第二十二話
再会早々に喧嘩する二人を見ると懐かしい気持ちも薄れるが、とりあえず他の人の目を引き過ぎる二人なのでやめさせる。
「止めないかディア! コンフラット!」
「「はい、すみません!」」
「真似するなディア!」
「真似したのはコンフラットでしょ?」
「はぁ……相変わらずだなお前たち」
一見するだけであれば普通の美男美女の二人であるが、それぞれに種族の特徴がある。
尖った耳をしたエルフのディアと、種族の中では背が高く細身の部類だがガッシリとした体型をしまドワーフのコンフラット。
二人は騎士団にいた頃から事あるごとに喧嘩をしていた。
それは仲がいいのか悪いのかわからなくなるぐらいだ。
お互いに仲の良くない種族ではあるが、若いからという理由もあるのだろう。
「それにしても、何でお前たちがここにいるんだ? 騎士団はどうしたんだ?」
先ほどまで我先に話し始めていた二人だが、今度はお互いに譲り合う。
「ちょ、あなたが言いなさいよ」
「なんで俺が! ディアが言えよ」
「もういい。ディアが説明してくれ」
「……はい」
二人は騎士団を退団して、ここにやってきたらしい。
俺の言いつけを守って残った隊で頑張っていたが、それすらも解体されたので守るべき場所も失ったのだ。
だから俺の指示はそこで意味を無くし、彼らは騎士団を辞める決意をした。
俺も騎士団を離れた以上は騎士団に残り続けろとは言えない。
「そうか……だが、何でここにきた? お前たちには他に帰る場所があるだろう?」
エルフの里とドワーフの里。
種族を重んじ他種族を受け入れない場所ではあるが、彼らなら問題ない。
それに二人の血筋は特別だ。
「いえ、私が忠誠を誓ったのは騎士団ではなくレックス様です! レックス様の命令を守れなくなった以上、レックス様の元に戻るのは当然かと」
「はあ、別に無理しなくても……」
「お前、何を一人で良いように言ってるんだよ。もちろん、俺もレックス様のお役に立ちたい一心です!」
彼らに尻尾があれば間違いなく振っていることが想像に難くないな。
無理に俺に付いてきて貰うつもりはないが、無理に追い返すつもりもない。
「そこまで言うなら……まぁいいが、他の人に迷惑を掛けるなよ」
「「はい!!」」
「ちょっ、真似しないでよ!」
「はあ? お前が──」
「やめろ!」
言った側から喧嘩を始めるので、首根っこを掴んで引き離す。
「「ごめんなさい」」
「俺の言うことを聞けないなら、帰れお前ら」
「「すみません」」
本当に仲が良いのか悪いのか……しかしこうして、俺を慕って訪ねてきてくれるのは嬉しいものだ。
「それでお前たちはこれからどうするつもりなんだ?」
「もちろん、レックス様に付いていきます!」
「それはいいんだが、ということは冒険者になるのか?」
「レックス様は今、冒険者なのですか!? なら私も直ぐに冒険者になってきます!」
「なっ、ずるいぞディア! 俺も冒険者登録してきます!!」
「お、おう」
まったく慌ただしい奴らだ。
しかしそれも懐かしい感じがするな。
そして走っていく二人を見送っていると、買い物途中のレイナに後ろから話しかけられる。
「レックスさん、今のは誰ですか?」
「ん? ああ、レイナか。あいつらは騎士団にいた時の部下だ。これから冒険者登録してくるらしいから、困った時は助けてあげてくれるか?」
「はい……って私に助けられるようなことがあるのでしょうか?」
確かに実力的にはそうかもしれないが、エルフとドワーフの二人が普通の市民に混じって生活するには何かと大変なことも多いだろう。
「まあ基本的には自分たちで何とか出来るだろうが、しっかりとしているレイナが手助けしてくれると彼らも心強いと思うよ」
「そうですか?」
「ああ、レイナがみんなをまとめてくれるから俺も助かってるしな」
「そっか……いえ、そうですね。私、頑張ります!」
こうしてケインたち全員が買い物を終えた頃、再び冒険者ギルドに戻る。
すると冒険者に登録したばかりのディアとコンフラットが、嬉しそうに冒険者カードを見せてきた。
「ほら見てくださいよレックス様!」
「無事に登録出来たみたいだな」
「ええ、何やら揉めていたみたいでしたが、レックス様の名前を出したら一発でした!」
「って、おいおい、なんだよそれは……」
ケインたちに話を聞こうとするも事情がよく分かっていないみたいで、仕方なく呆れた表情でカウンターの方を見るとギルド長のジャンがいた。
そしてこちらの目線に気付くなり慌ててこちらにやってきて小声で話しかけてくる。
「ちょっとレックスさん、彼らは何者ですか? 一応、レックスさんのお知り合いということで特例で冒険者登録はしましたが……」
「特例ってどういうことだ?」
「彼らの前では言いにくいですが、基本的に亜人は冒険者登録出来ないのです。あくまでも冒険者ギルドは人の作った組織ですので……」
「そうだったのか……でも特例では登録出来るんだな?」
「ええ、亜人であっても信頼の置けるのであれば、ギルド長の権限を持ってすれば可能です。レックスさんのお知り合いだったようですし、追い返すことも出来そうになかったので先に冒険者カードを発行しましたが、彼らは一体何者なのですか?」
「騎士団で俺の部下だった奴らだ。それにエルフとドワーフ王家の血筋だから、無下に扱ってたら大変なことになってたかもな」
「ちょっ、それって……」
ジャンは安堵と焦りの入り混じった表情をする。
ディアとコンフラットの二人ならそんなことはしないが、種族差別は亜人にとって神経質な問題だ。
