エデンは遠くなりにけり 7
一応謝って、お部屋を出ようとした。
するとジョージオさまの美しいお顔が悪魔のように歪んだ。
「ですから!どうして、私から離れようとするのです!そんなに、私が嫌いなのかっ!!!」
悲痛な叫びだった。
びっくりした。
「……そんな……私はジョージオさまをお慕いしています……。」
一応そう申し上げたけど、疑心暗鬼になってらっしゃるジョージオさまには伝わらなかったらしい。
「嘘だ!あなたは、私を嫌っている!私の弱さを、私の怠惰を馬鹿にしているんだ!私は、私は、私は!!!無能ではないっ!!!」
ジョージオさまの口に端に、泡のようなものが浮かんできた。
いつもお行儀よく私を見つめていた緑の瞳が、片方は上へ、片方は右下へ……あ、しかも、ぐるっと廻りだした!
驚いて観ていたら、ジョージオさまはまた叫ばれた。
「そんな目で私を観るな!私は!私は!私は……」
ぷつりと、言葉が途切れた。
突如広がる静寂のなか、ジョージオさまは静かに崩れ落ちた。
びっくりして、私もしゃがんでジョージオさまを支え抱き起こそうとした。
けど、ジョージオさまはキッと私を睨み付け、両手両脚をバタバタと動かして暴れた。
まるで駄々っ子の子供のようだが……身体は普通の成人男性なので、かなり力強くて、痛い。
不用意に近づいた私は、頬を殴られ、足を蹴られ、腕を殴打された。
ジョージオさまの奇声と物音に気づいた執事さんたちが走って来て、止めてくださらなかったら……もっと酷い打撲を負ったかもしれない。
興奮状態のジョージオさまは、在駐の医師に気を静めるためのお薬を飲まされ、ようやくおとなしく眠られたようだ。
私もまた、頬や腕を冷やし、切れた唇に施薬された。
医師は、言いにくそうに言った。
「大公子さまは、お心が壊れてしまったようにお見受けします。大変失礼とは思いますが、奥方さまを愛しすぎて、ご自分を見失ってしまわれたのでしょう。……しばらく温かい目で見守ってさしあげてみてはいかがでしょう。」
「……壊れた心は、治癒するのでしょうか。」
そう尋ねたら、医師はかぶりを振った。
「奥方さまがそのように急かされると、悪くなる一方でしょう。……もしかしたら大公子さまは子供に戻ってしまわれるかもしれません。大きな赤子のお世話をする気持ちでいらっしゃったら、あるいは、すぐに戻られるかもしれません。」
はあ?
それって……単に、駄々をこねて、私を困らせたいだけってこと?
途方に暮れる私に一礼して、医師は帰って行った。




