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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第10章 人生、叶う夢と叶わない夢があると知っている人ほど、世渡り上手

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第106話 事件は現場で


「さて、……これで終わり」

「ぐっ……」


わっと割れんばかりの歓声が上がる。

その声援にこたえるように、私は剣を天高く掲げた。


「勝者!ロゼネイ・グラント!!」


今日は大会最本戦トーナメントの日。

順調に勝ち続けているので、あと二回勝てば明日の決勝トーナメントに出場することができる。危うい場面もなく、実は私って結構強かったのかもと実感しているんだけど。


(問題は……やっぱり、ケディなんだよね)


御前試合の後、少し話した。



「ケディは、前、優勝にはこだわらない…みたいなこと言ってたよね。今回も?」


探りというわけでもないけれど……純粋に今回は手ごたえとしてどうなんだろうと思って聞いてみた。

しかし、帰ってきた言葉は予想外のものだった。


「うーん。…あの時と少しは違うかな。次は絶対に負けない」

「そ、そうなの?」

「だって、悔しいからさ。さっき、カシオスと戦って、引き分けってなったけど、……ほんとは僕の負け」

「負け…?」

「戦っていた僕しかわからないと思うけど、カシオスは僕の剣の腹…剣の構造で一番弱いところだけを常に狙っていた」


私が見た時にはすでに切っ先は宙に舞っており、その時の状況はわからない。

でも確かに、偶然剣が折れてしまった、なんてあり得ない。


「ま、まさか」

「その後だって……もしかしたら、カシオスは狙っていたかも」

「嘘…全部計画済みって……こと?!!」

「シャルも分かると思うけど、剣は縦と横から両方に打ち込まれると弱い。カシオスの技術はまさにそれで……なんというか、剣を折らせるための術、【折り太刀】に近いんだ」

「お…折太刀って、あッ!!」

「え、な なに?」

「お父様だ……!!」

「え?!おじさん??…あっそうか、【鷹】の技術……?!」

「実を言うと、私も昔教わったことがある。鷹の伝統技術だからって」


ルドヴィガ家の騎士団【鷹】は、基本的に暗躍的能力が要求される。

投器の使用、遠隔攻撃、変装、人ごみに紛れこむ、情報収集系、など。

もちろん、武器破壊もその一つ。

その統括が教育係のお父様…ってことは、私と同じようにカシオスに教えていても、不思議はない。


「でも、苦手だったなあ…あれ。剣が可哀想になる」

「じゃあ、やっぱりカシオスの動きは【鷹】から学んだ術かもしれないってことか。なら納得」

「な、納得するの?」

「ああ、カシオスってすごく身軽で、変則技を滅茶苦茶使ってくるから、剣筋が読めない……性格的なものかもしれないけど、底が見えない剣術だった。それって、【鷹】もそうだよな。」


(以前うちに来た時、鷹の訓練を見てたもんな…ほんと、勉強熱心)


でも、ケディの口から相手の戦力分析が聞けるのは、貴重かもしれない。

私は黙って続きを待った。


「単純に打つ、斬る、突く、捻るの連続だけど、ホント嫌なところばかり狙ってくるっていうか……土壇場で思いがけない術を繰り出すから、対応が遅れちゃうんだよな……」

「ふむふむ。なんだか、カシオス様の性格そのものね……」

「あ―――くそ、悔しい!まだまだだなあ、僕も……」


などと、情報交換をしたんだけど……ケディは本当に勤勉。

自分が負けた理由を探して対策を練るから、決勝戦で当たったら攻略は大変そうだ。でも、同時に楽しみでもある。


(そう言えば…肝心の、カシオス様はどこにいるんだろ?)


控室の窓から、ざっと観客を見てみる。

貴賓席には……あ、カシオス様がいる。で、隣には……うちのお父様も。

それにしても、想像以上にお父様はカシオス様を心身共に鍛え上げていたのね。

……ちょっとだけ、羨ましい。すると、ふ、と視線がぶつかった。


「!気のせい……だよね?」




「……全く」


横で漏れたため息を、カシオスは、聞き逃さなかった。


「レイドック?何か面白いものでも見つけた?」

「いえ。……それよりも、本当ですか?あの男がまた、表舞台に出てきたというのは」

「ああ。ラウ=サージェント……今はあいつが、ヴァラモ公爵の側近みたいだね。追跡調査はしていたんだろう?」


カシオスの言葉に、レイドックは静かに首を振る。


「……あの男は姿をくらました後、何度か見失いました。しかし、必ずヴァラモと共に復活する……ヴァラモの忠犬、と呼ぶにふさわしいでしょう」

「僕は…レイドックの家の事情をそこまで詳しく聞いていないけど、そいつは何を?」

「殿下には、必要のない情報です。……が、唯一いえるのは、あの男はシャルを一度誘拐し、どこかに連れ去ろうとしておりました」

「!」

「未遂に終わりましたが…その後、雇いのメイドを一人殺めた後、逃亡しました」

「………なるほど、そこは、彼との話にもつながるな」

「彼……とは」

「僕の恋敵その2」


ぴりっと空気が凍る。

後ろに控えていたレイル=クオンタは、遠くを眺めた。


「ほほぉ……そうですか。うちの娘は本当に人気者ですなあ。ハハッ」

「まったくだ。おかげで僕も苦労するよ」

「殿下のご負担は、ご自身が手放せば亡くなるものでしょう?わざわざ大きな苦労を買って出ずとも、選択肢は無限にありますとも」

「ああ、前言撤回するよ。苦労はないな、必要な対応だった」

「いやいや、常に塩対応をされる位なら、必要ありますまい」


(リッハシャルお嬢様も大変だな……)


