42 技能それぞれ
「それじゃここからは2列で行こうか。先頭がライバーとアンジェ、2番目がケビンとメラニー、3番目がモリさんとショーン、4番目がエマとクーパー、5番目がケイトと僕、最後がミリアとハンスで。
あと取れそうな薬草とか魔獣や魔物だとかに気づいたら立ち止まって言ってね。勿論ハンスとミリアは除く、だけれど。そうすれば皆もそれぞれの実力がわかるようになるからね」
この辺の采配はモリさんよりもフィンの方が上手い。
だから2グループ合同の場合はフィンが指揮をとる。
こういった事も昨日の話し合いで決めておいた事だ。
「何かあるまではカペック平原に向かって歩いて行けばいいんだな」
「そう。ライバーとアンジェ、頼んだよ」
索敵能力は不安だが壁としてはライバーもアンジェも信頼できる。
はぐれオークでも出てこない限り問題無いだろう。
だから俺も安心して歩いて行ける。
勿論注意は怠らないけれど。
いつも通り歩いて行って森へ入ってすぐの処。
「あの……いいでしょうか」
いきなりエマが口を開いた。
「どうしました?」
「そこの奥、多分タケーダ草です。他の草に隠れていますけれど」
おっといきなりか。
俺ですら気づかなかった。
「タケーダ草って何?」
アンジェは知らないようだ。
確かに学校の買取にも書いていない薬草だからな。
「薬草の一種で主に毒消しや胃腸の病気に使います。学校の買取表には書いていませんが、持って行くと1株正銅貨12枚で買い取ってくれます。採取してもいいでしょうか」
「お願いします。全然気づかなかったな」
フィンだけではない。
皆さんうんうんと頷いている。
エマは街道の右側に寄ると、魔法で土ごと根っこからすくい取る。
そのままさっと自分の自在袋に入れようとしたところでケビンが声をかけた。
「悪いが見せて貰っていいか。はじめて見る薬草だから」
「いいですよ。どうぞ」
そんな訳で全員でまじまじと観察する。
「よくこんな小さな草、見つけたわね」
「この小ささが特徴なんです。あとは葉っぱの付き方が互い違いですね」
「こんなの絶対見落としちゃう」
「慣れると小さい分逆にわかりやすいです」
ううむ、これはこれで特技だな。
俺でも真似が出来ない。
「それじゃこの辺にももっと生えているのかな」
「タケーダ草は何故か必ず単独で生えるんです。だから1株あったらその付近にはまず生えていないです」
「貴重品だな、それは」
「そうでもないですよ。こうやって外に出れば時々は見つかりますから」
とりあえず全員で観察し終わった後、エマの自在袋にしまって再び歩き出す。
ただエマの薬草採取眼、普通では無かった。
その後5分も歩かないうちに再び。
「ごめんなさい。またいいでしょうか」
「今度はどんな薬草?」
もう皆、薬草だと完全にわかっている。
「エザイ草です。高熱によく効く薬草で、これも正銅貨9枚で買い取って貰えますね。ここは結構ありますからいい感じでいただけるかなと」
見た限り細長い葉っぱの、ただの雑草にしか見えない。
それをやはり土がついたまま根からごっそりと魔法で抜く。
「自在袋に入りますか、それ全部」
「大丈夫です。種類別にしまえるよう、小容量の自在袋ですが20枚用意してありますから」
それにしてもまさに薬草判定機だな、これは。
「それにしても俺達みたいな初心者は別としてさ、他にここを通る冒険者なんかも気づかないんだな、こんなに薬草があることに」
「冒険者学校でも一般の授業で教えるのはわかりやすく効能も高い幾つかのメジャーな薬草だけです。冒険者学校に通わないで冒険者になった方はそんな薬草すら知らない事も多いらしいですし。一方で薬草の専門家は通常調合や栽培で忙しくて外回りして採取なんてほとんどしません。ですから知っていれば採れる薬草というものは実は多いそうなんです。だから私程度でもこうやって見つける事が出来るのですけれど」
「参考までにエマ、何種類くらいの薬草を知っているの?」
「さあ……数えた事は無いです。学校の図鑑に載っているものはほぼ全部わかりますから、千種類程度でしょうか」
ちょっと待て。
図鑑に載っているもの全部わかるだと。
「もう充分専門家だと思うわよそれ」
「とりあえず真似できない事はわかった」
「何はともあれ貴重な存在だよな」
皆さんそれぞれの形で理解したようだ。
少なくとも薬草に関してはエマ、只者ではないと。
◇◇◇
エマが4回ほど薬草採取で立ち止まった後。
次にストップをかけたのはケイトだった。
「まだ遠いですけれど良くない存在がこちらに向かっています。こっちの方向に2体です」
おっと、これがわかるか。
思わず俺はミリアと顔を見合わせる。
ケイトが感知したのはゴブリンだ。
場所は北西方向、だいたい100腕先。
その方向は森だから目視では当然あり得ない。
