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婚約破棄されたので離縁裁判所で働き始めたら、壊れた関係の“理由”が見えるようになりました  作者: すずり


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第32話 結果か、理解か

 レオンと再び顔を合わせたのは、翌日のことだった。


 離縁裁判所の一室。


 すでに案件は進行している。


 だが。


 空気が、違う。


 整っている。

 無駄がない。

 そして。


 ——早い。


 リシェルは、その違和感をすぐに理解する。


 席の中央にいるのは、レオン。


 裁判官ではない。

 だが、進行を握っている。


「結論から言う」


 レオンが淡々と言う。


「本件は解消が最適だ」


 その一言で。


 場が、静まり返る。


 当事者の男女が、息を呑む。


「理由は三つ」


 指を立てる。


「一つ、信頼が既に破綻している」


 男が、わずかに動く。


「二つ、修復のためのコストが高すぎる」


 女が、視線を落とす。


「三つ、代替関係の方が合理的」


 その言葉。


 あまりにも明確。


 あまりにも速い。


 リシェルの思考が、追いつく。


 ——すべて、正しい。


 構造としては、完璧。


 反論の余地はない。


 だが。


 レオンは続ける。


「以上」


 それだけ。


 議論を、打ち切るように。


 当事者たちは、言葉を失っている。


 納得ではない。


 理解でもない。


 ——圧倒されている。


 リシェルは、それを見る。


 そして。


 はっきりと理解する。


 ——これが、レオンのやり方。


 結果を出す。


 最短で。


 確実に。


 だが。


「……確認させてください」


 リシェルが口を開く。


 場の視線が、一斉に集まる。


 レオンも、ゆっくりとこちらを見る。


「何だ」


 短く問う。


 リシェルは、静かに言う。


「その結論に至るまでの過程は、共有されるべきではありませんか」


 その言葉。


 レオンは、わずかに笑う。


「必要ない」


 即答。


「結果がすべてだ」


 一歩、近づく。


「過程を共有したところで、変わるのか?」


 問い返される。


 リシェルは、一瞬だけ考える。


 そして。


「変わる可能性があります」


 はっきりと答える。


 レオンの目が、わずかに細くなる。


「可能性、か」


 軽く繰り返す。


「不確定なものに時間を使う理由は?」


 その問い。


 完全に合理的。


 だが。


 リシェルは、目を逸らさない。


「関係の維持です」


 短く言う。


 レオンは、即座に返す。


「維持する価値があるのか?」


 その一言。


 空気が、張り詰める。


 当事者の男女が、動く。


 だが。


 言葉が出ない。


 リシェルは、それを見る。


 そして。


 理解する。


 ——ここが分岐点。


 レオンは、続ける。


「価値があるなら、維持すればいい」


 一拍。


「だが、ないなら切る」


 単純な論理。


 そして。


 強力な結論。


 リシェルは、静かに言う。


「……価値は、測定できるものではありません」


 レオンは、少しだけ笑う。


「できる」


 断言する。


「時間、労力、利益」


 一つ一つ、指で示す。


「すべて数値化できる」


 その言葉。


 リシェルの中で、強い違和感が広がる。


 だが。


 否定できない部分もある。


 沈黙。


 数秒。


 そして。


 リシェルは、ゆっくりと口を開く。


「……それでは」


 一拍。


「後悔は、どこに含まれますか」


 その問い。


 空気が、止まる。


 レオンの動きが、わずかに止まる。


 初めて。


 反応が遅れる。


 リシェルは続ける。


「関係を切った後に残るもの」


 一拍。


「それは、計算に含まれていますか」


 レオンは、しばらく黙っていた。


 そして。


 小さく息を吐く。


「……含める必要はない」


 そう言う。


 だが。


 その声は、ほんのわずかに変わっていた。


 リシェルは、それを見逃さない。


 ——揺れた。


 ほんの一瞬だが。


 確かに。


 レオンは、すぐに戻る。


「後悔は結果だ」


 淡々と続ける。


「事前には扱えない」


 その論理。


 正しい。


 だが。


 リシェルは、静かに言う。


「だからこそ」


 一拍。


「考慮する必要があります」


 レオンの視線が、鋭くなる。


「非合理だな」


「かもしれません」


 リシェルは、否定しない。


 だが。


「それでも」


 続ける。


「存在する以上、無視はできません」


 その言葉。


 場の空気が、わずかに変わる。


 当事者の女性が、小さく息を呑む。


 男性も、わずかに視線を上げる。


 レオンは、しばらくリシェルを見ていた。


 そして。


 小さく笑う。


「面白い」


 一言。


 それだけ。


 だが。


 完全な否定ではない。


「だが」


 一歩、引く。


「それで結果が変わる保証はない」


「ありません」


 即答。


 リシェルは、迷わない。


 レオンの目が、わずかに細くなる。


 そして。


 ゆっくりと頷く。


「いいだろう」


 短く言う。


「やってみろ」


 その一言。


 場の空気が、大きく動く。


 リシェルは、静かに息を整える。


 そして。


 理解する。


 ——選ばされた。


 観察でも、理解でもない。


 ——選択。


 ここから先は。


 自分の責任。


 リシェルは、一歩前に出る。


 当事者の二人を見る。


 そして。


 初めて。


 “結果ではなく、理解のために”言葉を紡ぐ。


「確認させてください」


 その声は、これまでとは違っていた。


 静かで。


 だが。


 確かな意思が、そこにあった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


ついに主人公とレオンの本格的な対立が始まりました。


「結果を出す者」と「理解しようとする者」


どちらが正しいのかではなく、

どちらを選ぶのかというフェーズに入っています。


もしここまで読んで面白いと感じていただけたら、

ブックマークや評価をいただけるととても励みになります。


次話では、主人公が“選んだ方法”でこの案件に向き合います。

ここが大きな分岐になります。


引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

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