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4.『カフェ・ショーブランで昼食を』part 5.

「ええ、ええ、はい……そうなんです。それで上空から確認できたらお願いしたいなぁと……はい、そうなんです……あ、大丈夫ですか!? ありがとうございます! はい、ええ、すみませ〜ん、助かります〜はい、お願いしま〜す、はい、失礼しま〜す……」



 ウツロブネU2-6203は、サリー船長によれば最新鋭の宇宙船らしい。


 そんな高性能デバイスが上空にいるんなら、ちょっと湖水地方を監視してもらっちゃうのもアリなんじゃないか。


 そう考えた私は、早速ソードフィル・フォース・ガーディアンズ所属の天使さんたちにお伺いを立てた。


 すると、ちょうど先方も何があったのか調査中とのことで、衛星ドローンを配備してくれていたらしい。渡りに船とはこのことか……


 幸い、私のスマホ魔法がギリギリ宇宙船のデータを受け取れる機種だったので助かった。調査結果はリアタイで送ってくれるみたい。


 あって良かったスマホ魔法……


 天使さんたちの技術は科学メインなので、この異世界の中世みたいな世界感とか魔法とかとはちょっと相性が悪いんだよね。


 そのせいで、今までずっとコンタクトが取れないまま、敵対していたのだ。


 でも、私のスマホ魔法が天使さんたちとこの異世界を繋ぐ架け橋になれた。はじめは単純に現実世界の利便性を追求しただけだったんだけど……というか、この魔法のせいで私は危うくイザイザ様たちに消されそうになったんだけど……まあ、結果オーライである。


 ドキドキしながら画面を見ていると、現在の湖水地方の様子が送られてきた。



「見えたな……」



 小さい画面を覗きながら、ベアトゥス様が目を細めた。


 会議室は、王様や勇者様といった歴史物の衣装に身を包んだ面々が、それぞれ自分のスマホを見つめる現代的な様子になっていて、何だか笑ってしまいそうになる。


 でも今は、物凄く深刻な状況なので笑ってはいけない。


 私は、黙って湖水地方の中継画面に目をやった。



「チュレアよ……」



 疲れ切った王様が、苦々しく呟く。


 魔国の上層部には、緊急措置として大臣の皆さんに1人1台のスマホをお渡しした。


 王様の命令で、部下の方には渡してない。


 湖水地方は、茶色い荒地のように見えた。


 以前、失踪したベアトゥス様を探しに行く時とか、ファレリ島に行く途中に見たことがある大きな湖は消えていた。


 歌女さんたちはどうなったのか……湖水地方の調査はまだこれからだ。



「おお、あの光はまさか……」



 画面の中に遠くから小さな光が近づいてきた。


 何人かの大臣が驚きの声を上げる。


 王様の表情が険しくなると同時に、光は大きくなり、真っ直ぐにカメラに向けて突っ込んできた。


 それっきり、画面は暗転してしまった。



「な、何ですか? 今の……鳥みたいに見えましたが……」


「ファイヤーバードか?」


「うむ……魔国の上位貴族ならば皆知っていることだが、我が妹チュレアの本性は、フェネクスであるとされている」


「フェニックス……?」


「フェネクスだ。悪魔族の要素が混じっておるでな」


「え? 悪魔族って……」


「なるほどな、それであの魔力か」



 ベアトゥス様が、納得したように腕組みしたまま頷いた。


 フェネクスというのは、不死鳥の別名みたいなもんだけど、魔国的にはこだわりがあるらしい。聖獣というよりは悪魔寄りの存在で、かなりレアなのだ。見た目はオレンジ系の孔雀のオスって感じで、大きさはダチョウぐらいあるとのことだった。


 ちなみに、この異世界でも、悪魔族の評判はあまりよろしくない。


 強すぎて警戒されてるってのもあるらしいんだけど、自由すぎて信用がないのだ。


 とくに魔国は完全なる契約社会なので、契約に縛られないものは魔物扱いになって討伐対象にされてしまう。


 チュレア様も、いつ爆発するかわからないと噂されていたし、実際こうなってしまった。ご本人はあんなに思慮深いお方なのに、周囲からは腫れ物扱いされている。


 悪魔族が魔国に属することになったのは、マーヤークさんが初の出来事で、詳しい生態などはまだよくわかっていないそうだ。


 マーヤークさんご本人はといえば、あくまで謙虚な姿勢で、妖精国から守ってもらうために2000年間は大人しくするという契約を受け入れ、魔国の王族に仕えてきた。でもそれも後4年くらいで満了するので、何が起こるか分からず、魔国ではナイーブな雰囲気になっているらしい。


