(60)潜入計画
翌日から、あたしたちは、地下資料庫への潜入計画を、本格的に練り始めた。アルドの協力もあり、少しずつ、建物の構造や警備の配置が明らかになっていった。
「資料庫への入り口は、二箇所。正面の階段と、裏手にある搬入用の通路」
セシルが、アルドから聞き出した情報を、手帳に描いた見取り図に書き込んでいく。
「搬入用の通路の方が、警備は手薄そうだね」
ヴァレナの言葉に、セシルが頷いた。
「うん。ただし、荷物の搬入時間以外は、厳重に施錠されてる。タイミングを見計らう必要がある」
セシルの分析に、あたしたちは頷いた。
「アルドさんの権限で、何とかならないの」
トトの疑問に、アルドは首を横に振った。
「俺の権限は、あくまで結界の管理に限られる。資料庫の管理は、また別の部署の担当だ」
アルドの説明に、あたしたちは肩を落とした。それでも、ここで諦めるわけにはいかなかった。
「それでも、俺なりに、力になれることはある」
アルドは、そう言うと、懐から一枚の紙を取り出した。
「これは、搬入業者の作業予定表の写しだ。次の搬入は、三日後の夜」
アルドの申し出に、あたしたちは驚いた。まさか、そこまでしてくれるとは、想像していなかった。
「よく、こんなものを」
「多少、危ない橋を渡ったがな」
アルドは、少し得意げに笑った。その表情には、これまでにない、確かな連帯感が滲んでいた。危険を冒してまで情報を集めてくれた彼の心遣いに、あたしは深く感謝した。危ない橋、という響きに、あたしはつい台詞帳の空きページを思い浮かべた。今度、アルドさんの武勇伝を聞く機会があったら、忘れずに書き留めておこう。
「三日後の夜、決行しよう」
あたしの提案に、みんなが頷いた。それぞれの表情に、確かな決意が浮かんでいた。
「役割分担は、前回と同じでいい?」
セシルの問いに、あたしは考え込んだ。
「今回は、もっと慎重に動く必要がある。あたしとセシルが、資料庫の内部を調べる。ヴァレナとトトは、外で見張り。アルドさんには、緊急時の対応をお願いしたい」
あたしの提案に、みんなが頷いた。
「あたしも、内部に行きたいけど」
ヴァレナが、少し不満げに呟いた。
「今回は、機動力が必要になる。もし何かあった時、すぐに動けるあんたが、外にいてくれた方が心強い」
あたしの説明に、ヴァレナは、渋々ながらも頷いた。それでも、その表情には、確かな信頼が見て取れた。役割の違いはあっても、心は同じ方向を向いていた。
「分かった。でも、危なくなったら、すぐに知らせて」
「うん、約束する」
あたしの言葉に、ヴァレナは、ようやく安心したように微笑んだ。その笑顔に、あたしも、確かな安心感を覚えた。頼れる仲間に、格好いい台詞の一つも返したいところだったけど、我ながら締まらない相槌しか出てこなかった。台詞帳の空欄は、まだしばらく埋まりそうにない。
三日間、あたしたちは、それぞれの準備を進めた。セシルは、資料庫の見取り図をさらに詳しく分析し、あたしは、いざという時のために、体力の温存と精神統一に努めた。ヴァレナは、トトへの稽古を続けながら、彼の成長を見守っていた。
決行前夜、あたしたちは、最後の打ち合わせを行った。
「明日の夜、いよいよ決行だね」
トトの言葉に、あたしは頷いた。
「うん。何が見つかるか分からないけど、必ず、貸し手の正体に近づく手がかりを持ち帰ろう」
あたしの言葉に、みんなが力強く頷いた。窓の外に広がる夜空を見上げながら、あたしは、これから待ち受ける挑戦への、確かな覚悟を固めていった。
まだ見ぬ貸し手の正体、そして、この町に潜む闇の深さ。それでも、仲間たちと共になら、きっと乗り越えられる。そう信じて、あたしは、静かに、明日への備えを整えていった。
寝る前、あたしはセシルと、もう一度、明日の手順を細かく確認した。
「資料庫に入ったら、まず何を探せばいいと思う」
あたしの問いに、セシルは、手帳をめくりながら考え込んだ。
「貸し手に関する記録、それに、あの木箱の中身についての手がかり。時間は限られてるから、目についたものを、片っ端から確認するしかない」
セシルの言葉に、あたしは頷いた。
「危険を感じたら、すぐに撤退する。それだけは、絶対に守ろう」
「うん、分かってる」
セシルの返事に、あたしは安心した。
「セシル、この作戦が終わったら、少し休みたいね」
あたしが呟くと、セシルは小さく笑った。
「同感。ここ最近、ずっと気を張りっぱなしだったから」
「終わったら、みんなでゆっくり休もう」
あたしの提案に、セシルは頷いた。
「その前に、まずは、明日を無事に乗り越えないとね」
セシルの言葉に、あたしは頷いた。
翌日、あたしたちは、いつも通りの日常を装いながら、決行の時を待った。表向きは平静を保ちながらも、内心では、確かな緊張が高まっていくのを感じていた。
夕方、アルドが宿を訪ねてきた。
「準備は、いいか」
「うん、大丈夫」
あたしの答えに、アルドは頷いた。
「無理はするな。何かあったら、すぐに俺に知らせろ」
アルドの言葉に、あたしたちは頷いた。夜が近づくにつれ、あたしの胸には、確かな緊張と、これから待ち受ける挑戦への覚悟が、同時に渦巻いていた。
日が完全に沈んだ頃、あたしたちは、それぞれの持ち場に向かった。搬入用の通路の近く、物陰に身を潜めながら、あたしとセシルは、搬入業者が到着するのを待った。
「そろそろだね」
セシルの言葉通り、しばらくして、荷馬車が通路に近づいてきた。搬入業者たちが、慣れた様子で荷物を運び込んでいく。
「今のうちに」
セシルの合図で、あたしたちは、業者に紛れるようにして、通路の奥へと入り込んだ。薄暗い廊下を、慎重に進んでいく。
「資料庫は、この先」
セシルの案内で、あたしたちは、地下へと続く階段を見つけた。心臓の鼓動が、次第に速くなっていくのを感じながら、あたしは、その階段を、静かに下り始めた。
階段の先には、重厚な扉があった。セシルが、慣れた手つきで、鍵の仕組みを確かめる。
「時間がかかりそう?」
「うん、少し。焦らず待って」
セシルの言葉に、あたしは頷いた。周囲の物音に神経を尖らせながら、あたしは、彼女の作業を見守った。
やがて、小さな金属音とともに、扉が開いた。
「入ろう」
あたしたちは、資料庫の中へと足を踏み入れた。薄暗い室内には、無数の棚が並び、書類や巻物が、整然と収められていた。
「こんなに多い中から、必要な情報を見つけるの、大変そうだね」
あたしが呟くと、セシルは、手早く棚を確認し始めた。
「分類は、しっかりしてる。あたしたちの探してるものは、多分、この辺り」
セシルの読みは、的確だった。しばらく探すと、貸し手という名前が記された、一冊の分厚い帳簿が見つかった。
最後までありがとうございました!
楽しんでいただけたら、評価やブックマークを入れてもらえるととても嬉しいです。
反応があると更新速度が上がります(重要)
それでは次回の更新をお楽しみに!




