4.『カフェ・ショーブランで昼食を』part 4.
「われは、ここにのこる。『ようせいづか』のまもりはかたいゆえ、しんぱいはいらぬ」
「え、でも……!」
「ミドヴェルト様、妖精巫女様の分身様は、ここにいる必要があるのではないでしょうか」
王城に避難しない、というアイテールちゃんを説得できなくて、私は焦ってしまった。
妖精巫女様としての本体は、ここから遠く離れた糺の森にいらっしゃるから、本当はそこまで心配する必要はないらしいんだけど、やっぱり気になってしまう。
マーヤークさんに軽く解説されて、そういえば妖精塚はアイテールちゃんの分身が入るまで起動しないとかいう話だったなぁ……と思い出した。
「たしかに……王城も黒焦げで絶対に安心というわけではありませんでした……でも、無理はしないでくださいね? 分身だからって、記憶とか共有できてるわけじゃないんでしょう?」
「ふむ、きょういくがかりどのは、ぶんしんたいのありようについて、りかいがあるようじゃな……しょうじき、われもまだよくわかっておらぬ。われはわれであり、ほんたいとはまたべつなのでな」
糺の森におはします妖精巫女様のご本尊は、たしかにいつものアイテールちゃんというよりは、AIロボみたいな感じだった。
気品に溢れているけど、人形みたいで反応があまりないっていうか、よそ行きの顔見たいな感じ?
つまり、情報の並列化とかはしてなくて、分身体とはいえ使い捨ての気軽なものではないってことかな……
某アニメの電脳義体とかだと、別の義体に入っても少佐は少佐だけど……使徒と戦う系アニメだと、見た目が同じクローンでも別人だよね。
「私は、どんなアイテールちゃんも好きです。でも、王都の妖精塚を起動させたのは、今目の前にいるあなたです。だから……えと、ま、また……おぢゃしたいし……すびばせん」
「そのように、なくでない、きょういくしゃであろ? らはーるも、みておる。ほら」
「は、はい……ごめんれ……」
「ミーちゃん、大丈夫? はい、鼻かんで」
「うん……ありがと……」
ハンカチを差し出してくれるラハールちゃんは、ベアトゥス様に何か吹き込まれて、その通りに動いてるみたい。
ベアトゥス様は、私と目が合うとスッと視線をそらして、何もない壁を見ていた。
それを見て眉を顰めるアイテールちゃんが、たぶんまた何かアドバイスしてるんだと思う。
おかしなピタゴラ◯イッチに気づいた私は、思わず笑ってしまう。
そうだよね、泣いてる場合じゃないって!
こんなに最高の世界を、終わらせたくないもんね!
「妖精塚に王女様が必要なことは理解しました。では、何かあったらスマホで連絡くださいね」
「うむ、ちゅれあどののほうも、あんずることはない」
そう言いながら、ちっちゃなアイテールちゃんは、くるりと丸く飛んで振り向いた。
意味ありげに流し目を送ると、私の肩に止まって囁いた。
「ゔぃるじぇにー・いれいすに、きをつけよ……」
「え?」
「ではな、あんねいのかごをつよめておく。はよう、もどるがよい」
アイテールちゃんの言葉で、私たちは妖精塚の外に出されてしまった。
相変わらず、王都は煤けた黒い世界だけど、今は空だけが抜けるように青い。
「……さっきまで、こんなに晴れてはいませんでしたよね……」
マーヤークさんも違和感を持ったようで、辺りを警戒しながら、魔法をいつでも出せるような構えを崩さない。
それでも悪い予感はしなかったし、アイテールちゃんが出してくれたってことは、今なら安全に王城に戻れるってことだろう。
「とりあえず、会議室に急ぎましょう。話はそれからです」
私は、ちょっとした団体様ご一行を引率して、なんとか王城へと歩き出した。
◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇
『まあ、よかったですわ! 皆様ご無事でいらしたのね!』
会議室から公爵夫人のウィノナ姫にスマホ魔法で電話すると、心からホッとしたような声が聞こえた。
公爵夫妻は北部の自領に戻っていて無事とのこと。
王都に何かあったという連絡は受けていたものの、火山の大規模噴火による災害対策に追われていて、状況確認ができなかったらしい。
聞いたところによると、向こうから何度も電話したけど、こっちには繋がらなかったのだとか。
なんでだろ……?
私が掛けたときはフツーに繋がったと思うけど……
なんて疑問に思っていると、王様も電話が繋がらなくて、わざわざ会議室から出て各方面に勅令を出したとのことだった。
特殊結界のせいで通信障害が起きたってこと……?
よくわからん。
もしかすると、他人に渡した魔法は電波が弱くなるのかも?
あとで青髪悪魔大先生に検証してもらわないとダメかも。
肝心なときに通じないんじゃ、意味ないもんね。
そんなこんなで長電話をしていると、ふと、アイテールちゃんに言われたことを思い出した。
「あ、そうだ! 妖精王女様が『ゔぃるじぇにー・いれいすに、きをつけよ』っておっしゃってたんですけど、ウィノナ様なにかご存知です?」
『なんですって!? ヴィルジェニー・イレイスが居るとおっしゃいますの……!?』
急に叫んだかと思ったら、しばらく無言になった公爵夫人に、私は慎重に声をかけた。
「あの……それってお知り合いの名前なんですか……?」
『そう……ですわね。でも、ありえませんの。ヴィルジェニー・イレイスは、以前わたくしの国におりました魔法使いですわ……もう、2000年も前の人物ですし、魔法の力が影響してか長命ではありましたが……いえ、やはり信じられません』
「はあ……」
ウィノナ様が言うには、ヴィルジェニー・イレイスさんは、前世でお世話になった魔法使いで、飄々としたイケメンだったっぽい。
人間族で、いつまでも若くて自由人で、たまに人里に降りてきては善行をする系のお助けキャラとのこと。
そんな人に気をつけろって、どゆこと……?
でも未来視ができるアイテールちゃんが言うんだから、過去の話じゃなくて、これから起こる問題にその人が絡んでくる……?
もしくは、アイテールちゃんの能力が進化して、過去が見えるようになったとか……?
だめだ、わからん。
「まあ、私の聞き間違いかもしれませんし、今はあまりその名前にとらわれすぎないようにしましょう。ウィノナ様もお忙しいでしょうし、電波障害の件も気になりますので、またこちらからご連絡差し上げますね」
『ええ、お願いいたしますわ、ミドヴェルトもお気をつけあそばせ!』
2000年前の人間族が、なんで今……?
電話を切った後も、自分で気にしないようにしようとか言いながら、私は気になって仕方なかった。
込み入った陰謀となると、人間とか妖精のほうが、魔国民より強い。
純粋な力と力の戦いなら、魔族が圧倒的に強いんだけど、どんな最強存在にも攻略法は見つかるものだ。
それが知略の力ってもんだし、弱者を侮ってはいけない。
だって現実世界には『孔明の罠』って言葉もあるし、実際問題、魔国最強とも言われるチュレア様がどうにかされてしまった。
それに最強のはずの勇者様も、なんだかんだで貶められて腐ってやさぐれてたワケだし、嫌な予感しかしない……
一番怖いのは、人間だっていうしね……
もしかして、消滅したという湖水地方にノコノコ出て行ったら、誰かの思う壺なんじゃない?
調査だけなら、上空からのほうがいいかもしんない……
そうだよね、上空待機しているオーバーテクノロジー集団みたいな天使さんたちに、ちょっと聞いてみよう。




