第十六話
冒険者としての基礎体力向上を目的とした訓練を始めて一週間ほどが経過した頃。
それぐらいの期間で劇的に力が上がるほど簡単な話は無いが、ケインたちの顔つきは確実に変わってきた。
「さぁ、今日は実際に魔物を倒しに行くぞ」
「いいんですか?」
「もちろん。それにお金は稼がないといけないだろ?」
訓練中はまともに依頼を受けられていない。
たまには街の中で出来る、まさに初心者冒険者の仕事な雑務の仕事をこなして貰ってはいるが、そろそろお金も厳しいものがあるだろう。
「ちゃんと考えてくれてたんですね。本当にもうぎりぎりなので助かります!」
「そうか、ならもう依頼は選んであるから、これを受注してきてくれ」
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ワイルドボアキング討伐
ランクD
最近ワイルドボアによって行商の被害が増加している。
ワイルドボアの親玉であるキングの討伐をし、脅威を排除してもらいたい。
ワイルドボアキングの牙の納入で依頼達成とする。
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「ランクDですか……」
「確かにランクはDだが、ワイルドボアはそんなに危険な相手では無いぞ。魔法を放ってこない分、対処もしやすい」
ワイルドボアの攻撃は突進だ。
その際に硬化魔法で前面が覆われているから、普通の人では対処できない。
動きも早く一撃の攻撃が重いからランクDに設定されているようだが、対処を誤らなければ初心者でも倒せない相手では無い。
ワイルドボアキングはもう少し厄介だが、しっかりと連携出来れば倒せないことはないだろう。
「分かりました……でもレックスさんも付いてきてくれるんですもんね」
「ん? 確かについては行くが、今回は手を貸すつもりはないぞ」
「えっ!?」
「当たり前だろ。何かがあったら助けてもらえると思いながら戦う冒険者なんていないだろ? まぁ全員が戦闘不能になったら助けてやらんでもないがな」
「それってもう死んでるんじゃ…………いえ分かりました。俺たちだけでなんとかしてみせます!」
「ああ、その意気だ。なら早く依頼を受けてこい」
「わかりました!」
ケインが代表して依頼を受けに行く。
そして街の外に出て、ワイルドボアキングのいる森へと向かう。
俺はあくまでも付き添いの立場なので、後方から付いて行く。
しかし、その途中で出会いたく無かった連中に遭遇してしまう。
「なんだお前ら……って、例の馬鹿みたいに走り続けてる奴らじゃねぇか。今日は走らないで、一体どこに向かおうとしてるんだ?」
絡んできたのはCランク冒険者アジン、ドゥヴァ、トゥリー、の三人組だ。
アジンの言葉に残りの二人がクスクスと笑う。
そしてどうやら俺のことには気付いていないようで、ケインに話しかけている。
「ワイルドボアキングの討伐です」
ケインは素直に答える。
どうやら本当に名前の知れた三人組なようで、少し萎縮気味だ。
「はぁ? ワイルドボアキングの素材を手に入れる依頼を受けたのは俺たちだ。何かの間違いだろ?」
「いえ、確かに討伐依頼を受けました……」
「ということは、依頼の重複か……なら当然、俺たちに譲ってくれるのだろう?」
アジンたちが受けた依頼はワイルドボアキングの牙を手に入れること。
そして俺たちが受けたのはワイルドボアキングの討伐だ。
違う内容ではあるが、狙う標的が同じなのである。
本来はこんなことが無いようにギルド職員が調べなければいけないのだが……。
「いいじゃないか。俺たちが先に倒すか、君たちが先に倒せるか勝負しよう」
俺は前に出て、アジンたちに提案をする。
「お前は、あの時のオッサン! ってこいつらの仲間なのか?」
「ああ、そうだ。同じ時に冒険者になった縁でな」
「って、ということはオッサンも初心者冒険者なのかよ!」
「ああ、まだEランクだぞ」
「ぷっ、あははははは! まじかよオッサン。その歳で初心者って……怖えのは顔だけかよ!」
三人に大笑いされるが、まぁ事実なので構わない。
「それでどうだ? 勝負を受けるのか、受けないのか?」
「いいぜ、受けてやるよ。だが先を越されて依頼を達成出来なくなったなら、失敗報告をちゃんとしろよ?」
「ああ、当然だ。それで問題ない」
依頼の達成率は冒険者を評価する大事な指標だ。
それは何も最初だけに影響するものではない。
達成率が低ければそれだけ評価は下がり、ランクの昇格に影響する。
そしてそれは降格にもだ。
依頼が重複した場合はランクの高い人が優先され、下のランクの冒険者が受けた依頼はキャンセルすることができる。
しかし今回は勝負する代わりにそれをせず、先を越された方が失敗を報告するということだ。
「あとで後悔しても、知らねぇからな!」
アジンたちはそう言い残し、俺たちが進もうとする道とは別の道から先へと進んで行く。
それを見て、大人しく聞いていたレイナが心配そうに聞いてくる。
「ちょっと、本当に大丈夫なんですか!?」
「心配するな。自分たちを信じろ。君たちは誰の教えを受けていると思っているんだ?」
「そうだよレイナ。俺たちならやれるさ!」
ケインが俺の言葉に素直に乗ってきてくれる。
こういう時、調子乗りのケインの性格は役に立つ。
そして他の二人もやる気になってくれた。
「それならあの三人に遅れないよう、先へ進もう」
図らずしてCランク冒険者との勝負となってしまったが、ケインたちの実力を確かめる絶好の機会でもある。
こうしてワイルドボアキング討伐は思わぬ展開を迎えながら進むのであった。




