94 迷宮で稼ぐ日
ラトレの迷宮に到着。
本日は変則2パーティで中へと入る。
俺、ライバー、アンジェ、モリさんで1パーティ。
経験者でガンガン戦いまくるパーティだ。
もう1つはミリアがリーダーで、クーパー、ケビン、メラニー、ケイトの5人パーティ。
こちらは雨で外へ行けない4人の、迷宮体験と小遣い稼ぎが主な目的だ。
「ハンスはミリア以上に容赦ない時があるから怖いよな」
ライバーにそんな事を言われる。
しかしだ。
「もうライバーなら何をしても大丈夫だろ」
「ハンスの何をしてもはとんでもない可能性があるよね。翼竜とか」
「あの雨の日の魔力向上訓練は厳しかったよな」
アンジェやモリさんにまで言われてしまった。
しかし一般生徒から見ればライバーやアンジェ、モリさんも充分とんでもない強さになりつつある。
本人達にはまるで自覚はないけれど。
いや、モリさんは少し自覚があるかもしれないけれど。
たとえばだ。
「でもどうせ第6階層最初の罠部屋は寄っていくだろ」
あえて俺はこう聞いてみる。
「当然よね。短い時間で荒稼ぎが出来るし」
「ああ。軽く3回はやって稼ごうぜ」
この調子だ。
第6階層の罠部屋は第4階層の罠部屋より更にたちが悪い。
出てくる魔物が第4階層のものより強いのだ。
第4階層の罠部屋の場合はケイブバット、ポイズンフロッグ、スライムといった弱いものばかり。
ケイブバットを除けば動きもかなり遅い。
だが第6階層の罠部屋で出てくる魔物はゴブリンだ。
これでもかという位にゴブリンばかり出てくる。
そんな最初の時は必死だったあの罠部屋以上の場所でさえ今ではこんな扱い。
そんな訳で第5階層行きの階層転移陣を使用して第5階層へ。
そこから第6階層へと進み、罠部屋の前へと到着。
「それじゃ行くか。第1回目」
まったく怖がること無くライバー先頭で入っていく。
ついでアンジェ、モリさん、そして俺。
なおモリさんは片手剣と小楯に持ち替えている。
剣はフィン製作の『ドワーフの里での経験をもとにした乱戦用の剣』。
肉厚で反りが深めだ。
重さは俺の刀とほぼ同じと片手剣としてはやや重め。
これは振り回してぶった切る事を目的としているから。
あの非力だったモリさんが……とも思うが、ある程度重い方が振り回して切るには楽だそうだ。
なおアンジェの槍とかと違って魔力を通す仕様ではない。
ライバーもいつもと違い盾ではなく両手剣だ。
この剣はまっすぐでやたら分厚い両刃の剣。
これはフィンが『どう振り回しても折れないし相手にダメージを与えられる』という考えで作った物。
『刃のある棍棒みたいなものだね』という製作者の台詞でどんなものかを察して欲しい。
なおアンジェはいつもの炎の槍。
俺はジャンナヴェッグさんの店で購入した刀だ。
俺の背後で罠部屋の扉が閉まる。
ゴブリンが一気に数え切れない程出現。
でも皆さん、全く慌てた様子はない。
「それじゃやるか」
いつもの調子でそう言うと、ライバーは剣を振り回し始めた。
◇◇◇
第6階層の罠部屋3回の後、最短ルートを第10階層まで進んでボス部屋を攻略。
なおボスはゴブリンナイト3匹とアークゴブリン5匹。
それでも危なげなくあっさり倒す。
ちなみにこの部屋を攻略するのは1週間ぶり2回目だ。
1回目はミリアとフィンもいたけれど。
「今日はもうこれでいいだろう」
「そうよね。ミリア達もいるしね」
第10階層の階層転移陣で上へと戻る。
受付にはまだミリア達の姿は見えない。
先に換金して待っていよう。
「今日はこれで終了でしょうか」
受付嬢が聞いてくるので頷く。
「ええ。ですので買取をお願いします」
本日はゴブリンばかり。
だから死骸や素材等はなく、魔石ばかりだ。
「これで以上です」
「わかりました。それでは計算します」
結果、正銀貨100枚近くになった。
これからは強化習得用のゴブリンもここで仕入れようかな。
でも夜間は迷宮もやっていないんだよな。
そんな事を思いながらここにいる全員で分けて、それからミリア達を待つ。
カウンター近くの待合用ベンチで待っていると、5半時間くらいでミリア達は戻ってきた。
ミリア以外、全員相当に疲れている様子だ。
さてはアレをやったなと俺達のパーティ全員が気付く。
「どうだった、罠部屋や階層主部屋は?」
「酷かったわ。倒しても倒してもきりがなくて」
いかにも疲れたという顔でケイトがこたえる。
「新型弓もあっという間に矢がきれてあとはナイフだぜ。フィンに使いやすいナイフを作って貰っていたから何とかなったけどよ」
「でも新型弓とケイトの魔法でケイブバットが倒せたのは助かった。後は動きが遅いから何とか対処出来た」
「新型弓の訓練をもっとしないとまずいですね。2発に1発は外してしまいました。長いから取り扱いも考えながらやらなければなりませんし」
「ショーンがいたらもっと楽だっただろう。あのフライパン盾なら同じ方向の敵を一掃できる」
やはり罠部屋に突入したようだ。
「階層主は?」
「今回は見ているだけ。ミリアが全部倒したわ」
つまり最初に迷宮に入った時のうちのパーティと同じパターンという訳か。
「とりあえずこっちのパーティは、自分達で階層主を倒せるようになるまで迷宮で特訓ね」
カウンターにいるからミリアがそんな事を言う。
4人が絶望を見るような表情に変わった。
「大丈夫だぜ。あの部屋も3回やれば慣れるからさ」
「そうそう。何事も慣れよ。それに罠部屋は儲かるしね」
こっちの前衛2人がそんな台詞で励ます。
でも最初に迷宮に入った時、既にモリさん達はレベル30近くまで達していた筈だ。
つまりあの時、既にモリさん達の基礎体力等は既に中堅冒険者並かそれ以上になっていた。
だからクーパー達も同じように出来るとは限らない。
モリさんはその辺気付いているようだから何も言わないけれど。
カウンターからミリアが戻ってきた。
「さて、今回の収入は1人正銀貨5枚と小銀貨9枚、正銅貨6枚よ」
おっと、目に見えて向こうのパーティ4人の表情が変わった。
「いいの、そんなに」
「全員きっちり同じになるよう分けたわよ」
「これならまた来ようという気になるぜ」
俺達はクーパー達の変化をかつての自分達を見るような目で見守った。




