第113話 変わるもの、変わっていくもの
「ラウ様!!大変です!!」
「なんだよ、騒々しい……」
「賭博場が……大荒れです!」
「?!」
一見すると、貴族階級たちの集う高級サロン。
しかし、階段を下った先は…賭博の項目と、刻一刻と変わっていく賭け金とオッズの一覧が、大きな黒板にびっしりと書かれている「公式の賭博場」となっている。
その中の一つ―――剣術大会の優勝者予想・なしに、とてつもない金額が投じられていた。
「昨日まで、ドベだったのが……120倍…?!」
(項目は全部で5…一応誰も予想しないだろうと思って作った優勝者ナシ、に高額を支払った奴がいる)
「随分と勝負に出てるじゃないの。……そいつは?」
「い、います。入り口に……」
部下に案内された場所にいたのは…茶色の髪に眼鏡の青年だった。
「やあ、あなたが管理人?」
「はい。…お客様、当サロンは完全紹介制となっておりますが、どなたの紹介で……」
「僕はリヴィア―ル。……紹介先は、そうだな。セフィール=ヴァラモにしておこうか」
「ほほう……あの方にご友人がいらっしゃるとは」
「君よりは多いんじゃない?」
「……ははっ」
(なんだ、このガキ。妙に落ち着いて……動じない)
「それで?賭け金は支払ったはずだけど、まだ何か?」
「いいえ、滅相もございません。ただ……勝負師の方がいると聞いたので、そのご尊顔を見てみたくて」
「へえ。で?ラウ=サージェント…というのは、君か」
「はい、さようでございま……」
ゾッとした。
瞬時に青年を取りまく雰囲気が一変したのだ。
(……何?)
そっと眼鏡を外すと、銀色の鋭い光がラウをにらみつける。
「お前のことを調べた。……飼い主も大概だが、忠犬のお前は毒も喰らう狂犬らしい」
「……誰です、あんた」
「考えたものだ。賭博場は賭博をする場ではあるが、カジノをする場所ではない。あくまで公的に……法の範囲内で行える合法の裏をかいたのは見事」
この国の法律では、【カジノ】で行うルーレットやコインを媒体に使って行う【賭博】は禁止されているが、直接金で行われる【賭博】は禁止されていない。
例えこの場を制圧しようとしても、その法が撤廃されない限り、この賭博は取り締まることができないのである。
「おほめ戴き、どうも」
「キャンデイ・ゲーム」
「!」
「君はいくら賭けた?彼らの未来に」
「……」
「絶望よりも確かな希望をあげたら、彼らはとても良く情報をくれた」
「……は。これだから子供は。で?俺は捕まるんですか?」
「何の罪で?残念ながら、【マスター】の名が出ても、確たる証拠は出てこなかった。……君の慎重さが功を奏したな」
(このガキ…鎌をかけやがったな)
「では一体何の御用で?……未成年の坊ちゃまは賭博に参加は」
「賭けたのは僕じゃない、名前を貸しただけ。賭博にハンドルネームはつきものなんだろう?」
「………」
「別に今日は、ラウ=サージェントという男を見に来ただけ。君は滞りなく、このバカげた賭博会場を運営して、遂行していてくれればいい、それが君の生き延びる道かも知れないよ?」
そう言って、眼鏡を再びかけなおすと、くるりと踵を返した。
「……はああ。っくそ、なんだあのガキ……」
(黄金が獅子なら、こっちは敵意むき出しの狼だな)
「おい、ガキどもと連絡は?」
「そ、それが……」
「いや、言わんでいい。さっき聞いた。そういや…昨日事務所に第3王子が介入したとか言っていたな」
「はい、……あちらの本部に問い合わせても、情報をこちらに寄越してはくれませんでした。ただ、何人か試合の不正を暴露したとかで、特別試合を何個か行うという報告だけ上がっています」
「じゃあ。あの狼は……まさか。チッ潮時かもな」
ラウは、思考を巡らせる。
奴ら、どこまで把握してる?
大会運営と連携が崩されたってことは、もうこちらから勝敗を操作はできなくなる。
キャンデイ・ゲームは、もう打ち止め。これはデカイ……だが、ガキどもは奴らにオレたちの尻尾を掴ませるような情報は持っていなかった。なら、まだ手はある。
「このバカげた賭博を遂行する……つまりは」
あいつらが、何かを仕掛けようとしてる?
(……はぁ、結局、打つ手なしか。だが、時間の問題だな)
「公爵閣下に会いに行く。馬車を寄越せ」
「は、はい……」
**
「まあ……」
「………」
(あれ?どうしてこうなった)
今、私―――ロゼネイ=グラントの前にいるのは、ルビエル=ヴァラモ。
そして、その私の隣にはすっかりお兄様ヅラしているセフィール様。
「あの、お目にかかれて光栄ですわ。わたし、ルビエル=ヴァラモと申します。いつも闘技場で拝見していて…とても確かな腕をお持ちですのね」
「そう、彼の剣技は洗練されていて、美しいから」
「はは」
あ、ちょっと乾いた笑いになってしまった。
(ちょっとセフィール様、どういうことですか?)
