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婚約破棄されたので離縁裁判所で働き始めたら、壊れた関係の“理由”が見えるようになりました  作者: すずり


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第35話 最後の案件

 その案件は、静かに運ばれてきた。


 だが。


 書類を見た瞬間、リシェルは理解する。


 ——これが、最後だ。


 内容は、簡潔だった。


「——婚約解消申請」


 そして。


「——再協議の余地なし」


 その一文。


 それだけで、構造が見える。


 ユリウスが言う。


「重いぞ」


 短く。


 だが。


 それ以上の説明は不要だった。


 リシェルは、ゆっくりと頷く。


 そして。


 部屋へと向かう。


 扉を開ける。


 中にいたのは、二人。


 女性と、男性。


 だが。


 これまでと、明らかに違う。


 ——感情が、完全に閉じている。


 女性は、無表情。

 男性も、視線を動かさない。


 互いに。


 ——何も期待していない。


 それが、はっきりと伝わる。


 リシェルの胸の奥で、何かが沈む。


 これは。


 壊れる前ではない。


 壊れた後でもない。


 ——壊れきった後。


 その状態。


 裁判官が告げる。


「本件は、婚約解消の最終確認」


 女性が言う。


「異議はありません」


 即答。


 迷いはない。


 男性も続く。


「同じく」


 それだけ。


 終わる。


 通常なら。


 ここで終わり。


 リシェルは、ペンを持つ。


 だが。


 止まる。


 ——本当に、終わりか。


 レオンの声が、後ろから聞こえる。


「書け」


 短く。


 命じるように。


「終わりだ」


 その言葉。


 正しい。


 合理的。


 これ以上の介入は、無意味。


 だが。


 リシェルの中で、何かが抗う。


 ——これは。


 本当に、終わりなのか。


 マルタの声が、頭をよぎる。


『壊れる前が一番大事』


 だが、今回は。


 ——もう遅い。


 ならば。


 何もできないのか。


 リシェルは、ゆっくりと顔を上げる。


 二人を見る。


 そして。


 理解する。


 ——確かに、終わっている。


 だが。


 何も残っていないわけではない。


 ほんのわずか。


 目の奥に。


 言葉にならないものがある。


 それを。


 見逃すのか。


 リシェルは、静かに口を開く。


「確認させてください」


 場が、止まる。


 レオンの視線が、鋭くなる。


 女性が、わずかに眉を動かす。


「……何ですか」


 冷たい声。


 だが。


 拒絶ではない。


 リシェルは、言う。


「この関係において」


 一拍。


「最後に、伝えておきたいことはありますか」


 その問い。


 場の空気が、大きく揺れる。


 男性が、初めて視線を動かす。


 女性も、わずかに息を呑む。


 数秒。


 沈黙。


 長い。


 だが。


 意味のある沈黙。


 やがて。


 女性が、小さく口を開く。


「……ない」


 一度、そう言う。


 だが。


 その直後。


 視線が揺れる。


 そして。


「……いや」


 小さく、訂正する。


 リシェルは、動かない。


 待つ。


 女性は、ゆっくりと言う。


「……楽しかった」


 その一言。


 空気が、変わる。


 男性の表情が、わずかに崩れる。


 女性は続ける。


「最初は、本当に」


 一拍。


「……だから、余計に」


 言葉が途切れる。


 だが。


 それで十分だった。


 男性が、静かに言う。


「……ああ」


 一言。


 短い。


 だが。


 そこに、すべてがある。


 リシェルは、理解する。


 ——これが。


 最後に残るもの。


 関係は終わる。


 結果は変わらない。


 だが。


 何もなかったわけではない。


 それを。


 言葉にするか、しないか。


 それだけで。


 意味は変わる。


 裁判官が、静かに告げる。


「婚約解消を正式に認める」


 結論。


 終わり。


 だが。


 今回の終わりは、違う。


 リシェルは、記録を書く。


 そして。


 最後に、一行加える。


「——相互理解の確認(最終段階)」


 ペンを置く。


 レオンが、後ろで言う。


「……無意味ではないか」


 静かな声。


 否定とも、疑問ともつかない。


 リシェルは、振り向かない。


 ただ、答える。


「結果は変わりません」


 一拍。


「ですが」


 ゆっくりと続ける。


「終わり方は、変わります」


 その言葉。


 レオンは、何も言わない。


 沈黙。


 だが。


 完全な否定ではない。


 リシェルは、静かに立ち上がる。


 胸の奥で、確かな感覚がある。


 ——これが、自分の選択。


 正しさだけではない。


