ツツジ編
こんにちは、失木各人です。
今回は辺 鋭一さん 作『ぼーい・みーつ・えとせとら!』とクロスさせて頂きました!
辺 鋭一さんの話を、ツツジちゃんの視点から書いてみました!
ツツジは憤慨した。必ずやあの邪智暴虐なる義姉から理人兄さんを取り戻さねばならぬと思った。
諸君、私はお兄ちゃんが好きだ。諸君、私はお兄ちゃんが大好きだ。
古本屋の商品の本をレジに座って読んでいる姿も、
オカズは肉系を最後に残して少ないご飯で味わう姿も、
起きる前に布団の中で一回猫の様に伸びをする姿も、
寒い朝にパジャマの下で勃起した乳首も、
学校で物憂げに空となった購買部のパン売り場を見る姿も、
風呂で聞いたばかりのCMソングを口ずさむ姿も、
勉強している内に違う事を考え、はっとして慌てる姿も、
殆ど同じ身長の私の頭を撫でてくれる姿も、むしゃぶりつきたくなる位大好きだ。
しかし、この私の秘宝は邪悪な雌ドラゴンに奪われてしまったのだ。
畜生! 同じ布団で毎日一緒に寝ているだと!? うらやましい!
果敢にお兄ちゃんの目を覚ますべくアタックを何度もかけたものの、すべてあのドラゴンに防がれてしまう。
そう、お兄ちゃんは邪悪な悪竜に囚われた王子様なのだ。そして私は王子様を救う姫騎士なのだ。
え? 思考が痛々しい? 安心して、自覚はある。
つまり、私がお兄ちゃんの自宅を監視しているのは普通の事であり、鳥が空を飛び、魚が泳ぎ、息をしてお兄ちゃん分を補給するようにあたりまえの事なのだ。
閑話休題。
現在早朝6時。私は戦闘服たる紅白の巫女服に身を包み、理人兄さんの家の前にいた。
家はシンと静まり返っており、人の気配は感じられない。
まさか、と思い、懐からフックシューターを取り出す。
何処で手にいれたかって? 自分で作ったわよそんなもの。愛さえあれば何でも出来るのよ。
パシュッという軽い音と共に、ワイヤーが軒に突き刺さる。グリップを握って巻き戻すと、私の身体は宙に浮いた。
さて、なんでか弱い女子高生の私がこんな映画のエージェントじみた動きができるかというと――
『のう、ツツジや。やめといた方がいいのではないのじゃろうか……』
「理人兄さんが外出するってお告げをしたのはアマテラス様なんですからね? 責任とって下さいよ?」
『もういやじゃあ、もうこの兄妹嫌じゃぁ……』
巫女の十八番たる、神降ろし。
私が動きにくい上に目立つ、巫女服を着ているのにはそういう理由もある。妥協というか、足袋に草履ではなく、ブーツを穿いている。
窓の隙間に針金を突っ込み、ガチャガチャ弄ること数秒。カチャリという音と共に窓の鍵が開いた。
窓を開け、中に入る。流石にブーツは脱いでおいた。
入ったのは寝室。布団は既に片付けられており、部屋には誰も居ない。
「やられた……」
悔し紛れに襖を開けると、畳まれた布団が現れた。手を突っ込むと――
「なん……だと……」
あたたかい。ぬくい。ぽかぽかする。
私は布団に頭を突っ込む。深呼吸。鼻腔を埋め尽くす新鮮な理人兄さん臭。
むおっっほぉぉぉぉぉぉおおおおう!イイ、すごぉくイイ!
そして、そのまま私は――
「ふぅ……」
『うっ、うぇっ、ぐすっ、汚されたぁっ、もうお嫁に行けないのじゃぁっ……』
随分発電出来たわね。1000ジゴワットぐらいはイケたかしら?車に乗ってタイムトラベルできるわね。ノーベル賞ものの発見よ。
あぁ、もう何か何もかもがどうでもいいわ。このままお兄ちゃんの布団に包まって泥の様に眠っていたい。そしてそのまま一生――
「ハッ!?」
何と、これは罠だ! フフフ、流石理人兄さん、私を留めて置く為にこんなトラップを用意しておくとは!
