92 賢者へ職業変更
翌日の夜。
今夜も獲物は少ない。
ただ昼間に皆で狩ったゴブリンの死骸が30匹分ほどある。
このためにパーティを2つにわけて狩りまくった結果だ。
これに今夜狩ったコボルトやゴブリン35匹を足す。
更にいつもの湿地にいたスライムを全滅させ魔石を回収。
これでモリさん達4人分には足りる程度にはなった。
強化習得用の穴を掘るのはいつもの場所だ。
街に近い分魔素が多いので、魔物が育ちやすい。
ミリアと2人で2つずつ穴掘り開始。
「あとはこの穴掘り作業も自分達で出来るようになればな」
「ライバー以外は進化種になれば出来るんじゃない。進化すれば魔法適性も大幅に増えるから」
「確かにライバーが魔法を使うところは想像できないな」
50腕位の穴が合計4本完成。
此処へ来た頃は俺でもこのくらいの長さが限界だったな。
そんな事を思いながら穴の中に魔物の魔石付き死骸を均等に投げ入れる。
上を土で塞いで隠蔽魔法をかけたら無事終了だ。
なお俺とミリア用は先週に作ってある。
今の俺達はレベルが上がりにくいので、以前以上に穴を深く仕込んでいる。
寝かせる期間も2週間に伸ばした。
今まで通りだと俺の場合レベルが2も上がらないから。
「さて、あとはハンスの職業変更よね」
やはりおぼえていたかと思う。
しかし今日やらなくても、どうせミリアに見られるだろう。
それにこの方法を教える事そのものは悪くない。
ミリアも今学期中には賢者になれる条件を満たすだろうし。
目が覚めた時に俺の心臓に悪いだけだ。
それが問題なのだがもう仕方ない。
「とりあえずいつもの避難所を作る」
同じ土壁で囲まれた場所を作り、中にテントを張る。
ここまではいつものレベルアップ時と同じだ。
「ここからどうするの?」
「まずは魔法陣を描く。これで職業変更の及ぶ範囲を規定する」
この辺の土は湿気ているし平らでもない。
だから土魔法で表面を削って平らにし、表面を魔法で高熱にした後、冷まして固める。
魔法陣の描画も手描きは大変だし不正確になるので魔法で。
図面そのものは円と、内接する正三角形2つと簡単。
これが基本魔法陣で、儀式魔術や儀典魔術を使う際は魔法に応じてこれに付加図形や魔術式を書き加える訳だ。
「さて、中央教会の場合は神官が祈祷し対象者を職業変更する。だから魔法陣は発と受の2つが必要だ。だが自分でやる場合は1人が両方をやる。だから魔法陣に発と受両方の魔術式を加えてやる」
やはり魔法で右に発信の魔法式を、左に受信の魔法式を描く。
「これで準備は完了だ」
「えっ、他に魔術式や付加図形は加えないの?」
確かに魔法陣としてはかなりシンプルな部類だ。
「祈願の詳細は口頭で言えばそれで済む。設置型魔法陣と違い術者が中にいるからこれで充分だ。
細かく図形や数式を記載するのは自動的に行う動作を規定するためか、足りない魔力を補う為だから」
「確かに理屈はそうだけれどね。何か今までの常識と比べると簡単すぎる気がするわ」
「レベルという考え方を無くした影響だろう。関係する知識が形骸化している訳だ。
さて、やろう」
俺は魔法陣の中へ入る。
「道具とか供物とかは必要ないの」
「必要ない。見ていてくれ」
実際やり方そのものは簡単だ。
中へ入り、台詞を言うだけ。
台詞は祈祷や儀式、魔法陣で使用する古代語で唱える。
だがこの程度の古代語なら1組の授業でもやっている。
ミリアに解説する必要は無い。
「神へ申請、規定22条に準拠、職業を変更」
古代語を発音すると音とともに意味が頭に流れ込んでくる。
表意言語だとメディアさんは言っていたな。
『受諾。希望する職業を選んで下さい。賢者、光騎士、探求者』
神からの応答があった。
提示されたのは予想通り勇者以外の第3レベル職業だ。
賢者は魔力が上がり、全ての魔法属性にプラス補正がつく。
光騎士は防御力が大幅に上がり、光属性の魔法とスキル、剣術にに大幅なプラス補正が入る。
探求者は器用さ、俊敏さ、腕力といった体力方面にプラス補正が入り、全ての魔法属性が使用可能になる。
こういった簡単な説明を聞くと探求者や光騎士も面白そうだと感じる。
だが俺はメディアさんに聞いている。
『第3レベル職業で選ぶべきは賢者一択だ。
属性が偏ってしまう光騎士や闇騎士は論外。探求者は魔力上昇が髙くない分使いにくい。だから勇者と賢者以外の第3レベル職業は忘れ去られてしまった訳だ。
勇者も実際は能力が中途半端だな。神に祝福されされれば低レベルでもなれるというのが唯一の取り柄だろう』
だから迷わず俺は選択する。
「賢者を選択します」
『受諾。申請手続き完了』
強烈な力を感じる。身体が熱くなる。
俺は魔法陣を出て避難所へ。
寝袋へと身体を滑らすと同時に魔法を起動。
『生命魔法、睡眠!』
俺は意識を失った。
◇◇◇
ああ、またこの感触だ。
気持ちはいい。
いいのだが心臓に悪い。
俺は目を覚ます。
「頼むから寝ている間に耳元を撫でないでくれ」
レベル上昇時と同様、職業変更時にも変装魔法は解けてしまうようだ。
その結果、またもミリアに撫でられているという状態。
「いいじゃない。触り心地がいいし、減るものじゃないし」
俺の気力が減るのだとは言えない。
相手がミリアだというのが特に。
とりあえずミリアの手から逃れて俺は立ち上がる。
「撤収しよう。今日も授業がある」
「そうね。ところで賢者になった感想はどう? 魔力は上がった? 進化の魔法はおぼえた?」
そうだった。
天幕の外に出ながら鑑定魔法で確認。
「魔力がかなり上がっている。使用出来る魔法も種類が増えたようだ。進化もおぼえた。ただ体力的には変わっていない」
メディアさんに聞いたり本で読んだりした通りだな。
「ならモリさん達も進化させようと思えば出来る訳ね」
「ああ」
俺達は撤収作業を開始した。




