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襲撃

 

 日が落ちてきていた。エドガルの顔が影になってよく見えない。動揺を押し殺して、エドガルの顔を見る。


「そ、そんなはずないよ。キールが、そんな――」

「結希、あなたはウヴェーリが人間を襲うことはないと、断言できますか?」

「……」


 言葉が出てこなかった。確かに、ウヴェーリが人間を襲うところも見た。けれど――。


「けど、それは人間がウヴェーリの村を襲ったからで……」

「それ以前に、彼らの家族がウヴェーリに殺されていたとしたら?」

「……―――」

 

 なにも言い返せなかった。

 それでは堂々巡りで、いつまでたってもこの争いは終わらないことになるではないか。それこそ、どちらかが絶えるまで。この場合、人間のほうが絶対数が圧倒的に高いため、ウヴェーリが全滅するまでということになるのだろうか。


「――それでも、こんなの」

「おかしい、ですか?しかし、それが現実ですから」

「エドガルはこの国の皇帝なんでしょう?それなら……」

「無理です。十年ずっと敵対していたんです。民だってきっと了承しない。それに、わたしだって――許せない。リアーナのためにも、今更許すことなどできない」

「……。けれど、リアーナ、様はこんなことを望むかな?」

「……」

 

 黙りこむエドガルは、きつく目を閉じていた。それはなにかと戦っているように見えた。部屋に静寂が落ちると、外に広がる森の葉が風に揺れる音まで聞こえてきそうだ。


「――?」


 その時、静まった部屋とは対照的に外が騒がしいことに気づく。城の人達のものだろうか、厚い扉越しでも喧噪が聞こえる。エドガルもそれに気付いたのか、素早く立ち上がると、結希を背に扉を窺う。エドガルの右手は、腰に添えられたレイピアのような細く長い剣に触れていた。ばたばたと慌てた足音が部屋の前で止まり、ノックも忘れ、勢いのまま開かれる。


「エドガル様!!」

「どうした?」


 まだ年若い兵士は肩で息をしながら、口早に状況を報告する。


「城の前に、無数のウヴェーリが!!」


「――!!」

「え?」


今、この兵士はウヴェーリと言った?


「どこに隠れ潜んでいたのか。ウヴェーリの数は五十を超えると思われます!対して、こちらは西方ウヴェーリ調査の折に先方だった我々以外のものは未だに帰ってきておらず、今城にいる兵はざっと百」

「百、か……」

「はい。人間の数倍の戦闘力を誇るウヴェーリ相手に、この数では――。それに……」

「どうした?」


 言い澱み、視線をそらす兵士を、エドガルが怪訝な目で窺う。一瞬置いて、兵士は意を決したように口を開いた。


「他の兵の話によりますと、ウヴェーリどもの頭である、キールヴァトロフがいるとの報告が」

「――!!」

「キー、ル?」


 エドガルの目が見開かれる。結希は無意識にその名を呼んでいた。目に涙が溜まっていく。


(助けに、来てくれたんだ)


「――!?」

 

 目を閉じる。急な痛みに悲鳴を上げそうになった。気が付いて見れば、エドガルが結希の腕を鬱血しそうなほどの力でつかんでいた。


「え、エドガ――」

「次は絶対に、傷つけさせない」

「……」


 昏い瞳に、強い決意だけが宿っている。強い言葉に、結希はなんの反応もできず、彼の瞳に吸い寄せられる。次こそは失敗しないという思いだけが、彼を立たせていた。自分の手元を見て、エドガルは我にかえったようにはっと結希の腕を放すと、背を向ける。


「あなたはここにいてください。絶対に、ここから出ないで」


 エドガルが兵と一緒に駆けていく。重厚な扉が勢いよく閉まると、外でガチャガチャと耳触りな音が響いた。つづいて慌ただしくバタバタとした靴音がして、それらが遠ざかっていく。


「ま、待って!私も行かせて!出して、お願い!!!」


 叫んでも、もう誰もいないのかなんの反応もない。


(待って、待って!!)


 焦る気持ちばかりが募る。今のままのキールとエドガルがぶつかればどうなるのか、火を見るよりも明らかだった。


(私は二人を止めたい。二人とも本当は優しいはずなのだ。なにか誤解が、絶対にある)


「だれか、だれか!!お願い、ここから出して!!!」


 扉をたたく。


「――っ」


扉の突起部に握りしめた拳が当たった。痛みで顔がゆがむ。叩いた手がほのかに赤く染まっていた。


(人間もウヴェーリも、もう誰も傷つく姿なんて、見たくない!)


 力いっぱい、扉を叩き、喉がひりつくほど声を上げた時だった。


「結希様!!」


「え?」


 聞いた声だと思ったら、鍵が開けられる音がしてその人が中に入ってきた。

その顔を見た瞬間、結希望は思わず抱き着いていた。


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