だとすれば、やることは一つだ。
鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。
私は、陰陽師の理人兄さんのように霊力を直に感じ取るということは出来ない。
しかし、五感ーー『匂い』として、感じる事なら出来るのだ。
「ふむふむ……こっちか!」
兄さんとそのオマケの匂いは、廊下に向かって続いていた。まぁ当たり前か。
匂いを辿り、階段を降りる。風呂場、台所、ダイニングと廻って、次は玄関。
「やぁ、来ると思っていたよ。」
案の定というか、狐耳ショタが待ち構えていた。この様子からすると彼自身の判断で此処にいるのだろう。実によく出来た式神だ。
だけど。
「通させてもらいますよ、榛名ちゃん。」
「くるがいいさ、妹君。」
これは想定内。だから私は、準備もして来た。
「そういえば、私の家って、ケーブルテレビとってるんですよ?」
「……それがどうした?」
「いや、別に。ただ、この間やっていた『北海道の動物シリーズ』をついうっかり(・・・・・・)全部録画しちゃったから、見たい狐さんはいないかなー、なんて思っただけですよ。」
「……!」
北海道の動物にして皆のアイドル。
その名は――
「おっと、こんな所にDVDが、」
そう言って私は懐から『北海道の動物シリーズ〜キタキツネの一年〜』を取り出した。
「ふ、ふふ、ははは、白面金毛九尾の狐たるぼぼぼ、僕がそそそ、そんな物につつつ、釣られるとでも?」
「じゃあ『野狐物語』も付けて。」
「気を付けて、妹君。」
三つ指付いて頭を下げる榛名ちゃん。私はDVDを置くと、ブーツを履いて外に出た。ドアを閉めた途端に発情した狐の鳴き声が聞こえたが、きっと気の所為だろう。
「さ、行きますよアマテラス様。」
『もうやだこの兄妹……』
渋々、といった感じで送られてきた神気を身体に満たす。
腰を落とし、駆け出す。走ってる車を追い抜き、畦道から畦道に跳んで匂いを追った。
そうして走ること数分。辿り着いたのは、近所の駅。どうやら電車に乗った様だ。
懐から財布を取り出し、電子プリペイドカードを改札機に翳す。匂いを辿れば……成る程、上り線か。
ホームに上がる。電光掲示板の表示だと急行はあと10分後。
「うぬぬ、事態は一刻を争うと言いますのに……!」
歯噛みするも、ダイヤはダイヤだ。私が口出し出来るような物じゃない。
足をカタカタ揺らしながら10分待つと、ほぼ定刻通りに急行が来た。ホームに滑り込んできたそれに私は乗る。
ドアが閉まり、軽いGと共に電車が動き出す。
私はドアの側に腰掛けた。少しでも匂いを嗅ぎ取る為だ。
急行が駅を通過する。匂いが残っていない所を見ると、理人兄さんも急行に乗ったのだろう。乗り換える必要は無さそうだ。
『変態に技術は与えてはならぬ物じゃな……』
「ん? アマテラス様、何か言いました?」
『い、いや、何も言っておらぬぞ!』
何か非常に不愉快な事を言っていた気がする。家に帰ったら降ろしたままもう一回タイムトラベルしてやろうかしら。
『やめるのじゃ! これ以上妾の身体を汚さないで欲しいのじゃぁ……!』
必死に懇願してきた。気持ちいいのに。
そんなこんなでいつの間にか匂いが途切れている駅に到着。慌てて降りる。
降りた駅は乗り換えの激しい駅らしく、人混みが電車の外に広がっていた。巫女服だからか、好奇の視線が多い気がする。
ここからはバスで行ったらしい。匂いは外へ続いていたので、改札を通って外へ出る。
さて、私言うのも何だが、私は人よりも多少は可愛いと思う。腰まで伸びる黒髪は毎日手入れを欠かしていないし、肌は理人兄さん分のお陰で化粧なんてしなくても卵肌だ。努力(隠密行動)の結果もあって腰は引き締まっているし、胸もあの泥棒ドラゴンには負けるが、其れなりにあると思う。
だから――
「ねぇねぇ、君。これから暇?」
こういう連中に絡まれるのは、慣れている。
私の周りを囲んで来たのは、如何にもチャラい青年5人。
慣れない頃は、お兄ちゃんが守ってくれてたなぁ。やたらと体術が上手かったけど、魔術結社で戦ってたなら、納得出来る。
