第101話 過去の因縁
(へえ。……結構色々な人がいるんだ)
その日、私が公約通り訪れた闘技場の控室では、複数の人がすでに待機していた。
遂にやって来た「グラン・トゥルノワ」剣術大会の予選初日!
…だけど、わくわくと言うか、どちらかというと緊張の方が強い。
男装だし?初出場だし?バレたらやばいよね、とか。
(心配事も多いけど…まあ、何とかなるわ)
闘技場は大きなステージ上の舞台で各2試合ずつ、時間制限も15分と決まっている。予選だけで三日もかかるらしく、最終日は夜に行われ、決勝戦はオールデイズ開催されるらしい。
この大会、基本は15歳~20歳以下の若者限定で行われているんだけど、一次審査を通った総勢120名ほどでトーナメント戦を繰り広げられていく。
一次審査と言うのは、要するに貴族の承認を得たという証明ができた人。
去年まで参加の多かった身分のない子供たちは、チャンスを潰された、と思う子供も多いかもしれないな。
(…この大会自体、キナ臭くはあるしね)
私は、テーブルの上に置いてあった新聞をパシン、と投げつける。
【ついに開催!今後の勝利を予想しよう!】と、大見出しにでかでかと乗っている。
「何が勝利予想よ、馬鹿みたい」
先日、セフィール様に聞いた話。
「…言うべきか、迷ったけれど…実は、この大会自体去年とはまるで違うものになってしまっている」
「違うもの?」
「元々、慈善事業として先代閣下が出資を始めたのだけど、そう言う慈善事業的な側面は失われた」
「慈善…ですか」
身分のない腕の立つ子にチャンスを、ってことかな?
正直、十分それで胡散臭いと思ってしまうけど。そう言う問題ではないんだろう。
「去年までヴァラモ公爵家が大会の広告や出資を3割くらいになっていたが、去年まで公爵閣下に献身だった会計士が突然退職を申し出た…結果、今大会は出資の7割まで倍増してる」
「7割って…それに退職?!」
大貴族に務める会計士となると、普通の人では務まらない。
かわりの人材を見つけるのだって、そんなに簡単ではない。だから、うちのルドヴィガもそうだけど、そう言う会計担当の人には通常の1・5倍の報酬にしている。
それなのに。
「急に…?何か理由でも?」
私がそう聞くと、彼は少し目を伏せた。
「……問題は彼が辞めた事ではなくて、その後任だ」
明らかに話題を変えたところを見ると、ワケアリなんだろう。
失踪とかそう言う…ハプニングに見舞われたってこと?
「後任?」
「…公爵は、幼い子供をどこからか連れてきては、信じられないくらいの額を投資して教育し、自分の側近にする―――そんな、特殊な指向をお持ちでね」
「……え?」
その言葉を聞いて、ゾッとした。
私の様子よほどがおかしかったのか、セフィール様が戸惑うような、見たこともない表情をした。
「……シャル?」
「………私の継母だった人間が、ヴァラモの花だったお話をしましたね」
「ああ、聞いた…けど」
「私は一度、その継母の部下に誘拐されそうになったことがあるんです」
「!!……それは、まさか」
今でも、思い出したら寒気がする。
無力な子供だった私は抵抗できず、まるで物みたいに担ぎ上げられ、薬草と一緒に麻の袋に詰め込まれた。
(あの時、狭い中で嗅いだ薬草の匂いは…ちょっと忘れられない)
だからこそ、私は強くなる決心をしたんだ。
「大丈夫、未遂で終わりました。だけど…どこかで間違ったら、セフィール様とは別の形でお会いしていたかもしれませ…」
すると、彼は口元に手を抑え、再び目を伏せた。
「すまない」
「あの…?」
「言わなければ良かった」
「……言ってください。何か、それ以外にもあるんですか?」
「……ラウ・サージェントという男」
「!!」
そんな名前、しばらく忘れていた。
でもその名を聞いたとたん、言いようもない不快感が胸に込みあがる。
「それが、今の公爵の側近で…現在の会計士の地位にいる」
「……その言い方、その人が過去何をしていた人かご存じですね?」
「ああ。……彼は子供の頃に拾われ、育て上げられた公爵の右腕にまで上り詰めた男。公爵に【後見人】の名目で子供を連れてくる、仲介人だ」
「そいつ、継母の愛人でした。その時の一件で継母は追放という形になるんですが、同時期にそいつも失踪しました。それが、こんなふうに再登場するなんて」
「シャル……」
「続けてください」
毒を吐かずにはいられない。
あの時は、運命ガチャのおかげで助かった。まさかそれさえも……神様共の計画の内だったってこと?
「……奴が会計士になった途端、剣術大会のルールは変更がされたし、貴族の承認も必要になった。それに景品も豪華になっただろう?」
「はい。…身分がなくても参加できる平等性はなくなりましたね」
実際、貴族とヴァラモ公爵家なんて組み合わせが健全なわけがない。
…セフィール様には言えないけれど。
「後ろ盾が明確になることで……どの家門が誰を支持しているかわかりやすくなってしまった。それで流行りだしたゲームがある」
「ゲーム…?」
「勝敗を賭けるカードゲーム」
「え?!」
「それを公然と世間に公表しているのが……その男だ。気を付けて」
(……【運命賭博】あの男は、かつて私にそう言った)
ええと、ギャン狂だっけ?
