番外編 〜七夕の日の奇跡〜
今日は七月七日。世に言う七夕の日。
これは、本編の10年前。結希と颯真が七歳の頃のお話です。この日に起こった出来事を、本編の結希は忘れています。
※幼い頃の結希なので、雰囲気がちょっと違うかもしれません。キャラ崩壊にご注意ください。
「ねぇねぇ、颯真くん。今日は七夕の日なんだって!織姫さまと彦星さま、無事に会えるかな?」
「あーそういえば。もうそんな時期なんだね」
颯真くんは読んでいた難しそうな本から顔を上げると、イベントにワクワクしている結希に涼やかに微笑だ。
「けど、僕はイマイチ彦星さまが信じられないんだよね」
「え?どうして?」
「僕は好きな人のそばから、絶対に片時も離れたりしないから」
まっすぐに結希を見る颯真の瞳に、自分に向かって言われた言葉でもないのにドキドキしてしまう。
赤くなった顔を見られたくなくて、顔を背けて口をまごつかせる。
「けどさ、どーしても離れなきゃいけない時とかってあると思うの」
申し訳程度に彦星さまをフォローすると、颯真が結希に顔を近づけ囁いた。
「へー。結希ちゃんは、僕じゃなくて彦星さまの味方をするんだ?」
「い、いや、そんなわけじゃ……」
近すぎる距離に戸惑いながらも、冷ややかな声を発する颯真に頭の中で警報がなる。こうなった颯真に、変に刺激を与えてはいけないのだ。
慌てて手を振り、苦しい笑顔を颯真に向ける。
「わ、わたしは颯真くんの味方だよ!
……でも、ちょっと彦星さまの気持ちもわかるなーっていうか。好きだからこそ、一度離れなきゃいけない時もあるんじゃないかなーと」
「……ふーん」
面白くなさそうに唇を尖らせ、小さな声で颯真が呟いた。
「……結希ちゃんも、僕からはなれていっちゃうのかな?」
「ーーん?何かいった?颯真くん」
小さな颯真の声は、窓に掛けられた風鈴の音にかき消されて、結希の耳には届かなかった。
見ると颯真はいつもの爽やかな笑顔に戻っていた。
「なんでも。どっちにしろ離さないし」
「え?話さない?」
よく聞き取れなくて聞き返しても、颯真は笑って教えてくれなかった。
(颯真くん、変なのーー)
そう思って、結希は窓から青空を眺めた。風鈴が軽やかに音を奏でている。
夜はまだだが、星空が見られると思うと今から楽しみだった。
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「あっ!!夜に食べようと思ってた”ガ○ガ○くん”のアイスがない!」
七夕が楽しみなのと同じくらい、星空を見ながらのアイスを楽しみにしていた結希は失望に暮れる。
そんな悲壮な顔をした結希に、颯真が二冊目に突入していた本から顔を上げた。
「僕が買ってこようか?」
優しくもそう申し出てくれる颯真に、いやいやと首をふる。
「そんな申しわけないし、わたし買ってくる!」
「僕も一緒に行くよ」
「……う、ううん、駄菓子屋さんすぐそこだし。お母さんと一緒に行ってくるよ!」
「そう?」
「うん!」
なおも心配そうな目を向ける過保護な颯真に笑顔を向けて部屋を出る。本当は一人だけど、たまにはいいだろとつづくあぜ道を歩く。
颯真のことは大好きだが、たまには一人になりたいこともあるのだ。
(これが大人、ってやつか……)
アホなことを考えながら先へ進む。道は両サイドを田んぼで挟まれているため、日を浴びた土と葉の匂いがする。肺いっぱいに新鮮な空気をすいこむと、全てを吐き出して、ゆっくり深呼吸する。
「あー、気持ちいい」
目前にまで迫った駄菓子屋に心も弾む。いつ来ても駄菓子屋は楽しい。
いつものおばあちゃんいるかなー、とるんるんでお店に入ると先客がいた。
練りあめやイカの干したもの、小さなかわいらしいお菓子たちが並ぶ前に同じくらいの歳の男の子がいた。けれど、近所に住む子じゃない。見たことのない顔の子だった。
一瞬目があったがすぐに外される。結希もあんまり見るのも失礼かと思いすぐに視線を外して、自分の目的のものを探す。
「結希ちゃん、よく来たね〜」
「おばあちゃんこんにちはー」
駄菓子屋の、今も現役の元気なおばあちゃんに挨拶をして、いつもアイスが置かれている一角まで行く。
ケースのふたを引いたところで結希の手が止まった。
(ない!!あれだけ楽しみにしていた、わたしのガ○ガ○くんがない!!!)
