第四話 女は従順であれ~エリーアス視点~
主人公の婚約者エリーアスの視点です
ビアンカがおかしくなってしまった!
俺の婚約者ビアンカは、出会った時からずっと俺に従順だった。
少し口ごたえする時もあるにはあったが、そういう時は水魔法で物理的に頭を冷やしてやれば、すぐに自分の間違いを認めていた。
俺とビアンカは、ずっと順調に婚約期間を過ごしていた。
それなのに、どういうことだろう?
数日間の欠席の後に学校に現れたビアンカは、まるで人が変わってしまった。
いつもの従順さはすっかりと息をひそめ、代わりに口ごたえどころか、俺を罵倒する始末。
高熱が出たと聞いていたが、熱で頭をやられたのだろうか。
いつもなら水魔法で頭を冷やしてやるのだが、さすがに他人の目もある学校でそういうことをする訳にはいかない。
水魔法を頭から浴びせるというのが、荒治療であることは俺も承知しているからな。
俺はビアンカが正気に戻るのを待つため、一旦彼女から離れることにした。
するとセレスタンとかいう陰気な同級生がビアンカに話しかけに行っていたが、あいつも頭がおかしいんじゃないか?
正気を失ったビアンカなんて、放っておく以外に処置無しだろう。
まあいい。
少し冷たくすれば、ビアンカも自分の立場を思い出すはずだ。
俺はガヤガヤとした廊下を抜け、人気の少ない校舎の端へと向かった。
そこには、俺の真の恋人カーヤがいつも通り待っていた。
「すまない、待たせたな」
「またビアンカ様にご指導なさっていたんですか?」
カーヤがクスクスと笑うと、彼女の美しい髪がさらさらと揺れた。
「ああ、ビアンカは欠席している間に、どうやら熱で頭をやられたらしい。俺に対して信じられないほどに反抗的な態度を取ってきた」
「まぁ! 従順さ以外に取り柄のない方ですのに、ビアンカ様もしょうがないですね。エリーアス様もそんな彼女のお相手をするのは大変だったでしょう?」
カーヤの細長い指が俺の頬を撫でる。
「それよりも朗報だぞ、カーヤ。卒業パーティではお前のエスコートをできることに決まった」
「まあ、本当ですの⁉」
カーヤは喜びで顔を綻ばせた。
「病で臥せっている父も、これを聞けば喜ぶに違いありません。父はわたくしのエスコート役が見つからないことを気に病んでいましたから」
通常、卒業パーティでは婚約者か、家族もしくは親族が女子生徒のエスコート役をすると決まっているのだが、カーヤの家は他の親族と疎遠な上に、彼女には婚約者がいない。
「これで平民あがりの男爵家だからエスコート役がいない、などと影で笑われることもありませんわ」
カーヤはほっと息を吐いた。
「平民あがりの男爵家、などと誰が言うんだ? まさかビアンカか?」
俺が尋ねると、カーヤはそっと顔を伏せた。彼女ははっきりとは言わないが、もしかするとビアンカは影でカーヤのことをイジメているのかもしれない。
これはまたビアンカに対して指導が必要だな。
俺は慰めるようにカーヤの美しい髪を撫でた。
「そうだカーヤ。卒業パーティのためのドレスはもう用意したか? 俺が贈ってやろうか?」
「まあ! エリーアス様がドレスを見繕ってくださるの⁉」
元々はビアンカに着せようと思って買っていたドレスだが、カーヤも大してサイズが変わらないだろうし、使い回しで構わないだろう。
カーヤは「感激です!」といって俺に抱き着いた。
ビアンカにもこれくらい可愛げがあればいいのに。
そうすれば俺だってもう少し指導の回数を減らしてやれるのに。
「エリーアス様、どんなドレスを送ってくださるのですか? わたくし、今流行りの胸元にビジューがたっぷり施されたデザインなどが好ましいのですが」
「ハハ、それは今後のお楽しみだ。俺の横にいる女としてふさわしいデザインのものを用意する。楽しみにしておけ」
ビジューとは、確かキラキラとした宝石に似た装飾パーツだったな?
どうしてカーヤはそんなものを好むのだ?
俺の横に立つのなら、俺より目立って言い訳がないのに。
もしかするとカーヤにも今後は指導が必要なのかもしれない。
本当に女というのは無知で困る。
俺が教えてやらないと、何も分からないんだから。
俺はカーヤの髪を優しく撫でて言った。
「卒業パーティが楽しみだな」
明日完結予定です。全9話。