 まあ、フワフワちゃんのことが大好きなマーヤークさんなら、あんまり変なことはしないと思うけど……それは私の勝手な見解なので、何の保証もない。


 考えてみれば、現実世界のLGBT問題みたいなもんだ。体が男性の側に攻撃の意志がなくても、攻撃が可能だと思われれば警戒される。


 王位継承問題も似てるよね。継承権があるってだけで、たとえ本人に野望がなくても、勝手に警戒されて排除される。


 そんなわけで、王妹として権勢を誇る女公爵チュレア様も、魔国から恐れられ、結界役の悪魔を付けられ、尊厳を踏み躙られてたりするのかもしれない……本当のところは、チュレア様にしかわかんないけど。


 でも、就職活動だって、営業だって恋愛だって、相手がどう思うかを考えて行動しなくてはいけないのは同じだ。


 自分がどう思ってるかなんて、なかなか伝わらないもんなのだ。


 変なとこまで意識が飛んでしまったけど、とにかくチュレア様は本性に戻って、何もかも攻撃する状態になっているということがわかった。



「ミドヴェルト殿には、まだお伝えしておりませんでしたな……」



 セドレツ外務大臣が、魔国の王族の役割を簡単に説明してくれた。


 よくわかんないんだけど、魔国では哺乳類とか鳥類とかの違いを気にしなくていいらしい。


 何で猫科っぽいフワフワちゃんの伯母さんが鳥系なのか謎だったけど、ジェヴォーダン朝の始祖であるタキオン様がスフィンクスだったようで、その息子さんが鷲とチーターだったらしい。


 そんでもって、ジェヴォーダン朝が開闢(かいびゃく)してからは、フワフワな子孫が王位を継ぎ、鳥っぽい子孫が国防を担う。


 そうやって王位継承問題を事前に解消してきたとのことだった。


 何というか……賢いというか……エグいというか……


 私なんかは自由な国の自由な時代に生まれ育ったので、そんなん気にしなくていいじゃんと思っちゃうけど、王家ともなると伝統やご先祖さまの遺言は絶対なのかもしれない。


 江戸幕府とかも、家康大権現様の言いつけは絶対。みたいなトコあったしね。


 普通の良い家でも、お祖父様の決めたことに従いましょうみたいな話あるし。


 ジェヴォーダン朝の魔国は、とくに長男が継ぐってシキタリはなかった。


 次男の嫁になった人間族の王妃が、魔法使いのヴィルジェニー・イレイスを使って……


 って、ちょっと待ったぁ!!



「え、ゔぃ、()()()()()()()()()()()……って言いました? 今……」


「左様、大魔法使いと謳われるヴィルジェニー・イレイスです。ご存じですかな? 古典歌劇にもなっておりますし、魔術学会の名誉会員として記念コインにもなっておりますからな!」


「そ、そうなんですね。あのちょっと……ストーカー公爵夫人ウィノナ様をお呼びしてもよろしいでしょうか? コレで……」



 私がスマホを軽く持ち上げて見せると、セドレツ大臣はわざとらしくポンと手を打って答えた。



「おお! あの魔道具ですな? 左様、公爵夫人は、かのニルヴァーナ()()の王女であるとお聞きしました。左様左様、ヴィルジェニー・イレイスといえば、公爵夫人と同郷であらせられる偉人。どうでしょう……? 統率者たるロワのお許しさえいただきますれば……」


「許可する。公爵夫人と魔道具を繋げよ」


「ありがとうございます、ではビデオ通話にしますね!」



 説明するのも面倒なので、王様の許可をもらって速攻、私はビデオ通話にしてウィノナ様に繋いだ。


 可愛い縦ロールが見えて、『んまあ!』と驚くウィノナ様が画面に映し出される。



『どうしましたの? ミドヴェルト、貴女ですの? これはどういう事なのかしら?』


「すみません、急なお話で申し訳ございませんが、公爵夫人にも御前会議に出席していただけますでしょうか?」



 はじめてのビデオ通話にちょっと浮かれ気味だったウィノナ様は、私のヨソヨソしい様子ですべてを察し、一瞬でよそ行きの顔になる。



『よろしいでしょう。我が王たる統率者ロワに、最上の喜びをもってご挨拶いたします』


「急にすまぬな、公爵夫人。ヴィルジェニー・イレイスの名を聞いて、そなたの話が聞きたくなったのだ」


『まあ、偉大なる魔法使い様と共に、わたくしのお話をご所望いただけるとは光栄ですわ』



 王様が無言で(うなず)くと、セドレツ大臣が張り切って一歩前に出るなり、歴史の講義を続けてくれた。




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