第8話 私だけ見てよ
自分が、なんでここの場所にいるのか分からなくなる。ポツンと取り残されて、今にも早く逃げたくなる気持ち。
なんで、私がこんな目に遭わないといけないの……。
彼らにバレないように、チラッと二人の様子を見つめる。
距離感が近くて、誰が見ても、華になる。宝塚歌劇団にいるかのような可憐なジュリエッタと、海外映画にいてもおかしくないビジュアルのオルクス様。世界中の人に聞いても、私よりもジュリエッタのほうがお似合いだ。
おまけに、幼馴染という特大ポイント付き。私は、今日、この世界に来たばかりだから、それぞれの人間関係や思い出なんてこれっぽっちもないから、それに比べたら、ジュリエッタのほうが情が深い気がする。
入る隙もないまま、近くの薔薇を眺めているふりをしていると、彼女が私の方を見て、口を開いた。
「おっと、じゃあ私はこの辺で。それじゃ、お二人ともごゆっくり〜」
私の気持ちを察してくれたのかな。やっぱり、ジュリエッタは悪気なんてない。ただの幼馴染で、いい子なんだ。そうに決まってる。だって、私を助けてくれた人だもん。
彼女が去っていくのを安堵していると、もう一度私たちの方へ振り返り、響くような高い声を上げた。
「あ、オルクス、また惚気話聞かせてよね〜? 待ってるから!!」
「うるさいよ!!! ジュリエッタ!!」
オルクス様のその声で、肩をビクッとさせる。そんな声も、出せるんだ…。自然体にいられている気がしているように見えた。これが、素みたいな。
私といる時の彼も、王子様モードで綺麗だけど、ジュリエッタといる時のほうが、なんだか楽そうで、本当の良さが滲み出ているような、そんな気がする。
そして、彼女の姿が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。その視線が、なんだか苦しくて、辛かった。
「……っと、なんか邪魔者が入っちゃったね。どこか座る?」
「ううん。いいの。ここらへん歩いてるだけで、大分気持ちいわ。」
本当は、もう早く自分の部屋へ戻って帰りたい。今日は、慣れないことの連続で疲れたの。
嘘。これは、言い訳。
オルクス様とジュリエッタとの距離感の近さに圧倒されて、辛くなった。今は、彼とも口を交わしたくない。
だけど、我慢をした。私から外へ出たいと言い出したのに、少しの気持ちの変化で『帰りたい』だなんて言うなんて、自分勝手にも程があると思ったから。
「そっか。」
私たちは、さらに奥へ進んでいった。茂みのほうには、白のガゼボがあったり、見たこともないカラフルな花々があった。
ホタルような虫が、私たちを照らしてくれてる。たまに、耳元で羽音がするから、少し怖いけど。
「仲いいんだね。幼馴染だっけ?」
わざと、ジュリエッタの話題を挙げてみた。本当は話もしたくないけど、でも気になってしまう。めんどくさい人間ね。
「あー。ジュリエッタから聞いた?腐れ縁みたいなもん。」
「昔っからそう。何かと僕の後ろをついてきてさ。この年になっても。」
「へぇ〜〜。」
適当なリアクションを返しておいた。別に、興味ないし。
一方の彼は、何も気にしてなさそう。悪気はないんだろうな。いや、誰も悪くはないんだけどね。
「そしたらさ、その時、ジュリエッタが―――」
それからしばらく歩いて、彼はついにジュリエッタの話しかしなくなった。私たちの距離は、遠くなるばかりだ。
2人の思い出を私に話して、一体、なにになるんだろう。傷つくってこと、分からないのかな。
「あ、ごめん。コハネ、何か話したいことある?」
「ううん。何もないわ。」
『ジュリエッタの話しないで、私だけ見てほしい。』って言えれば楽なのに。重い女だと思われるのが、怖くて言い出せなかった。どこまでも臆病者だ。
心が限界に達した私は、ついにその場で立ち止まった。
「ごめん……私、やっぱり今日は帰るね。少し寒くなってきちゃったから。」
「大丈夫?送るよ。」
「ううん。私、一人で帰れるから。それじゃ、ごきげんよう。また明日。」
最後の方は早口になっていたかもしれない。でも、今はそれでよかった。誰も傷つくことがないから。
宮殿内に入り、ものすごいスピードでエレベーターへ向かい、連打する。誰も来ないようにと、1人にさせてほしいと願いながら。
2人はお似合いだった。性格の悪い私から見ても。
きっと、お互いまんざらでもないと思うのに、彼は、オルクス様は、どうして私を婚約者として選んだのだろうか。一番手っ取り早いジュリエッタにしておけば、お互いのことを知っているし、楽なはずなのに。
でも、そんな事も言えなかった。彼が、それに気づいて、ジュリエッタの方へ行くのが怖かったから。
考えすぎなのはわかっている。でも、悩まずには、いらなれなかった。




