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空間をあらわすもの4  作者: ミルミル


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4.『カフェ・ショーブランで昼食を』part 11.

「はあ!?」



 ビックリなんてもんじゃないくらい気が動転して、私は思わず大声を出してしまった。


 途端に司書さんから厳しい視線が送られる。



「ちょちょちょちょっと……何言ってんですか? つが……え!?」


「もーミドヴェルトったら驚きすぎだよぉ……ほら落ち着いて、また怒られちゃうよ☆」


「うぐ……」



 何も知らない小さな2人からしたら、私はひとりごとを言って興奮している変な人だ。


 見上げる4つの瞳を感じて、大人しく私は黙った。


 え、でもフワフワちゃんは結構おっきい子だって聞いてるよ?


 わりと理解力があるとはいえ、たぶん義務教育ぐらいのラハールちゃんに、そんな……


 いや待て、コレは青(・)春(・)なのか?


 私、保護者目線すぎ!?


 そうだよね、幼稚園ぐらいから「けっこんする〜」みたいなこと言う子は居るよね。


 とりあえず落ち着こう……



「フワフワちゃん、ラハールちゃんと仲良いんだね……?」



 精一杯の笑顔で、とにかく普通に話しかけてみた。



「ムー!」



 フワフワちゃんは、いつもと同じように理解不能なフワフワ語で元気にお返事してくれる。


 ニコニコしてるし……これっぽっちも悪気は感じられない。


 キシュテムさんが適当なこと言っただけなんじゃないの……?


 何が何だかわからないまま、どうにか答えを出さなければいけない私は、今この場で正解と思われる行動を選択した。


 そう、困ったときは問題の先(・)送(・)り(・)が一番である。


 もしかしたら私の勘違いかも知んないし……


  子供たちの微笑ましいふれあいまで禁止するわけにはいかないし。


 あああああ……でもこれが見知らぬ子供たちの話なら、へぇーそうなんだーで流してしまえるけど、私がお世話してる王子殿下と、家族として一緒に住んでる娘みたいな少女がツガイって言われると、もう……冷静でいられない!


 ラハールちゃんは前世でそ(・)う(・)い(・)っ(・)た(・)授(・)業(・)は受けたのかな? 私からキチンと伝えるべき?


 年齢的に受けてそうな気もするけど、見た目幼いし……


 いや待て、早まるな! 今んとこお友達じゃん? 全然そんな雰囲気ないし、大丈夫大丈夫……猫と少女だよ、うん。



「ミドヴェルトさぁ、気づいてる? 今すんごく面白い顔してるよ☆」


「だっ……! 誰のせいですか」



 耳元で楽しそうに私の髪でブランコをしているキシュテムさんに、私は何の気遣いもなくツッコんでしまい、あわてて声を落とす。


 焦って周囲を見渡すと、図書館司書さんは事務仕事でもしているのか、こちらには注目していない。


 はぁ、セーフ……


 取り乱す私を哀れに思ったのか、キシュテムさんはこの異世界の番(つがい)システムについて懇切丁寧に教えてくれた。


 いわゆる私が現実世界で読んでた作品とはちょっと違って、急に激情に駆られて大人の関係になるってことはないらしい。


 むしろ気の置けない仲間みたいな、親友みたいに助け合うパートナーになるんだって。


 その流れで恋愛が成就する時もあれば、しないまま一生を過ごす場合もあるのだとか。



「ホントですかぁ……?」


「ホントホント! まあ仲良くなるだけだから心配いらないよ☆」


「えー……?」


「ホントだって! 俺とヘスダーレンも番(つが)ってたもん、アイツ全然そういうのに乗ってこなかったし……」


「え”?」


「俺としては、雰囲気作って頑張ったんだけどぉ……」


「え!?」


「だからさぁ……ぶっちゃけ俺、チュレちゃんがファーストキスの相手なんだよねぇ☆」


「ええええええええぇえぇぇ!?」


「しーっ、図書館では静かに!!」



 とうとう司書さんに怒られるほどの大声を出してしまった私は、肉眼で初めて見たBLの悪魔に衝撃を受けてそれどころではなかった。


 だけど、フワフワちゃんとラハールちゃんの視線を感じて、私はハッと我に返って汚い大人の羞恥心に苛まれる。



「どっどどどどどうしてそんな爆弾発言をここでするんですか……!」



 BLって……実在したんだぁ……


 と、脳内でちょっと感激に浸りながらも、私は軽く咳払いをして姿勢を整える。


 現実世界でもそんな知り合いなんて居なかったから、漫画とかドラマの世界だと思ってた……


 私の耳元で相変わらずブランコをしている伝説のBLは、何でもなさそうな調子で言う。



「え〜? だってミドヴェルトが知りたそうだったからさ〜☆」



 確かにもっと詳しく聞きたい!


 だけど今は場所が悪いんです!!


 青少年にR指定の話を聞かせたくないし……


 いや待てよ?


 さっき、プラトニックな関係って言ってたよね……?


 じゃあ大丈夫か?


 ちょっと待って、何が!? 何が大丈夫なの!?


