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チキンナイフと呼ばれた少女 ~逃げて逃れて世界最強~  作者: 荒瀬 維人
8章 借りぬ力、通じぬ壁

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(67)商隊に紛れて

出発の朝、あたしたちは、アルドが手配してくれた商隊と合流するため、町の門近くに集まっていた。まだ薄暗い早朝の空気の中、荷馬車が何台も連なり、多くの商人や作業員が、忙しく荷物を積み込んでいる。馬のいななきと、荷物を運ぶ男たちの掛け声が、辺りに賑やかに響いていた。


「これだけの規模なら、確かに紛れやすそうだね」


セシルの言葉に、あたしは頷いた。これだけ人が多ければ、あたしの目立たない変装スキルも、久しぶりに本領発揮できそうだ。台詞帳には、まだ一度も成功例を書けていないけれど。


見送りに来てくれたアルドの姿を見つけ、あたしたちは、彼のもとへと駆け寄った。


「アルドさん、本当にお世話になりっぱなしです」


あたしが礼を言うと、見送りに来ていたアルドは、小さく肩をすくめた。


「気にするな。それより、道中は油断するなよ。商隊の中にいるからといって、絶対に安全とは限らない」


アルドの忠告に、あたしたちは頷いた。


「この商隊、王都まで、どれくらいで」


あたしが尋ねると、アルドは、商隊の荷馬車を見渡しながら答えた。


「荷馬車専用に整備された、街道の近道を使う。お前たちが最初にこの町へ来た時の道とは、ルートが違う。急げば、二日もあれば着くはずだ」


アルドの説明に、あたしは、少し驚いた。


「フェンさんのことは」


あたしが尋ねると、アルドは頷いた。


「任せておけ。定期的に様子を見に行く。約束は守る」


アルドの言葉に、あたしたちは、深く頭を下げた。


「王都に着いたら、必ず連絡をくれ。何かあれば、すぐに動けるようにしておきたい」


アルドの言葉に、あたしは頷いた。


「分かりました。着き次第、必ず知らせます」


「無事に、戻ってきます」


あたしの言葉に、アルドは、少し微笑んだ。これまで見せたことのないような、穏やかな表情だった。


「待ってる。お前たちなら、大丈夫だと信じてる」


アルドの言葉を胸に、あたしたちは、商隊の荷馬車の一つに乗り込んだ。積み荷の隙間に身を寄せ合うようにして座ると、荷馬車が、ゆっくりと動き出した。ライネスの町並みが、少しずつ遠ざかっていくのを、あたしは、荷台の隙間から見つめていた。


「この町にも、色々あったね」


トトが、感慨深そうに呟いた。


「うん。フェンさんとの出会い、アルドさんとの絆。この町での日々は、きっと忘れられないと思う」


あたしの言葉に、ヴァレナも、感慨深そうに頷いた。


「あたしも、この町で、色々学んだ気がする。強さだけじゃなく、人と向き合うことの大切さを」


ヴァレナの言葉に、あたしは、深く共感した。


あたしの言葉に、みんなが頷いた。


道中、商隊の護衛を務める傭兵たちと、あたしたちは、自然と会話を交わすようになった。彼らの多くは、王都と地方を行き来する日々の中で、様々な噂話を耳にしていた。


「最近、王都の北東の方が、物々しい雰囲気らしいぜ」


一人の傭兵が、そう漏らした。


「物々しいって、どんな風に」


セシルが、さりげなく尋ねた。


「兵士っぽい連中が、頻繁に出入りしてるとか。何か、軍事的な動きがあるって噂もある」


傭兵の言葉に、あたしたちは、視線を交わした。フェンから聞いた情報と、確かに重なる部分があった。荷馬車の揺れに身を任せながらも、あたしの心臓は、次第に鼓動を速めていた。噂話という形であっても、こうして外から裏付けが得られると、あたしたちの推測が、確かな輪郭を帯びていくのを感じた。


