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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第11章 人生、長い休み程人は成長する

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第121話 ケディック・エイデン①


遠くに波音を聞きながら、ケディはさっとカーテンを閉めた。

邸の中では、リバティアはすやすやと健やかな寝息を立てている。


「あらあら、寝てしまったみたい」

「母上も少し休んだらどうです?」

「そうね…そうしましょうか」

「僕は少し一人で外にいます」

「ええ……でも」

「大丈夫!近くを散歩するだけだから!」


軽く手を振り、元気よく家を飛び出すと、空を見上げる。……まだ日は高い。


(少し、運動ついでに散歩しようかなあ)


とはいえ、護衛なしに行くのも少し気が引けるので、せめて腰に帯刀しながら出発とした。

さくさくと砂浜を進んでいくと、海から流れてくる風に目を細めた。


「なんもしない時間って、なんだか久しぶりだ」


ここ最近、ケディは柄にもなく色々なことを考えていた。

大会の事、家の事、剣術の事、シャルの事。

そして……フォーレの事。

嫌な考えと、そうじゃない考えとが行ったり来たりしていて、そろそろ限界を迎えそうだった頃に、この休日。


(いつもは、フォーレと一緒だったしなあ)


それが、結果的によくなかったのか?未だにその答えは見つからない。

ただ、この大海原を見てると、そんな思考すら吹き飛ぶくらいちっぽけな悩みなのか、とも痛感する。

…ここに来る直前、今まで何となく伸ばしていた髪をバッサリと切った。

理由は、先日の大会の際に事故で髪が切れたのと、一種の気分転換だった。はたから見ると、フォーレと似たような髪型になるのが何となく嫌だったから伸ばしていたもので、いざなくなるとこんなに楽なものなのか、と感心してしまう。


「なんか、こう……人間って、すごく簡単なことで人生変わる瞬間ってのもあるんだろうなあ」


ぼんやり呟いた言葉は、誰に言うでもなく、口から出た物だった。

空が青いように、海が青いように。

当たり前のことを認めた瞬間、賭け違っていたボタンが元に戻ることもあるのだろう。

そして、ふと……思ったよりも遠くに来てしまったことに気が付いた。遠くにあったはずの岩場がもうこんなに近くなっているのだ。


「あ……しまった、ぼうっとしている内にこんなとこまで……ん?」


岩場と言っても、先端が鋭く中々に険しい崖の上に、背の高い人物の背中を見つけた。

…どうやら、釣りをしているらしい。


「釣り……?」


何が釣れるのだろうか、と好奇心で近づくと、その人物が振り返った。


「やあ、君は……ケディック=エイデン、だな」

「……?」


思わず腰の剣に手が伸びる、しかし、相手も同じように帯刀をしていた。

均整の取れた身体に、佇まいからただものじゃないことがうかがえる。身構えると、青年はにっと笑った。


「……その、警戒心はいいことだ」

「……貴方は?」

「わからないか?あ……そうか、今は制服でもないし、制帽もないか」

「…………?」


少し癖のある紺色の髪に、アイスブルーの瞳。

服装は…見るからにガチな釣り人だ、


「あなたは」

「!!来た!」

「え?」


そう叫ぶと、ばっと振り返り釣りざおのリールを巻いていく。


「エイデン!そこに網がある!!早くそれをこちらに!!」

「え?え?え?」

「早く!!」

「は、はい!」


慌てて網を受け取り、構える。


「ふっ、よし、こぉいッ!!」


ぐん、と竿を上にあげると、50センチほどの大きな魚が宙を舞った。


「あ!すげえ!大きい!」

「今だ!さあ網を!!」

「はい!あ、獲れた―――」

「気を緩めるな!!バケツに入れるまでが勝負だ!!」

「は、はい!!」


言われた通り気を引き締め、バケツにその網ごとを落とす。

バタバタと魚が動く度にバケツも揺れる。青年は魚の目をがしっとつかんで隠すと、なぜか魚の動きがぴたりと止まった。その隙に食らいついていた餌をとり離す。


「これで良し、と…よし、助かった、エイデン」

「それは良かった…ケド、それで、ええと、あなたは」

「?まだ気が付かないか……俺はレイル=クオンタ。カシオス様の護衛をしている」

「!!!」


(い、言われてみれば…そうか!だから……この隙の無さ、と言うか)


「あれ?でも護衛がなぜここに……まさか」

「安心しろ。今日は仕事でなく、非番だ」

「あ、な なるほど……」


正体を知り、改めて見る。


(どっからどう見てもやり手の剣士の佇まいなのに、格好は釣り人だ……意外な一面だ)


「釣りが…お好きなんですか?」

「ああ、釣りは、ただ魚との一本勝負…他に余計なことを考えずに済む」


がさごそと鞄を探ると、もう一本の釣竿を差し出した。


「君もどうだ?」

「あ……僕、やったことないんですけど」

「教える。君は騎士になりたいんだろう?ならば、釣りは精神統一の修業にうってつけだ」

「セ、精神統一…?」

「騎士をするからには守る者がある。その護る側の人間は時折難しい判断を迫られることも少なくないからな。常に冷静に、心静かに、どんな物事も冷静に対処しなければならない」

