第4話 せめて胸だけでも
オルクス様とのご対面と、これからの生活の説明を聞き、取り巻きが去った頃。私の目の前には、1人のメイド服を着た女性が駆け寄ってきた。
絵に描いたような艶のある黒髪をまとい、ピシッと綺麗な姿勢で来るから、私は思わず圧倒された。
彼女は、両手を前に添え、深くお辞儀をする。
「姫様。初めまして。今からお部屋にご案内いたします。足元にお気をつけてください。」
ニコッと笑う自然な笑顔。あまりの美人に、思わずドキッとしてしまった。
ぱっちり綺麗な二重の目。まつ毛もパーマをかけてないであの長さなら、相当な勝ち組遺伝子である。おっとりとした垂れ目で、見てるだけで心が浄化されていくようだった。
私は、軽く相槌をし、彼女の後ろを歩く。
これから、どこへ行くつもりなのだろう。目的地をいわれてないので、これから何をするのか不安だった。魔法を使ってみろとか、語学を勉強しろとか言われても、さっきまで夜だったもんだから、勉強する元気もない。
改めて、周りを見渡しても、今まで住んでいた世界と180°違う。男性は、貴族のような正装、女性はドレスが当たり前。あと、皆顔がいい。私が1人でこの宮殿内の顔面偏差値を思いっきり下げている、確実に。ここまでくると、あり得ないほどのブスも見たいものだ。
私らをみた人々は、目が合うと、すぐに会釈をしてくる。こんな経験なんてあるわけなかったので、どういう反応したらいいか、わからない。とりあえず軽く会釈しておいたが。考えてみれば、ダサいパジャマの女に会釈するなんて馬鹿らしい話だ。私が逆の立場だったら、絶対に腰を曲げたくない。
レッドカーペットに包まれた長い階段を横目に、洋風のエレベーターの中へ入る。
狭い空間にメイドと2人だったため、気まずい空気をどうにかしようと、静かに口を開いた。
「あの………」
ちなみに、私は、前の世界でめちゃくちゃコミュ障だったから、他人と楽しく会話することができない。大学でも、必要最低限なことしか会話しないし、どちらかと言うと、独り言のほうが多い人間だ。
心はおしゃべりだが、他人を目の前にすると、どうやって話せばいいのか、途端に分からなくなる。
こんな陰キャ姫だが、本当に大丈夫なのだろうか。自分が1番不安である。
私のキョドった様子に、少し彼女は目を見開いたが、すぐに自然な笑顔へ表情が変わる。
「申し遅れました。私は、今日から姫様の側付きメイドとして任命された、ローズ・フィアーノと申します。気軽に、ローズとお呼びくださいね。これから、何かお困りごとがあれば、いつでも私にお申し付けください。」
私は、ペコリと会釈をする。
ローズ。薔薇という意味だろうか。名前も苗字も、すごく気品がある。さすがは異世界。
にしても………
彼女にバレないように、視線を下に向ける。
………デカいな。
女性が恋愛対象ではないが、やはり自分より大きなものが2つついていると、同性でもつい見てしまう。メイド服のボタンがきつそうで、いかにもはちきれそうだ。宮殿内にいる男性陣は、発情したりしないのだろうか。なんて、気持ち悪いことを考えたりする。
どれくらいだろう、この大きさは、G…?いや、H!? すげぇ、初めて見た。同人誌でしか見たことがない。私は、Aカップしかないから、ちょっとくらい分けてほしいくらいくらい。
「……姫様? そろそろ目的地へ着きますよ。」
キモいことばっかり考えていたら、彼女が不思議そうに顔を覗きんだ。あまりの近さに顔を背ける。
「…え!? う、うっす………」
思わず、思春期中学生みたいな反応をしちゃった。姫になるのに、こんな言葉遣いじゃあ…多分だめよね。長年の女子校育ちの癖が出ている。
※ ※ ※
「お待たせ致しました。こちらのお部屋が、本日から、姫様が暮らすお部屋になります。では、中へ。」
彼女が、そっとドアを開ける。
待っていたのは、甘いスイーツのような香りと、豪華すぎる高貴な部屋だった。家具のほとんどがピンクで埋め尽くされていて、ロリータ好きな私はもう大歓喜。
まず壁紙は、薄いピンクを基調とした赤いリボン。ドレッサーのライトもダイヤモンドでできたかのような煌びやかな輝き、乙女心をくすぐった。
ベッドも、私は1人で寝るはずなのに、ダブルベッドだった。優雅なロココ調のデザインと、ピンクと白の組み合わせは、なんともプリンセス感MAXである。
カーテンも手を抜いていない。白いレースが何枚も重ねられていて、女の子が考える全てが、ここにはあった。
家具1つ1つにうっとりしてると、ドアの近くに立っていたローズはクスッと笑っていた。
「可愛らしいお部屋でしょう。私も可能なら、ご一緒したいぐらいですもの。」
「わあ……可愛い鳥の人形。」
私は、ベッドの上に置かれた白いぬいぐるみを手に取る。そっと触ると、ふわふわしていて肌触りが気持ちいい。思わず、その場でぎゅっと強く抱きしめた。
私は、大の鳥好きである。前の世界では、毎日鳥の動画を見て癒やされていたのを覚える。
ちなみに、数ある鳥の中で1番『キバタン』が好き。私の名字が『牙端』だから、親近感も湧くし、何よりも大きくて真っ白な姿がなんとも愛らしい。
にしても、この世界に、キバタンの人形があったとは。本当にここはどこなんだろうか。聞きたいことがたくさんありすぎる。
「あ、それは、確か、オルクス様がご自分でお選びなさったのですよ。可愛いですよね。」
彼女の言葉に、私はドキッとする。ぬいぐるみのキバタンと目が合う。
どうして、私の好みを知ってるんだろう。この種類の鳥なんて、よっぽどのマニアじゃないと知らないはずなのに。
とりあえず、彼が選んでくれたのだから、お礼をしなければ。とっても気に入ったから。
「ローズさん。あの、今、オルクス様は……?」
私がそう言うと、彼女が『ローズでいいですよ。』とニコニコ笑いながら、こちらへ近づいてくる。
「王子様なら、今、ご自分のお部屋にいらっしゃるかと。なにか御用でも?」
「お部屋のお礼がしたいわ。こんなに可愛いぬいぐるみ。すごく気に入っちゃった。」
「うふふ。そうで御座いましたか。大好きな婚約者様にお会いするんです。とびっきり可愛くしちゃいましょうか!」
「少々お待ちくださいね。今、担当の者をお呼びいたします。」
そう言うと、私の返事を聞かずに、部屋を飛び出していってしまった。
まだ右も左も知らないのに、1人にされると更に不安なんですけど………。
取り残されて、ベッドに座り込む。そして、自分の貧相な胸を静かに触った。
うん、貧しすぎるぞ。これはないに等しい。
それに比べて、やっぱりでかかったな、ローズ。