それをその種族の王族が受けたとなれば、戦争が起きてもおかしくはない。
ギルドの事情を知らなかったといえ、二人を勝手に出歩かせるにはやはり色々と問題がありそうだ。
「ディア、コンフラット!」
二人に手招きをして呼び寄せる。
「「はい、何でしょうか?」」
「ジャンが手を回してくれたから良かったが、こらからはなるべく勝手に行動せず、俺の目の届く範囲にいてくれ。あとジャンにもお礼を言っておけよ」
「それって……ずっと側にいろ的な? きゃー、もちろんです!」
「当然です。私はレックス様の剣にも盾にもなりましょう!」
二人はそれぞれ違った意味合いで受け取ってしまった。
「ちがっ……まぁ、いいか」
誤解を解くのも面倒だし、伝えたい部分は伝わったので放っておくことにする。
「えっ? えっ? いいんですか?」
「ああ、放っておけ。いちいち構ってると面倒だ。ジャンもそのうち慣れる」
「慣れるって……ひっ!」
俺と親しげに喋っているからか、ジャンがディアとコンフラットの二人に睨まれる。
「やめろ、お前ら」
「「はい!」」
「ったく……で、冒険者に無事になれたようだが、まだランクは低いだろ? 一緒の依頼は受けられないがどうするんだ?」
「「えっ!?」」
「なんだ、お前らもギルドの仕組みを知らなかったんだな。ジャン、説明をしてやってくれ」
「はい……」
ジャンが二人に、ギルドのランクについて説明をする。
その間に暇なので掲示板に貼られた依頼を見ていく。
「何とかならないんですか! レックス様と同じ依頼を受けられないなら、こんなギルド」
「そうだなディア、こんな横暴なギルドは粛正してしまおう」
ディアとコンフラットの二人が物騒なことを言い出したので、頭を抑えて止める。
「俺は人に迷惑をかけるなと言っただろ?」
「「……すみません」」
「それに今、解決策を見つけたところだ」
「「本当ですか!?」」
「ちょ、ちょっと待ってくださいレックスさん。いくらレックスさんの頼みでも、無理やりランクを上げることはできませんよ?」
ジャンは俺が無理やりランクを上げるよう頼んでくると思ったみたいだ。
だが当然そんなことはしない、
「当たり前だろ。てか俺のことをなんだと思ってるんだ。そうではなくて依頼を達成してしまえばいい」
「こ、これは」
「薬草と鉱石の採集依頼だ。俺はこういうのに疎いから受けようとも思わないが、ディアとコンフラットなら楽勝だろ?」
「はい! というより、これぐらいなら今も持っています」
そう言って二人は収納魔法が掛けられたアイテムバッグから大量の薬草と鉱石を取り出す。
アイテムバッグはその名の通りアイテムを自由に入れて置けるものだ。
俺も騎士団にいた頃は使っていたが、収納魔法を媒介する魔石が貴重なので、かなりの値段がする。
それを個人持ちしているなんて、どれだけの金持ちなのやら。
「これは……全て鑑定するには少し時間が掛かりますがよろしいですか?」
「まぁ、それぐらいは……」
「では失礼します」
どうやら何とかなりそうなので、ジャンが鑑定をしている間にこれから受ける依頼についてディアとコンフラットに話す。
「そんな奴ら私の手にかかれば瞬殺ですよ!」
「当然です。レックス様の手を煩わせるまでもない」
「いや待てお前ら、話は最後まで聞け」
当然、ゴブリンを俺たちが倒そうとすれば直ぐに終わってしまうだろう。
だが今は目的が違う。
ケインたちを成長させることこそが第一なのだ。
なのでその説明をし、ケインたちを二人に紹介する。
「……で彼らがその冒険者たちだ。仲良くするように」
お互いに自己紹介をしつつ、何事も問題なく話を始める。
ケインたちが亜人を差別する奴らではなくて本当に良かった。
そんなこんなで話をしていると、ジャンが鑑定を終えて戻ってくる。
「お待たせしました、レックスさん」
「それでどうだった?」
「量がありすぎて、依頼が掛かっているものかどうかも調べていたので遅くなりましたが、全て本物です」
「「当然!」」
「……それで、ランクはどうなる?」
「昇格は可能です。それもCランクまで……」
「は? なんで……」
ディアとコンフラットが持ってきた素材の中には相当珍しいものもあったらしく、軽く三段階昇格を出来るほどであったらしい。
「なんか、魔物を倒すのが馬鹿らしくなるな……」
「そうですね……」
ケインたちとこれまで頑張ってきた努力が否定された気分になり、遠い目でディアとコンフラットを見る。
「まぁ、何にせよこれで依頼は受けられるんだ。良かったなお前ら」
「「はい!!」」
しかし色々と時間が掛かり過ぎたので、ゴブリン討伐に出掛ける時間は残っていない。
「まぁこんな時間だから今日は依頼には向かわず訓練にしよう。ディアとコンフラット、ケインたちの相手をしてくれ!」
「分かりました。とりあえず動けなくなるまで扱けばいいんですね?」
「いや、それは無しだ」
「でもいつも訓練では…….」
「ここは騎士団ではないぞ。それにそんなことをしたら、明日も出発出来なくなるだろうが。まぁお互いの動きが確かめられるぐらいに軽く手合わせしてくれればいいよ」
「わかりました。ならお前たち、私たちが訓練をつけてやるから、付いて来い!」
「「「「はい!!」」」」
騎士団でも後輩の指導に良くあたっていた二人なので、問題はないだろう。
こうして今日も[ファスタの街]では、まるで初心者のものとは思えない訓練の声が響き渡るのであった。




