第3話 婚約者とご対面♡
「ほっほ!! コハネ姫!! よくぞ来てくれた!! 快く歓迎しよう!!」
どうやら、この世界の今の時間帯は、お昼らしい。私が住んでいた世界は、夜だったからなんだか不思議。ここは、外国か何かだろうか。幸い、夜型大学生だったため、ボケることはなさそうだった。そこだけは、適応している。なぜか。
老人のような太い声に、私をゆっくりと目を開ける。
ここが、今日から私が暮らす世界―――。
失礼のないように、目だけをキョロキョロと動かすと、まるでおとぎ話の世界へそのまま入り込んだ気分にさせた。
ボタン式の電気じゃなくて、シャンデリア。そして、私の周りを囲むのは、鋭い盾と槍を持ち、規則正しく並ぶ兵隊。
視界に入ってくる情報全てが、真新しくて、これから始まるセカンドライフに胸が躍った。
1階だけじゃなく、2階、3階まである謁見の間である。
目の前に座っているのは、おそらくチューディッシュ王国の現・国王様だろう。いかにも高そうな王冠に、赤いふわふわなマント、太い剣を両手に持ちながら、ゆったりと座っている。
彼の姿をまじまじと見つめて、少しずつ、これは今のこの瞬間に起きている出来事であると感じていく。
そうだ。私はこれから、この国の次期王妃になるのだ。王宮内の人間関係は良好にしておきたい。現実世界からスカウトされてきたんだ。他の人からすれば、冷たい目で見られて当然である。
その言葉に、私は咄嗟に頭を床に伏せる。
「……はっ!」
せめて、失礼のないようにしなければ。ちょっとでも常識のある人間だと思われたい。
すると、周りから私を冷たくあざ笑いしたかのような声が聞こえてくる。
「やっだぁ。なんですの。あれは。」
「だらしない御方ですわぁ。本当に、この御方がオルクス様の婚約者なのです?」
「みすぼらしい。見てられないわ〜。」
顔すら見たくなかったから、咄嗟に聞こえていないフリをした。
2階、いや、3階からも令嬢の痛々しい言葉が耳に突き刺さる。色鮮やかなドレスを着飾って、何億円とするアクセサリーを身にまとっている女性陣らなのだと思う。
心臓がドクン、と跳ねて、自分が今やっている行動が的外れだったことに気づいた。
恐る恐る、顔を上げる。国王様は、私の様子を見て、大笑いした。
「ほっほ!! 何をしている。 そなたは、姫じゃ! 土下座というものは、目上の者にやるものであるぞ。私とそなたは、親戚になるのじゃ。」
「す、すみません……。」
確かに、謝るときに土下座をするか。緊張しすぎて、変なことをしてしまった。
そして、下を向き、自分の服装を確認する。
…っ!! キャラもののパジャマ…!
私は静かに立ち上がった。パジャマのシワを、はたきながら。
普通、こういうのって、異世界に行ったら、顔も服も、飛び切り綺麗になってるものじゃないの!?
…じゃあ、もしかして、顔も変わってないってこと…!?
私は探るように、ゆっくりと顎を撫でる。
……だめだ。変わっていない。しゃくれたままだ。
国王様にバレないように、私を呼び出した整合騎士団3人をキッと見つめる。
おのれ〜〜〜!!!
彼らは、私にニコッと笑顔を見せていた。その笑顔が、余計な不快な気持ちにさせる。どうして、もっと洒落た格好にしなかったのよ…。私は姫になるのに。公開処刑にしたかったとしか考えられない。
それに、この顎じゃ、令嬢たちに
『出来損ないのしゃくデレラ』っていじめられるじゃない!絶対!
勘弁してよ……。
理想郷のようで、どこが現実味がある。やっぱり、自分の顔は、魔法では消えない。整形手術をしない限り。
「そなたを呼び出したのは他でもない!! わが国の次期王妃となるためじゃ。」
王は、長いふわふわした白髭を触っている。
「なんてたって、我が息子・オルクス次期国王のご指名の姫様じゃからな!!!」
「お…おい!! 嘘だろ…!」
「目が合った女性は、魅了で倒れるほどのビジュアルを持ったお方が…?」
「何かの間違いだろう……さすがにあの顔は、俺でも……プッ!!」
「…おい! 聞こえるって……」
更に周りがどよめく。傭兵らの男性も、私の姿を見て、くすくす笑っているようだった。
何よ。誰がブサイクですって。
というか、お姫様って、みんなに慕われて、可愛がられて、誰が見ても華になるような、そんな存在じゃなかったっけ?
