第105話 二人の思惑
「…白状?」
「カシオス、僕はさ―――」
瞬間、持った剣に衝撃が走る。
(剣に、ヒビ…!?)
「!」
「ケディック……君の決意に、僕を使わないでもらいたい」
一瞬のスキを見計らって、カシオスが躍り出る。そのまま打ち付けられた剣は、カキン!と派手な音が鳴り、そのまま折れてしまう。
「う…」
折れた剣の先は弧を描き、宙を舞う。
それを目で追っていると、カシオスの明確な言葉が聞こえた。
「—―-僕が欲しいのは、アレ。」
「!!」
そして、国王陛下の目前に突き刺さる。
「だから、彼女が必要なんだ」
「……君は」
「カシオス!!!」
咎めるような声が聞こえ、はっとなる。
(ラデュオン殿下…?!)
慌てて膝をつき、剣を脇に置いた。
「も、申し訳ございません。……国王陛下!」
「……いや、見事な試合であった」
「大変失礼いたしました。陛下……まさか、そちらに被害が及ぶとは想像もせず…!」
恐縮するカシオスに、ケディは内心呆れてしまう。
(うわあ…白々しい)
「父上、ここは私が」
「ラデュオン……構わぬ。双方、礼儀、技供に非常に洗練されている。……将来が楽しみだな」
「ありがたきお言葉。……ケディック=エイデン、アズレアに忠誠を誓います」
「その言葉、真に受け止める」
こうして……その日の演武は全て、終了したのだった。
「お疲れ、ケディ!」
「!シャル…」
「やあ、シャル」
すっと脇からカシオスもやって来た。
「あ、カシオス様もお疲れ様です…お見事な試合でした」
「ちゃんと見ててくれた?」
「あー、…っと、ごめんなさい。私はあっちの後始末で、最後のほうをちょこっとだけ」
すると、二人は顔を見合わせる。
「後始末…?」
「なんかあったの?」
「あー……うーん。大したことない、トラブルがあっただけ」
(どうしよう、下手なこと言ったらややこしいことになりそう)
――あの後。
私は王妃様が退場するのを見送り、すぐさまアグレスを問い詰めに行った。
「……一歩間違えれば、あんたは私だけでなく、この弓術クラブ全体の評価を貶めるところだったんだけど、自覚ある?」
「な、何のことだよ……証拠、ないじゃん」
「そうね、ないわ。…でも」
私は、割れた花瓶を指さした。
「あれを見て。私はどんな状況だろうと、自分の力で無事、花撃ちを全て終わらせた。…うち漏らすことなく、確実に」
「……っ」
そのまま事の成り行きを見守る全員に向かって向き直る。
「貴族の身分を名乗るなら、己に恥じない行いをするべきよ。姑息な手段を考えるくらいなら……鍛錬でもする方がよっぽど有意義じゃないの?」
「お、俺だってあの位…」
「じゃあ勝負する?」
「ぐっ……」
一度私はため息を履く。
「文句があるなら私に実力で来ればいい。……この白ユリにかけて、全力でお相手して差し上げるわ」
そして、くるりと踵を返したころには…もう二人の勝負は終盤に差し掛かっていたのだ。
「見たかったなあ…二人の試合、フルで。で、どっちが勝ったの?」
「どっちって……」
再び二人は顔を見合わせた。
「……まあ、引き分けってところでどう?」と、ケディ。
「嫌だね、僕の方が君の剣を折ったわけだし」と、カシオス。
(それで、結局どっちが勝ったの?……まあ、どっちが勝ってもおかしくないよね)
「じゃあ二人とも勝ちってことでいいんじゃない?」
「それってやっぱり、おあいこ、だよね!」
「……異論があるな。それにしても、白百合?」
「あ、王妃殿下に頂いたの」
すると、ふっとカシオスから笑みが消えた。
「ふうん」
そして、そのままぐるりと会場を見渡して、どこからか淡いピンク色のラナンキュラスの花を持ってきた。
薔薇のような大きな花は、鮮やかなピンク色のグラデーションを彩る。
「わあ…綺麗」
「その方が似合う」
「なんだよ、キザだなあ」
(あれ?)
そう言えばとカシオスとケディを見る。なんだか二人とも仲良くなっているような…?
「うーん…こぶしで語らう、ならぬ剣で語る…かあ」
「?なんの話」
「ううん、こっちの話。……そう言えば、これでケディは明日のコロッセウムの本戦、出場決定でしょう?準備は万端?」
すると、ケディは歯を見せて笑った。
「当たり前。……負けないよ、それでその…もう少し借りててもいい?その、お守り」
「お守り…って。ああ、制帽の事?」
「制帽…?」
じろり、とカシオスの視線が動き、私の制帽とケディの制帽を見比べた。
「それ、シャルの?」
「う?うん……緊張してるっていうから」
「……僕も」
「え?」
「僕も本戦出るから、お守りが欲しい」
思いがけない言葉に、私もケディも驚いた。
「え?!な、なんで……嘘だろ、カシオスも出るの?!」
「出る。……まあ、ケディックとはすぐには当たらないから大丈夫」
「で、でも…出場者名簿にはなかったような……」
あ、しまった。
「出場者名簿って……ああ、新聞に載ってたね」
「!そ、そう。そうそう!!」
「……まあ、ちょっとしたジョーカー枠、かな。」
「嘘だろ?……まじかぁ」
「それで?シャル。お守りは?」
「え……」
(そんなもの、欲しいの??)