ギャンブル狂信者な奴が会計士ですって?しかもそれを雇ったのが、ヴァラモ公爵閣下本人だと。
「お時間です。第一試合の方は入場ください」
(ふ。終わってる……)
「ぶっ飛ばす方が…世の為人の為よね」
――この衣装もあるしね。立ち上がると、実感する。
ククナが夜なべをして作ってくれた衣装、実は相当すごいのだ。
「すごいね、ククナ!この衣装、ちゃんと実践用にできてるみたい!」
「うん!知ってる?うちの学院にも戦闘用制服ってあるでしょ?それをモチーフにしたのよ?」
「あ、うん。女性はないけど…男性の儀礼戦闘用制服ってのがあるね」
エストランテ学院は、軍事訓練学校の側面もある。
特に3学年目になると、男性のみの軍事式訓練みたいなものも導入されていて、それ用の制服も用意されている。
「でも、そんなものどこで??」
「うん、ヴィレンツェ公子様にお借りしたわ!」
「え?!!ルウト先輩??」
ルウト=ヴィレンツェ公子様は、数少ないエイデン兄弟の理解者(?)で、仲の良い幼馴染らしい。
一度だけ、顔を合わせて話したことがある。
(ええっと、確か、ククナにファーストダンスを申し込んだ方だよね?)
「よ。よく貸してくれたね…」
「うん、相談したら快くどうぞ!って」
「へえぇ……」
あれ。これはもしや…もしかするとなのだろうか。
「いい人だよね!!ちゃんと名前は覚えたわ!」
「あ……うん」
そう言えば…デビュタントの時も、名前忘れてたよね、ククナ。
(どんまい、ルウト先輩)
「しかもね、話をしたら、ダイアナ様が資金援助してくれたの!!」
「え?!叔母様?!」
「これでも文通友達なのよ?」
(情報量多すぎっ)
ああ、叔母様の高笑いが聞こえてきそう。
そんなククナの愛と真心と、ダイアナ叔母様の容赦のない資金が詰まったこの衣装、そんじょそこらの鎧なんかとは比べ物にならない。
生地は軽くて丈夫で、「流浪の騎士」と言うにふさわしい長めのマントとダークコートに、羽根つき帽子なんて……ちょっと恥ずかしくもあるけど。
(よし!!身体も軽く感じる。それに、身体だって。機能性と機動性はばっちり!)
重々しい音を立てて開かれた扉を一歩踏み出しても、全然身体がスムーズに動く。
「お前が対戦相手?」
「……」
さて、対戦相手は身長は私より大きくて、身体も大きいスキンヘッドの男。
「へへ…殺さないように気をつけないと、おめえ細っちい」
にやりと笑った顔は、いかにも柄が悪くて……顔が。
(おっさん……何こいつ。ほんとに20歳以下なの??)
いや、老け顔もいるか…とか考えていると、戦いの開始の合図の太鼓が鳴った。
勝利条件は、名入りタグのペンダントを搔っ切るか、胸元の家門のフラグを破れば勝利…なら!
「おりゃあああ!!!」
「!」
あれ?
踏み出そうとするついでにすっと避けると、そいつは重たすぎる剣のせいでよろけた。そのまま柄のままの剣を足元に出すと、躓いて転んでしまった。
ドスン、と転げううとうめき声をあげる男。
嘘。もう終わり…?という目で審判を見ると、そいつは明らかに動揺した様子で、こう告げた。
「む、無効!」
「……なぜ?」
「あなたは剣を抜いてません!よって……む、無効です!!」
「ふうん……」
ちらりと相手側の家門の旗を見る。
(ここは…王室に武官を輩出しまくってる有名な子爵家だ。ああ、なるほど)
「く、くそ!!剣を抜け!!」
「……負けたことがないんだね」
すらりと剣を抜き放ち、身長差を利用してそいつの懐に飛び込んだ。そして――一閃。
きらりと剣筋が光り、シルバータグと胸元のをフラグを真っ二つして見せた。
「あ」
間抜けな声が審判と対戦相手両方から聞こえた頃、私は剣をしまう。
「審判……何か不都合でも?ほら。コール」
「う、し 勝者…… ロゼネイ=グラント!!」
ばっとセルリア王家の旗が持ち上げられる。
(セルリア、ねえ)
わっと歓声が上がる。
こんな予選の初戦で、しかも出場者は無名な連中。
観客などいるはずもないだろうな、と思っていたのに…意外と人が多くて、この大会の注目度がわかる。
「よっしゃ!!俺の勝ち!!」
「!」
ひとり、はしゃいでいる声が聞こえたので、そちらを見ると……そこには、イリシユ=セルリア姿があった。
(うわ、暇人…あいつ、何してんの?)
イリシユに、ラウに、ヴァラモ公爵に、セルリア王家。
私にとっての「不快な奴」が見事にそろっているなんて。
「これは、負けられないね…!」
私は手ごたえと同時に、勝利を願い、こぶしを握り締めた。
読んでいただきありがとうございます!100超えました!ちゃんと完結できるので、よろしくお願いします。