お兄ちゃんが困っている私を囲んでいる不良に後ろから近づいて、大外刈りで投げ飛ばした時など、絶頂すら覚えた。
閑話休題。
という訳で流石に私も慣れた訳で。
「いえ、これから私、用事があるので。」
淡々と答える。こういう連中は冷静に対応すれば何てことない。隙だらけだ。
『アマテラス様、身体強化は切って置いて下さい。』
『万一の時は勝手に発動させるぞ。』
『わかりました』
そんな私に痺れを切らしたのか、
不良は私の腕を掴んだ――
――ざまぁ。
腕を引き、膝を腹に入れる。うめき声をあげる不良、私は間髪入れずに掌底を鳩尾に叩き込んだ。
うぐっ、と呻いたきり、不良は動かなくなった。
「て、てめぇ!」
不良が手を伸ばしてくる。私は懐に入ると、喉に手刀で突きを入れた。くえっ、と呻いて以下略。
他の3人は完全にビビって逃げ腰になっている。ニタァと笑ってやったら悲鳴を上げて逃げ出した。
『ふん、造作もない。』
『……この変態!』
アマテラス様が何か言っていたが取り敢えずスルー。
さて、周りの人は見て見ぬ振りをしていた様だ。冷たい社会になったものね。
『いや、まだそんなに生きておらぬじゃろうに。』
ふと、人混みがざわめく。見ると、警官が走ってきていた。
現在の状況、倒れるDQN2人、巫女服の女子高生1人。
……絶対面倒な事になる!
身体強化を発動。人込みを突っ切って駆け出した。
――バス、ナイスタイミング!
発車寸前のバスに文字通り転がり込んだ。驚愕する運転手を横目に整理券を取った。
匂いはこのバス停まで続いていた。きっと合ってるだろう。
「ここですね……」
とうとうたどり着いた場所には、とある施設があった。
その施設は広大な敷地を有しており、その約三分の一は細かな砂が敷き詰められた広場になっていて、その他の敷地には何らかの建物が並んでいる。
それらの建物のほとんどはコンクリート製の無機質な肌をさらしており、機能性を重視していることがよくわかる。
さらにその敷地の周りは少年の背丈ほどの高さの同じくコンクリートの壁で囲まれており、さらに乗り越えることができないようにということなのか、かすれた緑色のネットがかなり高い位置まで張り巡らしてあり、それらが中と外を隔てるようにその存在を主張している。
その代わりなのかはわからないが、壁の周りや建物のそこかしこに大きな木――桜や松などだと思われる――が植えられていたり、レンガで囲われた明らかに周囲と土質が違う地面――花壇が設置され、様々な色の花たちが咲き誇っている。
そんな特徴あふれる施設は、明らかにその内部のみで一定以上の日常を過ごせるようになっている施設であり――
――要するに、ごく普通の学校だった。
「生徒会でもあるまいし、何で理人兄さんがこんな所に……?」
『……』
『どうしたんですか、アマテラス様?』
珍しくアマテラス様が黙っている。しかもただらなぬ雰囲気を纏っている。何か問題でも合ったのだろうか。
『……のぅ、ツツジや。』
『?』
『ここは、引き返すべきじゃ。』
引き返す? 唯の学校なのに?
確かに巫女服というアブノーマルな格好をしているものの、国家権力のお世話に成る程でもない。
『いや、そういう問題ではないのじゃ。』
『……どういう意味ですか?』
私は尋ねる。
『この学校は、怪異で満ち満ちておる。』
私はフックシューターを撃つ。屋上の手すりに刺さったのを確認すると、手元を操作して巻き戻すと、私の身体は宙に舞った。
『って、妾の話の聞いておったのじゃ!?』
『うるさいうるさうるさい! 理人兄さんは今あのメストカゲと二人っきり何ですよ!? あの悪竜と二人っきりなんですよ!? 何もされない訳ないじゃないですか! 『ほら、理人さん、イッってもいいんですよ? 但し私の中でしか認めませんよ?』『ぐっ! やめろリリア、俺にはツツジという心に決めた相手が――うわああああっ!』『あぁんっ! 理人さんの子供身籠っちゃいますぅ!』なんて事になるに決まっているのです!』
『手遅れじゃぁ!』
屋上に到達する。もしかしたら女子トイレで個室プレイなんて事もしているのかもしれない! 私も混ぜ――ゲフンゲフン――うらやまし――ゲフンゲフン――けしからん!
