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エデンは遠くなりにけり 8

ジョージオさまは赤子のように無垢なお顔で眠ってらした。


……いったいどうしてこんなことになってしまったのだろうか。

私は……ジョージオさまに、そんなにもつらい想いをさせてしまったのだろうか……。

むしろジョージオさまのために、自分のやりたいことをあきらめて、ひたすらおとなしく暮らしていたつもりだったのだけど……。

我慢が足りなかったのかしら……。


私、これから……どうしたら、いいの?



***


翌日、執事さんから来客を告げられた。

タイミング悪く昨日の取り込み中に来られたかたが再来訪してくださったという。

ジョージオさまはまだ眠っていたので、私が代わりに応対すると答えた。

しかし執事さんは困った顔になってしまった。

理由はすぐにわかった。


「奥方様がお会いするのは、少し……外聞が……」

「……もしかして、マーサさんですか?……かまいませんので、お通しして差し上げてくださいますか?」


執事さんはため息をついて、一旦お部屋を出た。

程なく甘い香りをまとったマーサさんがいらした。


「ごきげんよう。マーサさん。昨日も来てくださったと、うかがいました。ご足労をおかけしてしまって申し訳ありませんでした。」

「まあ!どうされましたの!?お顔が……腫れてらっしゃいますわ。……まさか、それ……ジョージオさまが?」


私のご挨拶が終わるより先に、マーサさんは心配そうに駆け寄ってらした。

私は、少し頬に触れて、苦笑してみせた。


「……恥ずかしながら……ワガママを叱られてしまいまして……。お見苦しいですよね。申し訳ありません。……お肌のお薬は、打ち身にも効きますか?」

「ええ……多少は腫れを引かせるとは思いますが……。失礼しますよ。」


そう言いながら、マーサさんは早速お薬を取り出して、私の頬に塗ってくださった。

白い細い指が優しく頬をなぞるのがくすぐったくて、私は笑ってしまった。

つられてマーサさんも微笑んだ。

優しい瞳に、私はますます好感を覚えた。


「ありがとうございます。イイ香り……。スッとしますね。効果ありそう。」

「ちゃんと効くといいのですが。……それにしても、ジョージオさま、虫も殺さない顔で奥様に手を上げるなんて……」

「……ええと、意図して叩かれたわけじゃないんですよ。……たまたま、当たってしまったというか……。」


言葉に困っていると、マーサさんは訳知り顔になって、頷いてくださった。



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