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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第9章 人生、一に努力で二に勝負!そのほかは……恋?!

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第103話 そして、本番


「ねえ、みてみてシャルちゃん!今日の新聞の一面」

「……ククナってば」


そこにはでかでかと羽根つき帽子に黒コートの騎士の姿が描かれている。

カメラがそこまで普及していないこともあって、基本的に新聞の見出しや生地は手書きの絵が描かれていることが多い。そして、この薔薇の騎士様も――物凄い美形に書かれているじゃない。


「素敵だよね!ロゼネイ様。ナイフでスパッと一発ぶちのめす姿はとってもカッコいい」

「クークーナ!」

「うふふ……」


そして、声を潜めた。


「大活躍だね、シャルちゃん。……幸い、誰にもバレてないみたい」

「もう……からかわないでよ」

「ちゃんと試合見に行ったよ?……女性のファン、多かったなあ」

「……そうなの?」

「うん。知ってる?最近はやりのロマン小説と設定が似てる!って界隈じゃあ、大騒ぎよ?」

「ロマン小説……」

「読んでみる?」

「………」


(別に意識したつもりないけど、どうやら、世間への話題提供としては抜群の効果みたい)


同時に進行されている、剣術クラブのトーナメント戦も…ケディは順調に勝ち続けているらしい。

剣術クラブトーナメント戦の優勝者は、最終日にあるコロッセウムの剣術大会の出場権の獲得と、カシオスとの親善試合がある


「それより、ケディの方も気になるな」

「やっぱり、興味ある?カシオス様と親善試合もあるんだよね」

「うん!私の出番は午後からだし、みれなくはない、けどな」


あの二人の戦いというのはとても興味深い。カシオス様も相当強いみたいだし……どんな戦いになるんだろう?と、純粋に見てみたいのである。

けれども、ククナはなんとも言えない表情をしていた。


「うーん……行ったら行ったで大変な目に合うかも」

「え?」

「だって、シャルちゃん。どっちを応援するの?」

「応援……しなくても二人とも強いじゃない?しかも模擬戦だし……」

「……私は、お勧めしないかなあ」

「??」


何が言いたいんだろう?と思いつつも、実は半分諦めている。

この「グラン・トゥルノワ」自体、国王陛下の御前でそれを披露し、国の繁栄を願って行う儀式的武術の一つでもある。

これから私が挑む弓術クラブの演目「花撃ち」は、大・中・小の花瓶に生けてある花を、一輪とも散らさずに打ち抜いて花瓶を割るというもの。それこそ陛下の御前演技の一つなので、服装も普通の制服ではなくちゃんとした礼装を着ることになる。

礼装は、学院でも王の御前に立つとき着用する白い制服のことで、飾りも多いし男女問わず制帽を被るので、視界が少し狭くなるし、着替えるのも大変。

ただ、一部の女性たちは例えばケディとか……見目麗しい男子の正装を見ることがひそかな楽しみだったりするのだ。今回はカシオスもいるわけで、ギャラリーは相当だろうなあと思う。


(物理的に見れないかもね…)


「あ、そろそろ行かないと」

「うん!行ってらっしゃい、シャルちゃん!応援しに行くね!」

「ありがと!」


よし、そんなことより集中集中。

着替えを済ませて会場のある演舞場に向かっていく。

演舞場は、グラン・トゥルノワ期間中、東と西と競技場を完全に分割させている。私がこれから行くのは西側の競技場なんだけど、剣術クラブの本戦が行われている東側の小競技場には、なんというか…セミのように壁に張り付いて何かを見守る女子の軍団を見つけた。

これは、もしかしなくても。


「ねえねえ。見て、ケディック様の正装姿……」

「今日は髪を縛ってらっしゃる……精悍なお顔だわ」


これが恐らくフォーレのファンだったら「頑張って!」とか声援が飛ぶんだろうけど。ケディは公平平等を絵にしたような人付き合いをするらしく、ファンもそれを知ってかあまり騒がないらしい。


(うーん…ファンってすごいよね。で、ケディは…っと)


窓の横に張り付いて、きょろきょろと何かを探しているみたい。

あ、目が遭った。…と、思ったとたん、パッと笑顔になり、こちらに向かって全速力で走ってきた。


「シャル!」

「あ……ケディ。決勝おめでと!」


うわ、ファンたちの視線が痛い。

しかしこう、改めて見ると、美形の正装姿っていうのは王子様とかとは違う、そこにしかない養分みたいなものがあるのよね。

普段の制服は紺色だけど、正装は男女ともに白い生地。

どちらかというと、騎士の正装っぽくて金属の飾りや肩章やなんかがもう、乙女心がくすぐられてしまう…!