 結果だけでもない。


 理解した上で。


 ——どう終わらせるか。


 その答えが。


 ようやく、形になり始めていた。

 その案件は、静かに運ばれてきた。


 だが。


 書類を見た瞬間、リシェルは理解する。


 ——これが、最後だ。


 内容は、簡潔だった。


「——婚約解消申請」


 そして。


「——再協議の余地なし」


 その一文。


 それだけで、構造が見える。


 ユリウスが言う。


「重いぞ」


 短く。


 だが。


 それ以上の説明は不要だった。


 リシェルは、ゆっくりと頷く。


 そして。


 部屋へと向かう。


 扉を開ける。


 中にいたのは、二人。


 女性と、男性。


 だが。


 これまでと、明らかに違う。


 ——感情が、完全に閉じている。


 女性は、無表情。

 男性も、視線を動かさない。


 互いに。


 ——何も期待していない。


 それが、はっきりと伝わる。


 リシェルの胸の奥で、何かが沈む。


 これは。


 壊れる前ではない。


 壊れた後でもない。


 ——壊れきった後。


 その状態。


 裁判官が告げる。


「本件は、婚約解消の最終確認」


 女性が言う。


「異議はありません」


 即答。


 迷いはない。


 男性も続く。


「同じく」


 それだけ。


 終わる。


 通常なら。


 ここで終わり。


 リシェルは、ペンを持つ。


 だが。


 止まる。


 ——本当に、終わりか。


 レオンの声が、後ろから聞こえる。


「書け」


 短く。


 命じるように。


「終わりだ」


 その言葉。


 正しい。


 合理的。


 これ以上の介入は、無意味。


 だが。


 リシェルの中で、何かが抗う。


 ——これは。


 本当に、終わりなのか。


 マルタの声が、頭をよぎる。


『壊れる前が一番大事』


 だが、今回は。


 ——もう遅い。


 ならば。


 何もできないのか。


 リシェルは、ゆっくりと顔を上げる。


 二人を見る。


 そして。


 理解する。


 ——確かに、終わっている。


 だが。


 何も残っていないわけではない。


 ほんのわずか。


 目の奥に。


 言葉にならないものがある。


 それを。


 見逃すのか。


 リシェルは、静かに口を開く。


「確認させてください」


 場が、止まる。


 レオンの視線が、鋭くなる。


 女性が、わずかに眉を動かす。


「……何ですか」


 冷たい声。


 だが。


 拒絶ではない。


 リシェルは、言う。


「この関係において」


 一拍。


「最後に、伝えておきたいことはありますか」


 その問い。


 場の空気が、大きく揺れる。


 男性が、初めて視線を動かす。


 女性も、わずかに息を呑む。


 数秒。


 沈黙。


 長い。


 だが。


 意味のある沈黙。


 やがて。


 女性が、小さく口を開く。


「……ない」


 一度、そう言う。


 だが。


 その直後。


 視線が揺れる。


 そして。


「……いや」


 小さく、訂正する。


 リシェルは、動かない。


 待つ。


 女性は、ゆっくりと言う。


「……楽しかった」


 その一言。


 空気が、変わる。


 男性の表情が、わずかに崩れる。


 女性は続ける。


「最初は、本当に」


 一拍。


「……だから、余計に」


 言葉が途切れる。


 だが。


 それで十分だった。


 男性が、静かに言う。


「……ああ」


 一言。


 短い。


 だが。


 そこに、すべてがある。


 リシェルは、理解する。


 ——これが。


 最後に残るもの。


 関係は終わる。


 結果は変わらない。


 だが。


 何もなかったわけではない。


 それを。


 言葉にするか、しないか。


 それだけで。


 意味は変わる。


 裁判官が、静かに告げる。


「婚約解消を正式に認める」


 結論。


 終わり。


 だが。


 今回の終わりは、違う。


 リシェルは、記録を書く。


 そして。


 最後に、一行加える。


「——相互理解の確認(最終段階)」


 ペンを置く。


 レオンが、後ろで言う。


「……無意味ではないか」


 静かな声。


 否定とも、疑問ともつかない。


 リシェルは、振り向かない。


 ただ、答える。


「結果は変わりません」


 一拍。


「ですが」


 ゆっくりと続ける。


「終わり方は、変わります」


 その言葉。


 レオンは、何も言わない。


 沈黙。


 だが。


 完全な否定ではない。


 リシェルは、静かに立ち上がる。


 胸の奥で、確かな感覚がある。


 ——これが、自分の選択。


 正しさだけではない。


 結果だけでもない。


 理解した上で。


 ——どう終わらせるか。


 その答えが。


 ようやく、形になり始めていた。

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