91 獲物が少ない夜
2学期が始まった。
また午前中は授業、午後は討伐という日々が始まる。
夜にミリアと狩りをしたり強化習得をしたりなんてのも前と同じだ。
今は授業始まりの1の曜日の夜。
ミリアと2人で強化習得用の魔物狩り中だ。
しかし今日は獲物が少ない。
1時間近く探してまだゴブリン10匹程度だ。
この調子だと今夜は駄目かな。
そう思いながら速足で街道を歩く。
魔物が少ない理由が走査範囲に入って来た。
ああ、これが理由だったかと気づく。
エルダーオークのはぐれだ。
こいつのせいで魔物が出にくいのだろう。
ゴブリンのような弱い魔物は喰われたか、恐れて逃げ出したか。
しかも魔力が大きい分魔素を吸収するから、その分余計にゴブリンが発生しにくくなるし。
「はぐれオークだ。それもエルダーオークだな」
「どっちの方向?」
「西北西」
ミリアの走査範囲は俺より少しだけ狭い。
でも方向さえ教えればわかる距離だ。
「捉えたわ。呼ぶ?」
「ああ」
普通に歩いているオークの足は遅い。
だからここに人間がいるぞと気づかせてやる。
そうすれば人間を襲う為に全速で走ってくるという訳だ。
「うーあー」
ミリアの声が風魔法で一方向へと送られる。
オークの反応が上がった。
こっちに気づいて走り出したようだ。
「このエルダーオークはハンスに任せるわ。私だと肉が焼けてしまうから勿体ないし」
「わかった」
オーク系統は全身が素材といってもいい。
皮も肉も、骨すらも素材として有効活用できる。
ガサガサガサガサ、バキッボキッ。
通常のオークよりも一回り大きい魔物が近づいてきた。
街道に出た瞬間を狙う。
『冷却魔法』
奴はこっちを振り向いて、そしてゆっくりと倒れた。
オークは魔物といっても動物、哺乳類に近い。
エルダーオークであってもそれは同じだ。
体温を奪えばあっさり倒せる。
「強化習得には使えないわね、勿体なくて」
「そうだな」
俺の自在袋にまるごと収納する。
明日の午後にでもモリさんと一緒に解体しよう。
これ1匹だけでいい収入になる。
「それにしてもエルダーのはぐれオークは珍しいわね」
「そうだな」
ただのはぐれオークが魔素を吸収してなったのだろうか。
エルダーオーク同士の争いがあって孤立したのだろうか。
こんなのが街近くに出たらちょっとした災害だ。
攻撃魔法持ちでB級以上の冒険者でもなければ倒せない。
うちの学生だと思い当たるのはアルストム先輩くらいだ。
シャミー教官あたりなら余裕だろうけれども。
「今日は戻るか。この調子だと時間をかけても収穫は少ないだろう」
「そうね。足りない分は明日の昼にでも狩ればいいわ」
モリさん達も強化習得の方法論について知っているから問題はない。
そんな訳で俺達は街に向けて歩き始める。
そうだ、強化習得と言えばそろそろ……
俺は懸案事項を思い出した。
「次回でモリさん達もレベルが50を超える。進化種にした方がいいだろうか」
「進化種になるには、レベルの他に正教会の神官長による祈祷が必要なんじゃないの」
ミリアの意見は正しい。
ただあくまでそれは今の世の中の状況からそうならざるを得ないだけなのだ。
「勇者か賢者になれば進化の魔法を覚える。これを使えばレベルさえ達していれば進化種に出来る。祈祷儀式は勇者や賢者がいない際の代替に過ぎないらしい」
「それもメディアさんに聞いたの?」
ウーニャの村から帰った後、ミリアにはメディアさんの事をひととおり話している。
俺が獣人である事も知っているし、問題ないだろうと思ってだ。
「メディアさんの山小屋にあった古い本に書いてあった。俺自身もメディアさんの魔法で進化種になったし、おそらく大丈夫な筈だ」
「という事はハンス、賢者になれたの?」
「条件は揃った。明日にでも試すつもりだ」
ドワーフの村への行き帰りで治療・回復魔法を使いまくったおかげで生命属性魔法の適性がかなり上がったのだ。
その結果生命属性もついに上級魔法が使えるようになった。
火と土属性の魔法は1学期中に上級まで達している。
水と風は学校に来る前に既に上級に達していた。
レベルはとっくに100を超えている。
賢者になる条件はクリアだ。
「でもそういった職業変更も確か神官の儀式でやるんじゃないの?」
「いや、それは単に職業変更の方法が中央教会にしか残っていないだけだ。その辺を知っていれば1人で出来る」
「それじゃその辺って全部単に中央教会が利権というか儲ける為にうちでしか出来ないと言っているだけ?」
その可能性もないわけではない。
でも俺はもっと簡単な理由のような気がする。
「そうかもしれない。でも本当にそう信じているだけかもしれない。レベル上げという概念とともにその辺の知識は全て消されたらしいから」
「その辺はアンジェかケイトに聞けばわかるかしら」
確かに2人は以前教会にいたしな。
ケイトは禁じられていたレベルについても知っていたようだし。
「ケイトなら知っているかもな。教会でも優等生だったらしいし」
「それにしてもハンス、賢者というよりは勇者の方が本当は適性があるんじゃない。剣も剣技も使えるし」
言いたいことはわかる。
それでも勇者ではなく賢者を選んだのは理由がある。
「勇者になるには神の祝福が必要だ」
ミリアは意外そうな顔をする。
「神って、メディアさんは超神じゃなかったの?」
「その場合の神は超神や亜神とはまた違う存在らしい。その辺は俺も知らない。ただ中央教会が言っているような神ではないことは確かだ。教会も勇者を生み出していないようだから」
その辺についてメディアさんは知っているようだった。
でも俺は聞いていないしは知らない。
「レベル上昇時ほどではないにしろ時間がかかる筈だ。だから強化習得の準備をした後やるつもりだ」
学校の寮でやると魔力反応で周りに気づかれる可能性がある。
一応障壁は張ってあるのだが油断は出来ない。
シャミー教官やアルストム先輩のような要注意人物もいることだし。
「なら折角だから見せて貰うわ。職業変更の方法なんての知る機会なんて他に無いだろうしね」
しまった、そう気付く。
ミリアだったら絶対こういうだろうと予測してしかるべきだった。
そう思ってももう遅い。
理由は簡単。
レベルアップ時等で寝起きで横にミリアがいるとどうも心臓に悪いのだ。
何故と言われると表現に困るのだけれども。
仕方ない、その辺については後で考えよう。
心臓に悪い事態になる以外は考えにくいけれど。