「詳しいこと、知ってる?」


あたしの問いに、傭兵は、首を横に振った。


「悪いが、それ以上は知らねえ。あんまり首を突っ込まない方がいい場所らしいからな」


傭兵の忠告に、あたしたちは頷いた。それでも、その言葉が、あたしたちの決意を、揺るがせることはなかった。むしろ、危険な場所だという噂こそが、真実に近づいている証のように、あたしには感じられた。


日が沈み、商隊は、街道沿いの開けた場所で、野営の準備を始めた。あちこちで焚き火が焚かれ、商人や護衛たちの、賑やかな話し声が響いていた。あたしたちも、少し離れた場所に、自分たちの焚き火を用意した。夜、野営の準備を進めながら、あたしたちは、今日聞いた話について話し合った。


「軍事的な動き、か。あたしたちの推測が、少しずつ裏付けられてきてる気がする」


セシルの分析に、あたしは頷いた。確かに、これまで集めてきた断片的な情報が、少しずつ、一つの形を成しつつあるように思えた。フェンの証言、帳簿の記録、そして、今日聞いた傭兵の噂話。それぞれは小さな断片に過ぎなくとも、繋ぎ合わせることで、大きな真実の輪郭が、少しずつ浮かび上がってきているようだった。


「うん。もし本当に、軍が絡んでるんだとしたら、これは、あたしたちだけで対処できる規模の話じゃないのかもしれない」


あたしの言葉に、ヴァレナが、真剣な表情で口を開いた。


「それでも、真実を知らないままでいるより、知った上で、どう動くか考えた方がいい」


ヴァレナの言葉に、あたしは頷いた。彼女の言う通りだった。知らないことへの恐れよりも、知った上で立ち向かう覚悟の方が、あたしにとっては、大切なことだった。この旅を始めた頃のあたしなら、きっと、目の前の困難から、目を逸らしてしまっていたかもしれない。それでも、仲間たちと共に歩んできたこの旅が、あたしを、少しずつ、前へと踏み出せる人間に変えてくれたのだと、あたしは実感していた。


「明日には、王都に着くね」


トトの言葉に、あたしは頷いた。


「うん。着いたら、すぐに北東区画に向かおう」


あたしの提案に、みんなが頷いた。王都に着いたら、美味しいものを食べよう、という提案も密かに考えていたけれど、今この空気で言うのは、さすがに憚られた。台詞帳の隅に、そっと書き留めておく。焚き火の炎を見つめながら、あたしたちは、これから訪れるであろう困難への、静かな覚悟を、それぞれの胸に刻んでいった。


夕食を終えたあと、あたしたちは、それぞれの荷物の点検や、明日に備えた準備を進めた。トトは、ヴァレナから最後の助言を受けながら、剣の手入れを丁寧に行っていた。セシルは、手帳の情報を、もう一度整理し直していた。あたしは、焚き火の傍らで、これまでの旅を振り返りながら、静かに心を落ち着けていた。


夜が更けていく中、あたしは、見張りの番を、セシルと交代した。


「少し、眠っておいて」


セシルの言葉に、あたしは頷いた。それでも、すぐには眠気が訪れず、あたしは、しばらく焚き火を見つめていた。


「眠れないの」


セシルの問いに、あたしは、苦笑した。


「うん、ちょっとね。明日のこと考えると、色々気になって」


「無理もない。でも、明日に備えて、少しでも休んでおいた方がいい」


セシルの気遣いに、あたしは頷いた。横になり、目を閉じると、これまでの旅の記憶が、走馬灯のように、あたしの脳裏を駆け巡っていった。フェンとの出会い、アルドとの絆、そして、まだ真意の見えないザラという存在。すべてが、これから訪れる大きな出来事へと、静かに繋がっているのだと、あたしは感じていた。


どれくらい時間が経っただろうか。うとうとと微睡みかけていたあたしの耳に、セシルの静かな鼻歌が、微かに届いた。旅の途中、彼女がこうして小さく歌う姿を、あたしは何度か目にしてきた。それは、緊張をほぐすための、彼女なりの習慣なのかもしれなかった。その穏やかな声に包まれながら、あたしは、いつしか、深い眠りへと落ちていった。

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