4.『カフェ・ショーブランで昼食を』part 9.
「もどっ……た……?」
ベアトゥス様に馬乗りになったままの私は、ちょっと不思議な細い木の集合体でできた空間の真ん中にいた。
確かに……王都の教会感は無い。
それどころか、ちょっと妖精国の建物感がある。
壁も窓枠も皆んな木が寄り合わさってできていて、まるで木が自然にその形に成長したみたいな……
「ここは、先ほど俺が見たと言った、ファレリ島の教会だ。ほら、アレを見ろ」
「ぐえ……」
勇者様が、私の頭をグイッとひねって、祭壇のほうを向かせた。
そこには、ツノエルフ作の女神像(等身大)が安置されている。
「うぐぅ……デカすぎぃ……」
大理石っぽい白い石でできたその像は、見方によってはエンヘドゥアンナさんみたいだった。
私って、あんな穏やかな余裕ある表情しないし……
楚々と佇む像から滲み出る女子力の高さから言っても、私よりエンヘドゥアンナさんのほうに似てる。
そうやって考えると、あのこっぱずかしい女神像も、だんだん冷静に見れるようになってきたかも知んない。
いつまでも勇者様の上に跨ってるわけにはいかないので、いそいそと降りて、となりに体育座りしてみる。
「うーん……やっぱり私じゃないですよねぇ……」
「ハハッ! どう見てもお前だろ、観念しろ!」
なんとか自分の中で消化しようとしている問題を、夫が容赦無くエグってきた。
何やコイツ……もしや、これが噂に聞くエネ夫なのでは?
「うう……」
「それよりミドヴェルト、お前気づいてるか?」
私は絶賛メンタル修復中なのに、横にいる筋肉勇者が、めっちゃ顔を覗き込んできてウザい。
何なの? トドメ刺したいの?
とか思いながら、何の話か考えてるフリをしてスルーしようとすると、ベアトゥス様が思いもよらないことを言い出した。
「これは帰還魔法なのか?」
え? 帰還……してないね。
私の帰還魔法は、ただ王都の教会に戻るだけだったはずだ。だから帰還魔法なんだもん。帰るだけ。それだけの、微妙に使えない魔法。
なのに……
「えっと……そういえば……」
「お前のスキルは進化したのではないか?」
「進化……?」
腕組みベアトゥス師匠が、何やらいろいろと説明してくれたけど、魔術体系の辺り……積層可変? 的な響き? の辺りから、私には理解不能過ぎてBGMだった。
「……つまりだな、今までは王都の教会にしか移動できなかったが、これからは、あの場所以外にも移動できるということだ」
「え!? そ、そうですね! でも、なんで教会……?」
「さあな、それはこれから調べるとして……」
ベアトゥス様は、急に立ち上がると、鋭く辺りを見回した。
「何か居るな……気づいたか?」
「いえ……」
勇者様の勘は、かなり広い範囲の索敵ができるっぽいし、私に気配を察知する能力は無いし……ていうか敵……なの?
何だか不安になってキョロキョロとその辺を見回してみるけど、人影なんかは一切わからなかった。
と思ったら、手首に虫がいた。
うわー、やっぱ木のウロだからかな……とか思って無意識に払おうとすると、虫が喋った。
「お願いやめて! ミドヴェルト!!」
え!?