「た、確かに」

「……さあ、まずは糸を巻くところから。餌をつけるのは、それからだ」


糸を巻き、餌をつける。

一つ一つ丁寧でかつ適切な指導を経て、ケディはレイルより少し離れたところで糸を垂らす。


「投げ方はこう、間違っても、釣り竿ごと、海に投げるな」

「はい…あ、できた」


ひゅるると、気持ちの良い音を立てて遠くに重しが落ちた。


「あとは…?」

「待つ。……雑念が入ると、魚は寄ってこない」


(釣りって、そんな精神論でできるものなのか……でも)


じっとしていると、あとからあとから、先ほどまで蓋をしていたことがふつふつと沸き起こってくる。


「その……雑念を入れないって。どうやるんですか?入れないぞって思うと、それすら雑念になりそうな気がして…」

「そうだな、無、だ」

「む……」


(難しい……)


「それとも…君は、無になれなくなる位、何かを思い悩んでいるのだろうか?」

「……ええと、そうなんでしょうか」

「それを俺に聞かれても」

「た、確かに……ですよね」

「今、一番気になるのは何だ?」

「え?」

「悩んでいるなら、吐き出してみたらどうだ?」

「でも」

「俺ではなく、海に向かってみるのは?」

「海……?」


ふっと視線をずらすと、広がる青い水平線の向こうまで見えない。


(広……ああ、でも確かに)


「……僕は、弟がいます。双子で、いつも一緒にいる……分身みたいな感じの奴」

「分身と言うのは不思議な言い方だ。分身とは一つの存在が分かれる事……君たちはそれぞれ別人だろう」

「あ……それは、そうかも」


ふと、この瞬間、自分が思っていたことに違和感を感じた。


「僕ができることは僕が、あいつができることをあいつが……って。あれ?」


自分はこう思ってる、ならあいつもそう思ってる。

それは、本当に正しいのか?


「…参考になるかどうかはわからないが、俺には二人の弟がいる。君たちのように双子ではないんだが、一歳しか違わない分、日々生活していく中で、様々なことが似てくるものなのだが……決定的に違うところがある」

「違う、所…?」

「上のイスメテは活発だが、下のタクトは氷のように冷たい」

「?!」

「イスメテの有り余る元気さにうんざりして、タクトは何事にも冷めた性格になってしまった」


(どっかで聞いた話だ…)


「何が言いたいかというと……そうだな、俺は口下手なんだが、別々の人間は、一緒には絶対になりえない、と言うか……もしそうだとしたら、片方が片方に合わせていることになるんだ」

「!!同じに、なるように…?」

「それはわからない…が、少なくとも、二人が同じ場所で同じ環境にいたとして……どんな場面でも譲り合うことが必要になる。譲りすぎると、それ以外の行動をした瞬間、何か違和感を感じてしまうような、そんなことが起こり得ると思う」


グサリとした。


「僕は……こうしたいから、こうする、けど。あいつに、それを聞いたことが、ない」

「……エイデン」

「僕が一番……わかっていな」

「引いてるぞ」

「!!」


気が付けば、ぐんぐん糸が引いている。


「え?え?」

「そのまま落ち着いて、ゆっくりと糸を巻け」

「は、はい!」


言われた通り、ゆっくり糸を巻いているが、どうにもうまくいかない。


「お、おも!」

「魚に負けるな!」

「まけ、るかぁあっ!!!」


ぐっと思い切り引っ張った先には…ぷくぷくと太った30センチほどの魚。

レイルの素早い動きで網に収納すると、そのままバケツに放り込んだ。


「やった!」

「よし、食べるか」

「え?!」

「安心しろ、塩もある!」


(この人……変わってるっていうか、マイペースな人だなあ……)


「でも、火は」

「大丈夫。騎士はどんな時もどんな状況にも対応しなければならないからな」


そう言って…傍らに置いてあったバッグから火打石と縄で括り付けた木の枝を取り出した。


「す、すごい」


そして、持っていた短いナイフで見事な手さばきで魚の内臓を処理すると、あっという間に小さな焚火と簡易テント、そして魚の丸焼きが完成した。


「釣りたては、焼くのが一番うまい。ほら」


ずい、とコーヒーカップを渡し、そこに熱い茶を入れてくれた。


「…騎士の方は、これが普通ですか…??」


思っていたのと違うな、と考えていると、レイルはふっと優しい笑みを浮かべた。


「俺の婚約者が、こういうのが好きでな」

「ええと…馬術部の、タピネ部長?」

「ああ」


なるほどなあと思いながらいると、レイルはさらに続けた。


「昔、言われた言葉がある」

「言われた…言葉?」

「人の心の内を勝手に予想するな、と」

「勝手に、予想って……」

「どう思うか、どう感じるか。やる前から決めつけるな、きちんと要望なり意見を聞いてほしい。言葉はそのためにある、とな。俺はどうやら言葉が少ないらしい」

「言葉……」


いつも一緒だから、考えることは同じ。

ケディはこの時初めて、そう決めつけていたのは、自分だったかもしれない、と気が付いてしまった。



読んでいただいて、ありがとうございます!精進します!魚はほんとに目を隠すと大人しくなります。潰さないようにお気を付けを。

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