とはいえ、ケディにあげて、カシオスにあげないっても何かおかしいような。
「う、ううんと。なら……」
しょうがないので、私は自分の髪に括り付けてる銀色のリボンをほどいて渡した。
さらさらと髪が落ちてきてしまうけど、もうしょうがない。
すると、カシオスは一瞬目を見開いて、二っと笑って手首を差し出した。
「え?」
「結んでくれるんだろう?」
「わ、わかりました……」
キュッと結ぶと、カシオスがにっこりと笑った。
「ありがとう」
「どういたしまして……シャルは、けが、しないようにね」
「え?!」
そう言って、私の手にハンドキスをして、カシオスは帰っていった。
(うわ…まさか、ばれてる?いやいや、まさか……っ)
「よし、じゃあ、残すは明日の馬上弓術だね」
「う、うん……」
次の日の空は晴天だ。
外の会場で最後のメインイベント、馬上弓術が行われる。
馬術部のタピネ部長が私の為に、前回一緒に海に行った白馬のセナを貸してくれた。
どうやら、昨日までうだうだしていたさぼり組連中も、一応の反省はしてくれたようで、馬上弓術は真剣に取り組んでくれた。
そして…結果は、勿論大成功に終わった。
ただ……この時、私の知らないところでは、色々な問題が起きていたのだということを後になって知ることになる。
――馬上弓術中・裏庭にて
「う…」
「さて、ようやく尻尾を捕まえた。…ヴァイカ=トニーズ」
カシオスは、レイルにヴァイカをとらえるように命じた。
そして……使われていない教室に連れ込み、今に至る。
「…大人しくした方が、君にとっても良い選択になると思います」
「……か、敵う訳、ないよ。降参、するから……」
そう言って差し出したノートを見て、カシオスはため息をつく。
「ふうん。……なるほど、君はいわゆる「賭博の窓口」か」
「………」
力なく頷いた。
「賭け事を行うための一覧を持って、参加する人員を集める。そして、賭けの対象を決め、掛金の替わりにキャンデイに書かれた包み紙を回収、提出するって感じかな」
「一覧表は【チョコレート】、賭けのチップは【キャンディ】。現金…【クッキー】は後で回収しに来る別の係りの奴がいる…俺は、力がないから。現金の報酬を配るのは、いつもマスターの部下がやってた」
「マスターの部下、ねえ」
パラパラとノートをめくっていると、カシオスの手がぴたりと止んだ。
「弓術クラブの花撃ち・仕込みあり……失敗するが2割、成功するで…報酬5倍」
「……け、剣術クラブのトーナメント予想もあるけど、その、エイデン先輩が、強いからって。みんな、そっちの方を賭けてた」
(これが、シャルの言ってたトラブル……?)
「仕込み、とあるね。これは?」
「そ、それは…その」
「もしかして…失敗するように、何かを仕掛けた?」
みるみるヴァイカの表情が変わっていく。
「ち、違う!俺は知らない!それは……一部の関係者の奴らがやってて!なんか、番狂わせを起こすための仕込みをするって!それでも報酬が発生するって、聞いたことがある!!」
「報酬……?お前達、そんなことを…!」
「クオンタ公子」
「カシオス様……!こいつらは神聖な御前儀式を賭けの対象にした挙句、仕込みをして失敗するように仕向けていたということでしょう?!」
「ごめんなさい!!俺、ホントにそこまでしか知らなくて!!」
「これは武に携わる官として許せません…!!侮辱と何が違うと…!」
「落ち着け。……君が冷静さを欠いたら、僕が怒れないだろう」
「カシオス様……し、失礼しました」
す、とカシオスが立ち上がると、ヴァイカは小さく身体を縮こませた。
「ひっ……」
「【賭けの売人】、【報酬の回収と配布係】、【番狂わせの実行係】、で、マスターが【賭けのプレゼンター】ということか?……その他にどんな仕事がある?」
「わ、わかりませんっ。でも……マスターは、マスターも【あの方】って言ってたから…っ」
「あの方?」
(……さらに上がいて、それが)
「【温室でしか生きられぬ名ばかりの盾】……なるほど。レイル」
「はい」
「薔薇の公子に連絡を」
どうやら…もう一度セフィールと話をしてみる価値はありそうだ。
読んでいただきありがとうございました!精進します!