と私がビビった瞬間、勇者様が素早く虫を取ってくれた。
「ったく、こんなところに……気配が小さ過ぎて、遠距離にいるのかと思ったぞ」
無言で虫を突き出してきた勇者様の手元をよく見ると、摘まれていたのは7mmくらいの伝説の悪魔だった。
「え……? もしかして、キシュテムさんですか!?」
「はあ……ここまで遠かったぁ〜☆」
「いや……え? え、何で? ちっちゃ!!」
「もぉ〜、大きい声出さないでよミドヴェルト……俺イマ最弱なんだからさぁ」
「あ、ご……すいませ」
メチャクチャちっちゃいキシュテムさんは、それでもちゃんと困った顔して頭を掻いている。
勇者様に黒い羽根を摘まれたまま、首骨折ポーズを取って照れ笑いをする伝説の悪魔キシュテムさんは、よくできたオモチャみたいだった。
「俺、負けちゃったんだ☆」
◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇
『んまあ……それで、公爵領にも教会をと……』
図書塔に戻る前に、いろいろ話したいことができてしまったので、私たちは王家のビーチレストランでカニ料理を食べながら公爵領とリモート会議をすることにした。
公爵夫人のウィノナ様は、ヴィルジェニー・イレイスのことについてかなり調べてくれたらしく、あのほぼ廃墟と化していたホワイトヘイブン城の閉架書庫まで行って禁書を探したりしてくれたようだ。
元王女様だけあり、実務面ではかなり優秀で、お茶会のときの夢見る乙女感は全然ない。
どっちかって言うと、現実世界でお世話になったシゴできの先輩を思い出す……こんなふうにスマホでリモートしてると特に。
「そうなんです、まだ確定条件は不明なんですけど、私の帰還魔法が進化したらしくて……」
『おめでとうございます、ミドヴェルト! 貴女がこちらに来てくださるのでしたら、何だっていたしますわよ!』
「あ、いや、そんな……そこまではアレなんですけど……えへへ」
隣りでは、熱々のカニグラタンを前に、勇者様と伝説の悪魔がなんか小声で喧嘩してる。
イイんだけどね……会議に参加してほしいなんて期待してないけどね……
『ところで、確定条件の当てはあるんですの? 窓数は? 建材は何でした?』
「あーっと……たぶんその辺は自由で……」
「女神像だ。コイツに似せた像を置くことが条件だろう」
急に割り込んできたベアトゥス様に気まずい情報をバラされ、私は言葉をなくす。
「うぐぅ……」
『そ、そうですのね……では早速、大司教様に手配をお願いいたしましょう』
軽く引き気味のウィノナ様が、手早く話をまとめてくれた。友情に感謝……
「すみません、妖精塚にも費用がかかったと聞いてます。その上さらに教会まで……」
『いいんですのよ、こういう時のために蓄財というものはあるのですわ』
公爵夫人は、設備投資に全力を出すタイプらしい。
現実世界の先輩も、仕事で使う道具とかは常に最新のいいやつ使ってた……やっぱ被るなぁウィノナ様。
「実はあの像、ロプノール大司教が自作で作ってるらしいんですよ。だから今発注しても、すぐには届かないかもしれませんけど……」
『え!?』
「何!? 本当か、それは!?」
同時に、画面の向こうと隣りから声が上がって、私は少しビクッとしてしまう。
やっぱキモいよね……
最初に女神像を見つけたとき、あまりの怖さに発注禁止の契約してもらったんだけど、ロプノール君は謎の器用さを発揮して手彫りの女神像を量産しはじめたのだった。それから、もう怖過ぎて放置している。
だって無理に止めたら、もっと酷いことになりそうだし……
でも、2人の反応は、私の想像とは正反対のモノだった。
『さすが大司教様ですわね。信仰心は誰にも負けない、唯一無二のお立場であると』
「あいつ、そこまで極めていたのか……!」
あ、やば……
勇者様の殺気が強まって……と思ったら消えた。
「よし、俺も作るぞ!」
「何を……って、だいたい想像ついちゃいましたけど!?」
急に席から立ち上がって、どっかに行ってしまったベアトゥス様を見送りながら、私は残りの相談事をパパッとまとめる。
「それでは、お忙しいところお時間いただきありがとうございました! ちょっと心配なんで、ベアトゥス様の様子見に行ってきますね」
『ふふ……そうですわね。ではまた。こちらは万事お任せくださいな』
スマホの画面を消すと、私は店員さんに聞き込みをして、勇者様を探しに行くことにした。
「ちょっと待ってよ、ミドヴェルトぉ〜! 俺、イマ飛ぶのも大変なんだからさぁ」
「あ、キシュテムさん居たんですね。てっきり図書塔に飛んでったのかと……」
「だぁからぁ〜、飛べないんだってば☆」
ちっちゃ過ぎて存在を忘れてられてた伝説の悪魔は、私の指にしがみつくと調子づいて腕を振り上げた。
「よぉ〜し☆ しゅっぱぁ〜つ!」
何だコイツ……




