第33話 選ぶという行為
場の空気が、張り詰めていた。
レオンは一歩引き、腕を組んでいる。
完全に退いたわけではない。
——見ている。
結果を。
選択を。
リシェルは、その視線を感じながら、当事者の二人を見る。
女性は不安げに。
男性はどこか諦めたように。
どちらも。
——決められていない。
それが、はっきりと見えた。
リシェルは、静かに口を開く。
「確認させてください」
二人の視線が向く。
「現在の関係について」
一拍。
「どの時点で、違和感を持ちましたか」
これまでと同じ問い。
だが。
意味は違う。
今回は。
——選ぶための問い。
女性が、ゆっくりと答える。
「……最近です」
一拍。
「話していても、どこか距離があって」
言葉を探すように続ける。
「前みたいじゃない、って」
その言葉。
リシェルは、静かに受け取る。
次に、男性を見る。
「あなたは」
男性は、少しだけ考え。
「……もっと前だ」
短く言う。
「かなり前から、違うと思っていた」
その一言。
場の空気が、わずかに揺れる。
リシェルは、それを見逃さない。
——時間差。
認識のズレ。
ここに。
すべてがある。
「……なぜ」
リシェルは、踏み込む。
「その時点で、共有しなかったのですか」
男性は、視線を落とす。
そして。
「……言っても、変わらないと思った」
静かに言う。
既視感。
だが。
今回は違う。
リシェルは、すぐに続ける。
「それは」
一拍。
「“変えたくなかった”のではなく」
言葉を選び。
「“変わる可能性を考えなかった”ということでしょうか」
その言葉。
男性の動きが、止まる。
思考が、止まる。
そして。
「……そうかもしれない」
小さく、認める。
女性が、息を呑む。
その一瞬。
空気が変わる。
リシェルは、理解する。
——ここだ。
変わる可能性がある場所。
だが。
それだけでは足りない。
リシェルは、次の言葉を選ぶ。
ここが。
分岐点。
レオンの視線が、鋭くなる。
——どうする。
そう問われている。
リシェルは、ゆっくりと息を吸う。
そして。
決める。
「提案します」
場が、静まる。
「現時点で、関係を維持するか解消するかを決めるのではなく」
一拍。
「一定期間、変化を共有する時間を設けてください」
女性の目が、わずかに動く。
男性も、視線を上げる。
レオンは、何も言わない。
ただ、見ている。
「その上で」
リシェルは続ける。
「再度、判断する」
短く。
明確に。
「……それに意味はあるのか」
男性が問う。
その声は、先ほどよりも弱い。
迷いがある。
リシェルは、正確に答える。
「保証はありません」
一拍。
「ですが」
視線を外さない。
「“知らなかったまま終わる”ことはなくなります」
その言葉。
女性の表情が、変わる。
わずかに。
だが、確かに。
男性も、沈黙する。
そして。
目を閉じる。
数秒。
そして。
「……一度だけだ」
小さく言う。
女性が、驚いたように顔を上げる。
「……いいの?」
「それで変わらないなら」
一拍。
「その時は、終わりだ」
その言葉。
条件付きの選択。
だが。
——選んだ。
女性は、しばらく黙っていた。
そして。
「……わかった」
頷く。
その瞬間。
関係は、まだ続いている状態に戻る。
完全ではない。
だが。
——終わっていない。
リシェルは、それを見て。
静かに理解する。
これは。
成功ではない。
だが。
——選択を引き出した。
裁判官が言う。
「本件は、一定期間の経過観察とする」
結論。
だが。
今回は違う。
それは。
——自分が選んだ結果。
リシェルは、記録を書く。
手は、迷わない。
「——関係維持、条件付き再評価」
書き終える。
ペンを置く。
胸の奥に、これまでにない感覚があった。
不安もある。
確信もない。
だが。
——逃げなかった。
それだけは、はっきりしている。
レオンが、静かに言う。
「非効率だな」
その一言。
だが。
否定だけではない。
リシェルは、視線を向ける。
「……そうかもしれません」
否定しない。
だが。
「それでも」
一拍。
「必要だと判断しました」
レオンは、少しだけ笑う。
「結果を見よう」
短く言う。
そして。
背を向ける。
去っていく。
リシェルは、その背中を見送る。
そして。
静かに理解する。
——ここからが、本当の結果。
選んだ以上。
その責任は。
自分にある。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ついに主人公が「選択」をしました。
これまでの「理解する」段階から、
「関与し、選ぶ」段階へと明確に進んでいます。
そしてこの選択が正しかったのかどうかは、
まだ分かりません。
ここからが、本当の意味でのクライマックスです。
もしここまで読んで面白いと感じていただけたら、
ブックマークや評価をいただけるととても励みになります。
次話では、この選択の“結果”が描かれます。
引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。