(おお…モデルのようだわ)


「よかった!決勝前に会いたかったんだ!」


あ、つい見とれてしまった。


「ええと、どうしてまた?ケディなら全然勝てる相手でしょ?」

「そうは言ってもさ…それ勝ったら今度、カシオスとも模擬戦あるし」

「あ、そっちに緊張してるってことは、勝利する前提なのね……」

「ん。僕は負けないよ」


普通なら、そんな堂々と…嗜めるかもしれないけど、ケディの言う「負けない」は、自信と確信から来るものだろう。


「でもさ」

「ん?」


被っていた帽子を少し深めにして、こそっと言う。


「万が一、ってあるだろ?ちょっとね…こう、今回はいつもと違うから」

「いつもと違う…?」

「そう。……全部勝利したら、一つ決めてることがあるんだ。だから、負けられない」

「ケディ…」


なんだか、珍しい。

何かこう、励ましてあげたいところだけど…あ、そうだ。


「私もこれから、花撃ちがあるんだ」

「あ…シャル、頑張ってたもんな」

「うん、だから……」


すっと帽子を外すと、そのままケディに渡した。

予想外過ぎたのか、ケディは目を真ん丸にしてこっちを見てる。


「はい、これ。貸してあげる」

「え……」

「この制帽、フリーサイズだよね?デザイン同じだし…」

「ちょ、ちょっと待って。え……し、シャルの方は?」

「ん?ケディの貸して?」

「ぼ、僕のは…汗臭い、かもよっ?」


クンクン自分の帽子の匂いを嗅ぐのは…なんだろう、レトリバー系を彷彿とさせる。

思わず撫でてしまいたくなるけど…ダメダメ、相手は男の子…。


「どうせ私もそうなるし、同じよ。ほんとは美しいハンカチでもあればいいんだけど…他に貸せるものないし。帽子が変われば、気分も変わるじゃない?」

「そ、そう…だけど」


言いながら、徐々に顔が赤くなって…耳まで赤い。


「嬉しい…あ、いや!その、ま、負けない気がしてきた!」

「そう?あ、そろそろ行かないと。ハイ、ケディの貸して?」

「うん……」


ばたばたと帽子を手ではたいて、渡してくれる辺り、ケディらしいというかなんというか。


「あ、ちょっと大きいかも?ケディの方は?」

「え?!あ、全然!この締め付けさえなんか……」


少し間が空いて、なぜか真っ赤になってケディはせき込んだ。


「ちょっと…大丈夫?」

「い、息ができなくなるかと思った…っ」

「しっかりしてよ?あ、そろそろ行かないと。後で返しに行くから!」

「う、うん、待ってる!僕…待ってるから」


あ、そう言えば…こんなことして、ケディのファンの子たちは…!

嫌な気分になったかな、と思ったけど。様子が違った。


「尊い……お可愛いですわ…っ」

「目が癒されましたわ……」


(……う、うん。ケディも、まあ普段絶対あんなに表情崩れないんだろうしなあ……)


ここは幼馴染の特権と言うか、特効と言うか。


「よし、行くか!」


そう言って、踵を返す。

弓術部の方に行くと、リオドール部長を筆頭に、普段は見かけないメンバーの部員たちがずらりと並んでいた。


「あ、リッハシャルさん」

「少し遅れてしまいましたね……あ、皆さま、お揃いで」


おっと、微妙な空気。

何と言うか、珍獣でも見るような感じ?すると、案の定普段来ないメンバーでもリーダー格っぽい男子が、私のことを上から下までなめるように見つめてきた。


(ヤな感じ)


「あー…部長、大丈夫なの?いくら人手がないからってさ……」

「ルドヴィガ令嬢は、腕は確かですよ」

「へえ?ティーポットより重い物持ったことあるの?女性はお茶でも飲んで」

「先輩、壁側にそのままいてくださいね」

「え?」

「距離20、風はなし、と」


瞬間。男の耳の右側一ミリを狙って私は弓を射る。

スパン!!と気持ちの良い音を立て、矢は壁に突き刺さった。


「え……」

「あ!やった!無事ピアスが取れましたね、先輩」

「ぴ、ぴあすっ!?」

「正装時、装身具は不躾ですわ。あ、何なら反対側もこの弓でお取りしましょうか?」

「ちょ…り、リッハシャルさん」

「あら部長。先輩ったら、この私にティーポット以上重いものを持ったことがないんじゃねぇのか、って心配して下さってやがるんです。だから心配ご無用ですわ、とお伝えしたまでです」


そうよ、侮辱以外何物でもないじゃない。


「だ、だからって!普通人に向けて弓をっ」

「まあ……弓は動く生物を撃ってこそが真髄。動かぬ的程つまらぬものはないじゃぁありませんか」

「な……!」

「それに私は人など狙っていません。人の耳の右側一ミリを狙ったまでですわ」

「ぐっ…」

「も、もう、そこまで。アグレス君!君の弓の腕は確かに強いけど、花撃ちは繊細で正確な射が必要だ。君のように、数えるくらいしか顔を出さずに、練習していない人に任せられるものじゃない」

「で、でも!!」


(ふうん…この人、弓の腕はあるんだ。まあ……見た目はアレだけど、確かに腕の筋肉も、手のタコも弓を触っていない人の手じゃない)


「今回は…君に任せるよ、ルドヴィガ」

「承知いたしましたわ」

「時間まで少しある……弓の調整でもしておいて。矢の数は10本と決まっているから」

「わかりました」


とは言ったものの。

あのアグレスとやら、すごく私のことを睨んでる。


(何事もなければいいけど)


まあ、何事を起こしたのは私でもあるけど、先に手を出したのはあちらだもの。

そう思っていたけど……事件は、起こってしまった。



読んでいただいてありがとうございました。ケディはレトリバー、カシオスはボルゾイ、フォーレはボーダーコリー、セフィールは…アフガンハウンドとか?なイメージです

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