第2章
林を通って一応車に戻るつもりだったが、それが無理だった。
元々車が泊めてあった場所に土砂が崩れ落ちて、地形そのものが変わり果てたとも思える程に斜面ができている。車が跡形もなく消えている、その地面と共に。あまりにもあり得ない光景に僕らは佇んだ。脳が理解するのに時間を要したのでしょう。気が付いたら、湧き上がるのは現実の理不尽への怒りとこれからへの不安。「どうしてあんな場所に車を泊めた」と、さっきまでふざけていたカズに向かって怒りをぶつけようとするが、逆に考えれば僕らはそれで命拾いをしてしまったのだ。自然を軽く見た僕らのせいでもあるだろう。そう思うと責めようもないし、誰もこんなことが起きるとは思わなかったから、責める道理もない。他の三人の顔を見ると、多分同じことを考えているだろう。皆気まずそうな表情で互いを見る。今の状況は僥倖とも呼べるでしょうか、とにかく屋敷へ戻ることにした。
「やばぁぁ…」洋館に入ってすぐタクが呟く。「こんなのあり得るのか…」
カズもショウも途方に暮れているような顔で黙り込んでる。
でも、僕は思う。ここはショックや落ち込むより、まずやるべきことがある。
「手持ちの物を確認してみよう。こうなったら以上、まず雨を凌いでこの山を出ることを考えよう。」
僕は言う。
さっきまでこの洋館に対して僕が感じた不安感も、どうやら目の前の困難を乗り切ろうとする意気には勝てないみたいだ。そう、まずは生き残ることだ。
「リュックは全部車に置いてきたからな。」
「あんだけ買った食いもんも全部パーかよ。」
確認の結果、今僕ら四人とも着ているレインコートとポンチョ、手持ちの携帯、懐中電灯以外は、ほぼ全滅。幸いなことに、僕のポケットに飴が幾つかあった。そしてショウはベルトポーチを付けていて、その中にうまい棒6本とゲーム機を入れてた。
「今ある物はこんぐらいかー…」
「なんで飴持ってんだよ、関西のお婆かよ」タクは不意に笑ってツッコんだ。緊張をちょっとでも解せようと思ったのでしょう。
「それより水がない。」
「3階の蛇口は使えないでしょ?」
「使えたとしてもこんな廃屋の水俺は飲まねぇぞ。雨を啜った方がよっぽど健康的だと思う。」
「それもそうか。ここら辺大気汚染とか心配なさそうだから、一晩だけなら雨の水を飲んで凌ごう。明日雨が止まなくても山を出る。サバイバルは経験ないが、山での遭難時の対処法は昔ネットで読んだことあるからな。」
「そういや携帯でGPSとかできないの?」
「……」
カズの一言で皆目が覚めた。そうだった、ネットがなくてもGPSは使えるはずだ。なぜ今まで誰も思い出せなかったんだ。カズは普段バカなのに、こういう時は気づきがいいなおい!
「…」
でも、おかしい。
GPSアプリを開いたけど、どうしても現在地が表示されない。
4人とも自分の携帯でやってみたけど、ダメだった。
「知ってたらこの山に入った時に見とけばよかった…」
「今更言ってもしょうがないだろ。俺らは自然をナメすぎたんだよ。」
「あっ、やばい、電池が30%しかない、明日まで持つかな。」「予備バッテリーは?」「車ん中」
「先に電源切った方がいい。万が一の時に備えて、今から4人で携帯は1つだけ使う。他の三人は電源オフにして。」
「OK~」「おおー」
「んで、水はどうする?雨水を集める方法は?」
「ポンチョあるだろ、窓を開けてどっかに掛けて展開すれば集められるはず。窓がダメなら外の木の枝とか。2つ作れば大丈夫そう。」
そうやって、僕ら四人は自分の知恵を振り絞って、何とかして明日まで生き延びようとした。持ち物はとりあえず使わずに各自で温存することを決め、今夜は早めに寝ようと僕は提案する。3階にはベッドがあるし、この屋敷の元主人には済まないが、水の流れないトイレでも用の足しには十分だ。3階の窓を開けて水集めるためにポンチョを設置する。
そうと決まれば、僕らは3階へ足を運ぶ。
途中で2階を通過した時、タクはカズに聞く、さっきはどこに隠れていたのかと。
「こっちの左手の部屋。」カズが指さす。「どうせこの階の部屋は全部すっからかんだし、適当に隠れてた。」
三階に上がると、僕らはポンチョを張ったり、ベッドの状態チェック、手持ちのものの確認など各自作業に入っていた。同じ部屋で寝た方が安全だと考えて、隣の部屋からベッドを一つ借りて、元からベッド3つ置いてあるこの部屋に移動した。
「でもよかったな、この廃屋他の家具はないが、なぜかベッドだけは残ってる。」
「布団はないが、今はこんなしょぼいマットレスがあるだけでもありがたいな。」
「これだと夜寒さで目覚まさねぇか?」「体を丸めて自分で何とかしろ。男同士で寄せ合って寝るのは嫌だな。」
ショウとタクの会話を聞くと、ふと一握りの違和感が心の中でまた浮かび上がる。
なんだろう、何か気になるような所あったっけ?疲れているからかな。
その違和感の正体を考えているうちに、他のベッドからは軽い鼾の音が聞こえた。そして段々僕の意識も深く、雨の音に沈んでいった。




