そろそろ、彼女に会いたい」

「…?!!…な なにを」

「ダメかな?」


にっこりと、その笑顔を彼を知らぬものがひとたび見れば、途端にほだされることだろう。

亡き両親譲りの美貌と、じっと目を見て相手の表情と心情を読み謀るのは、カシオスの特技である。


「レイドック、俺はこう見えても大分頑張ったんだけどな。キアルーン市場の商人たちの交流もだけど、ランザ王家のご要人たちとの対話と理解、市場把握。マーケットに投資もしたし…あとは、それをどうアズレアに運ぶか、と言うところまで」

「それは…見ていて、十分理解しているつもりですが」

「そうなると、カリスマ的な象徴が必要になると思わないか?」

「………殿下」


今、カシオスが私に示している策は確かに必要なことである。

我々が欲しいのは、カシオスという存在が先王の遺児という証明よりも、アズレアの国がカシオスという“新時代を開く駒”として無視できなくなる事実――すべては、そのための布石。

だがしかし。

その根底に見え隠れする本音を隠しきれぬあたり、未熟者の証拠でもある。


「だからこそここは」

「いいでしょう」


一瞬の沈黙。

思いがけないことを言われて、驚いてしまったようだ、


「つらつらと言い訳ばかり並べられず、はっきりと仰ったらどうですか?いつも言っているでしょう。会話の主導権を握ることも重要だが、一番必要なのは、会話を操作することだと」

「……言い訳を言ってるわけではない」


ふ、と目をそらすその仕草は…やはり、まだまだ。


「言葉を並べるばかりでは、意味を伴わないこともあります。こういう時は、…リッハシャル=ルドヴィガを新時代のミューズにする!位に言わないと、私は納得いたしません。何よりも大事な私の娘なのですから、あの子を政治的舞台に押し上げるあなたのお覚悟を見せていただきたい」

「……君の言うことはもっともだ」


しばし、何顔を考えた後、カシオスは顔をあげた。


「ならば、あなたの娘、リッハシャル=ルドヴィガを新しいアズレア王国の象徴にしたい」

「…象徴は、反対しませんが。娘はただではやりません」

「……つれないな。ならば俺がレイドック、君が認めざるを得ない人物になれば何の問題もない。こう見えて、俺には素晴らしい指導者がついてくれているからね」

「ならば私を超えてくださいませ、カシオス殿下。……まあ、まだまだ経験が足りないようですが」

「何を言う?俺には未来しかない。…ルドヴィガ伯爵家の姫君の最強の婿候補、の成長を楽しみにしておいてくれ」



(どのタイミングで合わせようかと考えていたのだが)


結局、どういうわけかカシオスは自分で我が娘との縁の糸を引き寄せたらしい。

こんなふうに、意図せず遭遇することになってしまうとは…想像もしていなかったことだ。しかし、同時に二人の子供たちの成長を見ていた私からすれば、なんとも複雑で、言葉にもできない。


「あの、伯爵さま、ハンカチ、使います?」

「いや…いい…目にゴミが入っただけだ……」

「あ、お嬢様が戻ってらした」

「!!」


思わず首が外れるくらい振り返ってしまった。


「あ!お父様?!どうしてここに…」

「リッハシャル」

「え??あの、なんで泣いて…」

「違う、これはゴミだ…こちらの国は乾燥しているからな」


すると、カシオスはなぜか私の隣に立ち、横に並んだ。


「…シャル。実はね…伯爵は、俺の代父でもあるんだ」

「!!」

「え?!」


その場の空気が凍りつく。

シャルはと言うと、目をまるまると見開いて言葉を失っている…。


「そ、そうなの…?!じゃ、じゃあ。お父様のお仕事って」

「…僭越ながら、このカシオス殿下が私の主人となる」

「えええ?!」

「すまないな、黙っているつもりはなかったのだが」

「あ…いえ、なんだか納得しました。とても重要で大事なことなんだろうな、とは思っていたので」

「…紹介は終わった?」


すると、その様子を満足げに見たカシオスは、ちらりとこちらを見、少しだけ意地の悪い笑みを浮かべた。


「あらめて、俺の名前はカシオス=レヴィ=セレスト。リッハシャル=ルドヴィガ、突然だけど…どうか、アズレアとキアルーンを導く、新時代の象徴になってくれないだろうか」

「象徴…って」

「時代が君を必要としている……もちろん、俺も。だから、君の力を貸してほしい」

「き、急に言われても」

「!…っ…この」


(誠実なふりしても、不純な動機が隠しきれてませんよ殿下ァ…ッ!!)


だから未熟者だというのだ。

――私は、その言葉をぐっとこらえ、娘の返事を待った。


それは、ただのストーカ―です。殿下…

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