 アレかな……?


 悪魔と王弟だし、お耽美(たんび)ギムナジウム系かな……?


 えぇ……ホントに大丈夫なの!?


 ……ん?


 それより、今なんか重要なこと言ってなかったか……?


 あ!



「チュ……チュレア様と、キキキキスしてたんですか? それってチュレア様と、つつつ……番(つがい)になったっていう……?」



 私の質問に答えてくれる系モードだったキシュテムさんは、虚(きょ)を突かれたような顔をして一瞬フリーズすると、あからさまに照れながら言った。



「そ、そうかな……? 俺としてはまだ手応え感じてないんだけど……チュレちゃんって、すんごい精神力強いしさぁ……」


「さっきの王子殿下とラハールちゃんみたいに、光ったりはしていない……ということでしょうか?」


「うん……いい雰囲気だったとは思うんだけどぉ……ほら俺って悪魔じゃん? 相手の心が自分に落ちたかどうかは本能的にわかるっていうか……その……ちょっと足りてない気がしたっていうか……」



 なんだコイツ……純情君か?


 照れっ照れでブランコを早漕ぎしはじめる伝説の悪魔に、私はすっかり安心感を持ってしまった。


 それが、いけなかったのかもしれない。



「おい、俺(・)の(・)妻(・)だ(・)ぞ(・)」



 急にグイッと肩を掴まれて、私は斜め後ろに仰け反った。


 そのまま大胸筋にポインと跳ねて、馴染みのある体勢に収まる。



「ベアトゥス様?」



 驚いて見上げると、私の髪に絡んでいた伝説の悪魔が、太い指で摘まれていた。


 さっきまでは7mmくらいだったのに、今見たら3cmくらいに成長している。



「えっ!? デカ!!」


「いや、まだちっちゃいでしょ……」



 襟首を掴まれてしゅんとしてるキシュテムさんは、ちょっと表情がわかるだけに少し可哀想にも見えた。



「えー、でも虫だとすると7mmが3cmになるのって、かなり怖いですよー」


「俺を虫としないで……」



 私と伝説の虫が会話するのを黙って見ていたベアトゥス様は、忌々しそうに顔を顰(しか)めて言った。



「あからさまに攻撃はしていないようだが、この虫、お前の耳元で生気吸ってたぞ……」


「え!? やっぱ虫じゃん! マダニ!?」


「虫じゃないってば! たまたまココがいい感じの場所だっただけだって!」


「虫的に……?」


「虫じゃないって!」



 勇者様は、腕を伸ばしてキイキイ騒ぐちびっこキシュテムさんを遠ざけると、私の耳にチュッと軽いキスをした。



「ひゃあ! ちょっと……何ですかイキナリ」


「虫(・)除(・)け(・)だ」


「あ〜せっかく漏れ出してたやつ、止めないでよ〜」


「え? 漏れ出してた!? 何が?」


「何でもない……それより女神像を作ったぞ。移動できるか試してみてくれ」



 ん? さっきの今でもう作ったの??


 見たところ、持ってきてはいないみたいだけど……



「像ですよ? いったいどこに……」


「ガーデンヴィラの厨房だ」


「え……」



 まさかの食材!?


 大人しく御本を読んでるフワフワちゃんとラハールちゃんは、そのままお勉強をしてもらうことになり、私たちはガーデンヴィラに向かった。





◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇





 ガーデンヴィラの厨房には、どうやって作ったのか、どデカいホワイトチョコの女神像が鎮座していた……



「えっとー……これは食(・)べ(・)ら(・)れ(・)る(・)女(・)神(・)ですか……?」


「そうだが、半年は飾れるようになっている。なかなかの出来だろ?」


「すごいけど……」


「早速だが、移動してみろ!」


「え、あ、はあ……」



 自信満々のベアトゥス様に促(うなが)されるまま、私は帰還魔法……もとい、進化した瞬間移動魔法を発動してみる。


 頭の中に移動先の選択肢が出て、『王都の教会』と『ファレリ島の教会』に矢印がついていた。


 地図系じゃなくて、箇条書き系みたいね……


 今選べる選択肢は2つ、その下に薄くだけど『公爵領の教会』っていう文字が見えた。


 ウィノナ様が、早くも公爵領の教会設立に着手してくれているらしい……


 西の森教会は、私の権限で女神像撤去したから、移動先には入っていないっぽい。


 嫌だけど、設置するか……歩ける距離だし、別にいっか?


 でも、ここガーデンヴィラのチョコ女神は、どんなに探しても移動先のリストに入っていなかった。



「すみません、移動先に出てこないみたいです……」



 私が申し訳なさそうに事実を告げると、勇者様はわかりやすいくらいに落ち込んでいる。



「そうか……いや良い、女神像の捏造が不可能ならば、安全性も確保されるだろう」


「え、いやあの……」



 食材だからダメなのでは?


 と、ちょっと思ったけど、これ以上あの女神像の制作者が増えても怖いし、諦めてくれたんなら万々歳だな……と思って、夫を変に励ますのはやめた。

 




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