4.『カフェ・ショーブランで昼食を』part 6.
『あれ? 何? 動画観てんの?』
『まあ、ジャマナ様、起きていらしたんですの? 今、ミドヴェルトからお誘いを受けて、御前会議に参加しておりますのよ。ジャマナ様も是非ご一緒に』
『え? ああ、うむ。はい……え、マジで?』
いや聞こえてるんですが……
会議だし、スマホ魔法の画面を大きくしてお誕生日席にバーンと映そうかと思ってたけど……まさかライオン公爵様が、ラフな寝巻き姿で乱入してくるとは……やんなくてよかったぁ……
軽く配信事故みたいになってるスマホ画面を眺めながら、私は友達夫婦の仲睦まじい様子にちょっとホッコリした。
ウィノナ様は女子会で、公爵様がなかなか本心を見せてくれないとか愚痴ってた気がするけど、念願のタメ語で話してもらえるようになったみたいね……
生前のジャマナ王子のことは、今のライオン耳がついた公爵様には伝えてある。
死にたてのジャマナ王子に転生してしまった今の公爵様は、だいぶ長いことワケも分からず吸血鬼公爵として過ごしてきたのだった。
中身は現代日本人である今の公爵様は、本当は人間になりたかったらしい。だからなのか、以前私のブラックライト魔法で浄化された時、一瞬すごく喜んでいた。だけどフワフワの耳としっぽがついていたことに気づき、すごくショックを受けていたのが印象的だった。それも今は落ち着いて、吸血鬼だった時よりは肌の色が人間ぽいってことで、どうにか納得しているらしい。
まったく面倒な野郎だぜ……
真面目男子だから、ファンタジー苦手なのか?
男の子だから、可愛いよりかっこいいを追求したいのかもね。
なんて思っていると、セドレツ大臣の歴史講義が、初代ゼンダー公の話に突入した。
「……そのような経緯で、長兄としてお生まれになったルクソン公は臣籍にくだり、ゼンダー公爵家を興しました。以来、ゼンダー公は国防の要となり、魔国内に生まれた優秀な人材を養子に入れて、後継者にするしきたりができたわけですな」
「え、ということは、今のゼンダー公爵様は……」
私の初歩的な疑問に、戦争大臣のセンチネル・ゼンダーさんが答えてくれた。
「不肖、わたくしが継がせていただくことになりました。正式な養子契約を交わしてはおりますが、王族ではございません」
「な、なるほ……ど?」
さすが契約社会の魔国ならではというべきか……鷲胸を誇らしげに反らしてピシッと立っている現ゼンダー公を見ながら、どう反応すべきか困っていると、セドレツ大臣がその様子に気づいたのか話を続けてくれた。
「初代ゼンダー公は独身を貫かれまして、配偶者を持たなかったと言われております。そういった、あくまでも武人として魔国に尽くす姿勢が、魔国民をして『戦神ゼンダー』と呼ばしめるに至ったわけですな!」
「戦神……ということは、教会や霊廟などがあるんですか?」
「いえいえ、ゼンダー公爵家がそういった活動は禁忌としておりますので、見つけ次第摘発しております」
「はあ……そうなんですね……? ではすごい武勲を立てた方なんですか?」
「ええ、それはもちろんですぞ! 初代ゼンダー公は、魔国の基礎となる部分をこう……強固に固めた将たる器であったワケですな。だがしかし、レリクルレイス籠城戦の際、政敵に謀られましてですな、たった一騎で幼い王太子を守りぬき、その尊い命を散らされました。その時の一部始終を聡明なる王子が書にしたためまして、それをもって宮廷に巣食う反乱分子を一掃することができたと伝えられております。以来、ジェヴォーダン朝においては『忠誠の儀』という契約式典が重要視されるようになりました」
『ルクソン様……』
ウィノナ様が、ショックを受けたように呟いた。
私も、マーヤークさんに出された課題で、ジェヴォーダン朝のはじまりみたいな子供向けの本を読んだ気がする……
その中では、フワッとした御伽話風になってたけど、双頭の鷲が魔国の子供を守ってくれるみたいなエピソードはガチネタだったらしい。
「レリクルレイス城って……たしか西の森の奥にあるんですよね?」
「左様、その遥か西に、かつてニルヴァーナという人間族の国があったのです。ジェヴォーダン朝を興したタキオン王は、第二王子のブラディオン公に王位を譲りました。その際、ブラディオン公の正妃でありましたのが、人間族のサーラ妃であらせられます。お二人の間には5人のお子がお生まれになりまして、それぞれに才能を活かした職に就き、内外から魔国を支えたと伝えられております」
『サーラ……』
公爵夫人のお知り合いかな?
サーラ妃の話を聞いたウィノナ様は、何かちょっとつらいような安堵したような表情を浮かべて、祈るように両手を握っていた。
その姿に、ガバッと寄り添ってきたのはライオン公爵様である。
『え、なんスかそれ、超カッコイイじゃないスか、俺負けてるじゃないスか……』
はじめは積極的なウィノナ姫に戸惑っていた公爵様だけど、今は相思相愛の仲良しカップルで、社交界でも憧れの夫婦になっている。
そんな妻が伝説の戦神を下の名前で呼んでいたら、まあいくら鈍感ズレズレな公爵様でも嫉妬くらいするだろう。
愛する妻を誰にも取られたくないのか、公爵様はヨワヨワな顔をしながらも、ウィノナ様にピッタリくっついて離れない。
『あなた、ご安心なさって? あの方とは誓って何もございませんでしたわ』
『そ、そんなこと……疑ってないけどさ! い、いや、私は貴女を信じている……うむ』
今さら公爵ぶっても遅いんだが……?
2人のバカップルぶりが魔国上層部に知れ渡ってしまったけど、元々ジャマナ公爵家は特別枠なので問題ない……と思う。
むしろ、公爵様が魔国乗っ取りなんてしそうもないということが伝わって、結果良かったのでは? まである。
ウィノナ様に抱きつきながら完全にイカ耳状態になっているライオン公爵様のダメっぷりを眺めつつ、私は軽く咳払いをして、イチャつく公爵夫妻に注意をうながした。
「んんっ! えー、それでですね。ストーカー公爵夫人にお聞きしたいのは、大魔法使いのヴィルジェニー・イレイスについてなんですよ」
やっと本題に入ったか……とばかりに、魔国の上層部たちが姿勢を正す。
そんな中で、死にかけの夏目漱石みたいに、椅子の手すりに斜めに寄りかかったままの王様が言った。
「我が妹たるチュレアに、その者が何かした……と言いたいのか?」
王様のひと言に、会議室がざわめく。
『まさか! ヴィルジェニー・イレイスは、わたくしの生きた時代の魔法使いですわ。一般の人間族より長生きではありましたが、2000年も生命を繋ぐようなことは……』
「左様、偉大なる大魔法使いヴィルジェニー・イレイスですぞ? 魔国に貢献してくれた伝説の人間族でしたが……」
セドレツ大臣は、だんだん自信がなくなってきたのか、語尾があいまいになったまま不安げに目だけキョロキョロと動かしはじめた。
ほかの大臣たちも、それぞれに疑義を唱え、会議室はどんどん騒がしくなっていく。
私は、思い切ってアイテールちゃんの言葉を公表することにした。
「ところが妖精巫女様からのご忠告で、ヴィルジェニー・イレイスに気をつけよ、という話があったのです」
しん……と静まり返ったテーブルに、王様の声が響いた。
「なんだと……?」




