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【完結】 前世の記憶を取り戻した私はモラハラ婚約者に反撃する【連載版】  作者: 早島りんご


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第六話 エリーアスの改心?

 私が前世の記憶を取り戻し、エリーアスのモラハラに気付いてから数週間が経った。


 相変わらずエリーアスは私に近づいては嫌味を言い、かと思えば「最近綺麗になったな」だの「今度新しくできた劇場に行かないか」とデートの誘いをしてきたり。


 エリーアスは突然私に対する態度を軟化させてくることが多くなったのだけど、彼の意図が分からない。


 もしかして、このままエリーアスが改心する可能性もあるのだろうか?


 私が再び真摯な気持ちで彼に向き合えば、彼と上手くやっていく未来があるのだろうか?


 けれど、こんなことをセレスタンには相談できない。


 かといって他にこんなことを相談できる友達もいないし……と思っていると、空き教室で共に課題をするかたわら、セレスタンからその話題を振ってきた。


「最近、エリーアスは君にやけに優しくないか?」


「あら、セレスタンもそう思う?」


 セレスタンは机にペンを置き、私の目をじっと見た。


「このままエリーアスにほだされてはいけないよ」


 そう言われて、私はドキッとする。


「あのね、僕はエリーアスに対する嫉妬心からそう言ってるんじゃない。彼が君に対して優しくなったからといって、彼の本質が変わった訳じゃないからそうアドバイスしているだけだからね。多分僕が君の女友達であっても、同じようにアドバイスすると思う」


「そう……」


「エリーアスは相変わらず自分が格下だと認定した同級生には辛辣だし、君に優しくしているのは君の心が離れていっているのを敏感に察知しているからだと思う」


「セレスタンにこんなことを相談するのは筋違いかと思うんだけど、エリーアスは今後心を入れ替える可能性はあると思う?」


 すると、セレスタンはしばらく黙ったあと、ゆるゆると首を横に振った。


「僕の国にもエリーアスみたいに横柄で、わざとその相手が傷つく言葉を選んで、支配的な態度を取る人がいたんだけど……その人も、自分の周りの人が離れていきそうになったら途端に態度を軟化させて、かと思えば再び支配的になったりして。なんと言うか人の根本はそんなに簡単には変わらないんだなって思わされたよ。僕の兄の一人なんだけれど」


「まあ、セレスタンのお兄さんが」


 セレスタンは自虐的な笑みを浮かべた。


「僕の兄弟はすごく競争させられながら育ったんだけど、おかげさまで兄弟仲はあまり良くない。言ってしまえば跡継ぎ問題だね。誰が跡継ぎにふさわしいか、常にジャッジされ続ける生活だったよ。僕はそれから逃げるようにこの国に留学してきたけれど、自国で生き抜くことを決めた兄の一人は、周囲に対して支配的になるしか自分の心を守る方法が無かったのかもしれない」


「セレスタンも苦労したのね。エリーアスも……私の知らない苦労があって、ああいう性格になったのかしら?」


「セレスタンの実家、ゲルデルン侯爵家も兄弟が多かっただろう? もしかすると、僕の家のように兄弟間で優劣をつけられたりしたのかもしれないね。でも、だからと言ってビアンカに当たり散らしていい訳がないんだよ」


 セレスタンは少し怒ったように言った。


「君も、もっと自分のことをないがしろにされたら、怒っていいんだよ」


 怒っていい、とアドバイスされたのは生まれて初めてで、私は目をぱちくりさせた。


「え、私ちゃんと怒ってると思うわよ? この前だってエリーアスに思い切り言い返したし」


「でも、ビアンカは今、婚約破棄をするか迷っているだろ? 自分さえエリーアスの過去を許せば、丸く収まると思っていないか?」


 セレスタンの指摘は確信をついていた。

 そう、私は迷っている。


 このまま婚約破棄をしていいのか?

 婚約破棄してしまえば、実家からもより見放されるのではないか? 

 セレスタン以外にロクに友達もいない私はもっと独りぼっちになるのではないか?


 そんな不安が拭えないのだ。


「エリーアスとの関係を清算するより、このままずるずると関係を続けた方がずっと楽だと思うよ。でも、僕はビアンカにもっと自分を大切に想ってくれる人と幸せになってほしいと思っている。例えば……ぼ、僕とか」


 セレスタンはうつむき気味に言った。

 彼の耳が赤く染まる。


「あのね、ビアンカ。僕は卒業したら国に帰るんだけど、君さえ良ければ僕の国に来ないかい?」


 セレスタンは顔を上げ、決意を込めた瞳で私を見た。


「僕の国で、人生の新しいスタートを切らないか?」


 なんと魅力的な提案だろう。


 このままセレスタンの胸に飛び込んでしまえば、私は今より幸せになれる気がする。


 でも、エリーアスと婚約解消し、実家からも離れ、私は一人でやっていけるだろうか?

 セレスタンの国に行ったところで、私が歓迎されるかも分からない。


 エリーアスと共に過ごした間に染みついた「私なんて」「私なんかが」という考えは、そう簡単には拭えないようだ。


 けれど、そこを乗り越えなくては、私は幸せにはなれない。


 やはり、この先の人生がどうであれエリーアスとは決別しなくちゃ!


「ありがとう、セレスタン。あなたからの提案は前向きに考えるわ。でも……まずはエリーアスとの決着をつけなくちゃ」


「ああ、ビアンカの気持ちの整理がつくまで、僕は待っているさ」


 卒業パーティは目前だ。

 人生のリスタートの日は近い。


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