『欲望を隠す気がないじゃと!?』
屋上の階段を駆け下りる。僅かに漂う理人兄さんの匂いを頼りに、私は走り出した。
「こちらツツジ、校舎への侵入に成功した……」
教室の中から見られない様気をつけながら廊下を駆け抜ける。
やたらと広いですね、この校舎っ!
音もなく角を走り抜ける。匂いはこっちに続いている。間違いなく理人兄さんの匂いだ!
「うむ、皆、忘れ物は無いか?」
ふと、教室から響いてくる声。しまった、出てくる!?
慌てて1番近場の教室に飛び込んだ。ほっと一息――
「おや、あなたは……?」
――つけなかった。
教室の真ん中にポツンと座っている男子生徒。
ショートの髪に、整った顔。ピシッと学ランを着たその姿は、如何にも優等生だった。
マズイ、どうする!? ここは記憶消去(物理)で行く!? だけど失敗した時が問題ね。とりあえず誤魔化しましょう。
「ええーっと……こんにちは。」
「ええ、こんにちは」
「……」
「……」
会話が続かない! 助けてお兄ちゃん!
「ええ……まず、貴女は誰ですか?」
彼が話しかけて来る。
「……名前を聞く時は、自分から名乗るのがマナーですよ?」
「おっと、これは失敬。僕は水宮 辰己。この学校の生徒です。」
「……私は浅間 躑躅。知り合いがこの学校に来てるんです。」
「おや、そうでしたか。」
何か納得する青年。調子狂いそうだ。
取り敢えず逃げよう。そう思ってドアにこっそり寄る。
「あ、その知り合いの方は、もしかしたら穂高 理人という方ですか?」
理人兄さんの名前が出てきて、私はは立ち止まった。
「兄さんを、知ってるんですか?」
「ええ、生徒会の書記さんが言ってましたからね。」
どうやら予め決まっていた事らしい。相割らず私は置いてけぼりだ。ちくせう。
「そういえば……」
「?」
「いえ、苗字が違うのに、貴女は穂高さんの事を『兄さん』と呼んでいましたので、それが不思議で。」
「家庭の、事情です。」
そう私が言うと、水宮さんはしまった、という顔をした。
実際のところ、私はそのことに関しては余り気にしていない。その旨を彼に伝えると、複雑そうな顔をして納得してくれた。
「それにしても……よくよく見ると、本当に似ている。」
「兄さんを見たんですか?」
「窓からチラッと。隣に銀髪のお嬢さんがいましたが。」
銀髪のお嬢さん。
銀髪のお嬢さん。
銀髪のお嬢さん。
……やはりか。ふふふ、義姉さん、抜け駆けとは。
しかし、その程度ではこの浅間ツツジを止められない事を教えてあげましょう……!
「うふ、うふふ、うふふふふふ」
「あ、あの……」
「くくく……くはは、くっーはっはっはっはっはっ!」
「……」
完全にドン引きしている水宮さんに気付いたのは、5分程笑い続けた後だった。
「生徒会室はこの校舎ではないのですね。ありがとうございます。」
「は、はは、ど、どういたしまして……」
引きつった笑いを浮かべる水宮さんに礼をすると、私は教室ののドアへ向かった。一刻の猶予もないのだ。
教室のドアに手をかけようとした時、水宮さんから声をかけられた。
「あ、あの、貴女は――」
「?」
「――いえ、何でもありません。」
妙に腑に落ちない。
「いえ、貴女から妖怪の、私に似た気配がしたもので……」
私から? ってか似たってどういうこと?
「……ちなみに、水宮さんの種族は?」
「私ですか? 私は……」
聞かなければ良かったのかもしれない。だけど聞いてしまった。
これが将来の出来事にどう関わるかなんて分からないが、そんなことは当時の私には、わからなかったのである。
「龍、ですよ。」
「龍……?」
「そう、龍です。あ、東洋龍です。」
龍か。
しかし何で私から? しかし私はそれよりもっともな質問を投げかけた。
「ちなみに、証拠は……?」
世の中には、
知らない方がいい事の方が多い。
知らぬが仏。
触らぬ神に祟りなし。
シュレーディンガーの猫のそれのように、知ってしまった時点で物事は収束してしまう。
思えば、この私はなんと短絡的だったのだろう。
もう少しでも自分を見てれば、きっとあんなことには――
「見たい、んですか?」
「え?」
「証拠、見たいんですか?」
執拗に聞いてくる。
私は短絡的にも、それに頷いてしまった。
頷いて、しまった。
「では――破っ!」
両手両足を広げ、『大』の字で直立する姿勢に。
「あ、あの、水宮さん?」
「やあやあ我こそはさすらいの東洋龍、水宮辰己なり。」
なんか名乗り始めた。何これ、巫山戯てるの?
