第三十四話
ドワーフの兵士であるガルドフがノモマ教団の一員だったらしく、まんまと嵌められた俺たちは集まってくる魔物を片っ端から倒していく。
しかし強制的に魔物を呼び寄せた割にはその数が思っていたよりも少なく、半刻ほどで集まってくる魔物の数は疎らになった。
「──おかしいな……」
「何がですか?」
「いや、何事もないならいいんだが……まぁ、まずは目の前の魔物を全て倒そう」
「はい」
悪い予感はするが、それが何なのかが分からない。
いづれにせよ、集まった魔物は倒さなければドワーフの里へと向かってしまう。
一匹も逃さぬように、確実に倒していく。
そして更に半刻ほど経ち集まってくる魔物が少なくなった頃、その異変に真っ先に気付いたのはコンフラットだった。
「レックス様、あれを──」
コンフラットに言われドワーフの里を見ると、至る所から煙が上がり始めていた。
「おいおい、まさか──」
それを見て全てが繋がる。
ノモマがドワーフの里で何かを企んでいたこと、ここへ集まってくる魔物の数が少なかったこと、その答えがあれだ。
「──急いで戻るぞ、コンフラット!」
「はい!」
ドワーフの里に向かうと、近づくにつれて魔物の数が増えてくる。
最短の道を進むのだが、最低限の道を確保するためにも戦わなくてはならず、突っ切って進むのも難しい。
「ちっ……倒さずに飛ばしていくから、離れずに付いてこいよ」
「──分かりました」
そしてようやくドワーフの里にたどり着いて目の前に現れたのは、里の中にドワーフでは無く魔物が溢れる光景であった。
「コンフラット、まずは状況を確認するぞ──」
「でも、この状況でどうやって……」
「落ち着けコンフラット。故郷が荒らされて動揺するのは分かるが、里のことはお前の方が良く知っているだろうが。こういう時に避難する場所はどこだ?」
「…………恐らく避難しているならば──鉱山です」
「ならまずはそこへ向かおう。なんだ、きっと大丈夫だ。カザフ、いやお前の親父がそんな簡単にくたばるわけないだろ?」
「……はい」
「なら早くそこへ向かおう。きっと助けを待っているはずだ」
「──分かりました。案内します」
コンフラットの案内の元、鉱山へと向かう。
その際にドワーフの里の様子を見るのだが、相当の混乱があったのか様々な物が道端にも散乱しており、建物に破壊痕がある。
「──ッ!」
「諦めろ、コンフラット。彼はもう死んでいる」
魔物に殺される横たわる同胞を見つけコンフラットが立ち止まったのだ。
「ですが──」
「弔うのは全てが終わってからだ。今は一人でも多くの仲間を救う最善を考えろ!」
「……分かりました」
しかしこれだけ多くの魔物が里に侵入している割には、被害が少ない。
そんなことを思いながら鉱山へと向かっていると、二人のドワーフ兵に出くわす。
「コンフラット様! それにレックス様も、ご無事でしたか!」
「ああ、大丈夫だ。それより他の皆んなは無事か?」
「ええ、コンフラット様と共に来た冒険者にも手伝って貰いながら、どうにか避難が完了しております」
「そうか、それは良かった……良かった……」
説明を受けてようやくコンフラットが安堵した表情を見せた。
しかしまだ油断できる状況では無いので、急ぎ鉱山へと歩みを進める。
そして鉱山にたどり着いたその時、入り口で見張りをしていたケイン達に出迎えられた。
「レックスさん! コンフラットさん!」
「ケイン! それに皆も無事か?」
「はい、俺たちは全員無事です。ですが里の方が……」
「ああ、それは今しがた見てきた所だ。想像はつくが、一体何があったのか説明してくれるか?」
「はい……」
ケインに俺が不在の間に起こった出来事を聞いていく。
やはり俺がガルドフが起こしたスタンピートに捕まっている間に、他のノモマ教の信奉者が血色に染まった魔石を使い、里の中で同様のスタンピートを引き起こしたらしい。
「恐らく、最初に現れたノモマ教団の男の体に魔石が埋め込まれていたのだろうな……死体はどうしていたんだ?」
「直ぐに調べよう──」
カザフが遺体を処理した兵を呼び出そうとする。
しかしその兵はどこにもいなかったようで、おそらくノモマ教団の息がかかった者だったのだろう。
「まぁ終わったことは仕方がない。それよりもこの状況をどうやって乗り切るかだ。カザフ、戦える奴はどれくらい残っている?」
「避難を優先させたので、ほとんどの者が無事じゃな」
建物は作り直せるが命は別ということで建物を捨てた選択は、物作りに長けたドワーフの基本的な考え方だが、こと魔物に対しての戦いでは有効だ。
魔物が襲うのはあくまでも生き物に対してであり、建物を悪戯に破壊することはない。
それに気配を覆い隠せる鉱山の中は、その中を自由に行動できるドワーフにとって避難先として申し分無い。
しかしそれも時間の問題だろう。
「皆が無事なことはいいが、このままでは長くは持たないだろう? 戦える者を集めて、里を取り戻そう」
「まぁ待て、レックスよ。先ほどに人の冒険者ギルドへ使いの者を送った所じゃ。じきに救援もくるじゃろうて」
「……いや、それは期待しない方がいい。これだけ計画された動きが、ドワーフの里だけで起こっていると思うか?」
ガルドフが皆に平等に裁きをと言っていたが、それが指すのはおそらく世界の全てに対してだろう。
おそらく王都でも既に混乱が広がっている可能性が高い。
なので今、冒険者ギルドに救援を要請したところで、その救援がやって来るのはいつになるか分からないはずだ。
そのことをカザフに伝えると、ようやく戦う決意を固めてくれた。
「わかった……ならば直ぐに兵に準備をさせようぞ」
「ああ、頼む。俺もそして彼らも協力をしよう」
そう言うとケイン達も頷き、いつでも戦いに出れる意思を示してくれる。
「客人にこんな事を頼むのは申し訳ないが、すまんがよろしく頼む」
「ああ、気にするな。そんなことより、何か武器はないか? ここに来るまでの戦いで俺の剣の消耗が激しくてな」
「それならば──」
カザフが何かを言おうとした時、背後から#ドワーフの王妃__アトラ__#が話しかけてくる。
「レックス様、こちらをお使いになられて下さい」
「アトラ……こんな再会になるとは思っていなかったが、元気そうで何よりだ。それでこれは何だ?」
アトラが持ってきたのは見るからにただならぬ雰囲気を纏った剣である。
「これはドワーフの里に代々伝わり、歴代の長が鍛え続けてきた宝剣です」
「そんな貴重なものを使って良いのか?」
「もちろんです──どうか、ドワーフの里をお救い下さい」
カザフの方も見て確認するが、頷き肯定をしてくれる。
それを見て、俺は剣を手に取った。
「ありがとうアトラ。必ず里を取り戻してくるよ」
この剣がドワーフにとってどれほど貴重な物なのかは知らない。
しかし歴代のドワーフが魂を込めて鍛えてきた業物であり、それを渡すということは、俺にかける信用の証でもあるだろう。
こうしてそれぞれが戦いの準備を整え、そして魔物が蔓延った里の中に向かうのであった。