(いや、一度顔を合わせてあげた方がルビィも喜ぶと思って)
くっ、このシスコンめ!
「!」
とは口に出せず、代わりに靴のかかとで思い切り踏み込んでやってしまった。
すると、なぜか驚くような表情でこちらを見た。
「……初めて靴を踏まれた」
(いっそ蹴り飛ばしてやろうかしら?!)
「ルビエル様。私はロゼネイ=グラント。とある国で騎士を目指す、旅の剣士です。セフィール公子とは行き倒れていたところをたまたま助けていただきました」
「まあ……ご苦労をなさっているのね」
「いいえ、自分で決めた事ですから」
「!」
あ、いいのかしら。
ルビエルの目がすっかり乙女モードになってるような。そして、セフィール様が「へえ、そんな設定なんだ」って顔でこちらを見てる。
いやいや、でも、あのイリシユにときめくくらいなら偶像でも、ロゼネイにときめいてくれた方が。
「今回僕は、あなたの未来のために剣を捧げましょう。それが兄上、セフィール公子の望みでもありますから」
「……っロゼネイ様……」
「もう行かなければ……」
(ええと、こういう時、女性がときめく方法は)
・・・
自分を当てはめてみて、うまく想像できなかったので、一応私の知る異性のトップオブハイスペック男性、カシオス様の真似を試みてみる。
ええと、指先を取って、少し上目遣いで……ハンドキス。
最後に目を見てほほ笑む、と。
「……っっ」
「それでは、応援、よろしくお願いします」
「………ハイ」
「きゃー?!ルビエル様!気をしっかり!!」
(よくあれをしてくるんだけど……私には効かないのよね)
「……ロゼネイ、別に妹を口説けとは言っていないのだが」
「やっぱり、ああ言うのって、女性はときめくものなんですね……」
「どうやら、君は違うらしいね」
「………絵とかで見るのはいいけど、自分がされるのはちょっと」
「じゃあ、正攻法は辞めておいた方がよさそうだ」
(…?なんの話?)
「それよりも、ロゼネイ。昨日の今日で面白い変化が一つある」
「面白い変化?」
そう言って、セフィールは入り口に飾ってあった剣術大会の旗を指さした。そこには支援家門の紋章がずらりと並んでいて、昨日まででかでかとヴァラモの紋章が飾ってあったはずなのに。
今は、無地のセレストブルーの旗が飾ってあった。
「旗が……セレストブルー」
「そう、第三王子カシオス=セレストの紋章、だそうだ」
「……それって」
「彼は、大会本部を自身の権力で掌握したようだね」
「…………」
こういう時、少しカシオス様が怖いと感じることがある。
有言実行、それを遂げる力も権力も存在する――国一つ、動かせる力と能力。
「カシオス様は、以前ご自身の認可市場を作る、と仰っていました。その日は、遠くなさそうですね」
「………そう」
(やっぱり、あの人は敵に回したくないなあ……)
私は改めて、実感した。
そして、その頃別の準決勝の控室でもまた、変化が起きていた。
「……」
「どうぞ、ケディック=エイデン様。お通り下さい」
「ど、どうも」
昨日までがらんとしていた控室は急に物々しく、入り口に警備兵がしっかり立つようになったのだ。
(あれって…正規の騎士だよな。なんか、大会全体がピリッとしてるっていうか、雰囲気が変わった?)
こちらとしては集中できてありがたいものだと思いつつ、ケディックは一度大きく息を吐き、吸い込んで座る。
「これを勝てば、決勝戦。…ロゼネイと、だ」
今日になって突然、特別ルールが設けられた。
なんと、昨日の夜突然出場選手の複数名が「試合に不正をした」と暴露したらしい。
結果、その対象である騎士の対戦相手は全員繰り上げ勝利となり、特別試合が設けられることになったのだ。
「え?じゃあ…元々、勝っていたロゼネイと僕は、その勝利者との試合が増えるってこと?」
「そうなります。日程はずらせませんが、主催者の意向で不本意な理由で負けた戦士たちもいるだろう、とのことで、お二人の枠とは違う特別枠を設立いたしました」
「要は、その勝利者とも戦って勝利しないと、彼とは戦えないということか」
「はい。ご健闘をお祈りします」
「はあ……」
(悪いやつっているんだなあ)
勝つことに、ケディック自体興味はない。
ただ、負けられない戦いに理由があれば、勝ちにこだわる。
根本的に、自分は決して負けないという自信があるからかもしれない。でも
「今は、勝ちに行く。ロゼネイと戦って……優勝する」
(その前にはまずこの一戦。……これで勝てば)
「……行くぞ」
そして、ケディックは制帽を深くかぶり直した。
読んでいただきありがとうございます!ブックマークと評価、誤字なんかしょっちゅうするので、報告にとても感謝しております。精進します!