「生まれしは中国。長江の一滴より生まれ出でし水龍なり。
育ちは日本。水神として祀られるものの、上水道とダムに仕事を取られ、今はしがない男子生徒。
されど、この身に宿る力は残れり。それは自然の神秘、信仰の権現――」
すぅ、と何かを吸い込むかのように上体を仰け反らせ――
「秘技、口から華厳の滝!」
マーライオン。
シンガポールのシンボル。しかし現地での隠語は『嘔吐』。
ドラゴン。
憎きあのトカゲにして義姉。その口より迸るは全てを浄化せし竜之伊吹。
では、目の前にいるこれは?
ジャァァアアアアアア……
静かな教室に、水が流れ落ちる音が響く。
音だけで分かる。それは世界のどんな清水よりも澄んでいて、神聖なものだと。
「オボボボボボ……」
断じて、口から出して良い物などではない。
水宮さんが吐き出す清水が教室の床へ広がって行く。いつしかそれは私の足元に達していた。
水量が減って行く。日に照らされて煌めくそれが完全に止まると、水宮さんは綺麗な笑顔を上げた。
「どうでした?」
私は、何も言わずに教室を後にした。
何も考えずに廊下を歩く。先程の光景が頭にこびりついて離れない。
ちなみに、竜の気配は、アマテラス様が答えを出してくれた。
日々身に受ける義姉さんの竜之伊吹。
毎日食らってりゃ、そりゃ匂いもつくじゃろう。とのこと。
悔しいが、合ってると思う。
というわけで、現在は一旦校舎を出て、生徒会室のある校舎しゃへ向かっている。
すっかり昼過ぎだ。あまりもたもたしていると理人兄さんが汚されてしまうかもしれない。
ふと、校舎脇に人影。見ると、花壇で土を弄っている男女。
片方は2メートルはあろうかという大男。だけどその見ためとは裏腹に、優しそうな感じがした。
もう片方は小さな少女。お団子に纏めた髪が似合って可愛い。しかし底の見えない感じがする。どちらかというとこの子の方が怖いと思った。
二人は仲良く花壇に花を植えていた。
……昔。まだ理人兄さんが兄さんじゃなった時、あんな風にしてプランターに色々な物を植えたっけ。
苺、菜の花、カリフラワー、カブ、大根、とうもろこし……
……『食べられる植物』が多い気もするが、きっと気のせいだろう。
「さて、鬼之助さん、もどりましょう……か?」
「……?」
目が、合った。
しまった、暖かい光景に思わずぽかぽかし過ぎた!
「見かけない人ですね……おまけにその服装……」
彼女は妖怪、それもかなり力の強い妖怪だろう。神降ろしをしていてもプレッシャーが伝わってくる。
『ツツジや、ここは……』
『ええ、わかってます。』
そして私は腰を落とすと――
「逃げるンだよぉおっー!」
――全速力で、逃げ出した。
「え、ここは妖怪は滅すべきですとか言って向かってくる場面じゃ――って、もうあんな所に!?」
すっかり少女の姿が小さくなる。
そう、今は交戦が目的ではない。あくまでも理人兄さんを守る為であり、任務の為なら敵前逃亡も厭わないのだ。まぁ敵じゃないけど。
このまま逃げ切れば、生徒会室に辿り着ける。
「そうは、いきませんよっ!」
突然横からかかった声。踏み出す脚を曲げ、逆方向に跳躍した。空中で後方に一回転し、音もなく着地。
見ると、先程の少女がいつの間にか追いついてきていた。靴底から煙が上がっている。
「これは……面倒な事になったわねっ……!」
突進してくる少女を寸前で躱す。
このままじゃジリ貧だ、何とかしないと!
