エデンは遠くなりにけり 9
「そうでしたか。……それでは、ジョージアさまもお心を痛めてらっしゃいますね。」
「はい。そう思います。……まだ寝てらっしゃるので、目覚められましたら、マーサさんのお薬、ジョージオさまにも使わせていただきますね。」
そう言ってから、はたと気づいた。
お礼の品物なり金貨なり……準備しておくべきだったわ。
取り込んでて、すっかり忘れてた。
しまった……。
改めてお礼にうかがいます、って言うのもおかしいかな。
どうしよう。
まごまごしてる間に、マーサさんの視線がさまよい……窓辺の雑魚たちを見つけたらしい。
「ま……あ。かわいい。……奥様が育ててらっしゃいますの?あら!卵!……このままですと、この子たちの餌になってしまいますよ?」
「え。あの、よく御存じですね。お魚お好きなんですか?」
驚く私に、マーサさんは笑顔で頷いた。
「小さい頃から、馴染みがあるんです。私、カピトーリの山里の出ですの。」
「そうでしたか。……実は私はあまりよくわからなくて……卵を別の容器に分けると言ってもどうすればいいのか困ってたんです。もしよろしければ、教えてくださいませんか?」
「あら。お任せくださいませ。」
マーサさんは、意気揚々と雑魚に近づき、レースたっぷりの袖を捲って、そっと右手を水に入れた。
そして卵をたくわえた赤い子をすくい上げると、左手のハンカチーフに寝かせ置き、指でそっと撫でた。
うじゃうじゃと10個ほどの卵のかたまりがマーサさんの指先に移った。
「直接採るんですか!」
びっくりしている私にマーサさんはほほえみかけた。
「もっと驚かれることをいたしますよ。」
「え……」
ぽかーんとしてる私によく見えるように手を上げて、マーサさんは指先に力を入れて、ハンカチの上で卵の塊を転がし始めた!
「潰れないんですか!?」
驚く私に、マーサさんは言った。
「潰れる卵は無精卵ですから。放置しておくと白くカビてしまいます。健康な卵までカビがうつらないようにいたします。」
マーサさんの白い指が丁寧に卵の塊をほぐして、1粒1粒に分けてしまった。
「こちらの4つは無精卵なので、捨てます。……この……10粒ぐらいは、……ああ、あれに入れましょうか。お水は毎日換えてくださいね。白くカビた子がでてきたら、取ってしまってくださいね。数日で卵の中に目が見えてきますわ。」
「こんな小さな卵に……」
マーサさんは水差しとお揃いのキラキラ美しいクリスタルグラスに水を入れてから、ほぐした卵を落とし込んだ。
「さ。どうぞ。……これは、ただの、勘ですが……奥様は、ジョージオさまの御子を身籠もってらっしゃたのではありませんか?」
「は?」
何を言われているのか、よくわからなかった。




