表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/64

一触即発


 ーー予想外の事態だな。


 白銀の毛が風にたなびく中、ぞろぞろと城から出てくる兵士たちを睨みつけ、威嚇する。


「キール」

「まだだ」

 

 傍らで同じく人間達を睨みつけている、昔からの知り合いを制止する。今にも食って掛かりそうな彼の気持ちもわかるが、今はまだだ。


「どうして兵士がこんなにも城に残っている。皆西方の街へ出たのではなかったのか」


 焦るような隣の声に、キールも顔をしかめた。

その筈、だったのだ。結希がさらわれてから、すぐに他のウヴェーリ達に声をかけた。人間のために手を貸すなんてと反発する者も多くいたが、村での襲撃の生き残りのウヴェーリ達も結希を庇ってくれ、少数でも協力を得ることができた。この中には人間達との共生の日々を忘れられず、一縷の望みを抱いているもの、ウヴェーリ迫害の元凶であるエドガルを倒そうとするものなどがいる。それぞれの目的は違えど、こうやって集まってくれた。

 最低限の数はそろえても、敵の兵が多すぎるのでは話しにならない。そのため、西方で噂を流してもらったのだ。人里近くで人間にわざと姿を見せたりもした。これには人間であるアンナも一役買ってくれ、種をおおいに撒いてくれた。人間であるアンナが、まさかウヴェーリに有利となる情報を流すなんて普通は考えない、人間達は見事に食いついてくれた。そして、城が空になったところで、結希を救い出す予定だった、が……。


「三割ほどの兵が戻ってくるなんて、予想外だったな。ウルスタの皇帝陛下は、どうやら頭の切れるお方のようだ」

「ああ、けれどそのおかげで――」

 

 横からの茶化すような声に答える。こんな状況でも、軽口を叩けるところは、昔から変わらずだ。再度、城を睨み据える。持っているすべての憎悪と嫌悪をぶつけるように――。


リアーナ、彼女を殺したのはエドガル、奴なのだから。


「――やっと会える」


 黒衣に身を包む、真っ黒な影を捉える。この国の闇のような姿に、片方の口角が嫌悪に引きつる。


「その涼しげな顔を、胴体から切り離してやる」


 久方振りに見たエドガルの表情には、幼き日の面影は見られなかった。



++++++++++++++++++++++++++++++



 女人の後を足早に追いかける。正面へと続く道は兵士達が多く、他の道から外へと出ることになった。長い回廊を過ぎた先にある、人一人がようやく通れるほどの細い道に女人が体を滑り込ませる。


「こんなところに道が……?」


 思わずついて出た言葉に、女人が答える。


「ここは、いざという時の避難口なのですよ。本来この道は王族の方が城の外へと逃げる際に使うものなので、使用人は通らないのですが、非常事態ですからね」


 不敵に笑う女人に心強く思っていると、一つ不思議に思った。


「けれど、そういう道って使用人の方が知っているものなんですか?」


 自分の拙い知識では何とも言えないが、そういった王族だけが使うような道を、ただの使用人が知っているとは思えなかった。


「昔、リアーナ様が城から抜け出す時に使っていたのを見ていましたから」

「……」


リアーナ様ってもしかして、結構なお転婆だったのかもしれない。


「あ、もう着きますよ」


 道の先に見える光を指して女人が言う。リアーナ様がどんな人だったのか想像していたが、光に意識が持って行かれる。

 胸に手を当てる。鼓動が速い、冷たい汗が伝い落ちた。こんな、なんでもないただの人間の自分が、この長く続く争いを止められるだろうか。

 前を歩く女人が不意に立ち止まり、振り返った。


「今なら、まだ引き返すことができますよ」

「……」


 結希のようすに気が付いたのだろう。女人が透きとおった真直ぐな瞳で結希を見つめる。女人の気遣いはありがたかったが、ゆっくりと、しかし強く首を横に振った。


「行きます。――必ず、止めてみせます」

「……――」


 強い言葉に、女人は驚いたように目を瞬かせてから、笑みを浮かべた。

 女人の後をさらについて行く。長く続いた細く暗い道から抜ける。そこは城の正面ではなく、側面の壁の抜け穴だった。出た先に人はいない。喧噪から、渦中の場所が城の正面であると特定できる。その場所まで一気に駆ける。喧噪を頼りに角を曲がると、城の正面が見えた。そこにいたのは、別れたのが随分前のことのように思える白銀のウヴェーリと、その眼前に立つ漆黒の人間だった。


「キール、エドガル」


 名前が口をついて出る。二人は睨みあっていて、結希には気が付いていないようだった。二人に従う、人間、ウヴェーリのどちらも同じように睨みあって動かない。まさに、一触即発の状態だった。


「辞めさせないと」


 結希が足を踏み出そうとすると、ここまで連れて来てくれた女人に手を引かれる。女人の瞳は揺れていた。


「この中を、行くのですか?」


 彼女の視線は城の正面中央、憎悪に渦巻くたくさんの目がある場所に向けられていた。先ほどまでは協力的であったのに、いざ人間とウヴェーリの眼差しを見ると、無理だと感じたのだろう、女人が不安げな顔をする。結希は彼女の手を握り返した。


「正直なところを言えば、私もものすごく不安です。でも、大丈夫」

「どうしてそんなふうに言えるのですか?」


 わからないと女人が首をふる。今度は結希が不敵に笑んだ。


「エドガルもキールも、本当は優しいひと達だってこと、知ってますから」

「……」


 押し黙った女人の手が弛む。彼女の手をそっと外して、結希は鋭い視線が渦巻く渦中へ足を踏み出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