ふわり。
風に乗って漂ってくる匂い。何処か優しくて、ぶっきらぼうで、お節介焼きで、いつも私の事を見てくれる――
「理人、にいさん。」
全身が暑くなる。そうだ、要らない何も。捨ててしまおう。そうして生まれたままの姿で理人兄さんに飛び込むんだ。それはきっととてもとても気持ちのいいいことだから。
「え、ななな、何してるんですか!?」
少女が慌てて訪ねてくる。何よ。まだ襦袢を脱いだだけよ? この下はスポーツブラ何だから、大丈夫でしょ?
「大丈夫じゃないです! 全然大丈夫じゃないです!」
「ああ、感じる。この近くにお兄ちゃんがいる! 理人兄さん、何処!?」
「へ、へんたいだー!?」
理人兄さん分を補給する。ああ、この満たされて行く感覚。最高。
息を切らしながら走って来た大男が、携帯で電話を何処かにかけていた。
そして受話口から聞こえる、懐かしい、11時間34分35.2秒ぶりの声。
「愚妹が迷惑をおかけしました――――!」
ああ、理人兄さん。
今、愛に行きます。
「理人兄さ――ヘブゥッ!?」
先程の二人に案内されて通された生徒会室。溢れ出る理人兄さん分を補給しようと部屋に飛び込んだ私の顔面は、見覚えのある銀色のゴツゴツした手に覆われる事となった。
隙間から見える生徒会室。苦笑を浮かべる理人兄さんと、部屋の隅でガタガタ震えている金髪の美少女に中肉中背の少年。
「うふふ、ツツジちゃん。どういうことか説明してもらえるかしら?」
ああ、やっぱりこのオチね。何となく予想はついていたわよ。
もう、言葉は不要。
「我が生涯に、一片の悔いなしっ!」
果たして、コレが終わった時私はわたしでいられるnおだrrおうk――
『ちょっ、妾もまだ居る――依代から、光が逆流する……ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
頬を撫でる風で、私は目を覚ました。
暖かい感触。薄っすらと目を開けると――
「お、ツツジ。目、覚めたか?」
「ににに、兄さん!?」
「おー、お兄ちゃんがだぞー。」
私は丁度理人兄さんに後ろから抱きつく体勢に。鼻腔を埋め尽くす理人兄さん分。もう、なにも怖くない……
「ははは、だってよ、リリア。」
「?」
ふと、下を見る。
遥か雲の下にある街並み。
私が跨っているのは、銀の竜の首。
『本当に、手の焼ける義妹です!』
声が出ない。
え? 何これ。何でいつの間にか銀の竜の背に乗ってるの? 運ぶの? 命の灯火を?
「落ち着け、ツツジ、ただ家に帰ってるだけだ。」
慣れた様子で理人兄さんが言う。その辺りの経緯、詳しく話して欲しい。
しかし、なんだか酷く疲れた。
私はもたれ掛かる様に理人兄さんに抱きつく。理人兄さんは、そんな私の手を優しく包んでくれた。
リリア義姉さんも、軽く溜息を付くとそっとして置いてくれた。なんだかんだ言って、恋敵でも、いいお姉ちゃんだ。
「ツツジ」
『ツツジちゃん』
二人が呼びかけてくる。
「勝手に行って、ゴメンな。せめて一言言っておくべきだった。」
『私も、ごめんなさい。寂しい思い、させちゃいましたね。』
「……ううん、私も。二人に迷惑をかけちゃって、ごめんなさい。」
空の上、3人で謝り合う。
「……はは」
「……うふふ」
『……ふふふ』
気付けば、皆笑っていた。
そうだ、これでいいんだ。家族は、やっぱり、こうでなくちゃ。
「さぁ、帰ろう。」
理人兄さんが言う。
「俺達の帰りを待ってる場所がある。」
空は、夕日で3色に染まる。
ご拝読頂き、ありがとうございました。
今回、小説をクロスさせるに当たり、一番苦労したことを記して置きたいと思います。
それは、ずばり、キャラクター。
キャラクターは作者さんの子供の様なものです。彼らがどう動くかは、作者が一番よく知っているのです。
それを、読者がやるというのは、結構大変なことでした。
この小説を読んだ作者の皆さんも、機会があれば是非クロス企画を行ってみてはいかがですか?
学べることは、きっと多いはずです。
最後に、この企画に参加して頂いたうえ、貴重な時間を削ってクロス小説を書いて下さった辺 鋭一さんに、感謝の意を表したいと思います。
本当に、ありがとうございました。
では、短いですが、この辺で。




