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チキンナイフと呼ばれた少女 ~逃げて逃れて世界最強~  作者: 荒瀬 維人
7章 壁の向こう

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(63)荷の行方

翌朝、あたしたちは、昨夜の話し合いの続きを、改めて整理することにした。宿の食堂の隅に集まり、セシルが手帳を広げる。


窓の外では、朝の光が、通りを行き交う人々を、柔らかく照らしていた。あたしは、湯気の立つお茶を一口飲んでから、口を開いた。舌を軽く火傷しかけたことは、台詞帳には書き留めないでおく。


「王都から運ばれてくる荷物、次の搬入はいつになるんだろう」


あたしの問いに、アルドが、少し考え込んでから答えた。


「搬入業者の予定表を、もう一度確認してみる。ただ、頻繁に手に入れられる情報じゃない」


アルドの言葉に、あたしたちは頷いた。


「フェンさんなら、何か知ってるかもしれない」


トトの提案に、あたしは、はっとした。フェンは、実際にその荷運びに関わっていた人物だった。


「そうだね。もう一度、話を聞いてみよう」


あたしたちは、フェンの家を訪ねることにした。朝の澄んだ空気の中、四人で連れ立って歩く道すがら、セシルが、昨夜の帳簿の記録について、もう一度確認するように呟いた。


「特別会計局からの支払い、時期がかなり不規則だった。定期的な取引というより、何か特別な用件があった時だけ、動いてるみたい」


セシルの分析に、あたしは、しばらく考え込んだ。


「特別な用件、か。それが、武器の搬入と関係してるのかな」


「多分ね。証拠はまだないけど」


セシルの慎重な言い回しに、あたしは頷いた。憶測だけで突っ走るのは、危険なことだった。


町を歩きながら、あたしは、フェンの妻から預かった、夫の好物が入った小さな包みのことを、ふと思い出した。まだ渡せていないその重みを懐に感じながら、あの家族の穏やかな暮らしを守るためにも、この件を、必ず解決しなければならないと、あたしは改めて心に誓った。


フェンの家に着くと、以前よりずっと顔色の良くなったフェンが、あたしたちを迎えてくれた。奥から、小さな子どもの笑い声が聞こえてくる。以前訪れた時とは、まるで別の家のような、温かい空気が漂っていた。


「また来てくれたのか」


フェンの声には、以前にはなかった穏やかさがあった。


「実は、聞きたいことがあって」


あたしが用件を切り出すと、フェンは、真剣な表情で頷いた。


「荷物のこと、だろう。俺が知ってることなら、何でも話す」


フェンの言葉に、あたしたちは、椅子に腰を下ろした。


「あの木箱、王都のどこから運ばれてきてたか、分かる?」


あたしの問いに、フェンは、記憶をたどるように、しばらく黙り込んだ。


「王都の、外れにある倉庫街だったと思う。詳しい場所までは覚えてないが、特徴的な建物があった。塔のような、古い見張り台が近くに立ってた」


フェンの証言に、セシルが、素早く手帳に書き込んでいく。


「見張り台のある倉庫街。王都で、そんな場所に心当たりある?」


セシルの問いに、アルドが、腕を組んで考え込んだ。


「王都の北東区画に、そういう場所があった気がする。かつては軍の物資倉庫として使われていた区画だ」


アルドの記憶に、あたしたちは顔を見合わせた。軍の物資倉庫という言葉が、あたしたちの推測を、いっそう確かなものにしていった。


「もし本当に、軍絡みの物資だとしたら」


トトが、緊張した声で呟いた。


「あたしたちが相手にしてるのは、想像以上に大きな組織かもしれない」


あたしの言葉に、みんなは、しばらく沈黙した。フェンも、心配そうな表情で、あたしたちを見つめていた。窓の外から差し込む午後の光が、部屋の中に、重苦しい沈黙を、より際立たせているようだった。


「すまない、こんな厄介なことに、巻き込んでしまって」


フェンの謝罪に、あたしは首を横に振った。


「フェンさんのせいじゃない。あたしたちが、自分で決めて進んでる道だから」


あたしの言葉に、フェンは、少し安堵したように頷いた。


「それでも、恩を返したい。何か、俺にできることがあれば、いつでも言ってくれ」


フェンの申し出に、あたしたちは、深く感謝した。彼の回復した表情を見るたびに、この旅を続けてきた意味を、あたしは改めて実感していた。


フェンの家を辞去したあと、あたしたちは、王都の北東区画について、さらに詳しく調べることにした。


「王都の情報、あたしたちだけじゃ限界がある」


セシルの言葉に、アルドが頷いた。


「俺の伝手を使えば、もう少し調べられるかもしれない。少し時間をくれ」


アルドの申し出に、あたしたちは礼を言った。彼が協力を申し出てくれるたびに、あたしたちの絆は、確かに深まっているのだと感じられた。


「アルドさんが、こんなに頼りになるなんて、最初は思わなかったな」


トトが、ぽつりと呟いた。


「あたしも。最初の印象、正直あんまり良くなかったし」


ヴァレナの率直な言葉に、アルドは、苦笑を浮かべた。


「否定はしない。俺も、最初は、お前たちのことを、ただの厄介事だと思っていたからな」


アルドの言葉に、あたしたちは笑った。出会った頃の互いのぎこちなさを思うと、今の関係が、ずいぶん遠くまで来たものだと感じられた。


「でも、今は違う。お前たちのことを、心から応援したいと思ってる」


アルドの素直な言葉に、あたしたちは、少し照れくさくなりながらも、確かな嬉しさを感じていた。素直に褒められると、どう返せばいいのか分からなくなる。台詞帳を捲っても、それらしい返しは見当たらなかった。


宿への帰り道、あたしは、これまでの旅を振り返っていた。王都を出発した時には、まさかこれほど大きな謎に足を踏み入れることになるとは、想像もしていなかった。それでも、一歩ずつ、確実に、真実へと近づいている実感があった。


「大丈夫? 何か、考え込んでるみたいだけど」


セシルの声に、あたしは我に返った。


「うん、ちょっとね。この先、どうなるんだろうって」


「分からないことだらけだけど、一つずつ、確かめていくしかない」


セシルの言葉に、あたしは頷いた。


「王都の北東区画、か。もし行くことになったら、また長旅になりそうだね」


トトの言葉に、あたしは頷いた。


「うん。でも、今度は、みんなで一緒に行ける。それだけで、心強い」


あたしの言葉に、ヴァレナが、力強く頷いた。


「当たり前でしょ。あたしたちは、もう一人じゃないんだから」


ヴァレナの言葉に、あたしは、胸の奥が温かくなるのを感じた。この旅を通じて得た仲間との絆は、何物にも代えがたい、確かな財産だった。夕暮れの町並みを歩きながら、あたしたちは、次の一手について、静かに思いを巡らせていた。


最後までありがとうございました!


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それでは次回の更新をお楽しみに!

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