これじゃあ、月とすっぽんじゃない。
まだ何も起こっていないのに、周りからこんな扱いされるんじゃ、マチアプの男にボロクソ言われたほうがマシよ………。
そう、思っていた時だった。
「さぁ、オルクス!! 中へ!」
バサッと、マントが靡く男。その一瞬の音で、その場の空気がガラリと変わる。
嘘……この流れって、もしかして……。
遠くから見える、私の婚約者。
絹のような美しくサラサラな白い髪。そして、心から浄化されてくような深緑の瞳。すらっとしていて、青いマントも嬉しそうにゆらゆらと揺れている。
やばい……え、嘘でしょ……。
仁より、飛びきりイケメンじゃない!
彼よりイケメンなんて見たことなかったけれど、オルクス王子のほうが明らかに上だ。
さっきまで、仁以外ありえないと思ったけど、前言撤回する。女という生き物は、いつだって直感的に物事を判断するんだから。
さようなら、仁。素晴らしい恋だった。
あなたも幸せになってね。私は、このお方と幸せになるから。
ふんっ。手に入らなかったこと、後悔するといいわ!!
そして、彼は、私の前に立ち、静かに腰を下ろした。
「初めまして。コハネ姫。」
「お会いできて、光栄です。」
優しい瞳と、目が合って。
瞬きの回数が早くなる。
そして、オルクス王子は、私の左手の甲に、優しく唇を添えた。
周りが手のひら返しのようにどよめく。
その、一瞬の出来事だけで、さっきまで不安だった感情が、まるで嘘かのように綺麗に消えていくようだった。
ぎゃあああああ!!
なにこれ、これは……これはなに!? キス…よね!? え、しかも手の甲だなんて! 聞いてないわ〜!
イケメンにキスされるなんて、全く慣れていないので、りんごのように顔が真っ赤になる。
声すらも、出なかった。その場にいるのがやっとで、ピクリとも動かない。
「………そ、その……。初めまして……。」
蚊の鳴くような声で、私はなんとかそれだけを絞り出した。
心臓を突き破りそうなくらいに暴れていて、まともに息すらできない。
心の中は、子どものようにうるさいくせに、それを口に出すことは、本当に難しい。どれか本当の自分が分からないみたい。まあ多分、全部本物なんだろうけど。
「……緊張、されてますか?」
彼は、私の手首を支えたまま、上目遣いで優しく問いかけてきた。
その瞳が、どうにもあざとく見えて、キュートアグレッションが起こりそうだった。食べたい。物理的に。
理性を保ち、私は、静かに頷く。
「あ……僕がこうやってやったら、少しは、ほぐれるかな?」
彼がふわりと微笑むと、爽やかな深緑の瞳をいっそう細めて、至近距離から私をじっと見つめた。
そして、次の瞬間。私の左手が、彼の大きな手に導かれるようにして、ゆっくりと持ち上げられたのである。
な、な、な、なーーーーーー!!!
オルクス様の体温は、ものすごく温かくて。熱でもあるのかな、とも思ったけれど、彼は至って平然な様子だから、この世界ではこれが平熱なんだと思う。
落ち着いてて、気持ちがいい温度。
私の手のひらを愛おしそうにそっと触れながら、視線だけで私を優しく包みこんでいた。
むり、むりむりむり!!!!
こんな初対面の人にこんな甘いことされたら、鼻血で倒れるよ!? このままだと、私が食べる前に、彼に食べられてしまう。まあ、それもまた…いいけど♡
でも、やっばり、け、け、け、結婚は待ってください!!!!
私が、こんな激メロ級イケメンと結婚だなんて! これから、毎日この人と一緒って、さすがに冗談よね!?
致死量のときめきで、お亡くなりになるわよ……しゃくデレラは……