つまり魔力感知による索敵という訳か。
「それじゃ止まるよ。ところで他に誰かその敵の様子がわかる?」
「多分ゴブリンだ。2体。北西から森の中を今の俺達のやや前で街道を出るくらいの感じで歩いている。街道に出るのはあと100数える位だ」
これはクーパーだ。
こっちも魔力感知で索敵が出来るらしい。
索敵担当としてはなかなかの腕だな。
「前後に他のパーティもいないようだし、ここで倒そうか。1人で1頭倒すとして、誰かやりたいという希望者いるかな? 報酬はあとで全員で均等配分だけれど」
「それじゃ私が片方やるわ」
「俺がもう1頭をやろう」
メラニーとケビンが名乗り出た。
「わかった。それじゃメラニーとケビンで1頭ずつお願い。ライバーは盾で2人の間をガードして。モリさん、アンジェ、念の為横に回らないように槍でガード。あとはその後ろに下がっていて。念の為ケイトとクーパーは他に敵が来ないか索敵続行で」
フィンの指揮は俺やミリアより手堅い分安心して見ていられる。
さて、メラニーは3組でD級、女子としては珍しい斧使いだ。
それも巨大な戦斧ではなく片手剣サイズの手斧を両手持ち。
戦闘スタイルとしてはかなり珍しいタイプ。
防具が革の胸当てだけと最小限なので速さが取り柄の格闘系なのだろうか。
ケビンは2組でおそらくは槍使い。
自製と思われる背負い筒には槍らしき物が5本入っている。
どれもいわゆる短槍で、穂の形は素槍のようだ。
彼はそのうち1本を取り出し構える。
「そろそろ出てくるから頼むね」
フィンの台詞から5数える程でゴブリンが出てきた。
索敵通り2頭だ。
こっちを視認して、それぞれ武器を構えている2人に向かって駆けだして来た。
メラニーとケビン、ほぼ同時に動いた。
メラニーはまず手斧を投擲。
ゴブリンの左肩にぐさりと刺さる。
グエェ! グエェ!
吠えるゴブリンに一気に接近し、斧で剣を叩き落とす。
更に近づくゴブリンを蹴飛ばし、斧で頭部に一撃。
あっという間にゴブリンは倒れ動かなくなる。
ケビンも槍の投擲からはじまった。
こっちは一撃でゴブリンの腹部を貫く。
それでもよろよろ近づいてくるゴブリンに、もう1本取りだした槍で胸にとどめ。
「それじゃ回収はアンジェ、よろしくね」
「わかったわ。武器や防具は残しておく?」
「お願い。ハンス、またとっておいて」
「わかった」
アンジェがゴブリンの頭部を熱魔法で分解して魔石を取り出す。
残った屍体は装備材料とレベリング材料として俺が回収だ。
「あれ、ゴブリンって素材にならないよな」
クーパーが当然の疑問を口にする。
「金にはならないけれど使い道はあるんだ。その辺は後でね」
フィンはそう説明した後。
「それじゃ最初の隊列に戻して行こうか」
そう声をかけた。
歩きながらフィンがまずはケビンに質問する。
「その背負っているのは全部槍なのかな?」
「ああ。安い槍はよく折れる。それに投擲にも使う。だから常に5本は持っている」
なるほど。
フィンが頷きつつにやりとしたのを俺は見逃さなかった。
「あとメラニー、斧を使い慣れているのかな」
「うちの家は木こりでね。だからナイフや剣より斧や鉈が身近にあった訳だ。ただ戦闘斧は重いし振り回しにくいから薪割り用の斧を使ってる。これが一番手になじむ感じがしてさ」
あ、またフィンがにやりとした。
さては新しい武器を考えているなきっと。
「それにしてもクーパー、昔以上に索敵が上手くなったよな。驚いた」
「俺っちとしてはモーリが女性だった事の方が驚きだぜ」
「それは言ってくれるなよ。あの環境だからさ、わかるだろ」
どうもクーパーはモリさんの知り合いらしい。
それも学校で知り合ったというのとはまた違う感じのようだ。
「ああ。でもやっぱり驚きだぜ、こっちとしては」
「それより索敵、やたら細かくわかるようになったよな。どうしたんだ」
「学校で魔力の読み方を教わったら一気にわかるようになってさ。一度見た魔獣や魔物ならほぼ間違いなくわかるぜ」
「だいたいどれくらいの距離でわかる」
「今のゴブリン程度だと100腕ちょいってところかな。でも戦闘はからきしだぜ、やっぱり。前からの生活の常で逃げる方に特化したからさ。そのままだ」
やはりかなり高度な索敵能力を持っているようだ。
しかもその辺はモリさんもある程度把握している模様。
「ケイトは確か治療魔法メインだったわよね。索敵が出来るというのははじめて知ったわ」
これはミリアだ。
同じクラスの女子なのでその辺で知っていた模様。
「基本的には治療魔法と回復魔法専門です。ただ魔力の動きは一応追えるので、人ならざる存在がいるのに気づけた訳です」
ううむ。
皆さんなかなか個性的な特技を持っているようだなと思う。
あとはショーンかな。
今の処見せ場がないけれど、大丈夫だろうか。
E級だから戦闘や魔法は期待出来ないけれど。