ふたの取っ手を握ったまま震え出しそうな手を、もう片方の手で押さえる。
(おちつけ、わたし。もしかしたら、他のアイスに隠れているだけで、本当はご機嫌麗しく底に鎮座しているのかもしれない)
息を整えて、そのまま自分が入ってしまいそうなほどアイスのケースに顔を突っ込む。
しかし、どこを探してもパッケージの青と坊主小僧の影も形も見当たらない。
終わった、、、、、。
「ガ○ガ○くんーーー!」
思わず悲痛な声でそう叫ぶと、結希に向かって先ほどの少年が近づいてきた。
「あ、すみませ……」
うるさかったかと思い、謝罪を口に仕掛けたところで結希の声が止まった。
だって、先ほどから胡乱な目で見つめつつも、青いパッケージに坊主小僧の絵が描かれたアイスを少年が結希に差し出しているから。
「え?」
固まっていると、少年が結希に押し付けるようにそのアイスを渡す。
「それ、ほしかったんだろ」
「あ、でも……」
「やるよ」
少年はそれだけ言うと、他のアイスを購入して駄菓子屋を出て行った。
その様子をポカーンと見送ったあとで、手元を見る。そこにはやはり結希が欲しかったガ○ガ○くんがあった。
「よかったね〜」
おばあちゃんがにこやかに言う声で我にかえる。
「あ、お礼言ってない!」
急いで外を覗くも少年の姿はどこにもない。
結希はしょうがないと、レジに行き、お小遣いでもらった小銭を払おうとするとおばあちゃんがそれを遮った。
「さっきの男の子が払っていったからいいよ」
「はい?」
つまりは、少年がガ○ガ○くんを購入した後に結希が訪れ叫び、それを聞いた少年が自分が購入したアイスを無償で結希に譲ってくれ、自分は他のアイスを再度購入し帰った。ということだった。
「なんてこったーー」
(嬉しいが、この上なく申し訳ない)
謝罪かお礼をさせてほしい。
そう思って結希はおばあちゃんに先ほどの少年のことを聞いた。
「あばあちゃん、いまの男の子見たことない子だったけど、どこの子かわかる?」
「あー、あの子はここいらの子じゃないからね〜。夏になるとたまにここに来るんだよ。おばあちゃんかおじいちゃんの家がここらにあるんでないかね〜」
「なるほど」
探偵よろしく結希は頷く。つまり祖父母の家に墓参りの準備も兼ねて来ているのだろう。この地域のお盆は早いし。
しかし、おばあちゃんもそれ以上は知らないようだった。
そこで結希はその日から颯真に不審に思われながらも、幾度か駄菓子屋に来て少年が来ないか、影を探した。
けれど、それからいくら探しても、店で待ってみても少年が現れることはなかった。
今日もまた駄菓子屋の前でしゃがみ込む結希に、颯真が呆れ顔を見せる。
「もうその子、この街にはいないんじゃないかな?」
「そーだよね」
歯でガ○ガ○くんの残骸の棒を噛みながら、吸い込まれそうなほどの青空を眺める。
「お礼くらい、いいたかったのになー」
結希は白銀の髪の少年を思い出しながら、そう呟いた。
七夕に起こった、一日だけの奇跡。
いつも通り本編をupしようと思ってたのに、そういえば明日七夕じゃね?→なんかそういう系の話書いてみるか〜→思いつきだけで書いているので気づくと深夜→あ、やべ→現在一時半です笑(そもそも、書き始めたのが遅い時間帯でしたが)
けど、すごく楽しく書けたから満足!
意外と長くなりましたが、読んで頂けると幸いです。みんな、七夕楽しんで!




