4.『カフェ・ショーブランで昼食を』part 10.
ちっちゃいキシュテムさんは、これまで以上にウザかった……
「チュレちゃんはさぁ〜俺のこと嫌いじゃないと思うんだよね〜……でも、どっかよそよそしいって言うか〜……んー、うまく言えないんだけどミステリアス?」
「チュレア様は、滅多に他人を愛称で呼んだりしませんから……たぶんキシュテムさんには、特別な好意を持っていらっしゃると思いますよ?」
「だよねだよね!? でもさぁ〜妖精王女ちゃんと違って、チュレちゃんはあんまり笑ってくれないって言うかさぁ〜……」
「それは……たぶん、乙女心ってもんでしょう……妖精王女様はキシュテムさんに恋してませんから、大口開けて笑うし自然体でいられるけど、チュレア様は王妹殿下でもあり、もちろん女公爵として威厳を保たないといけませんし……それにキシュテムさんは婚約者候補の筆頭ですし」
「え〜!? だったらもっと仲良くしてくれてもいいじゃ〜ん!!」
「だからですよ……お相手として意識しちゃってるってことじゃないですか?」
全長7mmぐらいのキシュテムさんは、私の髪につかまって、何やら好き勝手しゃべっている。
思わず指でつまんで捨てそうになりながら、私はなんとか会話に付き合った。
やろうと思えばイケメンムーブもできるくせして、軽薄な雰囲気にしてるからダメなんじゃないのか?
マーヤークさんより年上なのに、なんか子供っぽいんだよなあ……
今は身長が小指の爪先ほどしかないから、余計にお子ちゃま感がすごい。
「あのー、ところでその……私の髪でブラブラするのはいいんですけど、口に入んないでくださいね」
「大丈夫大丈夫、ミドヴェルトの結界が俺を弾いたから☆」
「うぇ!?」
弾いたってことは、てめー入ろうとしたな!? この野郎……
と、喉まで出掛かったけど、口を押さえる動作で私はギリ我慢した。
そのまま図書塔に向かって歩いていると、ようやく青いとんがり屋根が見えてくる。
この季節のファレリ島は、緑色のドングリっぽい匂いがして何かいい感じ。
気分が上向いていたせいか、うっかり軽い気持ちで、私はその話題に触れてしまった。
「そう言えば、チュレア様に負けたって……キシュテムさん、まさか戦ったんですか?」
すぐ答えが返ってくるかと思ったのに、伝説の悪魔は黙ったまま。
あれ……もしや、地雷踏んだかな……?
私もちょっと意地悪な質問したかなと反省していると、キシュテムさんはやっと話せるとばかりに、早口でまくし立て始める。
「チュレちゃんは前から強いとは思ってたんだけどさぁ! それだけじゃなくて! すんごく賢いんだよね〜☆」
私の髪を数本持ちながら無遠慮にプランプラン揺れる伝説のチャラ男は、ウキウキした様子で女公爵様の好きなところを挙げていた。
気を使った意味、ナシ!
キシュテムさんの話によると、この悪魔はどうやらチュレア様の鳥化を押さえようとして体の99.9999948%を失ったのだとか。
ど、どゆこと……?
何やら思いもよらない方法で出し抜かれて、危うく存在ごと消し飛ぶところだったらしい。
そんな訳のわからない話を、うっとりとした雰囲気で語るキシュテムさんは、もはやただ惚気ていると言っていい。
前から思ってたんだけど、悪魔ってドMが多いのではないか……?
魔族の弱肉強食ルールがダイレクトに響きやすいというか、負けたり蹂躙されたりするのが好きらしい。好き……とはちょっと違うかも知んないけど、自分より強い存在に靡く傾向があるんじゃないか的な疑惑があったりなかったりする……のかもしれない。
よし、聞く意味ナシ!!
そう思った私が、図書塔の改札みたいな入り口を通ろうとすると、キシュテムさんから気になる情報が発せられた。
「そういえばさー、レヴィスって奴のこと知ってる? チュレちゃんの侍従なんだけど、最近レヴィスレヴィスって、急にアイツのことばっかり何回も呼ぶんだよね……」
「あー……何回かお目にかかったことはありますよ。マーヤークさんみたいな感じの片眼鏡した執事さんみたいな長髪の……」
私が、何となく記憶の中にあるチュレア様のお付きのグッドルッキング・ガイたちを思い浮かべながら返事をすると、キシュテムさんはピコンと跳ね上がってプンプン怒りだした。
「それ! ソイツ!! アイツ嫌いなんだよ〜! いっつもチュレちゃんとの時間を邪魔してきてさ〜!」
「まあ、レヴィスさんは婚約者候補じゃありませんし、キシュテムさんのライバルじゃないと思いますけど……」
「そう! ライバルじゃないんだよ! 敵!! 敵なのぉ〜!」
「えぇ……?」
空中で地団駄を踏む器用な伝説の悪魔を横目に見ながら、私は図書塔の階段を上がる。
一応、図書室内では静かにしてほしい。
とはいえ、7mmしかないキシュテムさんの超音波みたいな声は、ちょうど私の耳元でウザく感じる程度で、周囲の司書さんには聞こえていないようだった。
それにしても、レヴィスって……あのレヴィス・イストワさん?
線が細い長髪の男の人で、ちょっとホワホワした感じだったような……
レヴィスさんは、女公爵様の懐刀と言われるユニオシさんと並び称される、優秀な文官さんだったはずだ。
ユニオシさんがキリッとした厳しい女性で、容赦なく色々追求してくるもんだから、レヴィスさんはそれに対して「いい刑事」みたいな役回りだった気がする。
よく気がつく、アフターケア要員みたいなイメージだった。
そんな悪い人の印象はないけど、敵って……まあどうせ、キシュテムさんがやらかしてるからじゃないかな?
侍従なら職務上、チュレア様のためにならないことは阻止するだろうし……
そんなふうに思いながらも、いつもは割と懐の深いキシュテムさんの異様な嫌がりっぷりが気になって、その名前が妙に頭に残った。
「あ、フワフワちゃ……」
階段を上りきると、魔国の王子殿下とラハールちゃんが、本棚に囲まれた図書室のテーブルでニコニコヒソヒソと内緒話をしながら、楽しそうに本を開いていた。
何この光景……尊い。
美少女とフワフワ。
最高ですね。
「どしたの? ミドヴェル……」
「しーっ……ちょっと様子を見ましょう」
私はキシュテムさんを少し手で覆い隠して、声が響かないようにする。
小さな二人は、1枚ずつ本のページをめくりながら、クスクス笑いあっている。
か……かわいい……!!
しばらく見ていると、フワフワちゃんが尻尾でラハールちゃんのほっぺを撫で、ラハールちゃんも王子殿下の鼻の頭をつっつきだした。
守りたい、この笑顔。
そんなふうに思いながら見守っていると、伝説の悪魔が急に普通のテンションで言葉を発した。
「あ、ヤバいねコレ」
その台詞のすぐ後、フワフワちゃんが薄く発光して、ラハールちゃんの腕にくるくると光が巻き付いた。
「え、どうしたの!? 大丈夫!?」
私は慌てて階段から飛び出して2人に近づいた。
2人ともキョトンとしてこちらを見る。
キシュテムさんが言った。
「あー、これ番ったね☆」