「そう言えば…その、お嬢様はどちらへ?」


レイルが聞くと、途端にぴたりと二人の会話が停まった。


「けがをしなければいいが」

「無茶をするのは、レイドックの教育のせいだろう」

「あの子の特質です」

「??…あ、次の対戦は、エイデン公子ですね」


すると、再び妙に張り詰めた空気になる。


「エイデン兄弟の兄のほうですか……」

「……彼、強いよね」


(この二人は、親子ではないのによく似てらっしゃるなあ)


ふと、少し離れた貴賓席には、エイデン侯爵一家の姿が見えた。


「あらあ、似合うじゃない!戦闘訓練生制服!」

「ケディにー!!」

「ふむ、しばらく見ないうちにまた背が伸びたかな……どうだ?」

「俺に聞かれても……はあ。ん?」


フォーレはもう一度しっかりとケディの様子を確認する。


(なんか…おかしい)


観客席から見ても、ケディックの様子がいつもと違うように見えた。


「……?何かあったのかな」

「フォーレ?どうした」

「気のせいかもしれないけど、…こう、覇気がないっていうか。ちょっと見てくる」


バタバタと走り去る様子を、レイルはカシオスに報告した。


「……今、フォーレスト殿が走って行かれましたが」

「!……レイドック、ここを頼んだ。もしかしたら……例の奴らかもしれない」

「【番狂わせ要員】……ですね。こちらも手を打ちましょう」

「頼んだ。レイル、行こう」

「はい」


2人がいなくなる様子を見て、レイドックは視線を控室の方に向けた。


(無理をするなよ、シャル……)



―――観客の声が遠い。


(……ああ、もう、頭痛いな)


これは、心理的なものではない、明らかに物理的なものだ。

一度、呼吸を整えしっかりと剣を握りしめる。


「はあ、はあ!……くそ、強い。さすが、ケディック=エイデン…」

「……いくよ!」


剣を持つ腕がだるい。足がもつれそうになるのをこらえ、感覚を研ぎ澄ませる。


(名札と支援家門の旗を外せれば……!)


ガリッと妙な手ごたえを感じると、うわっ、と短い悲鳴が聞こえた。


「!」

「ち、血がっ……わ、わあぁ!」

「あ、ごめん……」


見れば、強く切り込み過ぎたせいか、肩の鎧部分が粉々に砕け、外れた家門に血がにじんでる。


(けがをさせたから退場…というルールはない筈。でも―――)


感覚だけで動くと、加減を失う。

ぐっと剣を握り、審判のコールを待つ。


「し,勝者、ケディック=エイデン!!」


そして、歓声。

だが、ケディには、自分の息遣いしか聞こえない。

原因は……「水」だった。


「のまなきゃよかったな……」


控室に用意されていた水の瓶。…どうやらそこに、何かの仕込みがされていたらしい。

コップ一杯程度だったのに、なぜか激しい頭痛と吐き気が始まり、今は視点も定まらない。ただ、この場面で倒れるとそれでもう失格となる。

耐えながら控室に戻ると、倒れそうになった体をがしっと支える手があった。


「……え?」

「ケディ!!!」


思いがけない人物に、目を見開く。


「ふ、フォーレ?!なんでここに」

「こっち!……しばらく待機だろ?医務室はどこ?」

「!ダメだって…僕は失格になるのは嫌だ!」

「そんなもの、腹痛だのなんだって言えばいいだろ?!即失格になると決まったわけじゃないんだから!ほら、行くよ!」

「あ……」


ぐ、と肩を組んだ腕は力強い。


(こいつ、こんなに力強かったっけ……?ああ、でも)


来てくれてよかった。

そう思った瞬間、ふっと気を失ってしまった。その分急に全体重がのしかかり、今度はフォーレが倒れそうになる。


「?!っっぐぐ……ちょ、ケディ……お おも」

「大丈夫か?」

「!!」


急に体重の比重が減ったので、フォーレは足元がふらついた。

そこにいたのは……眼鏡をしつつも、隠し切れない整った顔立ちに、燃えるような赤い髪。


「な、何してるんですか?セフィール講師……っ??」

「まあ、潜入任務と言うところさ」


(こんな派手な潜入スパイがいるかっ!!)


「彼は?」

「わかりません…観客席にいた時から、様子がおかしかったから、来てみれば」

「……なるほど、いくよ」

「行くって…何処へ?」

「僕はこう見えて支援者側だから…専用の控室がある」

「あ……な、なるほど」

「止むを得ない。……まあ、彼女も許してくれるだろう」

「彼女?」


奥の方にあった控室は、元は賓客が使用する応接室だったらしい。

護衛に声をかけ、扉を開いた先にいたのは。


「……は?」

「え?なんでここにいるの?!フォーレ!!」

「シャル…?!」


2人は、顔を見合わせて固まってしまった。


読んでいただきありがとうございます!精進します!

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